#1682 大魔王クロちゃん活躍! 空中足場、大展開!
「――――!」
「おお~! クロちゃんかっこよ! マジ魔王! 大魔王!」
大物の雰囲気を出しながら4本ある腕を組み、背中にはためく2対4枚の翼を広げて〈イエロードラゴン〉、通称〈イエロー〉へと立ち塞がる。
それはシヅキの契約悪魔にして筆頭の――クロちゃん。
〈マッスルデビル〉時代から進化を遂げに遂げ、ついに魔王へと進化したのである。
シヅキはスキル『魔王進化ルート解放』により、〈悪魔〉を〈魔王〉種へと進化させることができるのだ。
現在のクロちゃんの種族名は――〈ラース〉。
おお、フラーミナの〈レヴィアタン〉のヴァイアと並べると、大罪魔王が2種類そろってかなり良き。いやシヅキが【ルシファー】だし3体揃ってるな! 残り4体、コンプリートしたくなってくるぜ。
そこに加えて今シヅキが唱えた『大魔王降臨』は、契約している〈魔王〉種を一時的に〈大魔王〉種に進化させ降臨させるスキルだ。
ただの〈魔王〉ですら鬼のように強いのに、〈大魔王〉になってしまったら鬼強いどころではない。
「―――ドゥゥゥゥゥン!」
全長10メートルを軽く超える――――〈大魔王・ラース〉の降臨だ!
「ギュアアアアア!」
ここで〈イエロー〉がドラゴンブレス発射!
ただのブレスじゃない。〈雷属性〉のブレスである。
狙いはクロちゃん。
「いっけー! クロちゃん! そんな攻撃食い破れー!」
シヅキが叫んだと同時にクロちゃんの赤目がドクンと鼓動したかのように見開かれ、勢いよく前進。右腕である2つの手でダブルパンチを食らわし――そのままブレスに飲まれた。
「ブレス直撃しちゃったんだけど!?」
「大丈夫です姉さま、見てください」
「お、おおお?」
ブレスに飲まれたクロちゃん、なんとそのまま前進を続ける。
ブレスにボディで打ち勝つだと!?
いや、確かに以前ゼニスの『ドラゴンブレス』も筋肉で防がれたことがあった!
この世界では竜のブレスは筋肉で防げるのだ。(←迷信)
だが実際クロちゃんはブレスを受けきり、怒りの表情のまま〈イエロー〉へと躍りかかった。ドラゴンブレスの直撃を受けたのにそのダメージは僅か3割程度。
「―――!」
そこから2つの左手を〈イエロー〉に向けると、なんと〈火属性〉と〈氷属性〉魔法を同時発動。凄まじい炎と氷の光線が〈イエロー〉を襲う。
なんでそれでブレスに対抗しなかったし! そう、ツッコミどころ満載な波動光線のような攻撃が〈イエロー〉に次々突き刺さる。
加えて2つの右手も向けると、今度は〈雷属性〉と〈闇属性〉の波動光線を発射!
だからなんでそんな強力な魔法が使えるならブレスにパンチで挑んだし!
「ギャアアアアアア!?」
〈イエロー〉が苦しむ。かなりのダメージが入った模様だ。
そこへ突っ込むのは天使たち。
「突っ込みます――『エル・バランレード・ラグナロク』!」
「おけ、続く――『ジェットバーストフェニックス』!」
フィナとエフィが神速の突撃からの火属性斬撃を放つスキルで急接近して斬る。
「え、ええい! ぼくのところには来させないでくれたまえ! 『トレジャー・エクス・アドベントバレット』!」
ニーコも〈スターライト〉の甲板から二丁拳銃を構えてドロップが増える弾丸を浴びせまくった。二丁拳銃なので、1回のスキルで2個ドロップが増えるのが素敵なところ。ニーコにはクールタイムが明け次第随時撃ち込めと指示してある。
その間にフィナがヘイトを稼いでおり、上手く大魔王クロちゃんに攻撃を擦り付けながら立ち回っていた。クロちゃんの耐久値はさすがの一言なので、上手く盾にしながら立ち回るのが吉なのである。
「うわ、フィナちゃんエグい。それじゃあ私も行くよ――『ダークマターエネルギー』!」
エリサの『ダークマターエネルギー』は固定ダメージ&固定回復。
防御無視で固定ダメージを与える究極系。なんと未知のエネルギーで敵には固定ダメージを、味方には固定回復を与える範囲回復攻撃魔法だ。
そして、これは〈悪魔〉系のモンスも該当する。
「サンキューエリサちゃん!」
「まっかせてよ!」
なんとエリサは召喚モンスターであるはずのクロちゃんも回復できるのである。
普通のヒーラーはもちろんテイムモンスターの回復なんてできない。しかし、エリサは〈悪魔〉モンスター限定で可能なのだ。
さすがは【睡魔女王】。悪魔の王である。
「悪魔」同士を組ませるとこんなことも可能になるのだ! ゲーム時代では不可能だった、大魔王が回復しながら襲ってくる夢の戦法を大公開である!
