#1719 〈アムネジア〉第三形態。飛ぶ頭VS島落とし。
形態変化し、第二形態。
「これは、聞いていた以上にすごい光景だわ。蔓が部屋中を覆って蕾がたくさん……」
「上からもくす玉のようなものが大量に吊り下げられるように出てきたのだわ」
「ひょわわ!? 思っていた以上に数が多い!?」
「そうなんです。これ飛ぶことも出来なくなってしまうので、とっても困るんですよ」
第二形態になると、ボスから伸びた大量の蔓がボス部屋を覆いつくす。
そう、〈アムネジア〉の第二形態は――ボス部屋全体に影響を及ぼす環境変化も兼ね備えた形態。
天井には大量の蔓からくす玉のようなものが吊り下げられている。
もう完全に開いたらアカンやつ。なにが入っているのかは不明でも、明らかに良くないものが入っているに違いないと分かる。
しかも数が多いため、うっかり飛行できるメンバーを飛ばそうものならボカンするのだ。マシロもすでに地面へと降りたっているな。
本体は身体に大量の蕾を付けるものの動きは緩慢。
姿は巨大な植物の根っこが絡まり合った、ちょっと一言では表せない身体となっている。これが〈アムネジア〉の第二形態だ。
「よし、形態変化が終わったぞ! まずは部屋全体を攻撃する! クエナはドーム系結界を」
「あ、はい! 『多重ドームフォーム結界』!」
「一気にいくぜ! 『インフィニティ・バニッシュセイバー』からの――『完全勇者』!」
まず披露するのは俺の最強全体攻撃と完全防御ユニークスキル。
俺が剣を振りかぶると、剣から溢れた光の奔流が凄まじい威力となって部屋全体をぶった切る。
そこに壁とか天井とか諸々関係なくダメージを与える。それが全体攻撃だ!
部屋全体を覆う第二形態の弱点は――この全体攻撃である。
故にまず発動。瞬間、俺は無敵のエフェクトを身体から放つ。
クエナにはドーム系の多重結界魔法でみんなを守ってもらい、俺がまず部屋全体にダメージを与えるのが第二形態の初動の作戦だった。
その結果がこちらである。
「すごい威力! くす玉が光に飲まれたり、弾けていきます!」
「うわ、本当に弾けてもダメなのだわ。種や花粉が降り注いでる、これはカウンターでもあるのね」
アンジェ先輩とマナエラ先輩の言うように、全体攻撃を使うのは本来であれば悪手。
なんと天井から吊り下げられた無数のくす玉が攻撃によって破裂。中身がシャワーのように地上に降り注ぎ絨毯爆撃のような様相になったからである。
本来なら、こんなことをすればカウンターとなり攻撃した者はもちろん、他のメンバーにも多大な影響を及ぼすだろう。
だが、そんなのは対策を整えておけば問題無い。
クエナの職業は結界を張ったまま新たな結界を張ることができる有能なタンクだ。
「『ノーイージスバリア』! 『エンシェントバリア』!」
結界が破壊されそうになれば次の結界を張り、それが壊れそうになればまた結界を張る。
天井からスプリンクラーのように墜ちてくる大量の種爆弾、花びらのカッター、蜜、花粉を全てシャットアウトしてくれるのだ。優秀だなクエナ!
