#1712 〈筋肉〉〈サクセスブレーン〉〈ミーティア〉
筋肉の新戦法。
【サタン】集団による薙ぎ払いビームは非常に強い。
だが、奥に進むにはさすがにこれだけでは手が足りなかった。
「むう。この60層守護型ボスが手におえんぞ!」
「俺の筋肉では歯が立たんというのか!」
「もう少しで深層だというのに!」
〈巣多ダン〉は物量型ダンジョンだ。
故にここのボスも非常に特殊で、物量を操るボスが多数いる。
中には、筋肉だけでは突破が難しいボスもいたのだ。
それがここ〈巣多ダン〉の60層守護型ボス。
3つの階層門を守る3体の守護型ボス。
しかも全員が眷属召喚を行なうので物量がとんでもないことになるのだ。
上級上位ダンジョンは61層からが深層扱い、つまりはLV60まで育成できるエリアになるため、そこを守る最後のガーディアンと考えていい。
つまりこいつらを倒さなければ六段階目ツリーはあげませんよ、と言われているのだ。
「右から〈一つ目木樹〉〈二つ目木樹〉〈三つ目木樹〉。確かにここを最初に突破したときは強いとは感じたが、まさか〈筋肉は最強だ〉が足止めをくらうことになるほどとは」
「あの時は〈エデン〉メンバーのうち、1体につき10人ずつで対応したんだったか」
「30人で戦ったであります。しかも〈エデン〉という超精鋭メンバー30人であります」
メルト、ラウ、ヴァンもまさかの足止めにちょっと動揺していた。
今までは何とかなっていたのだが、60層のボスが思いのほか強すぎて筋肉たちとオルクが計8人も戦闘不能となり、こりゃだめだと撤退したのである。
いつもの〈エデン〉ならば崩れることはないため、かなり新鮮な感覚だ。
「やはりここを突破するには純ヒーラーがいるな」
「…………〈筋肉は最強だ〉はヒーラーがいないからな」
まさにこれが最大の原因である。
筋肉たちはお互いがお互いをカバーしあい、タンク役がボディで受け止めているうちに他がポーションで回復する戦法で今まで乗り切ってきた。
ほぼ全員がアタッカー&タンクである【サタン】だからこそできる戦法だ。いつ、誰とでもスイッチできるとか強いよ。
しかし、その戦法は60層ボスには相性が最悪だった。
60層のボスは物量型。物量が強すぎて回復する間が無かったのだ。
加えて物量による攻撃はダメージが蓄積しやすいためあっという間に戦線が崩れてしまったのである。
ヒーラーが居れば後方から回復を飛ばすことができるので回復が間に合っただろうが、ポーション回復ではこういうとき不利だな。
一応ハンナ特製のパーティのHPを630回復させる〈回復薬の息吹〉というアイテムも使ったのだが、中級産なのであまりたくさん持ってきてなかったのが仇になったな。あれの上級産レシピ、まだドロップしないんだよ。こういうこともある。
そう、無敵に思えた悪魔筋肉の弱点は、ヒーラーがいないことだったのだ!
というかアラン、ヒーラー入れろし。今度【ナイトメア】の発現方法教えるか? あれは「女」カテゴリーの職業なので〈筋肉は最強だ〉に入ってくれる女子がいればの話になるが。
それはともかくとして、立ち往生している俺たちだが、ただ立ち往生していたわけじゃない。しっかり作戦を練ってあった。
「ゼフィルス様、今応援が到着いたしました」
「ご苦労セレスタン。助かったよ」
「いえ、ノエル様が担当している〈ミーティア〉とリーナ様の支えている〈サクセスブレーン〉も〈巣多ダン〉に来ていたのが幸いでした」
そう。〈エデン〉は今、Aランクギルド及びSランクギルドのパワーキャリー真っ最中。しかも目標到達点が〈巣多ダン〉の61層以降ということもあり、ダンジョン週間3日目には〈巣多ダン〉に入ダンしているギルドがいくつもあったのである。
後はエステルかアルテに頼んで〈戦艦・スターライト〉1番艦と2番艦のピストン運行で1層から61層までかっ飛ばしてもらって合流よ。なお、道中の守護型は他のS&Aギルドに倒してもらい、鍵は全て〈エデン〉が持っているもので開けている。
他のSランクギルドやAランクギルドに倒してもらっているのは、彼ら彼女らの矜持だ。でも正規ルートの鍵は〈エデン〉が開けちゃうので最短で通行可能です。
つまりは、最後は他のギルドと協力して守護型倒そうぜ、という寸法だ。
「ゼフィルス君~、おっまたせ~♪」
「ノエル! それにアンジェ先輩にマナエラ先輩も久しぶりだな!」
「お久しぶりねゼフィルスさん。今回はお誘いいただいて本当にありがとう」
「キャリーしてもらえて、とても感謝しているのだわ」
ノエル、ラクリッテ、トモヨ、サーシャ、カグヤ班の担当は〈ミーティア〉。
そのギルドマスターであるアンジェ先輩に、サブマスターのマナエラ先輩だ。
グッと握手を交わす。
「〈ミーティア〉はすっごかったよ~。特に〈巣多ダン〉とは相性が良くって、一斉攻撃の連発で巣を一方的に突破しちゃうんだよ!」
「わ、私たちも参考になりました!」
「うんうん! 攻撃は最大の防御でもあるってね!」
ノエル、ラクリッテ、トモヨがべた褒めするほど〈ミーティア〉の〈巣多ダン〉攻略はかなりのペースだったようで、一糸乱れぬ一斉攻撃によって次々と巣を撃破。ほとんどストレートに勝ち進んできたらしい。
全員が魔法使いなので歩みは遅かったらしいが、もうあとちょっとで上級上位ダンジョンに入ダンできる、というところにいたため、今日には〈巣多ダン〉へ到達出来たとのことだ。
「さすが〈ミーティア〉は早いな~」
「これを『早いな~』の一言で済ますゼフィルス先輩ですの!」
「なんというか、別のギルドを見て〈エデン〉のとんでもなさを再度痛感したよ……!?」
おっとツッコミ役のサーシャとカグヤも合流だ! 嬉しいね! ツッコミ感謝!
