#1653 〈九角形〉フィールド圧勝でお疲れ様打ち上げ
「さあみんな、ジュースは持ったかーー!? 持ってない人はすぐに持ってくれ! これから乾杯を行なうぞ! 久しぶりの防衛戦、しかも〈50人戦〉に〈敗者復活〉ルールという非常に特殊なローカル戦だった! しかし、勝ったのは〈エデン〉だーーーーー!!」
「「「「おおーーーー!」」」」
「この勝利もみんなで頑張ったお陰だー! 勝利を祝って――かんぱーーーい!!」
「「「かんぱーーーい!」」」
Sランク防衛戦勝利を祝って乾杯だ。
〈エデン〉のギルドハウスでジョッキを掲げて〈芳醇な100%リンゴジュース〉を飲む。うお~勝利の美ジュースが美味しい~~~!!
〈エデン〉VS〈天下一パイレーツ〉戦は、見事に〈エデン〉の勝利で終わった。
最後こそギブアップで終わったが、それは〈天下一パイレーツ〉に逆転の目が無くなってしまったからだな。
〈天下一パイレーツ〉は1巨城しか取れなかったから、〈エデン〉が小城で2000ポイントをリードしてしまえば、たとえ万が一、いや億が一奇跡が起きて白本拠地を陥落させても逆転は不可能になってしまう。つまり負けが確定してしまうんだ。
〈エデン〉が『巨城8城:16,000P』+『小城:2100P』=『計18,100P』。
〈天下一パイレーツ〉が『巨城1城:2000P』を持っているとして。
〈エデン〉の白本拠地を落とし16,000Pが〈天下一パイレーツ〉に移って『計18,000P』になったとしても、〈エデン〉の『18,100P』には届かない。
小城は〈エデン〉が優勢でどんどん差を広げていたから、2,000P以上の差が付いた時点で〈天下一パイレーツ〉が盛り返すことは不可能だった。
そして俺たちが赤本拠地を陥落させた時、小城は〈エデン〉が〈天下一パイレーツ〉よりも2,000P以上獲得していたのだ。
白本拠地の防衛メンバーが小城マス取りしまくってたからな~。
ここで逆転不可が確定。勝敗は決してしまい、〈天下一パイレーツ〉のギルドマスター、モニカからギブアップ宣言がされて試合が終了したのだ。
「だが、惜しかったな~。これが〈決闘戦〉とかならもう1試合できたかもしれないのに」
「ランク戦だもんね。やり直しはできないって言ってたし、仕方ないよ」
試合時間で見ればまだ半分近くを残して終わってしまったのだ。なんて勿体ない。
ちょっと、本気を出しすぎてしまったのかもしれない。
いや、あれでも多少は長持ちさせようと思ったんだ。みんなに六段階目ツリーのお披露目をさせたかったし、対人戦の経験も積んでもらいたかったしな。実を言えば試合を終わらせてしまうようなとんでもスキルは封印していたのだ。これ秘密な。
だが、結果は50分でギブアップだ。ちょっと物足りない気がしないでもない。
「でもあの人たち、前より強くなってたね」
「ハンナもそう思うか? 俺も同じ思いだ。かなり成長していたな~」
思い出してもちょっと顔がニヤけてくる。
サターンたちも、口だけではなかった。ちゃんとAランクギルド相応の実力を身につけていたんだよ。
ギルドメンバー全員が上級職、しかも五段階目ツリーを開放しているなんてなかなかできることではない。
まず上級職を揃えることが大変だ。
じゃあどうやって揃えたの? となるが、なんと〈エデン〉がしている〈リンゴとチケット交換屋〉を利用して集めたと聞いた時は驚いたものだ。
前にセラミロさんから、とあるギルドが〈上級転職チケット〉と〈芳醇な100%リンゴジュース〉を交換しまくっている、という話を聞いたが。まさか〈天下一パイレーツ〉だったとはな。
確かに、あそこは【賊職】の宝庫。レアモンスターの発見からドロップの『盗み』などもかなりやりやすかっただろう。
おかげで〈芳醇な100%リンゴジュース〉を大量獲得して、ギルドメンバー全員分の〈上級転職チケット〉を交換したというのだから本当に凄い。
ふふふ、〈リンゴとチケット交換屋〉をやってて良かった~!
「そういえばハンナも凄かったな。ゴーレムロボの上に乗って操縦するとか、いつの間にパイロットになったんだ?」
「パイロ? よく分からないけど、ゴーレムロボのレシピはゼフィルス君が〈空島ダン〉で見つけてきてくれたんだよ?」
「そうだったっけ?」
〈空島ダン〉は宝箱の宝庫。もう大量に色々ドロップしすぎていつドロップしたかも――ああ、思い出した!
1層のエリアボスのドロップだ!
「でも私もまだまだだよ。結局あの後半壊しちゃったしね」
「ハンナのゴーレムロボを半壊させるとか、〈天下一パイレーツ〉も頑張ったなぁ」
あれ? おかしいな。ハンナは生産職なのに、なぜか〈天下一パイレーツ〉の健闘を称えている気がする。普通ハンナの健闘を称えるものじゃない?
