#1649 〈天下一パイレーツ〉には【四天王】が5人いる
―――『大聖光の無限宝剣』。
これはラナの最強技だ。
空中に現れる宝剣たち、大きさこそ十宝剣のときよりかなりコンパクトになっているが、それでも3メートルはある光の剣。
それがラナの周りに次々と現れ、20本全ての剣先を赤本拠地に向けるのだ。あかん。
「いっけー!」
「こんにゃろー! やってやるですー!」
だがその宝剣も次々進路を変更、もちろんその先に居たのはユニークスキル発動済みのモニカだ。
「頑張ってくださいモニカ! 『本物より本物らしい癒やしの加護』!」
近くにはエリエルもいる。
奇しくも聖女対決(?)が始まった。
片や【大聖女】、片や【偽聖女】。
非常に見逃せない対決。
なお、片やアタッカー、片やヒーラーをしていて同じ舞台に立っていないような気がするが、きっと気のせいだろう。ラナの宝剣は回復なのだ!(断言)
エリエルが継続回復効果のある魔法でモニカを援護。
モニカはドレインシールド系なのでHPが減ったり回復したりと忙しい。
この場合は普通の回復よりも【聖女】系の得意とする継続回復の方が相性がいいかもしれない。むむむ?
そして、宝剣が次々とモニカの防御スキルに突き刺さっていき、それが15を超えたところで砕け、続いてモニカが自前の盾で受ける。
「あだだだだだ!? ちょ、つえーです! こんなのなんて数撃ちまくってやがるです!?」
「モニカ、全部引き寄せられてない! 他のところも被弾してる!」
「! ええい! 気合い入れるですー!」
ユニークスキルで引き寄せているが、モニカの盾にぶつかり弾かれた宝剣が他のところに被害を出していた。
ちゃんと盾で受け止めきらないと、受け流したら宝剣はどっかいって被害が出る。
モニカは足に力を入れてふんばり盾を宝剣に合わせてガンガン防いでいく。
だが、さすがの【大罪】職モニカでもこの全ての宝剣を受け止めるのは無理だった。だって威力が高すぎるんだもん。
受ける度に盾がグラつき、そこにまた宝剣がぶつかってきて、弾かれて宝剣がどっか行く。
たまに味方に直撃してびくんびくんしてエリエルに回復を貰ったりしていた。
そして宝剣が『四宝剣』と『十宝剣』も合わせて34発を撃ってようやく終わりが見えた。
モニカはなんとか全ての攻撃を防御スキルと盾で受けきり、直撃を一発も貰わずHPはまだなんとかなりそうだった。だが、さすがにそろそろ体勢が限界。
32発目でついにモニカが大きく体勢を崩してしまう。
残り2発。これが直撃すればさすがのモニカでもHPはゼロになってしまうだろう。
「モニカ! 『偽物でも愛は愛』!」
「あ、エル――無茶です!」
だがここでエリエルが動いた。
結界魔法を展開しモニカを庇おうとしたのだ。
ここでモニカのユニークスキルの効果も消失。
宝剣の1発はエリエルの結界を破壊して相殺。だが、2発目は進路をエリエルに変え、直撃してしまったのだ。
「エルー!」
「モ、モニカごめーん―――」
エリエルは1発の宝剣で紙の装甲が吹き飛んでHPはゼロ。そのまま〈敗者のお部屋〉へ送られてしまったのだった。
どっちが本当の聖女か対決(?)は、こうしてラナに軍配が上がることになった。
◇
一方こちらは正面。つまり赤本拠地の西側にして、白本拠地から真っ直ぐ、そしてゆっくり侵攻していた部隊。
なぜゆっくり進んでいたのか?
回り込んでいた味方と歩調を合わせるため?
