#1645 リカVSモニカ。来たれ『時代最強ノ姫侍』!
「あ、あれ? サターンやられてない? いや、きっと気のせいだろう。うん、気のせいのはずだ!」
メルトにサターンを任せ、俺はモニカと【偽聖女】の分断に向かったのだが、なんか振り向いたらサターンがメルトの『アポカリプス』の直撃を受けて退場している光景が目に入ってきたんだ。
おかしい、サターンとは後で戦うフラグを立てたはずなのに、一瞬でぽっきりいってんじゃねぇか! いや、気のせいだ。気のせいのはずだ。多分。
とりあえず俺は相手のモニカと【偽聖女】の方に集中する。特に【偽聖女】。
【偽聖女】は偽のはずなのに逆に聖女オブ聖女っぽい姿だった。分かってるじゃないか。
【偽聖女】は【賊職】系で唯一の回復職にしてノーカテゴリーでもかなり上位のヒーラーだ。【強欲】タンクとはかなり相性が良い。あと腕もかなりいいな。モニカだけじゃなく数人、六段階目ツリーを食らってもまるでゾンビのように復活してアタックしている気がする。
あの辺だけ退場者が少ないのはまさに【偽聖女】の手腕だろう。あそこを崩せば一気に決まるはずだ!
となると必要な職業は、よし。居た!
俺はその人物を連れてようやく対峙しているエステルの下へとたどり着く。
「こいつは、もうダメかもしれねぇでやがります」
「あ、諦めちゃダメですよ! モニカしっかり! まだみなさん戦っているんですから!」
「いや、スクリーン見てくれでやがりますよエル。すんごい勢いで味方減りまくってるでやがりますから。あたしの庇える範囲を超えてすでに味方は散り散りでやがります。あと前から勇者さんがきているでやがります」
「それでもです! まだ味方はいます! ――そうですよね、2人とも!」
「もちろんです姫! 僕らが勝利を掴んでみせます!」
「姫のためなら退場する覚悟はできています!」
「……なんであたしは姉御呼びばかりなのにエルは姫って呼ばれてるでやがりますかね?」
モニカの周囲にいる〈天下一パイレーツ〉のメンバーは3人。
他のメンバーは〈エデン〉メンバーが散り散りに追いかけ回し、すでに別のマスにいるのが大半だ。
良い感じに乱戦に持ち込んでいるな。
「『インパルススラストキャノン』! むぅ、ユニークスキル無しではやはり突破はできませんか」
「エステル!」
「ゼフィルス殿! と、リカ殿?」
「うむ。エステル、加勢しよう」
そう、俺が連れて来たのはリカだ。
〈イブキ〉で先程から【偽聖女】を狙って攻撃を繰り返しているエステルのところに俺ともう1人、リカが合流した。
「相手は【大罪】職のタンク。ならば、リカの手が必要だろう。協力して倒すぞ!」
「了解です!」
リカの職業【先陣の姫武将】にはタンクを崩すスキルがてんこ盛りに組まれている。
俺が直接モニカとバトルするよりも効率的だ。というかリカが崩したところに追撃しよう!