でもハンナ、今回3キルしてるんだよなぁ。相手は純粋な戦闘職だったはずだが……。
おっとそろそろ他のところに回ろう。まずはラナ、エステル、シズ、パメラがいるところだ。
「ゼフィルス! 今日は楽しかったわね!」
「だな! ちょっと早く終わってしまったが、楽しめたようで良かったよ」
「それは仕方がありません。少し、六段階目ツリーを使いすぎてしまいましたから」
「手加減無用の情け無用デース! 〈天下一パイレーツ〉は、結構強かったデース!」
「そういえばパメラは敵将を仕留めたんだったな! お見事だぜ!」
「ふっふっふ、〈東3巨城〉を取り逃した汚名はこれですすぐことが出来たデース!」
おうおう、パメラがドヤ顔だ。
敵将、つまりは〈天下一パイレーツ〉のギルドマスターモニカ。その初戦はパメラが担当し、見事に討ち取ってみせたとのこと。
これは褒めまくらないとな!
ラナも悔しがったり、羨ましがったりするかと思いきや、純粋に「パメラ凄いじゃないの! 私も誇らしいわ!」と主らしいことを言って褒め称えていたよ。
「ラナはどこら辺が楽しかったんだ?」
「やっぱりあのサターンたちを分からせた全員の一斉攻撃ね! あれが一番気持ちよかったわ! リーナったら、とんでもないユニークスキルを身につけちゃったわよね!」
リーナのユニークスキルは本拠地大集合。その威力は絶大。
〈エデン〉メンバーが大集結するのである。結果は見ての通りだ。
実は俺もあれが一番楽しかった。あれだけの六段階目ツリーで一斉攻撃するなんてゲーム時代でもほとんど無かったぞ?
初動の駆け引きとはまた違う凄まじい高揚とした新鮮な気分になったよ。サターンたちには悪かったけど。
また、今回はラナのユニークスキルも光った。
奪われないとか【強欲】の大敵だよ。さすがは【大聖女】。
おかげで【強欲】のユニークスキルの効果も半減みたいなもので、とても楽だった。
「でも、あの【強欲】の子、すごく強かったわね」
「お、ラナもそう思うか?」
「ええ! もし良かったら〈エデン〉に誘ってみたらどうかしら? 〈天下一パイレーツ〉に居るには勿体ないわよ!」
「確かに!」
追い打ち!
負けたギルドのギルドマスターの引き抜きという、さらなる〈天下一パイレーツ〉への追い打ち案を練る俺たち。
だがのちに、「こいつらはあたしが付いてねぇとダメでやがりますからね。とりあえず卒業シーズンまでは〈天下一パイレーツ〉にいるでやがります」と断られることになったのは別の話だ。
ちょっとラナとほくそ笑んでからその場を離れた。
「ご主人様ー」
「教官」
「お、エリサ、フィナ、どうしたんだ?」
「ちょっと不完全燃焼なのよー!」
「姉さまが満を持して発動した大技を、『即死無効』なんかに防がれたのが効いたみたいです」
「私の大活躍の舞台が~!」
「はっはっは! まあ、そういうこともあるさ。それに、俺たちはチームだ。たとえエリサが何か失敗してもすぐに挽回してやる。だから安心しろって」
「きゅん。今、私ときめいた!」
「はいはい。姉さまはいつもときめいてますね」
「え、えへへへへ~」
「あ、今のは言葉の選択を間違えたかもしれません」
励ましたらエリサが照れた。照れ照れだ。なんかちょっと可愛い。ピタッと抱きついてきたので撫でてみる。ちょうど良い位置に頭がある気がするぜ。
するとフィナがすぐに動いてエリサを引き剥がし「教官、ここは任せて先に行ってください!」とかなんかかっこいいセリフを言ってきたので、思わず乗って「ああ。ここは頼んだぞ!」と宣言しその場を離れる。「ちょ、いかないでー!」と叫ぶエリサを振りきって。
あれ? 何をしようとしてたんだっけ?
「作戦勝ちです」
「フィナちゃんの裏切り者ー!」
さて、次はどこに行こうかな~。
「ゼフィルス」
「シエラ! リーナにアイギスも!」
「お疲れ様ですわゼフィルスさん!」
「お疲れ様です。どうぞ、ドリンクをお注ぎしますよ」
「悪いなアイギス」
ちなみにここで飲まれているドリンクの8割が〈芳醇な100%リンゴジュース〉だ。
アイギスが持っていた瓶も然り。う、美味い! 美少女にお酌してもらったジュースが美味ーい!!
「ふう~。3人とも改めてお疲れ様だ。シエラには初動から〈前線〉の守りの指揮をしてもらったし、リーナは俺とともに考えた作戦をみんなに入念に伝えてくれた。アイギスには初動で東側に線を敷き相手の侵攻をしっかり妨げてもらった。みんなの活躍があってこそ、初動はあそこまで優位を取れたんだ。みんなよく頑張ってくれた」
「私はできることをしただけよ」
「シエラさんはクールですわね。――ゼフィルスさんの労いの言葉、とても嬉しく思いますわ」
「これからも頑張りますね」
「クワァ!」
三者三様の反応を見せるシエラたち。アイギスの上には小さなゼニスがクルクル旋回していて、機嫌が良さそうだ。
みんなができることをして初動を励んだ。
まさにみんながそれがしっかり出来たからこそ、あそこまで圧倒的に勝てたと言っていい。
〈九角形〉フィールド。
それは俺がこの世界に来て初めて見たギルドバトル風景。
まるで最強決定戦かの如く鎬を削っていた、あのバトル。
そこに俺たちも立ち、そして圧倒的に勝利した。
なんだか、今ようやく俺の作ったギルド――〈エデン〉が、学園で最強になったみたいな。そんな実感が沸いてきたんだよ。
第三十六章 ―完―