それも間違っていない。だが本当の理由は、このメンバーにAGIが10の子がいるからである。
「いっくよー! 今回ついにお披露目! ゼフィルス君たちが〈空島ダン〉でゲットしてきてくれたレシピから造ったもう1体! ――〈門番ゴーレムロボ〉だよー!」
もちろんハンナのことである。
ハンナがアイテムを投げた途端、一瞬にしてポンッとハジける音と共に巨大なゴーレムロボが出現する。これは〈軍団ゴーレム〉とはまた違う単体ゴーレム。
大きさは実に10メートルに迫り、横幅が広く、今まで作製してきたゴーレムの中でも最も大きい。そしてその頭にはとても大きな王冠を被っていた。
しかもただのゴーレムでは無くゴーレムロボである。
ハンナとアルルの合作にして超大作だ。強いぞ。
ギルドバトルのフィールドに出しておけるゴーレム系アイテムは1体まで。
ハンナは〈軍団ゴーレム〉を仕舞い、〈ゴーレムロボ〉で勝負を決めにきていた。
「なんかやっべぇの出てきたーー!!」
「って、あれハンナ様じゃねぇか!?」
「ハンナ様!? なんで生産職の、というか生産隊長が〈城取り〉に出場してんの!?」
「やっぱあれハンナ様だよな!? 俺さっきハンナ様にやられた気がしたんだが、やっぱ気のせいじゃなかったんだ!」
「え? 生産職にやられたのか!?」
「ハンナ様は強いんだよ!」
「生産職なのに!?」
それはそう。
誰もが一度は思うことである。
でもハンナだもん。
「シャロンさん、お願いします!」
「おっとどっけするねー! 『物見台召喚』!」
「「「きゃー!」」」
近くにはハンナだけではない。他のメンバーも何人か。
その内の1人、シャロンが物見台を召喚し、ハンナ、カイリ、ニーコを物見台の上へと送ったのだ。カイリは出撃2回目。2人のお守り役。
3人を物見台に乗せて10メートルほど上空へお届けすると、シャロンが追加を使う。
「そんで『橋架け』!」
シャロンの〈六ツリ〉『橋架け』は、文字通り橋を架けるスキル。
本来は海やマグマで通れない場所に橋を架け、攻略したり隠し小島に向かうなどができる、非常に使い勝手の良いスキルである。
それを今回、物見台からゴーレムロボの王冠に架けた。
即でハンナ、カイリ、ニーコが王冠に乗り込む。そう、乗り込む!
「いっくよー! 動いて動いてー!」
するとビコンとゴーレムロボの目っぽい部分に光が灯り、ズシーンズシーンと歩き出す。
「な、なにーーーー!? これハンナ様が動かしているのか!?」
「驚いていていいのかなー? アルストリア君とシレイア君合作の焙烙火矢、〈竜檄火矢〉を食らうがいいさー!」
「うーん、これはたまらんよハンナ君。ゴーレムロボの上から撃ち放題だなんて。ぼくは戦闘は好まないが、こういうのはちょっとクセになるかもしれない――『トリガーハッピー』だ!」
「あああああああ!?」
動き出すゴーレムロボの上から放たれるカイリのボーガンと矢の嵐に加え、ニーコの〈六ツリ〉乱射スキルが火を噴いた。
「ちょ、ポリス、回復を!」
「ちょっと待ってくれ! 『ホーリーオーバーヒール』!」
「あ、回復はダメだよー。えっと――あった! 〈モチモチトリネバモチ〉!」
ヒーラーをしているポリスを発見したハンナ。
肩掛け鞄からアイテムを探し出して放り投げる。いつの間にか、投げ方も板に付いてきた様子だ。そして直撃。
「え? うおおああ!? なんだこれ、ネバネバして取れないぞ!?」
「ポリス!? この、『暗闇に染まる剣撃』! ってええええ!? 俺の剣が!? くっついてとれないんだけど!? 俺は【四天王】だぞ!?」
「なんだこの罠!? ハンナ様オリジナルか!? この【四天王】の俺のはかいこうせんでも全部破壊できないんだが!?」
――〈モチモチトリネバモチ〉。
それは文字通り、まるでモチッコのようなモチモチのトリモチで身体を拘束され、動けなくなってしまう罠。
ポリスに容赦無く投げ込まれたボールは突如爆発。トリモチをその場にばらまき、ポリスは身動きが取れなくなってしまう。
もちろん味方の攻撃でもうんともすんともしない。むしろ剣が囚われてしまう始末だ。
これは状態異常扱いのアイテムなので、『キュア』などの魔法を使えば一発で脱出が叶うのだが、悲しいかな。そんなことを知っている人物は〈天下一パイレーツ〉には居なかった。
「えっと、ついでに爆弾もあげるね」
「ちょ、待、待ってーーーーー!?」
「えーい!」
「「「ああああああああああ!?」」」
悲報。
ここで希少なヒーラーであるポリスを含む3名がハンナの爆弾によって退場してしまった。
ハンナ、今回も3キルである。ちなみにうち2人は【四天王】だ。
「あのゴーレム、なんかゴツい見た目だがただの乗り物か!? あれをぶっ飛ばせば乗っているハンナ様を倒す事ができるぞ!」
「ケケケケケ、俺にやらせてくれよ! 【四天王】の1人、この俺があんな玩具、ぶっ飛ばしてやるぜー! 『多段アイス・レイザー』!」
「やらせないんだよ! 『ゴッドオリハルコンランパート』!」
そこで2人の【四天王】の敵討ち(?)をしようとする【四天王】の男子だったが、そこにシャロンが神々しく青白いオリハルコンの城壁を出して簡単に防いでしまう。
「……ケ?」
「あれ? もう終わり?」
シャロンがナチュラルに煽る。
「ケ、ケケケケケ! おもしれー! 全員、総攻撃をかましてやれー! 『ザ・四天王オブはかいこうせん』!」
「俺たち【四天王】がそんな壁ぶっ壊してやる! 『ザ・四天王オブはかいこうせん』!」
「俺こそ真の【四天王】だ! 『ザ・四天王オブはかいこうせん』!」
〈天下一パイレーツ〉には【四天王】が5人いるらしい……。
あとはかいこうせん撃ち過ぎ!
