#1726 SSランク戦の第1回戦〈エデン〉の相手決定!
「はーい、今日はテストを返却します。これが、今年度最後の授業です。――みなさん、この1年、本当にお疲れ様でした。先生は本当にみなさんを誇りに思います。いつの間にか六段階目ツリーを開放していて、レベルを追い越されてしまいましたが――」
「はいはい、フィリスそこまでにしておきな。それはお別れとは別の悲しみだよ」
「! そうでした。ではホームルームを続けますね」
朝のホームルームの時間。フィリス先生の言葉で理解する。
そうか、今日が最後の授業ってことになるのか。やることはテストの返却だけだけど。
ラダベナ先生の言うとおり、ちょっと悲しい気持ちになってくる。このクラスメイトで過ごす日も、残すところは卒業式と終業式のみだ。
…………でもおかしいな。
来年度もクラスメイトはあまり変わらない気がする。
確か、このテストで来年度のクラスが決まると言われているが……!
いや待て、ラムダとミュー以外六段階目ツリーを開放している状況、これってラムダとミューが入れ替わりフラグ!?
あ、でもミューはカルアと同じクラスになれたら喜びそう。
「では明日から始まるSSランク戦についてです。前々からルールは通達されていましたが、組み合わせはまだ決まっておりませんでした。改めてここに通達しておきますね」
そう、一度ためを作ると、フィリス先生がタブレットを入力し、俺たちの学生手帳にピロリン♪と通知が届いたのだ。
「では〈学生手帳〉を見てください。そこに〈SSランクギルドカップ〉、通称:SSランク戦のルールと――第1回戦の組み合わせが載ってます」
マジか! 組み合わせが決まったのか!
俺は即でアプリを起動する。
確認してみれば、SSランク戦についての情報が更新されていた。たった今だ。
「〈SSランクギルドカップ〉で行なうのは〈城取り〉。1対1のトーナメント方式で土曜日から月曜日まで、3日間に渡り行なわれます。〈拠点落とし〉ではないのは、これがSSランクというランク決めのための大会ではなく、学園の頂点を決める大会というコンセプトだからですね」
フィリス先生がルールを再確認してくれる。
「ランク戦は基本〈城取り〉。故に、Cランクギルド以上のギルドを対象に、全ギルドの中で最も学園の頂点に居るギルドはどこか、それを決める大会です。もちろん自分たちのギルドがどのくらいの強さなのか、挑戦するのも良いですよ。ベスト16に入れればAランクギルド並の実力あり、ベスト4ならSランクギルド並の実力あり、みたいな感じですね。先生方からも一目を置かれます」
ふむふむふむふむ。
知っていたが、改めて説明を聞くとワクワクが湧き上がってくるんだぜ。
無論〈エデン〉が目指すのは優勝しかないが、どことギルドバトルすることになるんだろうか。
おお、あったあった組み合わせ一覧。――ん? あれ? これって。
「トーナメント方式なのでギルドの対戦相手は完全にランダムでシャッフルして決めます。出場を希望する申請のあったギルドは――180ギルド。全部で8試合勝てば優勝です」
――――おお!
ざわざわ、ざわざわ。
フィリス先生の言葉を耳で聞きつつ、俺の手はプルプル震えながら画面を見ていた。
そこに書かれていた〈エデン〉の対戦相手は――〈サクセスブレーン〉。
なんと、いきなりSランクギルド対Aランクギルドのバトルが決まっていたのである。
◇ ◇ ◇
一方――こちら第1試合が〈エデン〉と当たったことを知ってしまったカイエン。
「あが!? あがががが!?!? あぎゃあああああああああ!?」
ギルドハウスの個人部屋に入って早々に絶叫――というか壊れたラジオみたいな声を出していた。
「え、ええええええ!?!?!? 俺はただ、〈エデン〉を避けて避けて、そのまま卒業で逃げる予定だったのに!? どうしてそうなった!? どうして180のギルドの中からピンポイントで〈エデン〉と当たった!?!? うそだろーーーー!?」
プルプル震える手でもうすぐ返却する予定の〈学生手帳〉を見る。もうガン見レベルで見る。しかし、いくら見ても「〈エデン〉対〈サクセスブレーン〉」の文字は消えない。全然見間違いじゃない。
〈サクセスブレーン〉の最初の対戦相手は、〈エデン〉なのだ。
え? 無理。あかん。こんなのいったいどうしたら……いや、どうすることもできない。
「も、もうこうなったら1回戦は棄権して――」
そう、カイエンが〈エデン〉との試合をなんとか回避しようと脳内会議で賛成総意で可決したときのことだった。
