#1721 フィリス先生強化計画を実行します!
また、ダンジョン週間中に俺がしていたことがもう1つある。
時間は少しだけ遡り、俺が〈筋肉は最強だ〉を送り届けた翌日のことだ。
「ゼフィルス、前々から話してあった件なのだが。今ならフィリス姉様も休みだし、頼めないだろうか?」
「リカ」
〈千剣フラカル〉を連れてきたリカから、そう頼まれたのだ。
内容はフィリス先生の職業について。
実は少し前にリカから相談を受けていたのだが、お互い忙しくて時間が合わなかったんだ。
そのまま時が流れていたのだが、〈筋肉は最強だ〉を送り届けたことで少し時間が空いたので、この間に頼めないかとリカが改めてお願いしてきた形だ。
「確かに今なら俺も時間を捻出できるな……フィリス先生も大丈夫なのか?」
「うむ。問題は無い。それどころかフィリス姉様なのだが、このダンジョン週間で完全に先頭集団から出遅れてしまったんだ。できれば早めに復帰させてあげたい」
「そういうことなら。フィリス先生にも学園長にもお世話になっているし、俺に任せておけ!」
「! ありがとうゼフィルス、恩に着る。できる限りお礼をしよう。あとキリエ姉様からも!」
「そいつは楽しみだな」
そう言って請け負ったのがフィリス先生強化計画だった。
今リカが言ったとおり、実は現在、〈攻略先生委員会〉所属のフィリス先生は先頭集団から出遅れてしまっていた。要は力不足になってしまったのだ。
原因はいくつかあるが、大きいのはフィリス先生が中位職の【上侍】である点だろう。
育成論が進んでないこの世界では、中位職で先頭集団と肩を並べて進むのはかなり厳しい様子だ。
リカから最初に相談されたときはそれほど深刻では無かったのだが、上級上位ダンジョンに突入して問題が表面化したようだ。
「リカちゃん、ゼフィルスさんに付いていってあげてください」
「リン姉様、いいのか?」
「大丈夫ですよ。私たちはここで狩りをしてますから。ここまで案内ありがとねリカちゃん。今度お礼をしますから、今はフィリス姉様を助けてあげてください」
「――承った」
リカもリン先輩からフィリス先生のことを任せられたようで、2人でフィリス先生強化計画を実行することになったのだった。
他の〈エデン〉メンバーに〈巣多ダン〉の見回りなどを任せ、リカと共に出発する。
「それでリカ、俺に相談したいというのはやっぱり?」
「うむ。〈転職〉についてだ。それも、〈下級転職〉を頼みたい。これはフィリス姉様も望んでいる」
そう、アドバイスくらいだったら別にそう時間も掛からないし、なんだったらメモでも良いのだが、リカたちの希望は〈転職〉それも、〈下級転職〉だった。
フィリス先生の【上侍】は【ブシドー】の上級職。【ブシドー】もまた中位職なため、〈上級転職チケット〉で〈転職〉したとしても今より劇的に強くなるというのは難しい。
フィリス先生やリカたちが望んでいるのは、
「ゼフィルスに頼みたいのは――先頭集団にも見劣りしない、むしろ〈エデン〉でも見劣りしないくらい強力な職業の発現だ」
「まあ、そうなるよな」
「その、どうだろう? もちろんギルドメンバーではないのだ、それなりの謝礼は積ませてもらうつもりだが」
「いらんいらん。さっきも言ったが、フィリス先生や学園長にはとても世話になっているんだ。これくらい任せておけよ」
「! うむ。さすがは私たちのギルドマスターだ。ゼフィルス、改めて感謝する」
「おう」
フィリス先生が助けを求めている? よし助けよう! 俺に任せておけよ!
