#1677 61層、初の〈竜〉ボスの名は――〈火竜〉!
「最初の〈竜〉種は、サーシャのおかげで楽に撃破出来たな!」
「あんなに簡単に倒しちゃってよかったんですの?」
「もう~サーシャったら容赦の欠片も無くやっちゃうんだから~」
「ええ!? 違うんですの! ゼフィルス先輩がやれって言ったんですの!」
なぜかカグヤにイジられるサーシャ。
うん。この2人とパーティとかとても良い!
「ひゃ~、相変わらず凄い魔法だね~」
「私、タンクする暇も無かったです!」
周囲を見渡しながらノエルが目を丸くし、ラクリッテは別のことで目を丸くしている様子だ。
まあ、2人の言うことも分かる。
あの溶岩のフィールドと思っていた景色が一瞬にして一面氷の世界だからな。
「あ~、なんか野生の〈竜〉種と初めて会った感動が、どっか行っちゃったね。一応環境対策をかけ直しておくよ~『大環境全適応』!」
「サンキューカイリ」
熱いだろう環境がいきなり寒い環境になったのでカイリが環境対策をメンバー全員に施してくれる。
とはいえ氷属性魔法で寒くなったことなんて、なぜか無いんだけどな!
ここは火山の洞窟、しかもかなり下に行った奥地。
普通ならば熱以前に有毒ガスやらなんやらで呼吸すらできない環境のはずだが、ダンジョンならばそんな心配は無い。
だが、万が一に備えてカイリが最適な環境にし続けてくれていた。
感謝感謝だ。
「ドロップすごく多いのです!」
「本当ですね。普通大型モンスターからでもドロップは2個から多くても6個くらいですが、20個近く落ちています」
「あれだけ巨体だったから、ということでしょうか?」
「アリスも拾うの手伝うよ~!」
「あ、待てアリス、氷の上を走ったらあぶねぇから!」
ルルが驚きの声を上げる。シェリアの言う通り、ドロップが凄まじく多かったのだ。頭の良いキキョウもシェリアと考察しながらドロップを拾い上げ、それを見たアリスが氷の上をダッシュ。ゼルレカが慌てて追いかける構図になっていた。
「これ、溶岩の上で撃破したらどうなってたのでしょうね。やっぱりドロップも溶岩に沈んでしまうのでしょうか?」
「そうはならないと思うぞ。今までだって、火山や空島など、人が踏み込めないところで撃破してもちゃんと陸地にドロップしてただろ」
「あの不思議ドロップ現象ですか」
俺もシェリアとキキョウの考察に入れてもらう。
シェリア、普段はあれだが、これでもエルフ。頭は良いのだ。
たまに頭脳担当のキキョウと真面目に話している光景も見かけるしな。たまになのが玉に瑕だが。それには目を背けつつ……。
ちなみに、今言った通り、もし〈陸竜〉を溶岩上で撃破していてもドロップはなぜか陸地に現れるので心配ご無用だ。
今回は溶岩が人が踏み込める凍った大地になってしまったのでその場にドロップした形だな。
アリスたちが無事回収してきてくれる。
「よし、この調子でどんどん行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
次に出会った〈竜〉種は〈ワイアーム〉の進化系、〈ケツァルコアトル〉。
ヘビ型の身体に翼の生えた大型モンスターだった。
これは2班が担当し、レグラムがさっさと叩き落として撃破した。
さあ、これは思ったよりも強くは無いのか? と思いきや別にそんなことはない。
「大型モンスターだと思っていたけれど、1層エリアボス並の強さがあったように感じたわ」
こちらがシエラの感想だ。
そしてかなり的を射ている。
エリアボスとしての立場が無いが、実は10層までの〈亜竜〉エリアボスと、61層以降の〈竜〉種大型モンスターだと、火力だけ見れば同じくらいなのだ。
ん? と思うかもしれないだろう。どういうこと? と。
つまりだ。61層からは常にボスとやりあっているのと、あまり変わらない感覚になってくるのである。
なにしろ、常にボス級の火力で殴ってくるんだから。消耗がどんどん激しくなってくるんだよ。
そして、それは階層が進むごとに増していくというのがこのダンジョンなのだ。
「ガアアアアア!」
「な、な!? 防壁が壊されちゃったんだけど!? ええい『オールメタルランパート』!」
シャロンの自信がある防壁が、〈ドレイク〉系の進化系である〈メタルコーティングドレイクドラゴン〉のメタルな爪によって引き裂かれたのだ。
こちらは〈ドレイク〉系がついに〈竜〉種になった大型モンスター。
とんでもない光景にさすがにシャロンもびっくりした様子。
「な、なんか油断していると盾を持っていかれそうなんだけどこれ!?」
「分かりますトモヨさん。一撃がかなり重いですよね――『天落』!」
トモヨも〈ジェネラルシーサーペント〉の突撃を受け止めてちょっとおののいた様子だ。
フィナもそれに同意し、〈ケツァルコアトル〉を叩き落とす。
タンク組から「今までの大型モンスターとは違う」という明確な感想が出始めていたのだ。
そして、ただの大型モンスターでこれである。
なら〈竜〉系のボスはいったいどんな強さなのか?
