#1708 【ルシファー】2人が揃う〈魔界ダン〉!
「ちょっと今日行くダンジョンに1人、〈エデン〉から同行させてほしい。〈エデン〉メンバーの1人、【ルシファー】のシヅキだ」
「少しの間だけどお邪魔させてもらいます!」
「おお! 〈エデン〉の【ルシファー】か! もちろん歓迎しよう! よろしく頼むぞ!」
今日はちょっとしたメンバーチェンジ。
〈氷の城塞〉でパワーキャリーを担当しているシヅキがちょっとだけこっちに合流していた。
筋肉居るし大丈夫か心配だったが、シヅキはお嬢様じゃないので大丈夫とのこと。
「え? え? マジで女悪魔!?」
「こっちではシヅキって呼んでね、冒険者君!」
「俺はオルクでよろしく」
「了解、冒険者君!」
「え? いやオルクって」
「冒険者君?」
「……はい。俺は冒険者です」
「あはは、まあ冗談だよ! でも今は悪冒なんだし、冒険者君ってあだ名でもいいかなって」
「なんだそういうことか。それなら歓迎だ!」
シヅキとオルクは以前からの知り合いだ。オルクが前に【ルシファー】の育成の仕方を聞いたって言ってたからな。
それにしては名前の呼び方を決めたりしていてちょっと妙だが。
「それでゼフィルスよ! この〈魔界ダン〉にオルクのパワーアップモンスターがいるのだな?」
「おう! アランも知っての通り【ルシファー】っていうのはすんごい強い代わりに〈悪魔〉系のモンスターしか契約できない。ということで、今日はこの〈悪魔〉モンスターばかりが登場する〈魔界ダン〉でシヅキとオルクにモンスターをテイムさせるのが目的だ!」
「ははは! 〈悪魔〉モンスターは筋肉も優秀と聞く! 我らの筋肉もはしゃいでいるぞ!! 新しい筋肉を歓迎しようじゃないか!!」
ムキムキっと筋肉をひけらかしながらアランが楽しみアピールをする。
体全体でアピールする様子は圧巻だ。
「あはは、筋肉すごー」
「シヅキは筋肉に忌避感無くって助かるぜ」
「私は〈秩序風紀委員会〉に居たしね! 筋肉には慣れてるんだよ!」
なぜ〈秩序風紀委員会〉に居ることが筋肉平気に繋がるのか。どうやら筋肉たちは〈秩序風紀委員会〉でお世話になったことがそれなりにある様子だ。
まあ、服脱ぐからね。聞けば往来のど真ん中で、突如服が弾け飛んだ筋肉もいたらしい。いったいどんな状況だったのか、すごく気になるんだけど?
ということでシヅキを連れて、〈魔界ダン〉へ出発だ。
◇
「おお~、魔界っぽい!」
「シヅキのその感想、よく分かるぜ」
〈魔界ダン〉は、暗雲立ち込める赤い空と、赤茶色の荒野の大地が広がる、ザ・魔界って感じのダンジョンだ。
だが荒野にはいくつか施設が建ち並んでおり、墓地エリアや屋敷エリア、魔城エリアなどが所々に存在している。
「ここって〈攻略先生委員会〉と〈救護委員会〉が合同で攻略したんだよね」
「ああ、立派なもんだよ。おかげで俺も自重せず案内出来るし(ボソッ)」
「うん?」
「いや、なんでもない。それじゃあ早速行こう! これからいくのは――魔城エリアだ!」
魔城エリア。
つまりは城が建っている区域のことだ。
城は階層毎に微妙に変化するが、基本黒色で上に大きい。城塞のような横に大きい城ではなく、人が住むように作られている豪華な城だ。まあ、住んでいるのは人ではなく悪魔だけどな。
これが深層に突入すると魔城エリアが魔王城エリアへとシフトし、エリアボスを魔王城から出すように変化するのも見所の1つだ。
そう、つまり魔城エリアで出現する〈悪魔〉モンスターを育てると、魔王になるんだよ。
「そして、シヅキには残りの2体をここでテイムしてほしい」
「〈グラトニー〉と〈ラスト〉の進化前だね! よーし、腕が回るよ~!」
右手をぐるんぐるん回しながらシヅキがやる気を出す。それを言うなら腕が鳴るじゃない? いや、合ってるのか? よく分からなくなってきたんだぜ。
シヅキは〈教会ダン〉で、〈スロース〉の進化前と契約している。
