#1656 〈教会ダン〉の教会は安全地帯ではなく陣地!
―――上級上位ダンジョンランク8、〈天魔の教会ダンジョン〉。通称〈教会ダン〉。
ここは天使と悪魔が戦っている世界という、今までとはかなり違う非常にユニークなダンジョンとなっている。
モンスターが2種類、天使と悪魔が同じフィールドに存在し、お互いに生存競争なのか侵略戦争なのか、とにかく戦争状態でお互い戦いまくっているのである。
そう、ここでは突破する俺たちは第三者。争いに介入するにしてもスルーするにしても、絶対に戦いに巻き込まれてしまう、別名〈天魔戦争〉の真っ只中を攻略しなければならないのだ。面白いぞ。
天使と悪魔を相手に二面戦争みたいな展開になることもあるので、やっぱり複数パーティを連れてこないと手が足りなくなるという仕様だ。
さらに 天使を打ち倒せば、これ幸いと悪魔が襲い掛かり、悪魔を倒せばこれ幸いと天使が襲い掛かってくる。じゃあ両方ともスルーしようとすれば今度は両方から同時に攻撃が仕掛けられるというとんでもないダンジョンだ。
そして同時に重要になるのが、ダンジョンの名前にもある――教会。
教会はダンジョンでは陣地として機能し、天使か悪魔、いずれかが占領していてポップポイントとなっている。そこを制圧すれば陣地にしている側のモンスターが消えるという仕掛けだ。
つまり天使が陣地にしている教会を攻め落とせば、天使は消え、ポップポイントも消えるというシステムだな。
なお、教会を狙っているのは別勢力も同じなので、せっかく占領して天使を消したと思ったら、悪魔に攻め入られた、というギルドバトル〈拠点落とし〉もかくやということも起こりうる。
もちろん、悪魔に教会を手渡せば教会は悪魔の陣地となり、そこから悪魔がポップして湧き出てくる。
攻略するには、占領した教会からもパーティを出撃させたり防衛したりと、敵陣地を占領しながら進んで行くのが一般的な方法だ。
そしてどこかの教会の内部にある階層門を見つけ出して潜り、次の階層に進むという形で攻略していく。
もちろんそんなことを俺が知っていてはマズいので、秘密だ。
だが、なぜか俺が〈教会ダン〉に行こうと提案したときからシエラのジト目が熱い気がする。ふはは!
それからもなんやかんやと話し合い、俺たちはすぐに〈教会ダン〉へ向かうことが決定したのである。
◇
一方その頃、ここは学園長室。
学園長はクール秘書であるコレットからとある報告をされていた。
「ということで、〈エデン〉が今度は上級上位ダンジョンのランク8、〈天魔の教会ダンジョン〉へ向かうみたいですよ学園長」
「昨日六段階目ツリーをお披露目してきたばかりなのに!? 研究所にデータを吸わせている間にことを抑え込む計画だったんじゃが……」
「狙いがはずれましたね。ゼフィルスさんなら研究所のお誘いに協力してくださると思いましたが、見事にスルーされました。あ、学園長、これ追加の手紙です」
「こ、こんなにか?」
「まだ届き続けていますよ。六段階目ツリーについて、みなさま知りたいみたいですね」
「わしもほとんど知らないんじゃがーーーー!!」
学園長は今日も大忙し。
ゼフィルスがお披露目するだけして次へ目を向けてしまった影響は、全て学園長へ向かってしまうのだった。
◇
「ここが、〈天魔の教会ダンジョン〉ね!」
「出発地点が、まず教会なのね……これ人工物、なの?」
「ステンドグラスが凄いわね! なんだかここ、すごく良い感じの雰囲気がするわ!」
いざ入ダン!
決まったら即行動でここまで来た俺たちは、出入り口のある場所を見渡して、ちょっと感動していた。
超巨大な、竜と勇者が描かれたステンドグラス。
聖女と思わしきものや、巨大な動く城を模したステンドグラスなどもあり、非常に趣があった。
内部はまんまイメージする教会で、大きな広間に椅子が設置されている。
もちろんこの椅子はダンジョンオブジェクトなので持ち帰ることは不可だ。
完全に人工物の見た目である。まあ今までクイズするダンジョンや館のダンジョンなどもあったので今更だな!