61層ボスは――〈火竜〉。
いや、絶対61層のボスなんかしているようなモンスターじゃないだろうというような、純粋なイメージのドラゴンだ。
後ろ脚のみでやや前傾姿勢で立ち、両手と巨大な翼をもつ、加えて身体中から発せられる熱波。
まさに火竜。
「よっし、まずは俺たちが挑むぜ!」
「ま、またトップバッターなんだよ!」
「1班になった時から分かってたですの!」
まずは1班が挑んだ。ボスの〈竜〉がどれだけ強いのか、しっかりみんなにも見せなければなるまい。
「ノエル、バフをくれ! ラクリッテはヘイトを頼む!」
「うん! 歌っちゃうよー『プリンセスアイドルライブ』! 『エールベストパフォーマンス』! 『コングラチュレーション』! 『音速リズム』! 『オールナイト・カルテット』!」
「今度こそ! ポン! 心を奪え、幻で魅せよ――『マインド・ハード・プロテクション』!」
「カアアアアアアア!!」
ノエルが大量のバフで俺たちを強化し、ラクリッテは挑発しながら相手の防御力と魔防力のデバフを掛ける。
すると飛んでいた〈火竜〉が火球を放ってきた。
だが、その大きさは巨大。10メートル規模もありそうな巨大な火球だった。
「ポ、ポン! 素晴らしき盾よ、皆を守れ――『グロリアスブクリエ』!」
タンクとしてラクリッテが盾を構えて火球を受ける。
ズドンと命中。しかし、『グロリアスブクリエ』は六段階目ツリーだ。
もちろんこの規模の火球でもびくともしない。
「サーシャ、お願い!」
「行くですの! 『全ては凍り付き溶けることは無い、永久のニブルヘイム』!」
再びサーシャのユニークスキル発動。
バンと周囲一面が凍り付き、それは上空の〈火竜〉でも変わらない。
しかし、〈火竜〉はボス。〈氷結〉状態にならず、ダメージこそ受けたものの、まだまだ元気に飛び回りながら今度は5メートル級の火球を連打でラクリッテに放ってきたのだ。元気すぎる。
「ポン! 幻影は心を掴むパフォーマンス――『イッツショータイム』! ポン! 来たれ幻影の巨人――『ミラージュ大狸様』!」
『イッツショータイム』はラクリッテの特殊な自己バフだ。これをしていると、いつもよりも幻術系の効果が増す。おかげで〈三ツリ〉である『ミラージュ大狸様』でこの規模の大量の火球を引きつけ、逸らすことに成功した。
「『英勇転移』! 『天光勇者聖剣』!」
その隙に俺は転移し、ノエルに掛けてもらった強力なバフを込めて一撃で叩き落とすつもりで〈火竜〉をぶった斬る。
「カアアアアアアア!?」
「げっ!? クリティカルならずだと!?」
完璧に不意を突いたと思ったのだが、微妙に身体を反らしたようでクリティカルならず。マジか。
「カアアアアアアア!」
瞬間、反射的な行動だろう〈火竜〉が俺に向かってブレスを放たんとした。
「ゼフィルスさん!? 『ポンポコアバター』! ポン! 幻影と入れ替われ――『捕らぬ狸の皮算用』!」
「おっと!」
だが、ラクリッテが回収してくれて事なきを得る。
『ポンポコアバター』はラクリッテの幻影を1体出現させる魔法、そして『捕らぬ狸の皮算用』はその幻影と誰かを入れ替える魔法である。つまり転移みたいなものだ。
入れ替えなのでお互いの居る場所にしか転移できないが、非常に強力。
俺はラクリッテの側に出現し、アバターはブレスによって消滅した模様だ。
「さすがだラクリッテ! 『ライトニングバースト』! 『サンダーボルト』! 『フルライトニング・スプライト』!」
俺はここから追撃。