これで勝ちだな。
「俺が他の奴らを引きつける。ギルマスは任せたぞリカ!」
「承った!」
俺の担当は取り巻き2人、リカはモニカ、エステルは【偽聖女】と役割分担して掛かる。
「来るか! 姫はやらせん! 『エンシェントトリック』!」
「姉御と姫のため、この身を全て差し出すのだーー!! 『エクセレントアートボマー』!!」
「って取り巻き! 【トリックスター】に【爆発芸術家】かよ!」
取り巻きの2人はなんと支援職系にあたる【トラッパー】の上級職、高の下【トリックスター】と、生産職系にあたる【爆師】の上級職、中の上【爆発芸術家】だった。
両方とも純粋な戦闘職ではないものの、トラップや爆弾アイテムを使う職業たちだ。
一瞬で仕掛けられる罠。そしてその上に蒔かれる大量の爆弾。だが、
「『シャインライトニング』!」
「! 『強欲に奪われたものは返さない』! あんたたち、下がりやがれです!」
俺はそれを範囲攻撃で全てを薙ぎ破壊した。
「んな!?」
「我らの爆弾が! なんという威力の範囲攻撃!」
信じられないとばかりに目を見開く取り巻きたち。
放たれた雷は彼らに届くギリギリの所でモニカが防御スキルで防ぎ、守ることに成功。
だが、防御スキルを発動させたのは失敗だったな。そこに駆けるのは我らが〈エデン〉の侍だ。
「『抜刀術・壊斬大一閃』!」
「は? な――」
ズバンという音と共に防御スキルが斬られ、さらにモニカは大きなダメージを負ったのだ。
これは〈六ツリ〉のスキル破壊攻撃。ブレイク系に近い一瞬の斬撃で防御スキルだろうが攻撃スキルだろうが真っ二つにしてしまう、超ロマンの一撃だ。
当然【大罪】の防御スキルだろうがぶった斬ってしまう。
「モニカ! 『フェイハイヒー―――」
「あなたの相手は私です、『ホーリースラストバースト』!」
「ヤバ! 『偽物でも愛は愛』! きゃあ!」
すぐに【偽聖女】が回復しようとするが、エステルが聖属性の巨大槍を発射。
【偽聖女】はそれを見て一瞬の判断で回復魔法をやめ結界で乗り切らんとした。
だが、さすがにエステルの攻撃は防ぎ切れずに結界も木っ端微塵になってしまう。
「『二刀斬・如法暗夜』!」
「くっ!」
続けてリカの〈闇属性〉斬撃、前方5メートル以内は全て闇に染める勢いで放たれる無数の斬撃にモニカは盾を翳して耐える。
レベルが違えどそこは【大罪】タンク。なんとか耐えることに成功。
「モニカ! 『フィクエクスヒール』!」
「エル!?」
【偽聖女】からの回復魔法が届きモニカのHPを戻した。
だが、それは【偽聖女】最後の支援となる。
「『レード・セーゼ・スラスト』! ――自分を省みずタンクを回復する、見事でした」
「きゃあああああああ」
「エ、エルー!」
自分がやられる寸前なのにモニカを回復した【偽聖女】は、そのままエステルの大量の槍にやられて退場してしまうのだった。
さすがは【偽聖女】。とても聖女な最期だった。
もちろんリカの攻撃はそこで終わらず、刀には〈聖属性〉が宿る。
「『二刀斬・一念通天』!」
左右から挟み込むような斬撃。挟まれた者は〈聖属性〉の斬撃の奔流で大ダメージを受ける一撃だ。モニカは避けられない。
「姉御! 『トリックオアチェンジ』!」
だが、ここで【トリックスター】のトリック炸裂。
なんとここでモニカと【爆発芸術家】男子が入れ替わったのだ。
誰かと誰かの位置を入れ替えるスキル。さすがの俺でもこれを邪魔することは難しい。
しかし、次の瞬間にはなぜか自分じゃなくて【爆発芸術家】男子君がリカに斬られていた。あれ? トリックを使ったの【トリックスター】君だよね?
自分が身代わりになるんじゃないんだ!?
