#1730 一方、各ギルドのSSランク戦前日の様子。
こちらは〈ミーティア〉のギルドハウス。
こちらでも今、秘密の猛特訓が行なわれていた。
「みんな、合わせて合わせて、はい、1、2、1、2!」
「とても良い調子なのだわ」
〈ミーティア〉のコンセプトは揃えること。
一斉攻撃はもちろん、阿吽の呼吸による連携や一糸乱れぬ行軍など、多くのことを揃えて行なうことで力を発揮してきた。
特に〈城取り〉の〈ジャストタイムアタック〉の腕前は、〈エデン〉に次ぐ実力と言っていい。
そして今回のギルドバトルは〈城取り〉。
〈ミーティア〉にとって得意分野だ。
「いくつか切り札も手に入れたし、これならいけるわよ」
「ええ。SSランク戦では良い成績を残せそうなのだわ。それでアンジェ、目標はどうするの?」
「そんなのもちろん決まっているわ、目指すは優勝よ!」
「! 大きく出たのだわ」
「当たり前じゃない! やるからには勝つわ! 確かに〈エデン〉は強敵だし、〈巣多ダン〉に連れていってもらい六段階目ツリーの開放も手伝ってもらった恩もあるわ。でも、多分ゼフィルスさんには全力で〈エデン〉に立ち向かうのが恩返しになると思うの」
「それは言えているのだわ。こうして私たちを鍛えたのだって、SSランク戦をより盛り上げるためだと、掲示板ではほとんど確信の域で語られているもの」
「よって私は、〈エデン〉を打ち破ることこそが最大の恩返しになると思っているわ!」
そう言ってグッと拳を握り、燃えるアンジェ。
六段階目ツリーを開放し、さらに新たな切り札を多数獲得している〈ミーティア〉は、今なら〈エデン〉とも互角の戦い、否、戦いの流れを呼び込むことができれば勝つことも夢では無いと考えていた。
実際〈エデン〉に勝てる可能性のあるギルドとしては、〈ミーティア〉は上位にランクインしている。
以前〈学園春風大戦〉の時も唯一〈エデン〉の要塞を粉砕してみせたのだ。
あれから〈ミーティア〉の人気は熱い。しかし。
「ですがその前に、私たちは借りを返さなければなりません」
「〈エデン〉に?」
「〈百鬼夜行〉によ! 現在3連敗中の〈百鬼夜行〉! 優勝を狙うなら、絶対に負けてはならないわ! 今までの借りを全部纏めて返してあげるのよ!」
「ということは〈ミーティア〉の目標は打倒〈百鬼夜行〉をこなしながら優勝を狙うのだわ?」
「そうよ!」
〈ミーティア〉の狙いは優勝。だが、ただの優勝ではない。今まで苦汁を舐めさせられてきた〈百鬼夜行〉を下しての優勝だ。
「そう、最後のチャンスなのだわ」
「だからこそ、絶対に負けられないわ!」
〈ミーティア〉は全力で気合いを入れている。
◇ ◇ ◇
「混沌混沌混沌こんとーーーーーん!」
「やかましいぞこの混沌野郎が! サーチにそんな掛け声がいるかーーー!!」
こちらは〈ギルバドヨッシャー〉が練習中。
ゼフィルスに教えてもらった秘密の特訓場、〈ギルバドヨッシャー〉は今――あの〈教会ダン〉に来ていた。
「あははははははははははは! こんな素晴らしいダンジョンがあったとはーー!」
「みなさん大はしゃぎですね! すっごい大はしゃぎですよ!」
「ゼフィルス氏には感謝しかない! 感謝以外無い!!」
〈教会ダン〉は別名〈ギルドバトルダンジョン〉。
そんなところに〈ギルバドヨッシャー〉を放り込んだら、もうテンション爆アゲは必至。昨日教えてもらってから、〈ギルバドヨッシャー〉のテンションは高いままだ。
「ぬあああああ!? しかし、なぜ、なぜ卒業が目の前に迫っておるのだ!!!!」
「くそう! 今回の〈転職制度〉受ければ良かったーーー!!」
「卒業まで、あと4日」
「絶望だああああああああ!!」
「混沌!!」
あと嘆きもすごいことになっている。
そりゃ卒業間近でこんなダンジョンを紹介されたのだ。
遊び尽くす前に強制バイバイしなくちゃいけないと分かっている〈ギルバドヨッシャー〉の面々の嘆きは特にヤバかった。
でも仕方ない。ゼフィルスは報告書を書き上げ、〈ギルバドヨッシャー〉が六段階目ツリーを開放したから紹介したのである。
安全マージンを確保してようやく解放だ。ゼフィルスはその辺厳しい。
しかしこのダンジョンは…………知らない方が幸せだったのかもしれない。
「なら、卒業式まで毎日潜るのは!?」
「ダメだ、明日からは久しぶりの、本当に久しぶりのランク戦、しかも大会だぞ!?」
「〈天下一パイレーツ〉との〈決闘戦〉も楽しかったが、あの熱きランク戦には敵わない!」
「混沌!」
「あ、ああそうだな。最後の方は〈天下一パイレーツ〉の男子たち、かなり燃え尽きてたもんな」
そんなことを話し合う〈ギルバドヨッシャー〉のみな、もうこうなったらと覚悟を決める。
