#1727 タネテちゃんと〈エデン〉の地下開発ドック。
〈SSランクギルドカップ〉、その〈エデン〉の第1回戦目の相手が〈サクセスブレーン〉に決まったことを知った俺は、その準備のために放課後、とあるギルドに向かっていた。
「タネテちゃん、居るか~」
「はいはーい。ゼフィルス先輩、いらっしゃいませです!」
そう、そこは〈彫金ノ技工士〉。
タネテちゃんがギルドマスターを務める、生産ギルドだ。
「悪いな、忙しいのにタネテちゃんに直接対応してもらって」
「いえいえ、〈エデン〉はうちのギルドの大事なお得意様です! こうして私が対応するのは当然ですよ!」
「はは、だが本当に大丈夫だったのか? ハンナから、今日は〈生徒会〉の役員メンバーの入れ替えがあるって聞いてるが? あ、そうだ、タネテちゃん〈生徒会〉役員就任、おめでとう」
「ありがとうございますゼフィルス先輩。でも、気にしないで大丈夫です。〈生徒会〉の集まりまでもう少しありますから。どうも、ミリアス先輩がご馳走を準備してくれているらしく、私はむしろ遅れてくるよう言われているくらいなんですよ」
「なるほど、ミリアス先輩らしいな」
今朝ハンナからタネテちゃんは〈生徒会〉の役員になると聞いていた。
その正式な就任の日が今日だとも。入れ替えだからね。
故に俺は、一応タネテちゃんに今日納品のものを受け取りにいくとは連絡していたが、タネテちゃんではなくケンタロウ辺りが対応してくれると思っていた。
だが、ミリアス先輩が〈生徒会〉で腕を振るっているらしい。
きっとお別れ会&歓迎会的な意味も込めて盛大に祝うために違いない。
そのおかげで、タネテちゃんは少し時間があるとのことだ。
ホームルームとテスト返却も1時間ほどで終わったので、現在まだ10時前だしな。
11時くらいにお呼ばれしているそうだ。
「それじゃあ一緒に行きましょうです」
「え? タネテちゃんが直接来てくれるのか?」
「というか物は〈エデン〉のギルドハウスにあったりするです」
「ああ、あそこにあるのか!」
俺はそこでポンと手を打つ。
実はタネテちゃん、最近になり〈エデン〉と更に密接な関わりを持っているのだ。
タネテちゃんと2人で〈エデン〉のギルドハウスへと向かう。
「だからわざわざ来てもらってすみませんですゼフィルス先輩」
「いやいや、俺が居ても立っても居られず来ちゃっただけだから気にするな」
うん。てっきりタネテちゃんは〈生徒会〉の方に行っていると思っていたからな。
忙しいだろうから俺が直接受け取りに行こうとしたら、灯台もと暗しだった。
あそこ、つい忘れ気味になっちゃうんだよなぁ。
実は〈エデン〉というギルドハウスには、ギルドメンバー以外も生産職などが出入りしていたりする。マリー先輩とか。
マリー先輩はアルルと共同開発することも多いので、マリー先輩用に〈上級ミシン仕立てメーカー〉を置いて、専用の生産部屋まで用意してあるのだ。
そして最近、それに加えてタネテちゃん用の生産部屋を用意したのである。
「相変わらず〈エデン〉のギルドハウスは大きいですね。来る度に圧倒されちゃうです」
「だろ? デザインとか考えるの結構大変だったからな」
〈エデン〉ギルドハウスに到着。
そんな会話をしつつ目的の部屋へと向かった。その場所は―――地下だ。
「……そして、ギルドハウスの地下にこんなでっかい空間作っちゃって本当に良かったのか、それもとても気になるところです」
「実は俺も最初は結構気になった」
2人で地下に降りる。
え? 前から地下なんかあったっけ? と思うかもしれないが、もちろん以前は無かった。
最近用意したのだ。タネテちゃんの生産部屋を用意するために。
その空間は、タネテちゃんが呟くように超でっかい。
一辺100メートル四方はあるんじゃないかという、超巨大空間だったんだ。
こんなでっかい空間用意して何をしていたかというと。
「でもゼフィルス先輩には脱帽です。まさか〈戦艦・スターライト〉を開発するためにこんな空間を作ってしまうなんて」
そうなのだ。
これを作ったのはまさにタネテちゃんの言う通り。
〈天下一パイレーツ〉戦ギルドバトルでお披露目し、〈竜ダン〉のレアイベントボスなどを相手に凄まじい大活躍を見せ、さらに最近では〈巣多ダン〉で1層から61層まで多くのギルドを運送したあの〈戦艦〉。
ここは――〈戦艦・スターライト〉を作製していた場所だ。
なにせ〈戦艦〉は大きさが50メートル近くあるんだ。
そのためそれ以上の大きさの開発製造ドックが必要だった。
だが、レシピをタネテちゃんに持っていったところ一言。
「あの、ゼフィルス先輩。私……、私……これ作りたいのは山々ですが、これを造れる場所がありません……!」と、とても無念そうに告げられたのである。
造れる場所?
