#1700 特別話。医者を配置!学園長室に激震が走る!
ここは学園長室。
この部屋の主である学園長から、コレットへ重大な話が行なわれようとしていた。
「コレット君、とても重要な話があるのじゃ」
「なるほど。日頃の感謝の気持ちですね。ありがとうございます。このコレット、学園長のため、この世界のためにこれからも誠心誠意務めますよ」
「いや、なんか勘違いしてないかのう??」
なにやら学園長とコレットの気持ちに勘違いが生まれているようだ。
しかし、今の情勢を見るに勘違いしても仕方なし?
世界は今学園長の手に委ねられていると言っても過言では無い。世界が今学園長に倒れられては困るのだ。本当に困るのだ。世界を揺るがしてしまうのだ。
〈エデン〉による数々のやらかし――ではなく偉業を受け止められるのはもはやこの人しかいない。
それほどの重要人物になっていた。
そんな重要人物の意識を一瞬で戻してしまうコレットの手腕は、まさに世界に必要不可欠な人材。
臨時ボーナス、お給料アップは当然だろう。コレットは納得顔で頷いた。
だが、学園長の話は感謝の気持ちでは無かったのだ。
「コレット君、実はわし専属の医師をここに配属することにしたのじゃ」
「な! 私というものがありながら!」
なんか茶番が始まった。
いや、茶番ではない。結構重要なことだった。間違い無く重要な話だ。
だが、コレットは信じられないと言った様子。
重要な話とは、学園長に専属の医師を配置することだったのだ。
学園長室に激震が走る。
「こ、こほん。コレット君は今後普通にお茶を入れてくれればいいのじゃ。熱いお茶は封印してくれてよいぞ?」
学園長の顔は朗らかだった。熱いお茶によるなんだかよく分からない復活よりも信用できる医師の方がありがたい。毎回あっつい思いをするのもこれで最後だ。学園長の気持ちは軽かった。
「どういうことですか学園長! まだ私はスペシャルすら出していないというのに!」
「あれ以上を出そうとしてたの!? 今でも十分過ぎる効果があったじゃろ!?」
効果が十分のお茶がさらにグレードアップしそうな予感!
最近、急激な悪寒が駆け抜け、学園長の直感を促していた正体はこれだった。
そしてとうとう学園長は専属の医師という方法を思いついたのだ。思いつくのにずいぶん掛かった。
「こほん。〈回復課〉に打診をしたところ、腕の良い医師を就けてくれることになってのう。もうすぐ来るはずじゃ」
「むむむ、私のお茶の方が凄いと思ったら、すぐに交代していただきますよ」
「いや、その〈凄い〉がインパクト重視に聞こえるのじゃ。そんな威力はいらんのじゃ」
すでに根回しは済んでいることを知って、ならば実力で勝負を挑むコレット。お茶の一撃には自信があるのだ。今まで一発で学園長の意識を取り戻してきた実績は伊達ではない。
そして学園長室に響くノック音。どうやらもう医師が来たようだ。
「うむ。入るといい」
「失礼いたします」
学園長が促すと、若い女性の声と同時にガチャリと開く扉。
そして中に入ってきたのは白衣に身を包む、やはり若い女性の先生だった。
「今日からこちらに赴任することになりましたシトラスです。職業は【ゴッドハンド】。よろしくお願いいたします」
そう、一礼する先生に、最初に反応したのは意外にもコレットだった。
「あら、シトラスですか?」
「おや、そこにいるのはコレットではないか」
「む? なんじゃ知り合いか?」
「課は違いましたが、学生の時の同期だったんです」
「ほほう、世間は狭いのう」
そう、実はコレットとシトラスは共に25歳。
本校卒業生で、課こそ違うが、支援課1組だったコレットと回復課1組だったシトラスは顔なじみだったのだ。
「なんと、シトラスが赴任するのですか?」
「ああ。なんでも、腕の良い医者が今の学園長には必要だって言われてね」
「そういえば【ゴッドハンド】? 2年前に会った時は【ドクター】でしたよね?」
「ああ、幸運にも上級職になったのさ」
「それは、おめでとうございます」
「ありがとうコレット」
【ゴッドハンド】は【ドクター】の上級職、高の下だ。
ノーカテゴリーが就けるヒーラーとしては最高峰の一角である。
優秀な証拠だ。
「ほっほ、優秀なお医者様が赴任してくれて助かるわい」
「ええ、安心してください学園長。シトラス、いえ、シトラス先生は、拳の一撃で今にも死にそうな急患を救った逸話を持つほどの優秀な医者です」
「…………ほ?」
あれ? おかしいぞ?
