#1697 〈エデン〉のお誘いに各ギルド、激震が走る!
時は遡る。
ここはかの有名なAランクギルド〈サクセスブレーン〉のギルドハウスの一室。
「SSランク戦……学園頂点のギルドを決める戦い、だと……? うそでしょ?」
そう1人頭を抱えているのは――〈サクセスブレーン〉がギルドマスター、カイエンだった。
片方の手で頭を支え、もう片方の手でお腹、胃の辺りを摩っているように見える。
その原因はただ1つ、ゼフィルスが提案し、学園が最上級生最後の就活チャンスに採用した――〈SSランクギルドカップ〉、通称SSランク戦。
そう、今日は〈SSランクギルドカップ〉の開催が告知された日なのである。
たとえCランクギルドでさえも一足飛びでSSランクに昇格する、学園最強ギルドを決めるビッグチャンスが到来したのだ。そうビッグチャンスだ!
卒業式の前日に?
はい。思い出作りも込みですね。
「な、なぜに今!? もう卒業でいいじゃん! やっと卒業でこの苦労ともおさらばできると思ったのに……!?」
特大の嘆きを吐くカイエン。
Aランクギルドに上がり、口八丁でギルドメンバーを抑え、ついに一度のヘマもすることなく、というか〈エデン〉と本格的にぶつかることを避けて卒業できると思った矢先に、この連絡だ。
この連絡が来るまで、カイエンは喜びの絶頂期だった。Bランクギルドからランク戦を挑まれて勝利し、防衛実績のおかげで卒業までランク変動は無さそうだと喜んでいた。
しかし、連絡を見てたっぷり3分固まり、理解を脳が拒否していくつかのギルドに連絡を取ったりして事実確認を行ない、現実を理解して1時間呆けて、現在は1人でこうして頭とお腹を押さえていた。
「いや待て、俺はもう卒業だし、次はみんなの時代だとか良い感じのことを言って引退すればセーフじゃね?」
名案?
カイエン、なんとか逃げ道を探る。しかし、その逃げ道を愛すべきギルドメンバーが塞いできた。
「カイエン先輩! カイエン先輩はいますか!」
「ここに居ましたかカイエン先輩!」
「――俺はここに居るぞ。そんなに慌ててどうしたんだみんな。いつも言っているだろう、どんなときでも心を静め、冷静になるべしと」(キリッ)
メンバーがやって来て1人の時間は儚くも終了。一瞬で理想のギルドマスター像になるカイエン。
「はっ!」
「ああ、やっぱり今日もカイエンさんはキリッとしていてグッド」
「この方についていけばSSランク戦だって良いところまで、いや、ひょっとしたら〈エデン〉をも下して学園最強の座に輝けるかもしれないよな!」
「分かる!」
「(いや全然分からないから! なんで〈エデン〉に勝つ気なの!? 君たちも〈天下一パイレーツ〉のランク戦見てたでしょ!? アレに勝つとかマジで無理だって!?)」
そう、心の中で悲鳴を上げるギルドマスターカイエン。
冷静を説くカイエンが一番心を乱れさせていることを、ギルドメンバーは知らない。
「(このままではマジで〈エデン〉と戦うことになる。せっかく今まで上手く避けてきたのにー!?)」
なんとか軌道修正したいカイエンはギルドメンバーにさっき考えて居たことを告げてみた。
「俺ももうすぐ卒業だ。次は君たちの番になるだろう。故に、ここでギルドマスターの交代を――」(キリリッ)
「はい! カイエン先輩の最後の舞台ですよね!」
「やっとカイエン先輩が学園一に羽ばたく日が来たんだな!」
「卒業なんて蹴飛ばして、カイエンさんには永遠に〈サクセスブレーン〉に居てほしい!」
「いや、(おいバカやめろ! 俺はギルドを脱退して、卒業するんだ! SSランク戦は世代交代したナギに任せる!)」(キリッ……)
ちなみにナギとは〈戦闘課2年2組〉に所属する【レジェンドレイヴン】に就いている、あのナギだ。
彼女が次代の〈サクセスブレーン〉ギルドマスターに内定している。
「もちろん私たちはカイエンさんに付いて行きます!」
「カイエン先輩最後のギルドバトル。私、カイエン先輩の下で戦いたいです!」
「先輩以外にこの〈サクセスブレーン〉を上手く操れる人はいないしな!」
「ナギさんも、今回はカイエン先輩に指揮の全権を任せたいって言っていますよ!」
「ふむ(任せるな任せるな! ナギよ、君ならいけるって! だから俺は傍観させて!)」(キリリリッ……!)