「もうこうなったら、今日はここで遊び尽くすぞ!」
「いいぞインサー!」
「素晴らしい答えだ!」
「みんな、我に続けーーー! 今日から3日間、遊び尽くすのだーーー!」
「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
〈ギルバドヨッシャー〉はSSランク戦もなんのその、緊張など欠片もなく、如何に遊び尽くし、楽しむかに全力を注いでいる模様だ。
◇ ◇ ◇
こちらは天下無敵筋肉な〈筋肉は最強だ〉ギルド。
そこでは、盛り上がりまくった筋肉を披露しながら壇上でアランが高笑いしていた。
「ははははははは! 笑いが止まらんぞ! 我らは新たな力を手にしたのだ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」」
そう、SSランク戦のために、〈筋肉は最強だ〉は奥の手を用意していたのである。
「見よこれを! これが、我らの新たな装備だ!!」
ババンとアランが掲げるのは――1つのタンクトップユニフォーム。
奥の手とはズバリ、新たなる装備だった。
それがこのユニフォーム。
ゼッケンに数字とエンブレムが書かれた、まさにオリジナルのユニフォームだ。
さすがは考える筋肉と呼ばれるアラン。
ゼッケンを付けていれば、観客席からでも、遠目でも誰か分かる。
何気にこれまで誰も考えつかなかったアイディアだった。
さらにお揃いという一体感が筋肉たちのテンションをこれでもかと押し上げていた。
そんなギルドで、少し肩身が物理的に狭そうな1人の男子が手を上げて問う。もちろんオルクだった。
「だ、だがアラン、それって装備だろ? そうなるとスキルのパワーが活かせないんじゃないか?」
「もっともな意見だ。だが、この新装備、〈タンクトップユニフォーム男着〉をただのユニフォームと思ってもらっては困るぜ」
そう、この〈タンクトップユニフォーム男着〉は体装備。
装備はむしろ筋肉を弱体化させる要因。何を言っているか分からないだろうが、装備を着ると筋肉は弱くなってしまうのだ。
しかし安心してほしい。これはただの装備ではなかった。
「この〈タンクトップユニフォーム男着〉には素晴らしいスキルが搭載されているのだ! 聞くがいい我らが同胞筋肉たちよ! これに付いているスキルは『タンクトップ』と『パージ』だ!」
「「「「「『パージ』だあああああ!!」」」」」
「『パージ』付き装備か!」
「なら何も問題無いな!」
「何かあれば脱げば良いのだ!」
「「「『パージ』! 『パージ』!」」」
なにがそこまで琴線に触れたのか、スキル1個にこの盛り上がりよう。
筋肉たちは『パージ』スキルが大好きだった。
だってパワーアップするんだもん。
「それだけではない! 今回はもう1つのスキルもメインなのだ!」
「スキル『タンクトップ』!? そんなスキル聞いたこと無いんだが!?」
「説明しよう」
オルクの疑問に親切なアランが人差し指と力こぶを盛り上げる。
「これはタンクトップと読むのではない。タンクのトップと読むのだ!」
「タンクのトップ!?」
「つまりだ。トップクラスのタンク力が付与されるスキルなのだ!」
「「「「「な、なんだってえええええええええええ!?!?!?」」」」」
筋肉たちが揃ってびっくりする。
とんでもない装備が登場した。
「しかし効果は時間制限有り! スキル『パージ』を使った時に発動。その後3分間、超強力な防御力、魔防力バフが付与されるスキルだ!」
「ほとんど変身スキルじゃねぇか!?」
「待てよ!? ってことは『パージ』で筋肉も上がって、タンクトップクラスの防御力もさらに上がるっていう、夢の装備じゃねぇか!」
「しかも普段はゼッケン付きユニフォームとしても使える!」
「わっしょーい! さっすがアランだぜ!」
「俺たちにぴったりの装備じゃないか!」
「分かってくれたか筋肉たちよ! さあ、これを着るのだ! そして筋肉を弾けさせようではないか!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
アランがまたもとんでもない物に手を出した。
〈タンクトップユニフォーム男着〉はタンクのトップが着るにふさわしい性能を持った装備。ただし「男」専用。
加えて『パージ』スキルを使用すると装備が弾け飛んで壊れてしまうため、再装備はできない。その後は装備が欠けた状態で戦わなくてはいけない諸刃の剣。
しかしそれが不思議なほど筋肉にマッチしていた。
オルクの言う通り、ほぼ変身スキルみたいなものだ。
筋肉たちが、また何かよく分からないパワーアップをして出場者にトラウマを植え付けるまで、もう少し。




