#1657 モンスター相手にギルドバトル!教会を占拠!
「『フルマッピング』ですわ!」
「『立体地図レーダー完備』!」
「このモンスターは、天使?」
「こちらは悪魔ですわね」
教会内部の探索を終えてリーナの『フルマッピング』とカイリの『立体地図レーダー完備』を発動。
カルアの猫2匹を犠牲にして得てきた情報を精査する。
すると〈竜の箱庭〉には教会より少々離れた所で天使と悪魔が争っている光景が映っていたのだ。
「これはどういうことなの? 今までモンスターが争っていたことなんて……」
「いえ、ありましたわ。〈火山ダン〉の〈亜竜〉などが縄張り争いを目的として争っていたことがありましたわね」
「そういえばあったわね! つまり、ここも縄張りを争っているってこと?」
「ここに教会がありますわ。こっちにも、お互いここを目指して戦っているように見えますわよ」
「規模が大きいわね。十数体同士で戦っているわ。しかもそれが複数箇所」
〈竜の箱庭〉から得られたのは、少し身に覚えのある光景。
〈火山ダン〉の51層以降で登場する〈亜竜〉は、なぜかがっぷり組み合っていたり、怪獣対決していたり、モンスター同士で良く争っていた。それと似たようなものだとメンバーにも浸透したようだ。
「このダンジョン、いつものオープンワールド系のようだが、侵攻ルートがあるっぽいな」
「ゼフィルスさん、それは……ギルドバトルのようなものということですか?」
「ああ。見てくれ、ここが障害物、つまり観客席だと考えるんだ。オープンワールドはそのままアリーナの試合会場。教会は本拠地、もしくは拠点と仮定すると」
「モンスターが、ギルドバトルをしているように見えますわね」
「だろ?」
俺の言葉に目を見開いて驚くリーナ、その発想は無かったと言わんばかりの反応だ。
ここはギルドバトルと近いものだと考える。それが攻略の秘訣だ。
故に〈教会ダン〉は別名〈ギルドバトルダンジョン〉とも呼ばれていたんだ。
つまり俺たちは、試合中の天使と悪魔を食い破れば良いのである。
そんなのさ―――〈エデン〉は大得意だよ!
「ちょうど昨日復習したばかりだったな。みんな、この天使と悪魔が欲しがっているように見えるここの教会、俺たちが先に奪取するぞ!」
この言葉が、俺たちの進撃の始まりだ。
◇
地図に映し出されているフィールドの面積は、かなり小さい。
おそらく端から端まで300メートルほどだろう。
第一アリーナで言えば6マス×6マス程度の広さだ。ちっさ!
まあ、これはまだここが1層だからだな。
そこに教会が計3箇所あり、1つを俺たちが、1つを天使が、1つを悪魔が所有している。
そして天使と悪魔は俺たちの教会を襲うことができないため、お互いで争っているという構図。
まずはこの2つの教会を占領して、このダンジョンのルールをみんなに浸透させようというのが目的だ!
なに、安心してほしい。
ここまで来られる〈ダン活〉プレイヤーであればギルドバトルにも慣れている。
〈ギルドバトルダンジョン〉と呼ばれるこのダンジョンも超余裕という寸法だ!
故に、俺はこのランク8ダンジョンを攻略することを強く勧める!
報酬もかなり良いしな!
「それじゃあ行ってくるぜ! ――リーナ、ナビよろしくな!」
「『はい。ゼフィルスさん、ご武運を!』」
「みんな! ここは〈拠点落とし〉に近い! パーティ行動で敵を制圧し、まずはこの教会を目指すぞ! 相手は黒猫を倒せる程の強者! 油断するなよー!」
「「「おおー!」」」
「散開!」
出撃したのは8パーティ40人。9人はいつも通り教会に残ってもらうナビ担当だ。
8パーティは4パーティずつに別れてそれぞれの教会を狙う。
まさかの戦力の分散、そして同時攻略だ!
これが実は必勝法でもある。
「ア―――」
「ガアアアア!」
俺たちの接近に気付く天使と悪魔。そりゃ今回は気付くようインビジブル系もハイド系も使っていないからな。
すると天使も悪魔も、それまでの争いを中断して自分たちの教会へと戻り始めたのである。
つまり分散した。
さすがに天使と悪魔が争っているど真ん中に斬り込むのは悪手。
だが、両方の教会に向かうと、こうして迎撃のために争いを中断してくれるのである。
今回はわざと中断させて相手の行動を見るのも目的だ。
俺の報告書のためにも!
〈エデン〉の行動は報告書に纏められるため、どんな行動をしたかが大事。行動していないことが攻略本に書かれていたらシエラから問い詰められてしまうからな!
まあ、その時は伝家の宝刀「勇者だからな!」で誤魔化せば良いのだが。
「来たわ! 分散してヘイトを取るわよ。『挑発』! 『シールドスマイト』!」
「承知です――『エルアサルト』!」
「うひゃ~いっぱい来た~。なんだか〈聖ダン〉や〈島ダン〉を思い出すよ~『敵対予告』! 『終わりの予告』! 『始まりの予告』!」
「ア――――!」
天使たちの教会の方にはシエラやフィナ、トモヨがタンクをする班が向かい、
「ヴァン君、抑えるよ~! 『防壁召喚』! 『城上スプラッシュ』! 」
「承知であります! 『我、この城の主なり』!」
「ポ、ポン! 相手を呼びよせ、全てを守れ――『マインド・ハード・プロテクション』!」
「ガアアアア!」
悪魔たちの教会の方にはシャロン、ヴァン、ラクリッテがタンクを務める班が向かう。
みんな挑発スキルを使い、天使と悪魔を引きつけた。
ここが通常のギルドバトルよりも楽な点だな。
相手が全てモンスターなので、挑発スキルが効き、ある程度相手の行動をコントロールできるのだ。
「リーナ、ハンディは!」
「『付いた様子がありませんわ! つまりここは――』」
「ああ。〈巣多ダン〉と同じ、ハンディの無い集団対集団戦が前提のダンジョンだ!」
〈巣多ダン〉と同じく〈教会ダン〉にも通常モンスターにはハンディが加算されない。つまりは複数のパーティで相手をしてもOKのダンジョンだ!