もちろんそんな心の中のセリフは言えない。期待を裏切れないのがカイエンという男だ。
そしてギルドメンバーズのキラキラ輝く、全幅の信頼を表すような瞳に晒されたカイエンは、つい言ってしまう。
「よかろう! 〈サクセスブレーン〉はこの俺が指揮する! 全てのギルドに勝利し、学園初のSSランクギルドとなろうではないか!(ああああああああああああああああ!?)」(――キリッ!)
「「「「わーーーー!!」」」」
バサッとマントを翻し、片手をバッと前に出すかっこいいポーズでカイエンがギルドメンバーにそう告げる。
すると、ギルドメンバーが大きく湧いた。むちゃくちゃ喜んでいる。
「(ああ、言ってしまった。もう戻れない。俺の平穏無事の卒業が……)」
期待を寄せられたらノーとは言えない。それがカイエンなのだ。
この日からカイエンたちの猛特訓&猛攻略が始まった。
それから数日後、カイエンの下に1通の連絡が来た。
「あ、カイエン先輩! 〈エデン〉からお誘いが来てたんですよ! 合同で上級上位ダンジョンでレベル上げしませんかって! どうしますか?」
「なに?(って、え? 〈エデン〉のレベル上げ? そんなの受けるに決まってるだろ!? お願い〈エデン〉! どうか〈サクセスブレーン〉のメンバーをその強さで分からせて!! 現実を突きつけてあげて!!)……この提案、〈サクセスブレーン〉のギルドマスターとして正式に受けよう!」(キリリッ!)
果たしてこれがカイエンの吉報となるか否か。
◇
「パネェさん! SSランク戦はどうしやすか!?」
「パネェって呼ぶなっつってんだろう! まったく、SSランク戦はもちろん出るに決まってんだろ。あたいたちを倒せないギルドに学園最強の座なんか任せておけないからねぇ」
「優勝してしまったらどうしますか!? せっかくここまでAランクで残ってきやしたのに!」
「安心しな、何とかなるさね。あたいたちは只全力を尽くしゃあいいだけさ(〈エデン〉も気合い入れて出場するらしいしね)」
「「「おおー!!」」」
「「「俺ら、パネェの姉御についていきやす!!」」」
「だからパネェって呼ぶなっつってんだろ!」
ここは〈獣王ガルタイガ〉。
こちらも世代交代せず(?)、そのままサテンサが率いてSSランク戦に臨む模様。
ただ未だギルドマスターでもLV50、やはりLV60までの壁は高く、足踏みしているのが問題だった。このままではSSランク戦に出ても、まあまあな成績で終わりそうだ。
それは、〈獣王ガルタイガ〉の沽券に関わる。難しいところだった。
しかし、そんな〈獣王ガルタイガ〉にも数日後、吉報が届く。
「サテンさん、〈エデン〉からダンジョンのお誘いがきました。〈学生手帳〉を見てください」
「クエスタール?」
サブマスターのクエスタールから言われ、〈学生手帳〉を確認したサテンサは、ニヤリと深い笑みを浮かべていた。
「こいつは凄いじゃないか! 〈獣王ガルタイガ〉はこの誘い、是が非でも受けるよ!」
◇
「私のバンちゃんとガイちゃんを置いていくか連れていくか。そこが問題よ」
「なにを誰に言ってんのよカリン。まだ決めてなかったの?」
「エイリン! だって決められないんだよー!」
こちらは〈集え・テイマーサモナー〉のギルドマスターカリンとサブマスターエイリン。