最初聞いたときは俺も頭にたくさんのハテナマークが浮かんだよ。
ゲーム時代、〈戦艦〉を造るのに場所なんて関係無かった。どんな小さな工房でも造って納品してくれてたんだ。
今思えば、ゲームがマジゲームだったと分かる。
〈戦艦〉を造るには、そりゃでっかい場所が必要だよ!
そして、そんな巨大なドックを持っているギルドなんて1つもなかった。
というか、Bランク〈彫金ノ技工士〉ではギルドハウスの大きさ的に〈戦艦〉が収まらないまである。
え、ええ? じゃあゲーム時代のあの人たち、どうやって〈戦艦〉造ってたの!?
そう、俺も最初は混乱したよ。
でも考えてみればリアルでは開発用のドック、必要だよね。
俺はすぐにセレスタンに相談した。
そしてセレスタンがどこかに掛け合い、なんやかんやあって、3日程度で完成したのが、この開発用ドックだった。そう、ギルド〈エデン〉に作っちゃえば良いんだよ。場所は地下でね!
まさかの解決法だったよ。
また、〈戦艦〉を作製するために用意した開発ドックなので、開発責任者であるタネテちゃんの要望がこれでもかと詰め込まれていたりする。
というわけで、タネテちゃんはたまに〈エデン〉に来てここで開発生産するようになったのだった。そして、注文していた品も、ここで造ったということのようである。
「アレです」
「おお! おお?」
タネテちゃんの指さす先には、なぜかミジュの姿が。
「待ってた」
「ミジュが一番乗り、だと!?」
「私が教えておきました。やっぱり、乗る人が見ないとと思いましたから」
「ああ、エステルの時もそうだったもんな。なるほど」
〈戦艦・スターライト1号艦〉はエステル専用艦、故に納品の時はここにエステルを案内し、実際に軽く操縦もしてもらったのだ。
あの時の感動を、俺もエステルもタネテちゃんも、決して忘れないだろう。
ということで、今回はミジュの番というわけだ。
タネテちゃんがミジュの側にある、大きなカバーが掛かった巨大な物体から、バサッとそれを取る。
「どうぞ見てください。これぞ私の新作! 〈クマエンジェル・バワード〉です!」
「「おおおおお!!」」
シャキーン!
そんな幻聴が聞こえた気がした。
カバーの中から現れたのは、新たな〈クマライダー・バワー〉。
否、その上位装備、〈クマエンジェル・バワード〉だったのだ。
〈クマライダー・バワー〉よりも二回りは大きく、とても力強く迫力のある姿。
背中には甲板や船室のようなものがくっついているのは〈クマライダー・バワー〉と同じだ。
だが、圧倒的に違う部分がある。
それはこれが天使化している点だ。
全身白一色の体毛に覆われ、頭には金色の輪っか、そして注目すべきは背中に生えた1対2枚の巨大な翼だ。加えて両手両足にも小さな翼が生えている。
そう、この〈クマエンジェル・バワード〉は飛べるのだ! 飛行型の〈乗り物〉である!
〈戦艦・スターライト〉に続き、2種類目の空飛ぶ〈乗り物〉だった。
「これが、新しい私の〈パンダ号〉! いや〈ミジュクマ号〉!」
「だな。もう〈パンダ号〉とは言わせないと言わんばかりの美しい白だ。これは「熊人」であるミジュじゃないと乗れないし、ミジュが使うと良い」
「おおお!」
「乗車人数は大幅に増えて、なんと以前の倍の20人乗れます!」
「20人! えっと、4パーティも!」
「これが2台あるだけで普通のギルドでもほぼ全員のメンバーを運ぶことができるな」
「すごい! かっこいい! このクマ、すごい!」
ミジュの興奮が凄い、今にもクルクル回ってしまいそうだ。
その時は俺もお供する所存だ。
「と、これで確かに納品しました。何か調整があれば言ってくれれば明日中にはできます!」
「ありがと! 早速乗る! 練習する!」
「忙しい中ありがとうなタネテちゃん」
「いえいえ、先程も言いましたが、〈エデン〉はお得意様ですから」
そう言ってスマイルをくれるタネテちゃん。
素晴らしい営業ウーマン!
そう感動していると、地下に降りてくる足音がいくつか。
「あ、タネテちゃん居ました!」
「本当に居りましたわ」
「む、迎えに来ました!」
「あ、ハンナ隊長、アルストリア副隊長、シレイア先輩」
おっとここで〈生徒会〉メンバーからお迎えが。
「わぁ、タネテちゃん、また凄いの造りましたね!?」
「いえいえです。〈エデン〉の持ち込むものの賜物ですよ」
「これ、飛ぶんですの!?」
「白いクマさん、いえ、天使のクマさん!? すごい迫力、です!」
ハンナたちも一足先にタネテちゃん作の〈クマエンジェル・バワード〉を見ることになった。うむうむ、良いリアクションだ。さすがはクマだぜ。
クマは良い仕事をするのだ。
ふっふっふ、〈乗り物〉であるのと同時に戦うクマさんでもある新装備。
お披露目の時は近い。