それが判明したことでリーナにすぐに広めてもらう。これで安心してみんな攻撃に専念できるな!
「悪魔さん相手ならこんなのどうよー! 『頭が高い・降りてこい』!」
「ガ!?」
「ま、空飛ぶ相手は墜落させるのが重要だよね!」
おっとシヅキが落下系の〈五ツリ〉を使ったな。
さすがは【ルシファー】。全ての悪魔の頂点に立つ存在。そりゃ飛んでいたら頭が高いよ。なお、これは別に悪魔以外にも使えるぞ。
周囲に居る悪魔が次々落下してくるのでそれを処理していく。落下判定でダウンしているので楽ちんだ。
「やはり、飛んでいたら面倒ですね。全部落とします」
「よろしくお願いするわ、フィナ」
「いきます――『天秤天落』!」
フィナが取り出すのは――天秤。
スキルで取り出した金色に光る天秤だった。それが傾くのではなく、両方の皿が下に落ちる。
「ア――!?」
すると飛んでいた天使たちがドドドドンと次々落下したのだ。
耐えられたものは皆無。
なにせこれ、フィナの六段階目ツリーのスキルだもん。『天落』の上位ツリーなのだ。
「『神の天誅』! ――なによあの教会、攻撃してもダメージがないわよ! というかHP自体がないわ!」
「ということは、あの教会は落とすものじゃないってことだな。こりゃ、潜入してみるしかないぜ!」
「潜入!?」
そう、実は本当のギルドバトルとは違い、この教会にはHPは無い。つまりは攻撃して陥落させるのではない。別の方法で落とすのだ。
何せこのダンジョンはマスの境目なんかないものだから、教会にHPなんかあったら全体攻撃で纏めて全陥落、なんてことが可能になってしまう。それを防ぐためか知らないが、教会内に潜入しないと占領はできないのである。
また、教会内に潜入しなくちゃいけない理由がもう何個かある。
故に俺はすぐにパーティメンバーに声を掛け、教会内部の制圧&占領に動いた。
「よし、ここは任せた! 俺は中を制圧する!」
「ゼフィルス、気をつけてね!」
「おうよ!」
「教官、お供します」
対天使担当班に入っていた俺のパーティが隙を突いて教会内に入る。
今回俺の1班メンバーは、俺、フィナ、エリサ、クイナダ、ゼルレカである。
教会内を最初に制圧する部隊として、まあエリサは必要不可欠だ!
邪魔者は全て眠らせる事が出来るからな! 安全マージン確保!
教会内に入ると、中にも十数体の天使がいて速攻で襲ってきた。しかし。
「姉さま」
「任せなさい! 『万魔宮殿』!」
エリサが杖を振るうと、一瞬で教会内が宮殿に早変わり。そして、
「眠りなさい――『睡魔女王・集団睡民』!」
昨日のギルドバトルではサターンたちを取り逃してしまった魔法――『睡眠無効』すら〈封印〉する『万魔宮殿』と、宮殿内でのみ発動出来る『睡魔女王・集団睡民』により、全天使が〈睡眠〉の状態異常を受けて落下する。仕上げだ。
「MP貰うわね――『MP全吸収』! そして永眠よ――『エンドレスエンド』!」
これぞ【睡魔女王】のコンボ、睡眠→MP吸収→即死の〈良い夢をごちそう様〉戦法、その完成形だ!
エリサに〈六ツリ〉魔法でMPを取られてビクンビクンした天使たちは、その後の【睡魔女王】のユニークスキル、終わらない永眠――眠っている相手に使うと『即死無効』持ち以外〈即死〉確定。眠っていない相手には普通に起こしても起きない〈睡眠〉をプレゼントする『エンドレスエンド』によって〈即死〉判定。
そのまま全天使モンスターたちは光に還っていったのだった。
「よし、ナイスエリサ!」
「イエーイ!」
「みんなこっちだ! 俺の『直感』さんが、こっちに何かあると言っている気がする!」
俺はみんなに指示を出す。相変わらずダンジョンでは大人しい『直感』さんを利用して教会の奥へと突き進んだ。
そこに大きな水晶玉を発見。
瞬間、水晶玉の脇から2体の天使型モンスターがポップしたのである。
「あの水晶玉が原因だ! クイナダ、ゼルレカ、天使を抑えろ!」
「任せてよ! ――『必殺・大閃刹那落とし』!」
「おっしゃー! 食らいやがれ――『レイジー・バスター』!」
「「アアアアアア!」」
クイナダが飛んでいる敵すら叩き落とす、恐るべき斬撃を放ち、ゼルレカも中距離攻撃のバスター系斬撃を放って天使を攻撃。そのまま突っ込んで天使を引きつけた。
そうして残ったのは、明らかに天使が守りたそうにしていた水晶玉のみ。
「この水晶玉にターーーッチ!」
そして俺は大きな水晶玉をタッチする。
天使が支配していたときは何者にも穢されないと言わんばかりの真っ白だった水晶が、それだけで青く光った。その色は、俺たちの教会にあった水晶玉の色に酷似していた。
これが俺たちが占領した証である。その証拠に。
「『ゼフィルスさん、天使が今一斉に消えましたわ!』」
リーナからの報告あり。
そう、占領した教会出身のモンスターは、占領されると全部消えてしまうのである。