2人の目の前のファームには大怪獣となった〈ダークレッドナイトワイバーン〉、ゼフィルスからは通称〈夜ワイン〉と呼ばれているバンちゃんと、全長が20メートルを超すゴーレムの〈巨人メタルゴーレム〉ことガイちゃんが楽しくじゃれ遊んでいる光景があった。
いや、じゃれているはずだ。
だが、それは外から見たら怪獣大バトルのようだった。
「こんなに大きくなるなんて思わなかったんだもーん!」
「それは同意するけど」
カリンもエイリンももう卒業を控えた身、だがカリンがここまで手塩に掛けて育てまくったモンスターたちを、連れていくか、学園に残すか、それが大問題だった。
カリンが言う通り、でっかくなりすぎたのだ。
これじゃあ街道を歩かせることもできない。つまりは置いていくしか最初から方法は無かったのだ。
エイリンはぬいぐるみ使いなのでその辺は大丈夫だ。
故にカリンは恨めしげな目でエイリンを見つめている。
「うう、離れたくないよ~」
「それじゃあ帰るのやめる?」
「うん。やめる」
「え、ほんとに?」
「うん! 決めたわ! 連れて帰れないなら、私もここに残る! 学園の教員のスカウトを受けるわ!」
「今まで頑なに受けなかったのに……」
「みんなとお別れしないためだもん、仕方ない。これは仕方ない。家族にはごめんって手紙書くよ!」
カリン、ついに教員の座を受けることに決める。
エイリンは最初から受けていたので、これで同僚だ。
なにやらカリンのご家族さんから悲鳴が上がるかもしれないが、カリンが帰っても悲鳴を上げると思われるのできっと問題無いだろう。
とりあえずエイリンは、カリンが学園に残ることを選んでくれて喜んだ。
直前にでっかくなっちゃったモンスターたちにも感謝を贈る。
「それでカリン、話は変わるけど〈エデン〉からお誘い来たでしょ? というかゼフィルス君から」
「あ、それね! もちろん受けるよ! 受けないはずない! 私も六段階目ツリーを開放して、まだ見ぬモンスターをテイムするんだよー!」
「うん。全然懲りてないし。カリンならそう言うと思ってた。それじゃあ受諾しておくね」
◇
「モニカよ! 〈エデン〉から、いや、ゼフィルスからこんなメッセージが来たぞ!」
「あたしのところにも来たでやがりますよサターン。だからそうイキり立つなでやがります」
「ふふ、これがイキらないでいつイキるのですか」
「いつもイキってやがりますでしょうが!」
「モニカ、俺はこの誘い、反対だ!」
「俺様の意見も忘れてもらっては困るぞ! 俺様も反対だ!」
「トマと意見被ってんでねぇでやがりますか!」
こちらはゼフィルスからお誘いを受けたばかりの〈天下一パイレーツ〉。
サターンのところに来たゼフィルスのレベル上げのお誘いは、〈天プラ〉たちを心底震撼させていた。
あのゼフィルスにしごかれた地獄の特訓が脳裏を過ぎるのだ。
それを上級上位ダンジョンで行なう? 正気じゃない。
故に、サターンたちはモニカの下へ反対しにきたのだ。しかし。
「まあ、あんたたちが否って言っても受けるとはもう言ってしまったでやがりますからね。手遅れですよ」
「「「「なんだとーーー!?!?」」」」
〈天プラ〉はノーと拒否したかったが、もちろんモニカがギルドマスターなので叶わず。
これがSSランク戦にどう関わってくるのか、それは誰にもまだ分からない。




