#1701 筋肉が通ります、聖域に筋肉が通ります!
「アランー! ちゃんとついて来れているかー!」
「無論だ! 俺たちの筋肉はこの程度の走り込みでバテる程軟弱ではない!」
「言うな~! よし、このまま階層門をどんどん突破するぞ! モンスターやボスに気をつけろ! だが、戦わなくていい!」
「「「おう!」」」
現在〈雲上の聖域ダンジョン〉、通称〈聖ダン〉を攻略中だ。
どうやらこの15人はランク1の〈謎ダン〉とランク2の〈守氷ダン〉は攻略者の証を持っているようなので、ランク4の〈聖ダン〉を高速で突破中。
俺たちの後続を走る15人の筋肉集団。
うむ、なかなかにカオスである。
だがなんでこいつら走る度にドドドドドドドッと足音が轟くんだ?
おかげで〈聖ダン〉のモンスが次から次へと出てくるんだが!?
「セレスタン、切り開け!」
「『イエス・マイロード』!」
セレスタンが〈からくり馬車〉に乗りながらスキルを発動する。
『イエス・マイロード』は相手がどんなモンスターでも、大量の攻撃を浴びせてきても、それを無視して突き進む、分類状は突撃系のユニークスキルだ。〈馬車〉に乗っても使うことができるのが素晴らしいポイント。
でもなんで使えるんだろうね。ロード入ってるからか? そのロードじゃないはずなんだけど……。
また、本来セレスタンは『乗物攻撃の心得』を持っていないため、モンスターに当たっても吹き飛ばせないのだが、『イエス・マイロード』発動中はモンスターを跳ね飛ばしながら突き進むことができる。鬼強い! さすがはユニークスキル。
ここ〈聖ダン〉は道がしっかりしているため〈馬車〉を使うことが可能だ。
故に〈からくり馬車〉の面目躍如。最近悪路ばかりの上級ダンジョンでは使われなくなって久しい〈からくり馬車〉を引っ張り出し、こうして道を突き進んでいた。
立ちはだかるモンスター共の攻撃を全てを受けるも、びくともしない〈からくり馬車〉は突き進む。
立ちはだかるモンスターは全て轢いて道を切り開き、全ての攻撃は先頭のセレスタンが受け持つスタイルだ。
後ろから大量に向かってくる天使モンスターたちだが、あいつらは立ち塞がることはしてきても追いかけてくることはあまりしないので、すぐに諦めて雲海に潜って消えていく。
そして新たに現れる正面の天使モンスターの軍勢。
まさに、ここから先は通さないと言わんばかりの手勢だ。
「いやはや、すごいな。こんな強引な攻略がまかり通るのか」
「確かに〈イブキ〉でもやったが、あれは〈イブキ〉だから出来たという認識だった。認識を改めなくてはならないようだ」
「自分も攻略に参加したとき、こんな感じだったでありますな」
メルト、ラウ、ヴァンがこの攻略(?)方法に微妙な感想を吐露する。
〈ダン活〉の上級ダンジョン、ランク4は物量型ダンジョン。だが、その物量が来る方法は様々で、上級下位のランク4〈島ダン〉なら、遠くを飛んでいても視界に見えたところでエンカウント発生。アクティブモンスターのパーソナルエリアが非常に広いという形態だった。
上級中位ダンジョンのランク4〈聖ダン〉は音だ。
そしてここは聖域でもあるので、侵入者を排除、また、これ以上侵入させまいとする傾向が強く、要は退路を塞がないのである。塞ぐのは主に前だけ。
帰れと言われていると解釈できるその方法は、後ろから攻撃されないという意味でもあり、こうしてダッシュして突破していくだけで後ろに付いてきている者は便乗して攻略することが可能なのだ。裏技だな。
とはいえ、これは万能な方法では無いので。
「ゼフィルス、左右から挟まれるぞ!」
「おう! 〈静寂の時箱〉を使うぞ!」
メルトの言葉に俺も素早くそれを発動する。
それはこの〈聖ダン〉の〈木箱〉産アイテム。音を静かにしてしまうアイテムだ。
これを使った瞬間、俺たちを追い詰めようとしていたモンスターたちは全て困ったような雰囲気を出し、次々雲海へ消えていく。
「いやぁ、便利だなそれは。これで使い捨てでなければ重宝するんだが」
「〈サイレントフィールドバリア装置〉は〈乗り物〉に乗りながらは使えないからな」
この〈静寂の時箱〉は使い捨てなのがネック。
〈金箱〉産の〈サイレントフィールドバリア装置〉なら無制限に発動可能だが、地面に置くタイプなため〈乗り物〉上では使えないのである。一長一短だな。
〈エデン店〉ではこの〈静寂の時箱〉の買い取りもしていたので結構な数がある。
使用するとしばらくの間効果があるので、このスピードなら一階層くらいなら通過が可能だ。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」
「オルク遅れているぞ! 気張って走れ! そんなことじゃボス戦中に持久力が尽きるぞ!」
「ひえ~!」
「アラン、そっちのメンバーは大丈夫なのか?」
20層を通過した辺りで後続の筋肉たちに乱れが起きた。
約1名の息が限界っぽい。
俺は馬車の屋根に登りアランに問う。
「ああ、こいつはまだまだヒヨコでな。ゼフィルスよ、すまんが馬車に乗せてはくれないか?」
「ア、アラン!」
「もちろんだ。休憩が欲しくなれば言ってくれよ」
「俺たちの筋肉ならまだまだ大丈夫だ」
そう言って上腕二頭筋を盛り上げ歯をキラリとするアラン。
すると残りの13人も一緒に力こぶを盛り上げてキラリする。
なんで揃えたし。ちょっと笑っちゃったじゃねぇか!
