#1715 SとAランクギルド全て到着!ギリ間に合うか!?
ダンジョン週間4日目最後に到着したのは〈氷の城塞〉だ。
「ゼフィルス! 今回はありがとう。とても助かるわ!」
「レイテル、よく来てくれた。ここでいっぱい鍛えていってくれ」
短いが、とても感謝の籠もった握手、否、俺の手を両手で包むようにして感謝を伝えてくるレイテル。
まさに万感といった様子だ。
〈氷の城塞〉は色々と創意工夫を凝らしてAランクギルドに食らいついているという感じのギルド。そのレイテルも研究熱心というか向上心が高く、今回の呼びかけには真っ先に返事を送ってきた1人だ。
なお、ギュッと握られた手がなかなか離れない。そこにシヅキがとてとてとやってきて。
「こほんこほん。なにやってるのかな~?」
「あ、あはは。つい感極まっちゃったわ」
「まったく、ここに〈エデン〉の古参メンバーがいなくてよかったね」
シヅキの咳払いと笑顔の言葉にレイテルが慌てて手を離す。
あまりレイテルとは話したことはないが、おっちょこちょいなのかもしれない。
ちなみに〈氷の城塞〉はシャロン班が担当、他にシヅキ、エフィ、そしてパメラが担当している。
特にシャロンとレイテルは同じ守りの伯爵同士。話はすごく合ったようで実りのある情報交換ができたとのことだ。良かったな。
ここはベニテやマースィなど、〈2年3組〉所属が多く、その関係でシヅキとエフィはここを担当に選んでいる。パメラはレイテルからの要望だ。なんでも忍者がどうやって城を攻略するかが見たかったらしい。いったいどういうことだ??
「〈氷の城塞〉のアイディアは〈エデン〉にとっても良い刺激になるからな。〈エデン〉も助かるよ」
「そんなのこっちの方が助かってるわ。それに出場選手は全員連れてこられて良かった。ドワーフのゼンダダもハミミも遅れずに牽引できたのはアルテのおかげね。2人が居ないとギルドバトルでは全力で戦えないから本当に助かったわ。でもあれは――」
「おっとレイテル、そこから先はまだ秘密な」
「……あっといけないわね、だいぶ気が昂ぶっているみたい」
つい話しすぎたレイテルをギルドメンバーがストップする。
レイテルの〈氷の城塞〉はドワーフの建築も戦法に取り入れているギルドだからな。もしかしたら新戦法なんかがあるのかもしれない。
ふふふ、〈氷の城塞〉と当たるのも楽しみだなぁ。
「ねぇねぇゼフィルスさん、オルク先輩を知りません?」
「ん? あ、ベニテじゃないか。久しぶりだな。オルクは65層でエリアボス周回やモンスターを殲滅中だぞ」
「ありがとうゼフィルスさん! それじゃあちょっと私、行ってくるね! いいよねレイテル!?」
「いいわけないでしょ! 普段抜け出してるんだから今週くらい私たちと一緒に行動しなさい!」
「ええ!?」
話が終わったタイミングを見計らって話しかけてきたのは、2年3組のベニテ。エフィやシヅキの同級生だ。
どうやらオルクをご所望な様子だが、レイテルに捕まり、同じクラスのマースィに引き渡されていた。うーむ、オルクって本当に顔が広いな。
「オルク先輩は私が守ってあげないとすぐ戦闘不能になっちゃうのに~!」
うむうむ、それは分かるぞ。オルクは毎日戦闘不能になりながらここまで来たからな。多分、20回はなってた。あんなに戦闘不能になる人、俺は初めて会ったよ。
「はいはいだまんなさいこのダメ男好き」
「ああ~ん殺生だよ~! 私と同じダンジョンにダメンズが来てくれることなんて、まずないんだよ!? チャンスなんだよー!?」
連れて行かれるベニテを見守っていると、いつの間にかエフィとシヅキが近くに居た。
「ベニテは相変わらず」
「まあ、ベニテちゃん、ダメンズを支えたいってずっと言ってたからね。タンクになったのもそのためらしいし。でもダメンズがベニテちゃんのいるダンジョンに来られるわけもなく、一緒にダンジョン攻略できないジレンマに嘆いてたもんね」
うむ。シヅキ、説明ありがとう。
どうやらベニテは難儀な好みを持っているようだ。オルクと相性ぴったりだな。
よし、あとでレイテルを説得してみよう。
ちなみに世代交代の話だが、〈氷の城塞〉は2年生のレイテルがギルドマスターをしているため、次代のチェンジは当然無しだ。
最後は〈天下一パイレーツ〉だ。無事に到着し、エステル号から降りてきた団体さんに対してまず一声。
「おお! サターンたち間に合ったのか! さすがはシエラ班だな!」
「な! ゼフィルス貴様、我々の功績じゃないと言うのか!?」
「ふふ、まったくゼフィルスには困ったものです」
「俺たちだからこんなに早く到着できたんだぞ!?」
「どうやら俺様を忘れてしまっているよう―――」
「あなたたち、何をしているのですか?」
「「「「なにもしておりませんメイド長様!」」」」
出迎えた台詞が気に入らなかったのか、サターンたちが食ってかかってきたが、後ろからのクールな一言で4人ともビシッと整列して固まった。
え? こいつらが整列した!?