だが、その謎は次の瞬間には氷解する。
「最後にドデカい花火ーーー!! 『芸術は大爆発』!」
「自爆か! リカ下がれ!」
「む! 『残像双・一太刀』!」
【爆発芸術家】男子は自ら斬られることを選んだかのように大爆発を巻き起こしたのだ。『直感』と同時にリカに指示、リカも残像を残して俺の下まで一気に下がって爆発に巻き込まれずに済んだ。
「危な! わざと斬らせて自爆かよ。さすがは芸術家だな~」
間に合わなければ俺の新しい〈六ツリ〉防御スキルの出番だったが、リカは見事に避けきったので出番無し。さすがはリカだ。
俺も目の前でスキルを使って無防備中の【トリックスター】男子を斬って退場させたところで下がり、被害無し。
これで残りはモニカだけになった。
「……ゼフィルス、助かった。だがすまぬ、少し提案があるのだ」
「ほう? 聞こう」
「ユニークスキルの許可を」
ほほう。リカ、やる気だな? リカは続けてモニカとやりたいらしい。
問題は、それで終わりそうなため俺がモニカと対決するのはお預けになりそうな点だが、まあ良いリカに譲ろう。あと1回チャンスはある。
パメラもユニークスキルを切ってモニカを下したと言っていた。
確かにここはアレを切る場面。
「許可する」
「! 感謝するぞ」
そう言ってリカがスッと前に出る。
瞬間、モニカは素早く判断して叫んだ。
「撤退でやがります!」
「逃がさないぞ。来たれ過去の最強侍たち――『時代最強ノ姫侍』!」
モニカが撤退を決めた直後、リカの上級ユニークスキルが発動する。
それは眷属侍の召喚だ。
一瞬のうちに召喚されたのは、どれもリカのように若々しくも強者のオーラをかもし出している姫侍たち。総勢20人ほど。パメラの分身よりも多い。
全員が全員刀を装備し、袴や和装に身を包んでいる。まさに侍装備に身を包んでいた。
そう、リカのユニークスキルはパメラとほぼ同系統の、眷属召喚系だ。
それを見てモニカの顔が少し引きつる。
なにせ、1回目に退場させたのはそのパメラだったのだ。
いくら【大罪】職と言えど数で接近戦を攻められては対処は難しい。しかも相手は格上である。
モニカはすぐに踵を返し、マスを超えて隣マスへ移動。
本来なら追撃はマスの減退を受けて威力が半分にまで減ってしまうはず。
だが、召喚系はマスの減退を受けない。
「蹂躙するのだ!」
「「「「おおー!」」」」
20人の女侍たちはリカの将としての声に応え、全員でマスを超えてきた。
「やっべぇでやがります! 『心身強奪』!」
「リカ、『明鏡止水』だ!」
「む! 『明鏡止水』!」
「!? 乗っ取りが失敗されたでやがります」
心変わりするモニカの『心身強奪』も、姫侍たちには通じない。リカの『明鏡止水』はあらゆる状態異常やデバフなどのマイナス効果を回復してしまう。
一瞬でそれを打ち破ったリカがついにモニカに追いついた。
「〈天下一パイレーツ〉がギルドマスター、覚悟!」
「くっ! 『豪吸覇強盾』!」
苦し紛れにモニカは強力な盾を出す。メルトの6つのアポカリプスと相殺した――六段階目ツリーをも防ぐ盾だ。だが、これはパメラの時に破られている。
故に、少しの間足止めできればよしのつもりで出した盾。だが、
「斬れ!」
「「「「はっ!!」」」」
これはいとも簡単に切り裂かれた。
「――は? はあああああ!?」
モニカは訳も分からずポカンとした。
スキル使ってないのに眷属がいとも容易くモニカの防御スキルをぶった斬ったからだ。だが、驚愕も一瞬。モニカは反射のように次々防御スキルを発動する。
「! 『奪うものは我だけ』! 『強欲に奪われたものは返さない』!」
「全部斬れ!」
「「「「はっ!」」」」
モニカは間髪入れずにどんどん防御スキルを展開するが、全て斬られて消滅してしまう。
「嘘でしょ!? マジとんでもねぇでやがります!」
「うむ。それには深く同意する。すまないが――さらばだ!」
パメラのユニークスキルの分身には、分身もパメラのスキルを使うことが出来るという特殊効果があった。
そして、特殊効果があるのはリカのユニークスキルも同じである。
リカのユニークスキルの特殊効果は――〈防御スキル破壊〉。
つまり、タンクが頑張って防御スキルを展開しても、眷属たちはそれを一太刀でぶった斬ってしまうのである。
そう、防御スキル限定で全て斬ってしまうユニークスキルなのだ。
対タンク最強職業。
これがリカの【先陣の姫武将】。
相手がタンクだった時点で必勝が約束されていると言われた職業である。まさに先陣を切るにふさわしい職業だ。
モニカは結局、リカの猛攻に押し切られ、2回目の退場をしてしまうのだった。