これがシヅキとエリサを一緒のパーティにした理由だな。強っ!!
「ギャアアアアアア!?」
「あ! やった! ドラゴン倒したよ!」
「―――ドゥゥゥゥゥン!」
そしてついにクロちゃんのダブルパンチが〈イエロー〉のHPを削りきり、撃破する。勝ち鬨を上げるクロちゃんが非常に頼もしい!
「おっしゃ! みんな戻って来い! お次が来てるぞ!」
「はい教官!」
「ぐああ、ラストアタックボーナス逃した~!」
ニーコが嘆くが仕方ない。クロちゃんが張り切っちゃったようだからな。
エリサがガンガン回復していたのでクロちゃんのHPはすでに全回復していた。
いやぁ、大魔王強いわぁ。攻撃力と防御力と耐久力が合わさって手に負えねぇよ。
ゲーム時代には叶わなかった【ルシファー】と【睡魔女王】のコンボ、強いね!
「教官、ただいま帰投しました」
「お疲れ様、今4班と8班が別の〈竜〉ボスを相手にしている。今のうちにMPを回復しておいてくれ」
「了解です!」
現在〈スターライト〉はフィールドの中心地である〈竜樹〉の周りを、まるで蚊取り線香のように渦を巻く進路を執りながらゆっくり近づいている。
これは、〈竜樹〉に近寄れば、それだけ〈竜〉種が襲ってくるからである。
〈巣多ダン〉でも経験したが、相手の懐に飛び込めば一網打尽にされるため、こうして旋回しながらゆっくり近づき、少しずつ〈竜〉たちを引きつけているのだ。
「ラナ、エステルのMPを見ながら回復だ!」
「任せてちょうだいよ! 『魂の誓い』!」
「ん、ふ。ありがとうございますラナ様」
MP管理大切!
特にエステルのMPは切らさないようしっかり支える!
ラナの『魂の誓い』はMPを回復させる魔法。
エステルは操縦に専念するために、〈エリクサー〉を飲むこともなかなかできないので、そういうときはラナにMPを回復してもらっているのだ。
少しビクッとなったエステルだが、そのままラナに礼を言って操縦に集中し直す。
『魂の誓い』は、受けた方が少しこそばゆくなるらしい。
「ごくごく。よし、私もいつでも行けるわ!」
ラナも〈エリクサー〉を飲み、完全回復だな。
ちょうど前方から新しい〈竜〉ボスが接近する。
「『看破』! あれは、〈火竜〉と〈風竜〉が接近中なんだよ!」
「〈火竜〉!? 〈火竜〉って61層のエリアボスじゃなかったかな!?」
「〈風竜〉も62層のエリアボスですの!?」
「色竜が終わって次のステップに移ったな!」
カイリが持つ〈幼若竜〉で『看破』して報告してくる!
