#1717 65層に待ち受ける、特大の混沌で過呼吸勃発!
「F班、2時の方角、角度32度、放て!」
「「「『ロックブラストバースト』!」」」
「D班は11時の方角、範囲攻撃、放て!」
「「「『エアインパルス』!」」」
「B班、前方足止め、放て!」
「「「『影犬縫い』!」」」
次に俺が転移陣で来たのは70層。
ここでは〈サクセスブレーン〉が狩りをしていた。
元は61層に居たが、そこよりも狩りやすい狩り場を見つけて今に到る形だ。
ギルドマスターカイエン先輩の陣頭指揮の下、一糸乱れない軍隊みたいな練度で多くのモンスターを殲滅していたのだ。見事である。
「よし、掃討! 行け!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」」
「おお~、見事なものだな」
「待たせて済まんなゼフィルスさん」
「全然問題ないさ。カイエン先輩、お疲れ様だ」
モンスターの群が機能しなくなるほど大きなダメージを与えたら掃討戦。
後は作業なのでカイエン先輩の指揮もここまでだ。カイエン先輩が疲れも見せないキリッとした立ち姿で振り返る。
「いやぁ、〈エデン〉とはまた違うスタイルだが、かなり練られた練度だと思ってさ。悪いが見学させてもらった」
「構わない。ゼフィルスさんには世話になっているからな(でもSSランク戦で当たるのはやめてね? マジやめてね?? そこまで世話にはなりたくないよ?)」
「SSランク戦で当たるのが楽しみだなぁ」
「…………(本当にお願いします当たらないで! 無事平穏に卒業させて!)」
バサッとマントを翻して前を向くカイエン先輩。
うーむ、背中で語るその姿、なんてかっこいいんだ。
きっと「言葉は不要、俺もSSランク戦で当たるのを楽しみにしている」とかそういった意味に違いない。
俺も見習わなくては。
続いて俺が向かったのは〈ギルバドヨッシャー〉の居る66層だった。
「おおゼフィルス氏! 見回りか? お疲れ様だ!」
「インサー先輩こそお疲れ様だ! ここはどうだ? 楽しいか?」
「最高だ!」
ガシッと確かなハンドシェイクを交わす。
レベル上げもそうだが、〈ギルバドヨッシャー〉にとってはこういう大勢VS大勢の大戦というか、戦術を練るようなバトルが好きな様子だ。
みんな弾けてらっしゃる。
「ちょ、マージ強いんだけど! 『俺の右手には邪悪な邪竜が住んでいる』!」
「ぶふぁ!? ちょっとジョウさん、そのスキル名はどうにかならないんですか!? 計測がブレちゃうんですよ!」
「震えた」
「そんなこと言われてもよメイコ! こればっかりは俺の邪竜に聞いてくれ! 『俺が右手を覗くとき、右手も俺を覗いている』!」
「ぶぶふぅぅっ!?」
一部ネタスキルを使うメンバーがいるな。
仲間の腹筋にダメージが入っているぞ。
「混沌!!」
「ええいやかましいぞこの混沌野郎! ほら7時から来るぞ混沌野郎! 指示を出せ!」
「混沌!!」
「了解! C班が片付けてきます。『ディザスタートルネード』!」
うーむ、さすがはオスカー君。
「混沌」しか言ってないように聞こえるのに〈ギルバドヨッシャー〉の動きは的確だ。
明らかに指示が届いている。「混沌」しか言ってないのに。
相変わらずすごい技術なんだぜ。
これなら作戦が相手に悟られる心配もないからな。ギルドバトルでは強力な手札になることだろう。
「くそう! 混沌語が分かってきてしまう自分が恨めしい――悔しい!」
「混沌!」
「やかましいって言ってんだろこの混沌野郎がーーーーーー!!」
なぜか受け入れがたいメンバーもいるみたいだけどな。
あれは弟子のシンジか。しかし、オスカー君とのコンビネーションは悪くない。
2人とも通信妨害が可能な【エウレカカオス】だ。SSランク戦では強敵になること間違い無しだな。
ここも問題無さそうだ。
さて次へ。
「ゼフィルス氏も一緒に遊んで――ではなく、参加していかないか!」
「いいのか! よっしゃ、少しだけ混ざらせてもらうぜ!」
と思ったけれどインサー先輩からありがたいお誘いがあったので少しだけ寄り道した。
〈ギルバドヨッシャー〉と一緒の戦闘は、とても楽しかったよ。
〈ギルバドヨッシャー〉も効率的なレベリングが出来ているようで、SSランク戦までには六段階目ツリーが開放できそうだ。
「よーし、そろそろ引き上げるか!」
「! 混沌!」
「どうしたんだ混沌野郎。何か反応でもあるのか?」
「この先からとても香ばしい混沌臭を感じる!」
「混沌臭??」
それは満足した〈ギルバドヨッシャー〉が帰ろうとしたときに起こった。
オスカー君がなにかに反応したんだ。でも混沌臭ってなんだろう?