そしてもう1組。
「ゼフィルスさん。〈サクセスブレーン〉のカイエンさんをお連れしましたわ」
「お疲れ様リーナ。助かったよ。――カイエン先輩も久しぶりだ」
「久しぶりだゼフィルスさん。今回の支援は感謝してもしたりない。何かあれば是非〈サクセスブレーン〉を頼ってほしい(でも頼るのは俺が卒業したあとにしてください!)」
「ありがとうカイエン先輩!」
カイエン先輩は〈サクセスブレーン〉のギルドマスター。
相変わらずしゃんとしていて非常にかっこいい言動。
優雅な余裕とカリスマを感じるぜ。さすがはカイエン先輩。
俺も再会を喜び、グッと握手を交わす。
その様子を、〈サクセスブレーン〉のメンバーが目を煌めかせて見つめていた。
その中から代表で1人が前に出る。
【レジェンドレイヴン】のナギだ。
「ゼフィルス君、久しぶりです!」
「ナギも久しぶりだ。そういえば来年度からは〈サクセスブレーン〉のギルドマスターに就任するって聞いたぞ」
「えへへ。まだまだ未熟ながらこのナギ、カイエン先輩に少しでも近づけるよう精進すると共に、カイエン先輩が築き上げた〈サクセスブレーン〉を引き継ぎ、精一杯引っ張って行きますよ!」
「おお、やる気だな!」
ナギとリーナは友達だ。故にリーナが〈サクセスブレーン〉組に立候補して付いている。ちなみにリーナの班は他にレグラム、オリヒメさんの2名だけだ。この3人が居ればちょっとやそっとのことでは迷わないからな。
風の噂でナギは〈サクセスブレーン〉のサブマスターになったとは知っていたが、カイエン先輩が卒業した後は〈サクセスブレーン〉のギルドマスターに就任することが決まったらしい。本人もかなりやる気になっているようだ。
「頑張ってくれナギ。今回も期待している(むしろもうギルドマスター交代する? いつでも譲るよ? むしろ譲らせてください!)」
ギルドマスターとサブマスターの関係も良好な様子だ。
一通り挨拶が終わると、俺が3つのギルドの前に出る。
「注目してほしい! ここ60層の守護型ボスは3体。それぞれがそれぞれの階層門を守っているが、これまで通り1つの階層門だけに挑むと他の2体も参戦してくる、〈守護型参戦現象〉が確認されている。よって、このボスに挑む場合、3箇所同時に攻略するのがセオリーだ。そこで各ギルドには、各階層門を担当してもらいたい!」
そう言って俺は3体のボスに視線を送る。
ここは60層の奥地。深い森のフィールドに3つの巨大な樹があり、その根元にそれぞれに陣地のようなものが敷かれて各ボスが点在している。
それぞれに距離は多少あるものの、走れば数十秒でとなりのボスへ参戦できる距離でしかない。
よって同時攻撃にて制圧するのが正解。
〈守護型参戦現象〉は守護型ボスが同時に戦っている時は起こらないのだ。
それは上級ダンジョンを攻略して来た面々ならばすでに知っていることだろう。
どこからも異論なく決まる。
「それなら、私たちは東側の〈一つ目木樹〉を担当するわ」
「〈筋肉は最強だ〉は中央の〈二つ目木樹〉を担当する! リベンジマッチョだ!」
「それなら、〈サクセスブレーン〉は西側の〈三つ目木樹〉だな(これくらいならいけるかな? うん、頑張ろう! あとリベンジマッチョってなんだろう?)」
右から〈ミーティア〉〈筋肉は最強だ〉〈サクセスブレーン〉の順に挑むことが決まる。
合同攻略だ。
さきほど3箇所同時攻撃では〈筋肉は最強だ〉でも遅れを取ったが、1箇所に集中していいのなら遅れは取るまい。
準備が終わったのち、全員で一斉に60層ボスに躍りかかった。
そしてついに60層を突破し、〈ミーティア〉〈筋肉は最強だ〉〈サクセスブレーン〉はダンジョン週間3日目にして、61層に到達した。