前を向けば赤い〈火竜〉と緑色の〈風竜〉が接近しているのが肉眼でも見えた。〈風竜〉は〈火竜〉や〈雷竜〉と同じ系列の〈竜〉ボスだ。
先程の色竜よりも強い竜のお出ましだ! 61層から70層までのエリアボスだった〈竜〉種が次々と登場してきた。
「ラナたちは〈火竜〉を頼む! 〈風竜〉は5班! メルト、行けるか!?」
「こっちは任せろ!」
「たはは~近づけさせないから安心してね!」
「ん。こっちには黒猫もいる」
「う、うむ。応援しか出来ないけどな」
「「「ニャニャニャニャニャー!」」」
5班は、メルト、ミサト、カルア、リカ、アイギスだ。
そちらに振ると力強い返事が返ってきた。なお、カルアが召喚したエージェント黒猫は――空中戦では圧倒的無力なので応援に回ってもらっている。
艦の天辺からニャンニャン応援してくれる猫。良いと思うんだ。
「ゼニス、出番ですよ。撃ち落としてやりましょう!」
「クワァ!」
アイギスとゼニスは竜対決に気合いを入れているな。
だが、ここでリーナから焦ったような声が届く。
「ちょっと待ってくださいまし、なんだかすごく速い〈竜〉が接近しています! 後方!」
「ありゃ―――9班! 行けるか!?」
「え、9班!?」
「ゼフィルスさん、9班に遠距離攻撃は」
「カタリナがいるから大丈夫だ! 戦闘指揮する、ラウ、セレスタン、カタリナ、来てくれ!」
「応!」
「僕の力が必要ならいつでも応えましょう」
「ようやく出番ですね! 足場は任せてください!」
9班は接近戦型のパーティだ。メンバーはセレスタン、ラウ、カタリナ、ミジュ、ナキキである。ミジュとナキキがいるのにシュミネがいないが、代わりにカタリナにサブヒーラーを任せるパーティだ。
ちなみにシュミネはリーナたちのいる10班に入っている。
素早い相手に9班を当てるという俺の判断にびっくりした声を上げるカイリとリーナだが、カタリナの足場がそれを可能にする。
「カタリナ、頼む!」
「お任せください! ――『足場結界大展開』!」
カタリナの六段階目ツリー『足場結界大展開』は、その名の通り空中に結界の足場を形成する魔法だ。
空を飛ぶターゲットを追う足場の四角形の結界たち、上空モンスターなどと戦う事が出来る非常に優秀な魔法である。
しかも固定では無く、カタリナが動かすことも可能で、常に動いている〈スターライト〉にも付いていくことができるのだ。
「ラウ、セレスタン、ミジュ、ナキキ、出番だ!」
俺の言葉に思い切りの良い拳系アタッカーのラウ、セレスタン、ミジュが〈スターライト〉から結界に飛び乗り、そのままダッシュで結界の道を走って行く。
「うひぃ! これ壊しちゃったら地面に転落っす!」
「がんばれナキキ! 転落してもHPがある限りケガも負わないさ!」
「それHPがゼロになったら危険ってことっすー!」
「大丈夫だ。空に居ても居なくても、HPがゼロは危険だ! 故に、いつも通りだ!」
「ひぃぃっすーー!」
ナキキは〈空島ダン〉からすっかり高所にビビるようになってしまったが、しかし恐怖症とまではいかず、ひぃひぃ言いながらもミジュたちを追いかけていった。
「ゼフィルスさん、相手はかなり速いですわ。どうしますか?」
「タイミングを見て結界を張り、止めるぞ。あの速度では細かな旋回は難しいと見た。まるで『オーバードライブ』だからな」
「! 承知しましたわ! 指示をくださいませ!」
カタリナの横で指示を出す。
タイミングが命だ。
相手の〈竜〉は71層のエリアボス〈ジェットドラゴン〉。まさに速さ主体の〈竜〉種だ。
それが後方から〈スターライト〉を追いかけるかたちで接近。
ラウたちが立ち止まり迎撃準備する。
――よし、今だ!
「カタリナ、『七重奏大結界』――今だ!」
「『七重奏大結界』!」
タイミング、ドンピシャ!
〈ジェットドラゴン〉、通称〈ジェット〉は、ラウたちに突っ込む直前、カタリナの七重の結界壁に激突し、3枚の結界を破壊しながらもその勢いをゼロにした。
「『神・獣・願・獣王獅子戦牙』!」
「『雷拳』!」
「『ビッグクマン・ギガデストロイフィスト』!」
そこへ一気にラウ、セレスタン、ミジュが躍りかかった。さすがの連携!
タンクであるナキキは、まだちょっと出遅れていて追いつけてないが、ラウたちの回避力も高いし、まあ大丈夫。
9班の結界足場を利用した空中戦闘が始まる。