「〈教会〉だからかしら。こうして座って休憩できる救済場所は初めてね!」
「〈教会〉と名の付くダンジョンだから? でしたら今後向かう教会には救済場所があるのかもしれませんわね」
いや違うぞリーナ? むしろ教会が戦争の真っ只中、中心地だから。
この入り口だけはプレイヤーの陣地扱いで占領されない教会だが、俺たちは今後も他の教会を制圧しながら進まなければならないのだ。
しかも制圧したと思っても普通にモンスターが襲ってくる場合もあるからな。油断は禁物である。
みんなにも注意を呼びかけねば。さて、どうやって注意を促そうか。
「ここは、〈空島ダン〉の建物を思い出すわね」
ここでシエラが良いことを呟いた。よし、これに乗ろう!
「もしかしたらこの部屋を出たらまたモンスターに襲われるかもしれないな。教会の中を守護するガーディアン的なモンスターが出てきたりしてさ」
「! 確かに、わたくしとしたことが早計でしたわね。〈空島ダン〉ではむしろ建物の中が襲撃ポイントでしたわ。ならば、教会が安全な場所とは限らないのかもしれませんのね」
「なるほどね。教会という印象から安全な場所というイメージがあったけれど、ここはダンジョンだったわね」
俺の言葉にみんなが一斉に気を引き締めた顔をした。リーナやシエラにも、俺の言わんとすることが正確に伝わった様子だな。軍師やサブマスがこれならば、きっと良い方向に向かうだろう。
「ん? ゼフィルス、変なのあった」
「お?」
ここで出入り口門の裏側に回り込んでいたカルアから報告。
みんなでそこを覗いてみると、1つの大きな台座と、巨大な丸い水晶があったんだ。
ナイスタイミングだぜカルア!
「何かしらこれ?」
「持っては――帰れないみたいですね」
「触っても『解析』してもうんともすんとも言わないから、アイテムじゃないかも」
ラナの興味にエステルが持ち上げてみようとするが――できず。
シヅキがエステルから受け取った〈幼若竜〉を使ってみてもそれの正体は不明だった。
だが、これにはちゃんと役割がある。
「淡い青色に光っていますわね。何かありそうですが、分かりませんわ」
「うーん、私もお手上げかなこれは」
うちの支援職、リーナとカイリがお手上げと言ったところで解散。とりあえず如何にも何かありそうな見た目だが、これに効果は見られないということで、いよいよ部屋を出ることになった。
「カルア、どうだ?」
「ん~、ん? 誰もいないって」
こういう時に役立つのがカルアのエージェント。
先程から調べてもらっていた猫が帰還したので聞いてみれば、建物には誰もいないということが分かった。罠の類いも見当たらないと。
まあ、それもそのはずだ。この教会は始まりの教会にして俺たち攻略者専用の陣地。つまりは救済場所であり、絶対に制圧されないし襲っても来ない安全地帯なのだ。
「ということなら。次は建物の外を頼む」
「ん――『エージェント猫召喚』!」
「「「――ニャー!」」」
再召喚され、トプンと影に消える猫たち。
それを見送って、俺は指示を送る。
「安全の確認が取れたぞ。とりあえず、この教会は全てが救済場所のようだ。まずは教会を探りつつ、カルアの猫が戻って来たら――」
とそこまで言ったときカルアの耳がピコッと揺れた。
「ゼフィルス、黒猫が1匹やられた」
ざわざわ。
カルアの突如の報告にメンバーがざわめく。
カルアのエージェントは、文字通り猫だ。
猫は強い。そこらの通常モンスターでは相手にもならず、群ごと全滅させられる。
にもかかわらず、出発して間もなくやられたという報告は、外に何かあるという証左に他ならない。さらに。
「……もう1匹消えた」
カルアのエージェント猫、2体目の消失報告だ。
これで偶然という線はなくなった。この建物の外には、何かがある。
そして、この教会の窓は全てがステンドグラス。外の様子は分からない。
「ニャー!」
「! クミンが帰ってきた」
「おお!」
最後の1匹はやられずに帰ってきた。これで少なくとも情報は得られるだろう。
みんなそう思ってカルアの言葉に耳を傾ける。
「ニャ、ニャ、ニャニャー!」
「ん? ん。……えっと、外にはモンスターの大群が、お互い争っていたって言ってる」
どうやら1層、しかも救済場所の真ん前で天使と悪魔が戦争中らしい。