「なにをしたんだシズ?」
「いやですねゼフィルス殿、ちょっと指導をしただけですよ」
「ふ、こいつらがちょっと指導したくらいじゃこうはならないことを、俺は知っている」
「バレてしまいましたか。いえ、あまりにもトロいので、道中鍛え直してあげたのです」
鍛え直してあげたのです。
そんなことを口にするのはもちろん〈エデン〉のメイド様、【戦場冥王】のシズだ。戦場では一番逆らってはいけない相手である。
シズの言葉がよほど効いたのか、4人が震え上がっているぞ。まさかこんな光景が見られるなんて、いったいどんなことをしたのか気になるんだぜ。
「ゼフィルス。今到着したわ」
続いて俺に声を掛けてきたのは――聞き違えようが無い。我らが〈エデン〉のサブマスター、シエラだ。
「シエラもお疲れ様だ! 完全に任せきりになっちまったが、大丈夫だったか?」
「こっちはエステルとシズが居たから、時間は掛かったけれど楽なものだったわ。ゼフィルスの方は? そっちは筋肉ギルドだったでしょうに」
「ああ、あれはなかなかヘビーだったぜ」
「「「「うっ」」」」
シエラとの会話で何かが刺さったのか、サターンたち4人がさらに震えたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
〈天下一パイレーツ〉が〈巣多ダン〉の61層に到着したのは、ダンジョン週間6日目だった。
ぶっちゃけかなりギリギリだ。今から急いでレベル上げしたとして、〈天下一パイレーツ〉が六段階目ツリーを開放できるかは、普通にしたのでは厳しいんじゃないかというレベル。
まあ、21時のダンジョン入ダン制限ギリギリまで毎日レベル上げをするか、ダンジョン泊するくらい頑張ればいけそうか? テスト勉強はできなくなるが。
「ゼフィルス、私が帰ってきたわよ!」
「おう! ラナもお疲れ様、エステルとマシロも、そっちは大丈夫だったか? 変なことなかったか?」
「もちろんよ! すべて蹴散らしてあげたわ! でもエステルがいると〈戦艦・スターライト〉が使えるからとっても便利ね! 移動だけはすぐだったわ!」
移動だけは。つまりボス戦で苦戦したということだな? 分かりみが深い。
「安心してくださいゼフィルス殿。使用した〈復活の秘薬〉は、全て〈天下一パイレーツ〉に請求しておきました」
「わ、私たちも復活魔法を使ったのですが、その、追いつかなくって」
「マシロのせいじゃないわ! 復活して2秒で二度あげされたこのサターンのせいよ!」
「うぐっ!?」
サターンよ、復活2秒であげられたのか。声に詰まったサターンの横でジーロンが「ふふ」と笑っているのを、俺は聞き逃さなかったんだぜ。
「でも、復活魔法は〈エデン〉じゃ使ったこと無かったからすごく新鮮だったわね! 復活のタイミングとか、計るのが結構難しかったわ! ちょっと失敗しちゃったわよ」
「そうだろうそうだろう。俺もラナに教えた記憶無いもん」
復活魔法に全く慣れていないラナが、復活魔法のタイミングについてもっともな感想を呟いていた。
うむ、〈エデン〉じゃ練習できないからね。俺もラナに教えた記憶無いもん。もしかして〈エデン〉のヒーラーって、復活魔法苦手なのかもしれない。もっとヒーラーを〈天下一パイレーツ〉やオルクと組ませるべきだろうか?