「インサー先輩、オスカー君はどうしたんだ?」
「ああ。どうやら帰り道で相当な混沌が待ち受けているらしい!」
「相当な混沌……!?」
いったいなにが?
徘徊型は出ないはず。ならばその正体はいったい?
「オスカー君のこれまでの活躍から彼の嗅覚に疑う余地はない。彼が『混沌を感じる!』と言った先には必ずなにかの混沌的出来事が起こっているのだ!」
「そうなのか……!」
オスカー君、相変わらず何者なんだ。〈ギルバドヨッシャー〉のSランクギルドの地位は安泰だな。
だが、〈ダン活〉のデータベースと呼ばれた俺でも分からない。帰り道で何かが起こる? 新しいイベントかなにかか?
ちょっとドキドキ5割、ワクワク5割くらいの思いを抱きながら〈ギルバドヨッシャー〉の帰り道に同行すると、それは起きた。
「これぞ、筋肉と城の合体技! 〈筋肉城サンビーム〉だーーー!!」
「いやあああ! 私の城からそんなの出しちゃダメーーーー!!」
「こ、こんとーーーーーん!! こんっ――ケヒュン!?」
「混沌野郎ーーーーーー!?」
66層からの帰り道なら、当然65層のショートカット転移陣を利用する。
しかし踏み入れた65層は今、氷の城から筋肉ビームが降り注ぐ魔境となっていたんだ。
それを見た瞬間オスカー君が、なにか出しちゃいけないような音を出して昏倒した。やべぇ、これが予言の混沌!?
「お、おお? その声は、神官か!?」
「あ! マージさんに戦慄さんもいるよ~」
「マージ!? 冒険者に紅盾じゃんか!」
「まさかの出会いに震えた」
「何やってんだ冒険者!? 見ろ、混沌野郎が一瞬で昏倒野郎になっちまったじゃねぇか!?」
「昏倒野郎!?」
「あ、冒険者先輩危ない! 『純真乙女の守り盾』!」
「うおおおお!? あ、あぶねぇ、また戦闘不能になるところだった。助かったぜ紅盾」
「く~~~~~! これがやりたかったの!!」
「マージ? 紅盾と冒険者が共闘してるぞ!? いや、紅盾が一方的に守っているのか?」
「すっごく震えた」
「こひゅと~~~ん……(ガクンッ)」
「混沌野郎、しっかりしろーーーー!?」
カオスだ。
俺はこの日、混沌というものが少し理解できた気がしたんだ。
◇
その後も各ギルドを回り、親交を深めると共に進行状況も確認していった。
間に合わなさそうなら〈エデン〉が何かしら手助けしようかと思ったが、さすがはSランクギルドやAランクギルドのメンバー。今のところ問題無さそうな予感。
こんな機会は滅多に無いのでみんな夜、ギリギリの時間まで入ダンしながらレベル上げするみたいだ。もしくはダンジョン泊もする様子。
なお三学期の期末テストはテストの1週間前でもダンジョンが閉鎖されない。
そこは素晴らしいのだが、逆に言えばダンジョン週間のラス日、日曜日が終わると翌日からテストである
ダンジョンに入ダンしすぎるとテスト勉強がとても気になるところだが。
ここにいる人たちは勉強も両立できる人がほとんどなのできっと大丈夫だろう。
そんなことを思いながらもAランクギルドとSランクギルドを見回っていると、ついに成果が出始めた。
「やったの! 六段階目ツリーを、ついに開放できたの!」
「やりましたなぁホシ先輩! つうかアホみたいな威力やないか! 〈エデン〉はこんなの使ってたんかい、そりゃ強いはずや」
とうとう六段階目ツリーを開放した者が現れ始めたのだ。最初は大量殲滅が可能な〈百鬼夜行〉の面々だった。
ホシ先輩とハクが両手ハイタッチして、そのままなぜかミサトを巻き込んでクルクル回り始めたのである。
「ちょ、ハク、なんで私まで!?」
「ええやないかええやないか、ミサトはんも一緒に踊ろうやないか~!」
「わふ~、世界が回ってるの~!」
「これ、ゼフィルス君と同じやつ~~!?」
これはクルクルダンス!
