#1659 〈教会ダン〉5層守護型ボス〈上級魔族・牛〉!
2層から4層までは1層と変わらず、それぞれ教会が1つだった。
計2つの教会を制圧すればいいのだから楽勝だ。
そこで数々の実験と検証を開始。
これも報告書に書くためだ。
全部暴いてやるぜ。
天使の教会を集中狙いした時の天使と悪魔の動き、悪魔の教会を集中狙いした時の天使と悪魔の動き方はもちろん、戦力が補充するところもバッチリ確認した。
最初は多いと思った両陣営だが、一定の数より増えない。1つの教会から出撃できるモンスターの数は決まっているということだな。
片や悪魔教会を浄化したい天使陣営、片や天使教会を邪悪に染め上げたい悪魔陣営。
その戦力は教会内の水晶から生まれ、お互いを殲滅しようとぶつかり合う。
それがこのダンジョンだ。
あ、ちなみに両陣営が争っているのを無視して採集活動に精を出したときもあったぞ。
その時は近づいたりすると襲われる――両陣営から。
実は仲良くね?
5層からは教会が2つずつになりフィールド内に計5つ、フィールドの大きさは少し広がって10×10マスの1辺500メートル。そして教会の数が倍になったので単純にモンスターの数も倍になる。
そして悪魔側の教会にエリアボスと守護型ボス、両方のボスがいるというとんでも状態でスタート。
だからか分からないが悪魔陣営のモンスターは押され気味で、早くも天使が制圧か? と思われたときに教会からエリアボス登場。
巻き返しが始まり天使たちはどんどん天使教会側に押し込まれていく、というプレイヤーが傍観者していても楽しい光景が見られた。
「ねぇゼフィルス君、ここで天使に加勢したらどうなるのかな?」
「シヅキの懸念はかなりいい的を射ているかもな。早速天使に加勢して悪魔を滅ぼしてみよう!」
「シヅキって悪魔じゃなかったっけ? 悪魔側じゃないの?」
「いやエフィ、私は今回裏切り者側だよ!」
さすがは【ルシファー】のシヅキ。言うことが違う。
ちなみに天使側に加勢しようと天使教会へ向かったら、天使から襲われました。
なのでそのまま悪魔と一緒に天使教会を滅ぼしました、まる。
「天使は話を聞かないから失礼しちゃうよね!」
「シヅキの言うことがクルクルしてて面白い」
プンスコするシヅキにエフィはポーカーフェイスで感心したような雰囲気を出していた。感心するところ違うぞエフィ。帰ってきなさい。
なお、一緒に戦ったエリアボスの悪魔は、天使教会を制圧した瞬間襲ってきたのでこれも光に還した。あいつはいいやつだったよ。
天使教会制圧後は、悪魔教会の制圧だ。
2つの教会の内、まずエリアボスが出てきた教会から即制圧。
最後の教会には階層門と守護型ボスがいるので、そっちの教会も制圧して階層門を見つけ出した。
「居るわね、悪魔の守護型ボスが。やはりボスは水晶玉に触れて制圧しても消えないみたいね」
「ボス系は教会所属じゃ無い、ということですわね。今までのエリアボスも教会を制圧しているのに召喚可能でしたし」
さすがに〈教会ダン〉のルールには慣れたようで、シエラとリーナがしっかりと考察していた。
そう、教会を制圧しても、ボスは消えないのだ。むしろ消えたら大変だもん。
宝箱貰えなくなっちゃう。
「エステル、『看破』は出来た?」
「はい。あれは〈上級魔族・牛〉と出ました!」
牛っ!
〈上級魔族〉が5層の守護型やっているなんて!
俺は涙が止まらんのよ。
他の作品とかなら魔王の側近とかやってる名前じゃないの?