ふむ、そう考えると最適な人材かもしれない。
「な、何を見ているのだゼフィルス?」
「ふふ!? その目を向けるのをやめるのです!? 今の会話からなぜ僕たちを見つめるのです!?」
「いや、ちょっといけにえ――じゃなくて最適な人材に最適な役割を任せたくてだな」
「今いけにえって聞こえたぞ! 最適な人材って、何に対しての最適だよ!?」
「お、俺様を忘れてもらっても困らないぞ?」
しまった。どうやら心の声がちょっと言動から漏れてしまったらしい。
だが、大丈夫だ。この程度でサターンたちがサクッとあがることを改めないと、俺は知っている。
「ええいお前たち、ちょっとおだまりやがれです!」
「お、モニカじゃないか!」
「挨拶が遅くなりやが――なりましたゼフィルス先輩」
ここで〈天下一パイレーツ〉のギルドマスター、モニカが登場だ。
これまでメンバーを勝手にうろつくなよと諫めていたらしい。ちょっと素の口調が漏れてしまっている。大変そうだ。
「〈エデン〉のおかげで〈天下一パイレーツ〉はこんなに早くここまで来ることができやが――できました。感謝してもしきれねぇです。改めてありがとうございます」
「おう! まだ安心するのは早いぞ。ここまで来るのに結構時間が掛かったようだからな。ここから〈SSランクギルドカップ〉までに六段階目ツリーを開放するには、ダンジョン泊でもしないと厳しいぞ?」
「わかっております。これからこいつらには特大の試練を与えるでやがりますよ」
「なんだと!?」
「サターン、お静かに」
「は、はい!」
「また、その時は是非シズ先輩に面倒を見ていただきたく」
「マジでシズは何をしたんだろうな。あのサターンをあんなに従順にしてしまうとは」
モニカの言葉にサターンが異を唱えるが、シズに秒で封殺されていた。
モニカからの信頼も厚い様子だ。訓練の時はできる限りシズを派遣すると約束する。
「感謝です! それに私自身シエラ先輩に稽古付けていただいて、エリエルもラナ殿下とマシロンに鍛えていただいて、メキメキ実力が伸びました」
「ありがとうございますゼフィルス様。改めて感謝いたします」
改めて頭を下げて深いお礼をするモニカ。それとモニカの斜め後ろにもう1人、彼女は見たことがある。【偽聖女】の子だ。名前は確かエリエル。
ラナが「〈天下一パイレーツ〉の【偽聖女】に用があるわ! どっちが正しい聖女なのか教えてあげるのよ!」とか言って〈天下一パイレーツ〉の担当に立候補していたが、その目的がこの子だ。どうやらマシロが間に入ったことで上手くいったらしい。
「気にするな。だがどうしても気になるって言うのなら、〈エデン〉に来るか?」
「「「「なん!?」」」」
「会話に割り込まない」
「「「「はい……」」」」
シズ、強いな。
なお、俺から誘われたモニカはというと。
「まあ、もうちょっとしたら答えます。まずは〈SSランクギルドカップ〉に集中したいんです」
「違いないな。じゃあその後もう一度誘わせてもらおうか」
「楽しみにしているです」
「良かったねモニカ」
「「「「!?」」」」
これは好感触。〈SSランクギルドカップ〉が終われば卒業式。
エリエルは3年生で、残念ながらもうすぐ卒業だが、モニカはもしかしたら〈エデン〉に来るかもしれない。
そんなスカウトを目の前でされていたサターンたちはというと、目で必死にモニカになにかを訴えているようだった。
なお、まったく通じていない様子だ。
「さあ、時間がねえでやがりますからさっさといくでやがりますよ!」
「おおー!」
「「「「!?!?」」」」
モニカの掛け声に元気に手を上げるエリエルと、目を白黒させるサターンたち。
とりあえずはこれで全てのSランクギルド、Aランクギルドが揃ったな。
みんなが六段階目ツリーを開放できるよう、〈エデン〉はこれからも協力するぞ!