俺は無敵になっているので言わずもがなである。全く効きません。
「よし、一掃完了!」
「うわー、サッパリしましたね! ゼフィルス先輩、回復はいりますか?」
「サンキューマシロ。でも大丈夫だ!」
俺の無敵時間が消える頃にはカウンターも収まり、せっかくの上空のくす玉も全部割られている状態だ。
いやぁ、すっきりしたなぁ。
あれ、そのままだと自然にポンポン弾けて上から攻撃してくるので結構厄介なのだ。
花粉は様々な体内状態異常を誘発してくるし、蜜は束縛状態にしてくる罠になる。
種爆弾と花のカッターはもちろん攻撃でダメージを与えてくるという結構凶悪な戦法なのだ。
とはいえ、これはまだまだ序の口なのだが。
「攻撃開始だ!」
「『流星神槍』! 『連なる破壊の流星』! 『小隕石流星群』! 『シューティングスター』!」
「『プロミネンス・アイズン』! 『魔眼光線』! 『クレセントフォースバースト』! 『ゴッドバースト・センター』!」
「はい! 『フォトンノヴァ』!」
邪魔が無くなったので攻撃開始。
全体攻撃で一掃した後に本体を攻撃するのが最善だ。
良い感じにダメージを与えたな。
「よし、そろそろだ! マシロ、看破を頼む!」
「はい! 『シークレットアウト』! 『天使の浄化聖域』!」
【ラファエル】であるマシロの目はごまかせない。『シークレットアウト』は隠しているものを暴く魔法。
加えて『天使の浄化聖域』は聖域を展開し、状態異常耐性・状態異常回復を聖域にいる味方に与え続ける魔法だ。
〈アムネジア〉は第二形態になってしばらくすると本体の蕾から花を咲かせる。
その花粉は状態異常の全体攻撃だ。しかも蓄積型である。
蓄積型というのは〈レムスイカ〉というアイテムで有名になったが、要は『耐性』を持っていても蓄積していき、最後は状態異常になってしまう攻撃である。
〈レムスイカ〉の場合は〈睡眠〉を誘発し、花粉を吸い続けると『睡眠耐性』を持っていても〈睡眠〉状態になってしまう罠だった。
これも全く同じだ。ただ、与えられる状態異常がエグくて、体内状態異常ならランダムで複数個を付与してくるのである。
気が付けば状態異常のオンパレードに掛かっており何も出来なくなって全滅するというとんでも仕様なのだ。
まあ、マシロは『状態異常完全耐性』と『状態異常貫通耐性』を持っているので100%状態異常を防げるヒーラーなんだけどな。
しかし〈ミーティア〉はそうはいかないので継続回復の状態異常バージョンである聖域を展開したというわけだ。さらに。
「ありました! ゼフィルス先輩1時の方角です!」
マシロに言われた方向を見れば、その周囲の木の根っこから〈眷属トラキ〉が生まれるところだった。
そう、状態異常のオンパレードプラス眷属モンスターのオンパレード〈頭吹っ飛んだ〉付きが第二形態の戦い方だ。
そしてマシロの『シークレットアウト』はその隠れて生まれようとしている〈眷属トラキ〉を見つけることができるのである。
「ナイスだマシロ! 『シャインライトニング』!」
出だしを潰す。生まれきる前なら〈二ツリ〉の範囲攻撃で一掃出来る。
「次はマナエラ先輩のところ、11時の方角です!」
「任せてなのだわ――『バーンブラスト』!」
「私は本体を叩くわ――『シューティングスター・アステリズム』!」
いやぁ、知っていると対策が捗って素晴らしい。
クエナは本体からたまに伸びてくる触手みたいな攻撃を結界で防御。
また天井にくす玉が張り直されたら、また俺が全体攻撃で一掃するという対策で乗り切った。
「最後、第三形態だ!」
「え、もう?」
「こっちはダメージらしいダメージをほとんど負っていないのだわ」
最後の形態に変化する〈アムネジア〉を見て、アンジェ先輩とマナエラ先輩が目をパチクリする。
ふっふっふ、ボスの攻撃は凶悪なれど、対策すればこの通りなのだ。
だが、ここからがかなり鬼畜な攻撃をしてくるので警戒である。
「油断するなよ! 特大の〈頭吹っ飛んだ〉攻撃が来るぞ!」
「特大の〈頭吹っ飛んだ〉攻撃!?」
「――――!」
第三形態に変化した〈アムネジア〉がまずしたのは、なんと本体の〈頭吹っ飛んだ〉攻撃だったのだ!
第三形態初手、〈頭吹っ飛んだ〉攻撃。
なんと全長4メートルもある「大仏様の頭かな?」と思うような大きさの頭が吹っ飛んでくるのだ。
これにびっくり、もしくは呆けたら最後、直撃を食らうぞ。気をつけろ。
「! 『舞う流星』!」
「いや、間に合わないな――クエナ! 全方向結界だ!」
「『全方向激多重結界防御壁』!」
咄嗟に行動したのはアンジェ先輩。そりゃあんなのが接近してたら何かしら抵抗するよな。
強力な数珠繋がりのメテオが頭に降り注がんとするが、アンジェ先輩の攻撃は基本何かを落とす攻撃なので、落ちるのに少し時間が掛かる。
間に合わないと判断した俺はクエナに強力な全包囲結界を頼んだ。
これはクエナのユニークスキル。俺たちを防御する全方向の結界が展開されて守った。
瞬間、〈頭吹っ飛んだ〉攻撃が大爆発!
「ひゃ!?」
一瞬で『舞う流星』は消し飛んでしまったのだ。
そう、あの飛ぶ頭は爆弾。
クエナのユニークスキルが間に合ったので直撃は免れたが、アンジェ先輩の五段階目ツリー最強クラスの魔法、『舞う流星』すら吹き飛ぶ攻撃というのをキモに命じなければ大惨事になるだろう。
まあ、優秀なタンクで防いじゃえば良いんだけど。
さあ、次はこっちのターンだ。
「いくぞ『インフィニティ・バニッシュセイバー』!」
第三形態になると、なんと全長15メートルの〈アムネジア〉に3つの頭が存在していた。いや、もっと増やすべきものがあると思うんだが! 頭なんか増やしてどうしたのさ! もちろん弾である。飛んでくるよ?