「ゼフィルス先輩、ちょっとは気をつけてくださいよ!? 『セット・シールダー・プロミス・モミジ』! 『セット・ヒーラー・プロミス・カンザシ』!」
「大丈夫だって! それより来るぞ!」
カグヤから気をつけてと言われるほどブレスがヤバい。なにあの特大のブレス。ゼニスの『ドラゴンブレス』とそっくりなんだもん。
幻影を吹き飛ばした〈火竜〉は怒り心頭の様子で勢いよく下降し、その速度のまま突っ込んで来た。
カグヤがモミジに結界を出してもらおうとしているが、それじゃあ心許ない。
「カグヤ、王孤だ!」
「は、はい! 『王狐・モミジ』!」
ここで六段階目ツリーを発動。
カグヤのモミジとカンザシは段階を経てパワーアップしていく召喚獣だ。
〈四ツリ〉の召喚から、〈五ツリ〉のシールダーとなり、〈六ツリ〉で王孤へとパワーアップするモミジ。
その姿は九尾の大狐だ。全長9メートルを誇り、〈火竜〉に対しても真っ向から結界を張って防ぎきる。
「カアアアアアアアア!?」
ガツンと結界に防がれ、不機嫌そうな声を出しながらも急旋回しながらブレーキ、そのまま地面に降り立ったかと思えば火球の連射をばらまいてくる〈火竜〉。
前脚を地面に置き、安定感を生み出しての固定砲台だ。その火球の連射は正確にラクリッテの方向に全弾飛んでくる。
「モミジ、防いで!」
「ラクリッテ、やってやれ!」
「『ポンポコスワップ』! ポン! 恐怖の半壊弱体化――『ポンコツ』!」
「カアア!?」
モミジが結界で火球を防ぐ。
だが、そこにラクリッテは居ない。
いつの間にか『ポンポコスワップ』で幻影と入れ替わり、〈火竜〉の足下にいたラクリッテが『ポンコツ』を食らわせていた。
「ナイスですの! 『あなたは寒さに弱くなる』! 『エターナルフロスト』!」
「カアアアアア!」
動きが止まった瞬間サーシャがしっかりと『氷属性耐性』を下げて超強力な六段階目ツリーの魔法を直撃させていた。
これには〈火竜〉も怒りモードを発動するが。
「おとなしくしようね~♪ 『鎮静の一曲・ラブ&ピース』!」
ノエルの歌で怒りモードもすぐに鎮火。
「締めるぞ――『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
「カアアアアアア!」
食らえ俺の最強魔法!
雷のドラゴンが顕現し襲い掛かる!! 〈火竜〉はこれを組み合うようにして迎え撃たんとした! そのままブレスを吐こうとするが、残念ながら叶わず、それよりも早く『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』によって貫かれてしまった。
「カ、カアアアア!」
最後の意地か、『ドラゴンクロー』をラクリッテにかます〈火竜〉。
凄まじい根性。ラクリッテも盾で防御したが、スキル無し防御だったのでそれなりのダメージを受けていた。
割とトドメのつもりで撃った『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』だったが、本当にギリギリの所でHPが残ってしまった。これ、『食いしばり』系が発動したかな?
「あれでHP残るとか、硬すぎだろう。――これで今度こそ最後だ! 『フィニッシュ・セイバー』!」
フィニッシュ!
最後は別に『ソニックソード』でも良かったが、かっこいいので〈五ツリ〉でフィニッシュ。
「ガアア…………」
それに満足したかのようにドスンと倒れると、〈火竜〉はそのまま膨大なエフェクトを発生させながら消えていったのだった。