「え、ええっと、やっば。このスキル強っ! 全然壊れる気がしないんだけど!」
ちょっと戸惑うシャロンである。
シャロンの〈六ツリ〉『ゴッドオリハルコンランパート』なる、もう名前からして破れそうにない壁VSはかいこうせん3発。いったいどちらが勝つのか。非常に注目すべきところ!
しかし、結局壊せないまま時間切れで自然にシャロンのスキルが解除された。
結果、シャロンの勝ち。この圧倒的防御力よ。
「ケケ、ケケケ!? 硬すぎんだけど!? だが、消えたからにはこっちの――」
「『オリハルシステム排除ゴーレム召喚』! 『疑似ダンジョンシステムボス召喚』!」
「――ば、ん?」
【四天王】男子の声が途中で失速する。
何せシャロンのスキルの効果が切れたところ、なんかでっかいのが出てきたからである。しかも2体。
「うわー『オリハルシステム排除ゴーレム召喚』と『疑似ダンジョンシステムボス召喚』がすごい~。なんか、見た目超かっこいいんだけど!」
これはどちらもシャロンの〈六ツリ〉。
『オリハルシステム排除ゴーレム召喚』はオリハルコン製のゴーレムを召喚させ、門番のように戦わせるスキル。大きさ10メートル級でハンナのゴーレムと瓜二つだ。
これはスキルで出したものなのでアイテムではない。
加えて『疑似ダンジョンシステムボス召喚』は文字通りボスを召喚するスキル。
つまり、〈金箱〉産の〈召喚盤〉を起動出来るスキルなのである。時間は3分間。
時間制限付きとは言え召喚盤でボスを召喚できるとか、もちろんシャロンの奥の手にして最強技だ。
これにより、シャロンが召喚したのは〈ナダレグランキ〉。あの〈守氷ダン〉のレアボスだった。
ちなみに〈木箱〉産や〈銀箱〉産の召喚盤はこれでは召喚できない。そっちはゼフィルスが使用可能するのを華麗にスルーしているからだ。
全然オーケーである。
「ブオオオオオオオ!」
「こ、このおおおお! やってやらーーーー!!」
「真の【四天王】の座に立つのは、この俺だ!」
「いいえ。それこそが罠ですわ!」
「ケ?」
「『レボリューションセンチュリー』!」
「『トリリオン・レイソード・イグニッション』!」
覚悟を決めて大型モンスターとゴーレムに飛び込まんとした〈天下一パイレーツ〉のメンバーたち。
だがそこへ側面から、このタイミングですわとでも言うように大量の武器の雨が襲ってきたのである。
「うびゃごろおおおおお!?」
「ば、バカな、真の【四天王】が……」
「ケ、ケ、ケケ。マジか、俺以外の【四天王】が退場、だと?」
そして【四天王】男子以外全てが退場してしまう。
前に立っていたのは、当然ノーアだ。だがその周囲には24本もの武器が浮かんでいたのである。
ちなみにその後ろに控えているクラリスには千本の剣が浮かんでいた。
「さあお立ちなさいな! 決着をつけますわよ! この六段階目ツリーの力がどれほどのものか、篤と味わっていくがよろしいですわ」
「いいえお嬢様。もう6人ほど切り捨ててますよね? すでに味わせまくってますよ?」
「クラリスも一緒だったのですから実質3人ですわ!」
「つまりまだ足りないということですか。それなら仕方ありません」
「そういうことですわ! ――『ビッグウェーブデトネーション』!」
「ケ!? うおおおお!! 『バロッシュラッシュ』!」
ノーアが我慢しきれないと言わんばかりに飛び掛かる。
〈六ツリ〉スキル、連続ラッシュ攻撃。
対して【四天王】男子もラッシュ系で応戦する。
だが悲しいかな。ノーアのラッシュは、宙に浮かぶ24の武器も攻撃してくる26刀流だったのだ。そしてその24本全てが〈ヒヒイロカネ武器〉である。
「吹き飛べーーーですわーー!! ヒヒイロの鐘!!」
ゴーン。
「ぐあああああああああ――――」
「――あ、あら? もう終わりですの?」
テンション上がっちゃったノーアの攻撃がクリティカルヒット。
【四天王】男子はついに退場してしまったのだった。