しかも名前がただの〈牛〉! 〈祭ダン〉の〈ブレンモール〉の方が名前かっこよかったし、こいつ見る度に目頭が熱くなってくるんだよ。
見た目はまさにミノタウロス。
牛の顔に筋肉モリモリの肉体、下半身は結構毛深く足は蹄だ。
まさに迷宮の守護型と言うにふさわしい見た目をしている。
身体は赤黒く、まるで鋼鉄のようにテカテカ光ってやがるぜ。硬そう。
「さーて誰がいくか。バリバリの物理系っぽいし、ここは魔法系か? 素早いメンバーで避けタンクをするという手もあるだろう」
「ゼフィルスにまかせるわ」
「よし、なら1班と7班でいくぞ! レグラム、いけるか?」
「任せるがいい」
7班はレグラムを筆頭に、オリヒメさん、シャロン、ノーア、クラリスというメンバーだ。
「おーっほっほっほ! 私にもお任せになってくださいな! 守護型ボスのドロップが、とても楽しみですわ!」
「お嬢様の得意そうな相手ですね。でも油断はしないようにしてくださいよ?」
「クラリス、愚問でしてよ!」
「タンクとヒーラーはどうするのゼフィルス君?」
「タンクはシャロンに任せる。ヒーラーはとりあえずエリサが担当。オリヒメさんはバフ担当だな。デバフはゼルレカがやる」
「おっしゃ! やっと六段階目ツリーでボス戦やれるぜ!」
こうしてボス戦メンバーが決まれば、ボス戦開始。
「モオオオオオオオオ!」
「初手からいくよ――『オリハルシステム排除ゴーレム召喚』!」
シャロン初手、オリハルコン製のゴーレム召喚。
硬さ十分のバリバリタンクゴーレムが〈上級魔族・牛〉とがっぷり組み合う。
大きさは両方とも10メートルほど、一歩も退かないゴーレムは非常に優秀な疑似タンクだ。
「ゴーレム目立って! 『ヘイトヴァレション』!」
ゴーレムがライトアップされて挑発し、ピキッときた〈上級魔族・牛〉が「モオオオオ許さん!」とばかりにタゲをゴーレムに向ける。
これがシャロンの六段階目ツリー。
今まで城を召喚して防衛してきたが、〈六ツリ〉からは城を守る門番を召喚してタンクをするという方法も採用。ゴーレム使いにも通ずる非常に有用な能力だ。
〈上級魔族・牛〉はなんとさらに3本目と4本目の腕を背中に生やすと。腰に差していたバトルアックスでゴーレムを叩き始める。オリハルコンゴーレムのHPが徐々に減ってくるが、
「『防壁中回復』! うん、良い感じだよ!」
シャロンのゴーレムは〈防壁〉カテゴリーを持つためシャロンは回復が可能なのだ。
回復持ちのタンクはチート並みに強力。動けるゴーレム召喚によってシャロンが新たな力を開花していた。
「よし、攻撃開始だ! まずはゼルレカ! あの硬そうな身体にデバフを掛けろ!」
「おうよ! 『モチベーション・ゼロ』! 『エンド・オブ・バイタリティ』!」
ゼルレカのデバフ『モチベーション・ゼロ』は攻撃力&魔法力&器用さデバフ、『エンド・オブ・バイタリティ』は防御力&魔防力&素早さデバフだ。六段階目ツリーなのでかなり強力。
「『怠いだろ? 身を任せろよ』! 『怠慢と堕落の剣』! 『惰性と堕弱の一撃』! 『脆弱と漫然の一閃』!」
こちらは〈五ツリ〉だが、かなりのデバフが蓄積していく。
「よし、いいぜゼルレカ! ――オリヒメさんも頼む!」
「バフを掛けていきますよ。『リジェネプロテクト・オールキュアバリア』!」
それは全員を対象に〈継続回復〉〈防御力バフ〉〈状態異常回復〉〈バリア〉を張るオリヒメさんの強力なバフだ。MPをかなり消費するが、タンクやアタッカーが最も欲しい安全を付与することができる六段階目ツリーである。
「まずは『狼眷属召喚』! そして『狼軍・覇者突撃』!」
「「「「「ウォーン!!」」」」」
クイナダは五段階目ツリーで狼眷属を召喚できるようになった、そして召喚中に発動出来る六段階目ツリーが『狼軍・覇者突撃』。5体のみの召喚だったのが20体に増え、一気にボスへと飛び掛かってダメージを稼いでいく。
一方クイナダもボスに近づいていて。
「『神峰の宝刀』! 『必殺・絶刀』!」