あとカイムが〈グリード〉に、クロちゃんは〈ラース〉へと進化している。
着々と全てが揃いつつあるな。
〈竜ダン〉のレアイベントでモンスターの進化ルートを知ってから、シヅキはずっとテイムしに来たいと言っていたんだよ。というわけで、ついでに誘ったというわけだ。
「オルクは〈マッスルデビル〉の進化系である〈フルマッスルデーモン〉を狙うぞ。こいつが進化すると〈デーモンジェネラル〉に進化するんだが、指揮系のバフが使えるようになるから便利なんだ」
「ほほう。報告書にあった逞しいマッチョマンだな? ――よかったなオルクよ!」
「え? お、おう。えっと、よく分からないですけど嬉しいです!」
俺の紹介したモンスターの筋肉具合が気に入ったのか、筋肉たちが腕を組んで頷いていた。オルクはもちろん嬉しそうに(?)して受け入れる。
「私のクロちゃんの別の進化方向だね!」
「おう。こっちの方がオルクには合っているからな。巨体のモンスターだと、なんか相性が悪いっぽいんだ」
「さ、さすが冒険者君! 巨人筋肉を使役したら、踏み潰された冒険者君の姿が容易に想像出来ちゃうんだよ!?」
そんなこんなでテイムは始まった。
どれも1層から登場するので、サクッと魔城とやらを制圧――じゃなくて乗り込んで悪魔を攫う――じゃなくて契約するだけの簡単なお仕事だ。
圧倒的な力でHPバーを残り1ドットにされた悪魔たちが次々とこちらの傘下へ――じゃなくて、喜んでシヅキとオルクのテイムを受け入れていく。
え? 拒否したら? その時はそのままズドンだよ。
「やった! 2体目も無事契約完了だよ!」
「こ、こっちもできました~」
シヅキは無事2体と契約し、オルクも〈フルマッスルデーモン〉と契約出来た。
途中50体くらいズドンしたが気にしない。
「うむ、この筋肉、鍛えたら我らに匹敵するかもしれんな!」
〈フルマッスルデーモン〉の逞しい分厚い腕を見てアランが自分の二の腕とどっちが太いか争っていたが、アランの勝ちだったようだ。すげぇ。
「これで〈魔界ダン〉は終了だ。オルクの次のモンスターは〈教会ダン〉に行ってからだな」
「ありがとうございますゼフィルスさん!!」
「それじゃあ私は〈氷の城塞〉に戻るね!」
「おう! そっちもしっかりな!」
「冒険者君もばいびー、がんばってね~」
「お、おう。ベニテにもよろしく言っておいてくれ」
〈魔界ダン〉での用も終わったので戻って来て解散だ。
あっさりだが、今回はテイムだけなのでこんなものだな。
本番は〈巣多ダン〉だ!
シヅキは〈氷の城塞〉組に合流するため〈上中ダン〉で別れ、俺たちは〈火山ダン〉へと入ダンする!
「よし、俺たちはこのまま〈火山ダン〉へと入ダンするぞ!」
「…………へ?」
ということで一度攻略済みである〈火山ダン〉にやって来ました!
熱く、厚く、暑苦しい。なにがって? 筋肉だよ!
「我らの筋肉の方が熱い!」
「「「我らの熱い筋肉は溶岩なんかには負けん!」」」
「いや、無理だってアラン! みんなも、絶対溶岩には入るなよ!? 絶対だぞ!?」
溶岩を熱い風呂かなにかと勘違いしているんじゃないか? というアランたちがバッと装備を脱いで対抗してたんだ。
HPが無ければ危ないところだったよ。
しかし、筋肉のあの力強さを見ると、思わず「やせ我慢すればいけるんじゃね?」と思えてしまうから不思議だ。溶岩の海でバタフライとか平然としてそうとか思えてくる。実際全くそんなことはない。いくら筋肉を鍛えようと溶岩に入ったら即〈敗者のお部屋〉逝きだ。だからオルクよ。説得がんばれ。
そう思ったらなぜかチュルンとその場で滑るオルク。
「あ」
「あああああああああああ―――――!?」
「ぬお!? オルクが溶岩に落ちたぞ!」
「一瞬で〈敗者のお部屋〉に逝っただと!?」
なぜか説得していた本人が〈敗者のお部屋〉へ飛ばされるミステリー発生!