カイエンの個室にノックの音が。
「!? 入れ」
瞬間、一瞬でクールに変身したカイエンがバサッとマントを翻して入室を許可していた。
そして入ってくるギルドメンバーたち。
「カイエンさん! ついに〈エデン〉と対決ですね!!」
「俺、カイエン先輩ならあの〈エデン〉にも勝てると思うんです!」
「ギルマスの頭脳は学園一です! 間違いありません!」
そう、とても純粋なキラキラした瞳のギルドメンバーたちが押し寄せてきたのである。
「…………(う、え? いや、待って、この流れってもしや!?)」
表情は完璧なポーカーフェイスでありながら、心の中では激しい危機感を募らせるカイエン。だが、そこに救世主現る(?)。
「こらこら~、みんなギルマスが困ってるでしょう?」
「…………(ナギ! 君は俺を助けてくれるって信じてたよ!)」
サブマスターのナギだった。カイエンには次期ギルドマスターとして、頼りになる完璧な姿に見えた。しかし、
「ナギさん! ですがこれがジッとして居られましょうか!」
「いいや居られません!」
「俺たちも〈エデン〉打倒、全力でお手伝いしたいニン!」
「相変わらず仲いいね、忍者3人衆」
サブマスターのナギにそう訴えるのは、【忍者】系の上級職に就くコブロウやクロイたち。〈サクセスブレーン〉が組織する【忍者】部隊だ。
サブマスターに食ってかかっていた3人が、今度はカイエンに向き直る。
「殿! 我ら【忍者】3人衆、いかようにもお使いくだされ!」
「足を磨いておきます!」
「俺たちはこの〈サクセスブレーン〉では誰にも負けない速さを持っていますニン! 〈エデン〉にも通用させてみせますニン!」
「フッ、分かっている。君たちの働きには期待しているぞ!(やめて!? マジで〈エデン〉とやろうとしないで!? というか君たち3人だから初動で使いにくいんだよ! せめてもう1人速い人欲しいんだよ!)」
心の中では何か別のことを思っていても、皆の前ではしっかり格好を付けるカイエン。これぞ完璧なギルドマスターだ。
だが、思わず完璧に振る舞っていたために答えてしまったのがいけなかった。話は〈エデン〉戦の内容へとがっつり流れていく。
「それでカイエンさん! やっぱり今回も何か必勝の作戦とか考えていたりするんですか!?」
「フッ、まだ練っているところだ。なにせ〈エデン〉と当たるのは決まっていたようなものだったからな(お願いカララ、そんな清い眼差しを向けないで!? 〈エデン〉に必勝とか無理だから! まず勝ったギルドすらいないから)!」
「「「「おおー!」」」」
「やっぱり必勝の作戦を練っていたのか!」
「さすがカイエンさんです!」
「きっと〈サクセスブレーン〉が初めて〈エデン〉を下すギルドになるんですね!」
「フッ、そう急くな。急いては事を仕損じるぞ(なんでみんなそう信じられるの!? というか信じちゃダメだよ! お願いだからマジ期待しなくていいから! というか卒業を祝福してくれないかな!?)」
方向がまたも怪しいところへ向かっている予感。
だが、カイエンに方向の修正なんて出来はしない。そんなことができたら最初からしている。
カイエンはみんなからの期待を背負い、裏切れず、ただ理想のギルドマスターを演じて突っ走るだけだ。
「カイエン先輩! 絶対に勝ちましょうね!」
「目指せ、学園トップです!」
「カイエンさんの卒業式には、デカデカと学園一位の看板を作って送り出してあげますからね!」
「楽しみにしている(学園一位の座とかいらないから普通に送り出して!? むしろ今すぐ卒業させて!?)」
「さあみんな、こうして詰めかけていたらカイエン先輩の迷惑だよ。〈エデン〉必勝の作戦を考えてくれるんだから、そろそろお暇しよう」
ナギが気を使ってそろそろ引き上げ案を口にすると、ギルドメンバーも次々とそれに従っていく。
なお、その気遣いはちょっとだけ手遅れだった。
「了解!」
「またねカイエン先輩!」
「期待しております、殿!」
「足を磨きにダンジョンへ行って参る」
「〈エデン〉打倒、気合い入れていきますニン!」
「「「おおおー!」」」
そう、口々にカイエンへ思いを託し、修業へと向かって行くメンバーを見送る。
そして、個室にはカイエンだけが残された。
「はああああああああああ……。どうしよう、マジで〈エデン〉を倒せる作戦考えないと……」
そしてカイエンは、特大の溜め息を吐き、お腹に手を当てるのだった。




