#187 ふはは! モンスターを蹴散らすのだ!
「お、あそこに〈アラル〉がいるぞ。エステル、いけるか?」
「お任せください! 『アクセルドライブ』!」
「プギュ!?」
コアラ型モンスター〈アラル〉が超オーバーキルにより一瞬で光に消える。
それを為したのはエステルが操縦する〈カラクリ馬車〉の突進攻撃だ。
エステルが〈カラクリ馬車〉の運転を始めて約30分。
操縦にもだいぶ慣れてきたためつい先ほどからモンスター相手の戦闘(?)も試させている。いやむしろ蹂躙か? 何しろ一撃確殺である。
とりあえずやってみようか、という軽い気持ちで始めてみたのだが、これが中々に楽しい。
モンスターがゴミのようだ! ふはは!
エステルも『アクセル』スキルにハマったのか先ほどからどんどん腕を上げてきている。
やはり楽しいは人を成長させるよな! エステル、その調子でガンガンモンスターを倒すのだ! 経験値にはならないし、ドロップは回収出来ないけどな。
「ゼフィルス殿、これは面白いですね! 『ドライブターン』!」
「だろぉ?」
あ、また〈アラル〉が2体光に消えた。
もう俺が指示を出さなくてもエステルは自分でモンスターを倒しに行っている。うむうむ、良い傾向である。素晴らしい操縦だ。俺も操縦したい。
ああ、こういう時俺も【ナイト】やってみたいと凄く思う。ゲームでは操るのはプレイヤーだったのに! くぅ、エステル楽しそうだな!
そんな事を考えていると〈学生手帳〉が「ピロリン」と音を鳴らした。
「おっと。シズからチャットだ。そろそろ戻るか?」
「そう、ですね。もう十分練習しましたし戻りましょう」
珍しく歯切れの悪いエステル。さては君、楽しくてやめたくないな?
「安心しろエステル。今日はイヤというほど操縦させてやるから」
「!! はい!」
元気よくエステルが返事をすると馬車が加速した。
そんなに急ぐ必要は無いぞ、と思うも、その行動原理、凄く分かっちゃう。楽しいは正義!
途中ですれ違う1年生たちが目を点にしながら見てくるのをスルーしつつ、シズたちと分かれた場所まで戻った。この辺もだいぶ1年生が増えてきたな。あれ全部高位職だろうか?
高位職もこれからどんどん増えていくだろう。研究所の人たち、というか学園が総力を挙げて頑張っているらしいからな。やっている事はスラリポマラソン(アリーナ風)だが。
「おかえりなさいませ」
到着すると優雅な動作で一礼するシズ。その動作はとても美しい。セレスタンも含めてメイドや執事って皆こんな磨き抜かれたような礼をするのか? レベルが高すぎるぞ。
ちなみにパメラは元気に手を振っているだけだ。なんだかこっちの方が安心する。
「ああ、ただいま。待たせて悪かったな」
「大丈夫デース! 私タチもダンジョン堪能していマス!」
「そりゃ何よりだ。ダンジョンはまず楽しむ事が第一だからな。さ、とりあえず乗ろう。エステル、ボス部屋まで頼むぞ」
「お任せください!」
ザコモンスター狩りの時間は終わりだ。
初級下位では経験値も少ないしドロップは安値だし、なにより素材の価値が低い。
さっさとボス3体倒して初級中位までご案内だ。
シズとパメラが馬車に乗り込んだのを確認すると、エステルが馬車を走らせる。
「これは、思っていたより快適ですね」
「デス。ダンジョンの中とは思えないデスよ」
後ろの座席からシズとパメラの感想が聞こえてきた。御者席と馬車内部の間には小窓があり、会話も可能なので俺も話に参加する。
「そうなんだよ。ダンジョンって何故か地面が真っ平らだし道が広いから快適に馬車を走らせられるんだ。ま、質の悪い馬車ならこうはいかないだろうが、この〈カラクリ馬車〉は〈金箱〉産レシピの最上級馬車だからな。仮にどこかへぶつかったとしてもほぼ衝撃は無力化されるし、むちゃくちゃ快適だ」
「凄まじいのですね、〈乗り物〉というのは」
「ほー。いつも私たちが乗っている馬車とは別物デス」
パメラの言うとおり、この〈カラクリ馬車〉は装備品。セグウェイや普通の馬車はアイテムだ。その辺の違いだな。
装備品ならHPが衝撃を全て受け持ってくれるため乗り心地も比較的良い。
アイテムの場合は衝撃とか返ってくるし、モンスターの攻撃も使用者が肩代わり出来ないため破壊されてしまう。
その代わり装備品の場合は適応する職業に就いていなければ装備不可、アイテムは職業に左右されず誰でも使用可能という特徴を持っている。
「じゃ、道中に色々と説明したい事もあるからそのまま聞いてくれるか? ——エステルは俺が道を指示するからその通りに進んでくれ。安全運転で行こう」
「了解です」
前半は馬車内に、後半はエステルに向けて言う。
シズとパメラはまだまだモンスター相手に修練不足だ。その状態でレベルだけパワーレベリングしたらどんな弊害が起こるか分からない。その辺も、よく言い聞かせておこうと思う。
パワーレベリングなんてしたらLV20なんてあっと言う間だ。するとすぐに次のツリーが解放される。スキルに慣れる前にツリーが解放されるので変な感じの動きになってしまわないか心配だ。
また、今後の展開やギルドの方針、目標。その他諸々。話す事はいくらでもあった。
道中はその辺の説明をしつつ馬車はそこそこの速度でダンジョンを進む。
モンスターを撥ねつつ、人は避けつつ。1年生が目を点にしながら道を空けるのをスルーしながら進んでいった。
何やら後ろがざわついているようだが気にしない。
止まる事の無い馬車はガンガン進んでいき、お昼前には最下層の救済場所に到着したのだった。
さすが、馬車は速い。