加えて第二形態の時のようにくす玉が大量に天井から吊り下げられるので、全体攻撃で一掃する。
「ゼフィルスさん!」
「『英勇転移』!」
降り注ぐ色々なものを回避するために転移でクエナの結界の中に入ってセーフ。
「『天使の浄化聖域』!」
マシロがまた聖域を張り直し、俺たちに状態異常バージョンの継続回復が付与される。良い感じ。だが。
「―――――!」
「あ、消されるぞ! 備えろ!」
「「「!」」」
次に第三形態が見せてきたのがヤバい攻撃。
いては系を超えかねない所業――スキル『アムネジア』だ。これが鬼強いほど強力。
身体から巨大な花が咲く、それがフラッシュの如くバンと光って弾け飛んだのだ。
その瞬間、マシロの聖域やクエナの結界などが、全て消えていたのである。
「わ!」
「本当に結界が!?」
これは忘却のスキル。『アムネジア』の名の通り、発動中のスキルや魔法などを強制的に一瞬だけ忘れてしまうスキルである。故に、発動中のスキルや魔法は強制的に解除されてしまうのだ。
なにその攻撃、超ヤバいんだけど。
しかも第二形態の時のコンボはそのまま。状態異常の花粉は出続けているし、天井には触れると破裂するくす玉、さらには〈眷属トラキ〉まで登場する。〈頭吹っ飛んだ〉攻撃でタイミングミスるとこっちでもキャンセルされてしまう。
そう、〈アムネジア〉のテーマは強制キャンセルと物量攻撃なんだ。
いやぁ、あまりに詰め込みすぎじゃないこれ?
結界とバフを消して眷属と状態異常で押し切るとかパナすぎる!!
まさに必殺の戦法だ。
まあ、知っていたら対処は出来るんだが。
「マシロ!」
「はい! 『セイクリッド・ヘヴン』!」
忘れるだけなので、再顕現してしまえばいいのだ。
実はあの『天使の浄化聖域』って、〈五ツリ〉なんだよね。
『セイクリッド・ヘヴン』は〈六ツリ〉だ。しかも上位ツリーである。
効果は『天使の浄化聖域』という状態異常バージョンの継続回復効果をそのままに、HP継続回復もしてくれる聖域、というか天国を顕現する魔法だ。
マシロが唱えると天国が顕現する!
『天使の浄化聖域』は所詮『アムネジア』に消されることが前提で出していたに過ぎない。『アムネジア』のクールタイムは長いので、使った直後に本命を使えばOKだ。
「よし、ユニークスキル解禁していいぞ!」
「待っていたわ! 落ちなさい天空の島! ――『シューティングスター・アトランティス』!」
それはアンジェ先輩の島メテオ。
【流星の魔女】のユニークスキルだ。
名前の通り、メテオ? いいえ、空島落としです。
そんな感じの攻撃だ。
島が降ってくるのである。天井が遥か高くなったと錯覚するほどの現象を目の当たりにし、上空から超巨大な島が〈アムネジア〉に向かって降ってくる。
これはもちろん【流星の魔女】最大にして最強の攻撃だ。
万が一にも『アムネジア』で消されるわけにはいかなかったので今まで制限していたが、ここで解禁だな。
〈アムネジア〉は残り2つの頭を発射して対抗する!
なんと〈頭吹っ飛んだ〉攻撃VS空島落とし!?
とんでもない対決が始まってしまった!
「――――!」
「いっけー!」
そして激突、瞬間、頭の1つはバウンドするかのようにポーンと弾かれてどっか飛んで行った。
そうだよねそうなるよね! 分かってた! だって空島落としの方が大きいもん! 大仏様の頭くらいの大きさじゃ太刀打ちできないよ!
そしてもう1つの頭は、島にズボッと勢いよくめり込んだ。
うん、こっちも無理。島落としは止まらず、そのまま落下。
「――――!?」
そしてズドーンと〈アムネジア〉を直撃したのだった。
「ダウンしたのだわ!」
「よっしゃーーーーー! 総攻撃だーーーーー!!」
結果、〈アムネジア〉は大ダメージを負ってダウンした。
マナエラ先輩の報告に俺が総攻撃宣言。
ここから総攻撃を加え大ダメージを与えると、〈アムネジア〉は次の『アムネジア』を発動することもなくHPがゼロになり、エフェクトの海に沈んで消えてしまったのだった。