嬉しいときにはつい踊っちゃうよねクルクルダンス! 分かる分かる!
ホシ先輩やハクとはより仲良くなれると感じたよ。
そして次に六段階目ツリーを開放したのは――〈ミーティア〉だった。
「くぅ~、また〈百鬼夜行〉に負けるなんて!」
「まあまあ、でもほとんど変わらなかったのだわ」
「タッチの差で先を行かれたのが悔しいのよ! 〈ミーティア〉は〈百鬼夜行〉の来る1日前には深層に到着していたのに!」
さすがは〈百鬼夜行〉とライバル関係の〈ミーティア〉。
というよりアンジェ先輩がホシ先輩を個人的にライバル視しているのかな?
アンジェ先輩がとても悔しがっていた。
ちなみに現在はダンジョン週間7日目の夕方だ。
まだ2日もある。勉強するも六段階目ツリーを練習するのも自由だな。
もしくはこんな方法もある。
「なんだったら〈巣多ダン〉の最奥ボスをやってみるか? 攻略者の証が手に入るぜ?」
「やるの!」
「それはええなぁ! 少しこの新しい魔法を練習したら、攻略者の証を土産にして帰りまひょかぁ」
ということで、〈エデン〉からのサービス。
攻略者の証もプレゼントすることにしたんだ。
「ミサトはん~、ボス戦も手取り足取り教えてくれなはれ~」
「たはは~、お断りだよ!」
「ほんならメルトはんに頼むわ~」
「ちょっと待つんだよハク!」
ふむ。面白い攻防戦ののち、どうやら〈百鬼夜行〉はミサトとメルトを加えて最奥ボスに挑むことにしたようである。どっちも抱え込まれてるじゃん。
ちなみに〈ミーティア〉はその次だ。
〈百鬼夜行〉と〈ミーティア〉が交互に挑むことになった。
「そういえばアンジェ先輩は〈百鬼夜行〉の次で良かったのか? 先を越されるのをいやがっていた気がするが」
「最奥ボスはそう簡単に倒されないもの、大丈夫よ。負けて帰ってきたホシを尻目に私たちが挑んで先に勝つのよ!」
おお、アンジェ先輩の目がランランと燃えている。
そういえば最奥ボスってなかなか倒せないんだっけ?
いつも一発突破だったからあんまり意識してなかったけど、アンジェ先輩的にはホシ先輩は負けて帰ってくると考えているらしい。
だから二番手でも大丈夫と考えている様子だ。なにせ、アンジェ先輩たち〈ミーティア〉のパーティには俺が入ることになっているからである。
しかし、現実は非情なものだった。
「イエーイ! 攻略者の証、一発ゲットなの~!」
「な、な、な、なああああああああああ!?!?!?」
うむ。【嫉妬】タンクに【色欲】ヒーラーの入ったパーティ。
しかも殲滅力に定評のある【賢王】と【大妖怪九尾】が居たのだ。一発突破しても不思議ではない。
この日、アンジェ先輩の悲鳴にも似た叫びが最奥に響いたんだぜ。