ということで1名ギブアップ。回収する。
「ぜぇぜぇぜぇ、すみませんゼフィルスさん、助か、りました」
「おう。ゆっくり休んでいけ。まだまだこれからだからな」
「え?」
ギブアップしたのは例の細マッチョの男子だ。〈新学年〉らしい。
装備はフル、なんと両手槍と7つの装備を着ている。
【サタン】軍団14人に比べて明らかに浮いている1人だ。
「そういえば君はなんの職業なんだ?」
「あ、俺オルクっていいます。職業は、えっと、【ルシファー】です」
「【ルシファー】!? マジか! ああ、なるほど、だから全身装備か」
なんとびっくり。この男子、オルクだけは【サタン】ではなく【ルシファー】だった。おお~、【ルシファー】がシヅキの他にも! これは凄いぞ。
あ、ユミキ先輩がこの前教えてくれた2人目の【ルシファー】ってもしかしてオルクのことか!
「ゼフィルス様、次はどちらに行けばいいですか?」
「おっと、次は左、右、左、右、右の順番で曲がってくれ」
「承知いたしました」
〈聖ダン〉は本当に道、というダンジョンなので左か右か指示すれば良いのが素晴らしい。
ということで後はセレスタンに任せ、俺はオルクと話してみた。というか向こうから話しかけられた。割と必死な形相で。
「あのゼフィルスさん! よければ俺に【ルシファー】のステ振りを教えてくれませんか!? マジで困ってるんです!」
「おお? ほうほう、俺に直接指導をお願いしたいと? そいつは別料金だぜ?」
「筋肉払いでお願いします!」
「なにその支払い方法!? 筋肉で支払うの!?」
筋肉払い。
さすがはギルド〈筋肉は最強だ〉の構成員。細マッチョでも言うことは筋肉というわけか。
「いや違うんです! 〈筋肉は最強だ〉ギルドが払います!」
「なんだそういう意味かよ。びっくりしたじゃないか」
勘違いだったようだ。筋肉が支払うということだな?(錯乱)
「だがいいのか?」
「はい! アランには、機会があればゼフィルスさんに指導してもらえって言われています! 多分、俺だけこうして〈馬車〉に送り込まれたのも、そういう意味だと思います!」
「さすがは〈考える筋肉〉の異名を持つアランだぜ。そういう意図だったか」
アランがすんなりオルクを馬車に乗せてくれと頼んできたなと思っていたが、ちゃんと意図があった様子だ。
納得したので早速聞いてみる。
「それじゃあオルク、【ルシファー】のステ振り、今どんなもんか書きだしてくれるか?」
「あ、はい。えっと、それならもう用意してあります。アランが書いとけって言ったんで」
「アランは俺のことを分かってるなぁ」
そう言ってオルクが渡してきた紙をペラリと開く。
…………ん?
もう一度良く読んでみよう。
…………んん?
おかしいな。読み間違いだろうか? 召喚士構成なのに前衛の攻撃スキルがたくさんある。しかも挑発スキルまで使用可能されている?
んん? ポジションはどこ? 召喚アタッカーなのか? 召喚タンク?
全部混ざって召喚アタッカー&タンク? 召喚士がやられると召喚モンスターも消えるから召喚士は後方が多いのだが、オルクは前衛のようだ。
ソロでも目指していたのか?
しかし、余剰のSPは結構あって17も残っていたのには驚いた。
ほほう、貯めているじゃないか。
「あの、どうだったでしょうか!? 俺、最初は【サタン】を目指してたんですが、途中で調査――じゃなくてユミキ先輩から【ルシファー】の発現条件を教えてもらって。でも女兵――じゃなくて女悪魔、あれ? そういえば名前知らねぇ!」
「???」
「えっと、そう! 1人目の【ルシファー】にご教授願ったんですが、ゼフィルスさんの方が詳しいからって言われて。一応SPだけは貯めておくことって言われたんです」
「ああ、シヅキに相談したのか。なるほどなるほど。だからSPだけは……。確かに【ルシファー】はとりあえずSPを温存しておくのが吉だ。六段階目ツリーが超強いからな。それまでSPを取っておくのが肝心なんだよ」
「おお、おおお??」
「うーむ、オルクのSP振りはなんというか、超独特だ。だが、頑張ればなんとかなりそう……かな? うん、上級職のレベルも思ったより低かったし、ここからギリ盛り返せる……はず」
「マ、マジですか! マジお願いします! 俺、強くなりたいんです!」
「よし分かった! オルクの強化、このゼフィルスが承るぜ!」
「おお、おおおお! よっしゃーーーーー! これで俺も強くなれるぞーーー!!」
2人目【ルシファー】オルク。
結構ステ振りがあっちこっち散っていたが、レベルが低いため、そしてSPは少し貯めていたためなんとか弱々【ルシファー】と呼ばれていた存在にはならないようには出来そうだ。
それに、ちょっと面白い構成もしている。
俺ははしゃぐオルクから視線を外し、ステータスを見ながらどう振るか思案するのだった。