俺も一瞬何が起こったのか分からなかったぞ! なにが起きた!
そしてみんなで迎えに行き、〈敗者のお部屋〉の鉄格子を両手で掴んでいる囚われのオルクを、無事発見する。
「メルト、『リヴァイヴ』してやってくれ」
「ああ。『リヴァイヴ』!」
「すみませんでしたーーーーーー!!!!」
少々ハプニングがあったが、その後は俺が救済アイテムである〈鎮火の秘薬〉を使って素通りだ。もう溶岩には落ちさせん。
アランたちは筋肉をひけらかしながら悔しがっていた気がしたが、きっと気のせいだろう。
ここではさすがのセレスタンも〈馬車〉を使えないので俺たちもダッシュに参加する。
他のギルドも〈火山ダン〉に集まって来ていて守護型ボスなども倒されているので、走ってダンジョンを踏破していけばいい、おかげでかなりスムーズに移動することができた。
「ゼフィルス、レアイベントボスはどうするんだ? 場所は確か発見されているんだろ?」
「おっとそうだった、時間があればちょっと寄っていっていいか?」
「え? 〈火山ダン〉のレアイベントボスって〈救護委員会〉が全滅したあの? いや、え? そんな簡単に決めちゃうんですかゼフィルスさん?」
ちょっとあの店に寄っていく? という気軽さでメルトの提案に答えると、オルクが目を点にして驚いていた。
俺たちが〈火山ダン〉を攻略したとき、レアイベントボスには挑戦しなかった。
理由は勝てるか分からないから。
〈火口ダン〉だって1パーティで戦う時推奨LV60だったからな。〈火山ダン〉もお察しだ。だが、俺たちは六段階目ツリーを開放しているし、〈竜ダン〉のレアイベントも攻略した。ならいけるという判断。
ちなみにレアイベントボスの場所を発見したのは〈攻略先生委員会〉で、挑戦したのは〈救護委員会〉。だが、その時はまだ〈救護委員会〉も六段階目ツリーを開放していなかったので全滅している。
故にメルトは、せっかくだから戦っていくか? と聞いてきたわけだな。
俺的にも寄り道しても時間的に大丈夫だと判断したので、攻略2日目、65層のとある道へと逸れた。
「こっちだ!」
「おう!」
短い掛け声にアランたちはマラソンしながらついてくる。
寄り道していいか聞いたらアランたちは見学させてもらえれば問題無いと受け入れてくれたよ。
そしてレアイベントボスのいる第二の試練に到着する。
そこにあったのは2つの門。大きい門と小さい門だ。
その間には亜竜の石像が腕を組んで立っており、これまでと同じならば――。
『挑戦者、試練、受ける、か?』
〈竜ダン〉の試練で声を掛けてきた竜と比べると片言っぽいが、こっちでもしっかり言葉で話してきた。さすがはチェーンダンジョン。
「おう。挑戦しに来たぜ!」
『汝、試練、挑戦、承知。5人、選べ』
そう、ここの試練はなんと最奥ボスと同じ、5人限定なのだ。
5人限定でレアイベントボスを突破しなくちゃいけないというのが、ここの難易度を物語っている。
「俺は〈エデン〉メンバー全員。俺、セレスタン、メルト、ラウ、ヴァンでいく」
門番へそう宣言すると大きい門がゆっくり開いていく。
『入るがいい、挑戦者』
俺たち試練を受ける5人がその門を潜ると門が閉まる。
その後、小さな門が開いて〈筋肉は最強だ〉のメンバーも通ったはずだ。
小さな門は見学者の扉。ここは珍しい、見学のできるレアイベントなんだよ。
中に入ると、そこは闘技場。
中心で待ち構えているのは、竜人。
〈火口ダン〉のリザード系ではなく、その進化系である竜人系モンスターである。
しかしその数は――5体。
身長は3メートル。身長ほどもある長い槍を持っている。
こっちは5人しか居ないのに、ボス5体と戦えということだ。
『汝ら、竜人に、勝ってみせよ』
レアイベントボス戦、開始。