だが、さすがに学園長の孫ともなればお礼をしないわけにはいかないということでその後色々もらったのだが、それは別の話だ。
一度我らが〈エデン〉のギルドハウスへと戻り、色々と準備してから俺とリカがやってきたのは、とあるギルドハウス。
〈S等地〉にある〈攻略先生委員会〉のギルドハウスだった。
「そういえば、ここに入るのは初めてかもしれないな」
「そうなのか? では私が案内しよう、こっちだ」
〈攻略先生委員会〉のギルドハウスは、なんというか、昔の田舎の小学校という印象を抱いた。木造二階建て、非常に趣ある、まさに先生たちが居る場所という雰囲気増し増しのギルドハウスだ。
同じ〈S等地〉にギルドハウスを構えてはいるものの、こっち方面にはあまり来ないことに加え、ご近所さんということで一度挨拶に伺おうとしたときも、逆に向こうが挨拶に〈エデン〉へ来たくらいなのだ。タバサ先生が。
ギルドハウス自体は見たことはあるものの、入るのは初である。
なぜかリカが案内出来るほど内部をよく知っているのは、きっとここに所属する姉たちに会いに来ているからだろう。
中に入ると、正面に受付があったのでリカと向かう。
「すまぬが、フィリス先生を呼んではもらえないだろうか。私はリカ、こちらはゼフィルス。連絡はしてあるので言えば分かると思う」
「畏まりました。少々お待ちください」
〈攻略先生委員会〉のメンバーは今や全世界の注目の的の1つ。
学生でもないため、このように会うにもアポや手続きが必要らしい。
ちなみに、出発を決めた段階でリカが連絡していたため、ほどなくしてフィリス先生がやって来た。
「リカちゃん、ゼフィルス君!」
「フィリス姉様!」
「フィリス先生、こんにちは」
「こんにちは、今日はわざわざ来てくれてありがとね。部屋へ案内するわ」
急いできたのだろう、走ってきたフィリス先生に手を振って挨拶すると、すぐに移動を開始することになった。
移動したのは、なんとフィリス先生に割り当てられている部屋だった。
〈S等地〉のギルドハウスは大きいから、個人部屋も割り当てることができるのだ。
「入って入って」
「お邪魔します!」
なかなかにテンションの高いフィリス先生に促されて中に入る。
もっと落ち込んでいるのかなと思ったが、元気そうだった。
「フィリス姉様、浮かれてるな」
「それはもうね! 実はさっきまでちょっと落ち込んでいたのよ? でもね、リカちゃんなら分かるでしょ? ゼフィルス君なら私を強くしてくれるって! なにせ、数々の実績があるのよ? それを私だってずっと見てきたんだから」
「うむ。そうだったな。私にも分かるぞ」
フィリス先生のテンションに頷くリカ。
非常に共感することだったらしく、あのリカが3度も頷いていたよ。そんなに頷くとは。よほど分かりみが深かったらしい。
テーブル席に座り、対面にフィリス先生が座ると、例の話が始まった。
「ゼフィルス君に、とても大切なお願いがあります」
「聞きましょう」
ピンと背を伸ばしていつものスーツ姿で座るフィリス先生が真剣な表情で言う。
「私にも、リカちゃんに与えたような強い職業の力が欲しいの。お願いゼフィルス君、協力してもらえないかしら」
まるでリカがこんなに強い職業に就けたのは俺のおかげだと断言しているような台詞。
まあ、俺がリカに勧めたんだが。
フィリス先生と俺の付き合いもかなり長い。というか入学式初日からの付き合いだ。それに妹に直接関わっていたのだから俺が何かしたというのも前々から感づいていたのだろう。
「リカちゃんから聞いていると思うけれど、私の職業では今の〈攻略先生委員会〉では付いていけないの。私はもっと強くなりたい。だからゼフィルス君、お願い、協力してもらえないかしら。もちろんお礼はたくさん弾むわ」
そんな真剣に俺の手を取る勢いでお願いをしてくるフィリス先生に、俺の答えは最初から決まっていた。
「もちろんです。俺に任せてくださいフィリス先生! 俺がフィリス先生を強くしてみせます!」
答えはもちろんオーケーだ!
フィリス先生のお願いだ、断るわけがない!
リカも誇らしげに4度頷いていたよ。
「ありがとうゼフィルス君」
そうお礼を言って目を潤ませるフィリス先生。
よーし、本気出しちゃうぞー。あ、自重さんはその辺で遊んでてくださいね。
「お礼を言うのはまだまだ全然早いですよフィリス先生。それで、どんな職業に就きたいとか希望はありますか?」
「き、希望?」
「ええ。例えばリン先輩みたいな【炎刀の戦武将】に就きたいとか、キリちゃん先輩のような【紅の竜峰将】に就きたいですとか、リカみたいな【先陣の姫武将】に就きたいですとか。なんでも言ってください」
「えっと……できるのゼフィルス君? なんでも?」
「もちろんです!」
「そうなんだ」
早速フィリス先生に希望を聞いたら、なぜかフィリス先生が納得したような、でも困惑したような、複雑そうな顔をしていた。
おかしいな、潤んでいた瞳がスンってなったぞ?
リカは分かる、分かるぞと言わんばかりに5度頷いていたよ。頷く回数がどんどん増えていくなリカ。
そうしてフィリス先生が少しの間悩む素振りをすると、恐る恐るというように言葉にした。
「あのね。私、【炎国姫】に就きたいの」