なんか医者に似つかわしくない言葉が出てきたような気がする。
学園長から冷や汗が流れ始めた。
え? 【ゴッドハンド】ってまさか、そういう職業なのかと。
【ゴッドハンド】の五段階目ツリー以降は学園長でも分からないのだ。
だが、幸いにもシトラスはこれを否定する。
「あれは【ドクター】の時に、喉にご飯を詰まらせた学生を救っただけさ。まあ、なかなか出なかったから最後はボディブローで色んなものと一緒に出させたんだが」
「あ、ああ、そういうことか。焦ったわい」
医療行為かはさておき、人命を救ったのは確かなようだ。
あれ? さておいてはダメなやつでは? もしかしてなかなか意識が戻らなかったらとんでもない荒療治が待っているかもしれない、と気付いてしまった学園長の体がびくんしたが、それは誰にも気が付かれなかった。
「ところでコレットは普段どうやって学園長を? 学園長の意識を回復させているのは専属メイドだと聞いたぞ。コレットのことだろ?」
「その通りです! 私が使っているのはこの殺――いえ、この蘇生茶を使って学園長の意識を回復してきました!」
蘇生茶!? そんな名前だったっけ!?
そんな名前、今初めて知った学園長が激しくビビる。
明らかに違う気がするのは気のせいだろうか!?
「ほう? よければ作り方を教えてはもらえないか? 学園長専属メイドが作るこのお茶の話は〈回復課〉にも聞こえてきていてな。実は私がここに来たのもこのお茶が目当てだったからと言っても過言ではない」
「いいでしょう。他ならぬシトラスの頼みです。お見せしましょう」
ついにコレット必殺のお茶の作り方が明かされる!
学園長もこれには目を見張った。そういえば普段何を飲まされているのか初めて気になった瞬間だ。とても気になる。
コレットはお茶の準備を進めていった。どうやら学園長室でも作れる配合らしい。
普通に高級茶葉を使い、スキル『上級ティー作製LV10』を使用して手際よく作っていくコレット。そして。
「ここにハンナ様特製〈エリクシール〉と〈クールポーション〉を入れてスキルを使い……完成です」
「いつの間にか〈火傷〉が治ってたのはハンナ君のポーションを入れてたからじゃったの!?」
そして新事実が発覚した。
最初は熱いとは思うも〈火傷〉にはならない。
あの不思議な現象の正体は――ハンナの特製ポーションのおかげだった!
「ほほう。興味深い。実に興味深い。ハンナ君のポーションを使うお茶か。こんなのは初めて見た」
「スキルLVの他に、最低でも五段階目ツリー以上の『マイスタリー』系も必要です。じゃないと良い感じに混ざらず、失敗してしまうのです」
「いやはや、レシピ無しでこうも上手く混ぜるとは、コレットはかなりレベルが高いね?」
「ええ。このままいけばそう遠からず六段階目ツリーを開放するでしょう」
「そうなの!?」
この言葉に学園長はまたもやビビる。
え? なんで? なんでそんなにレベルが高いの?
「この高級茶葉、〈エデン〉の〈採集無双〉から取り寄せているのです。上級上位級なんですよ」
「超高級茶葉じゃった!?」
「それとハンナ様のポーションを入れてスキルを使っていましたら、なぜかトントン拍子に上がりました」
「お、おおう」
いつの間にかメイドがとんでもない人材になっていた。
六段階目ツリーを開放したらどんなお茶が出てくるのか、今から震える。
しかし、味わってもみたい。今度最上級ダンジョンを解放するのだ。そこにはいったいどんな茶葉が存在するのか。
どうやら学園長は、まだまだコレットから離れられないらしい。
こうして学園長室は3人体制になった。