ズバンと斬り込んでいた。六段階目ツリーのスキルが2発も叩き込まれたことでがっつりダメージを蓄積させる。
クイナダはたくさんの狼眷属と共に戦闘するという新たなスタイルを獲得していたのだ。
まだまだ続くぞ。
「『天空絶光・疾駆無秒閃々』!」
空を駆けたレグラムが一瞬で頭に連続の斬撃を叩き込む。そして、
「『神斬』!」
ズバンと一閃。縦切り。
「モオオオオオオオ!?」
なんとこれがクリティカルで決まり、〈上級魔族・牛〉はダウンしてしまう。
「今だ! 総攻撃!」
「私がカウンターを取る前に終わってしまいそうですわ!?」
「はっ! その手がありました」
「クラリス!? その閃きは気のせいですわ!」
どうやらクラリスがノーアにカウンターをさせる前に倒せば良いのでは? 的なことを閃いてしまったようだが、ノーアが必死に打ち消していた。
「モオオオオオオオ!」
ダウンから復帰した〈上級魔族・牛〉がゴーレムに向かってバトルアックスを振りかぶる。
「! 大チャンスですわー! 大逆転カウンター――『ミョルニル』!」
「モ!?」
「あ」
位置が良かったのか悪かったのか。ゴーレムとの間にいたノーア。
下からのバトルアックスの振り上げに見事にカウンターを合わせてしまったのだ。
『ミョルニル』はノーアのカウンター技最強。
一瞬で数十メートルもの幻影の巨大ハンマーが〈上級魔族・牛〉をぶち貫いたかに見えた、ノーアの奥義である。
ズビャビャーーーンと轟雷でも当たったかのような衝撃音が炸裂。
あまりのダメージに〈上級魔族・牛〉の身体がノックバックし、蹈鞴を踏んだ。
「クラリス!」
「了解です――『属性千エンチャント』! 『トリリオン・レイソード・イグニッション』!」
クラリスの『属性千エンチャント』は、まさに千剣全てに6属性のいずれかを付与するスキル。1本1本は別のエンチャントが付与され、様々な属性となり、『トリリオン・レイソード・イグニッション』の千剣発射によって千本の剣が高速で射出。
ズドドドドドドドというガトリングかと思うような連射が〈上級魔族・牛〉を襲ったのだ。
物理に強いはずの〈上級魔族・牛〉でもこれは厳しく、大きなダメージを受ける。
そしてトドメ。
「レグラム様、受け取ってください――『ミラクル・レディ・ネプチューン』!」
これがまたとんでもない……オリヒメさんのユニークスキルだ。
その効果は【ウラヌス】限定でクールタイムを全回復する、である。
は? と思うだろ?
ノエルですらスキル1つのクールタイムをゼロにすることしかできないのに。ユニークスキル以外の全部のスキル・魔法を回復である。【ウラヌス】限定とはいえ、あまりにも強すぎるユニークスキルだった。さすがは「男爵」カテゴリー。
本来ゲームなら「男爵」は2人までしかギルドに加入出来ないため、【ウラヌス】と【ネプチューン】で枠がいっぱい、【歌姫】系などを入れられないからこそバランスの取れていたユニークスキルだったのだが、リアルになって「男爵」を何人もギルドに入れられるようになった影響でぶっ壊れ性能になってしまったのだ。
これ【ウラヌス】を何人も加入させていたらどうなるのかとか非常に気になっているのは秘密。
さらに【ウラヌス】と【ネプチューン】は、『年に一夜の逢瀬』というコンボで使えるパッシブスキルを持つ。
これはサチたちのユニークスキル『神装共鳴』と同じ、特定のスキル持ちがパーティに居るとお互いパワーアップするというものだ。
これでレグラムの火力は、もうとんでもないことになっていた。
「終わりだ――『神斬』!」
「モオオオオオオオオオ―――」
ズバンと縦一閃。レグラム最強の一撃がヒットする。
瞬間〈上級魔族・牛〉のHPはゼロとなり、断末魔の声を響かせながらエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。
「お嬢様、革命!」
「はっ! 『ドロップ革命』ですわ!」
ギリギリセーフ。
こうして〈金箱〉が1つ、残っていたのだった。




