#1626 試合開始!〈50人戦〉、最後の1人はハンナ!
「ねえゼフィルス君、すっごく今更なんだけど。なんで私がSランク戦のギルドバトルに参加しているのかな?」
「そりゃハンナ、これが〈50人戦〉だからさ!」
「答えになってないよ!?」
試合開始前、〈エデン〉側の控え室ではハンナが小首を可愛らしく傾げて俺に尋ねてきた後、俺の答えにとうとう盛大にツッコんできた。
「前にも説明したとおりだ! 俺たちは49人+〈採集無双〉の面々でいつもダンジョンに入ダンしてきた。〈採集無双〉のサティナさんを入れるか、ハンナを入れるかでもちろん迷ったさ。だがな? やっぱり俺はハンナがいい! ギルドバトル慣れしてるしな!」
「え、えっと、そう言われると照れちゃうかも。うん。ゼフィルス君が望むなら、いいよ。私でよければ力になるよ」
「ハンナ!」
両拳を胸の前に持ってきてフンスするハンナに感動し、俺はハンナの肩に両手を置く。本当は思わず抱きしめたい衝動に駆られたのだが、こっちをジッと見つめている目が多数でさすがに断念したのだ。
「…………」
「ハンナはゼフィルスの言葉に引っかかってるわ。もう完全にゼフィルスに良いようにされてるじゃないの!」
「ですが、ハンナさんはゼフィルスさんの最大の理解者にして、最もゼフィルスさんを支えている方でもありますわ」
「あの純粋さがゼフィルスさんをときめかせるコツ、なのでしょうか?」
シエラのジト目の波動を感じつつ、ラナやリーナ、アイギスが集まってこそこそと話している。
何を話しているんだろう? 4人の目の圧が一段と強いような気がするんだけど、気のせいだよね? でもジト目の波動は大歓迎です!
話を戻す。
そう、実は〈エデン〉が出場するメンバーは、1名足りていなかった。
いつもダンジョンに行くメンバーの数は、49人。
ここに〈採集無双〉が加わる形。
じゃあ残り1名の枠は? となるところ、候補に挙がったのはハンナ、アルル、サティナさんだった。
え? ニーコ?
今回は下部組織も参加有りだから、もちろん〈アークアルカディア〉所属のニーコもメンバーに入ってるさ(強制)。
なんだか昔、ギルドバトルに参加しないから下部組織所属でいい、的なことを言ってニーコは〈アークアルカディア〉に留まったような気がしなくも無いが、今回は下部組織参加型だからね。戦闘メンバーが強制参加は仕方ないね。
そして残り1枠だ。
アルルでも良いんだが、さすがに経験不足感がある。
サティナさんはレベル不足な面があった。いつも〈『ゲスト』の腕輪〉で参加しているため、そのLV、実は35しかない。〈採集無双〉の面々は採集をすることで経験値を得られるためLV60になっているのだが、サティナさんだけは職業の恩恵であるアイテムの使用をあまりしないためだな。
そしてハンナだが、無論LV60だ。
実は〈エデン〉の中で、最初にLV60に至ったのは何を隠そう、ハンナだったのだ。もちろんボス素材を大量に加工したためである。
スキルは生産系しか覚えさせてはいないものの、なぜか戦闘ギルドバトルに深い理解があり、かの〈ギルバドヨッシャー〉戦でも戦果をあげるなど、とても生産職とは思えない実績を数多く残している。
ということで、ハンナを連れてきたのだ。
俺の説得に、ハンナは照れ照れだ。
そしてフンスと気合いを入れて頑張るぞーと言っている。とても良い!
その後、転移され、向こう側の〈天下一パイレーツ〉の面々と並んで挨拶を交わした。
〈天下一パイレーツ〉のギルドマスター、モニカは、なぜかちょっと遠い目をしていたのが印象的だった。はて、どこを向いてるのだろう?
だが、〈天下一大星〉と〈カッターオブパイレーツ〉が合併しちゃったと聞いたときはおったまげたものだが、それをちゃんとした人が率いればここまで進歩するとは。
いや、マジでモニカ凄いんだけど。よく立て直したというか、よくこいつらを纏めたな!? しかも本人は【大罪】職が一角、【強欲】の持ち主だ。
純粋なタンクの性能で言えば【嫉妬】にも勝る、トップクラスのタンクの1つである。
なお、その代わりに【嫉妬】にはあまりにも大罪過ぎるスキルが備わっているため、【嫉妬】の方が総合的なランキングは高いのだが、それはともかくだ。
〈天下一パイレーツ〉をまとめ上げ、ここまで育て上げてきた手腕、俺はモニカを心から尊敬する。
「では始めるよ! 転送してから5分後に開始だ! お互い、悔いのない戦いをしな!」
そしてラダベナ先生の言葉が終われば、ムカイ先生がタブレットを操作して、俺たちは自分たちの本拠地に居た。
はーっはっはっは!
久しぶりの―――ギルドバトルの時間じゃーーーー!
「いよいよギルドバトルが始まるぞ!」
俺は上空のスクリーンに映し出されるカウントダウンを見ながら心の中で高笑いをしつつ、その時がくることを今か今かと待ちわびた。
周りを見渡せばみんなもやる気満々。
すでに作戦は通達している。
みんなもギルドバトル慣れしているので、しっかり遂行してくれるだろう。抜かりはない。抜かりはないさ!
はーっはっはっは!
今回俺が舞台に選んだのは〈九角形〉フィールド。
だって〈50人戦〉だろ? なら、このフィールドしかない。
かつて〈キングアブソリュート〉と〈千剣フラカル〉が戦ったフィールド。
あの時は〈30人戦〉だった。
故に、手が回っていない光景がそこら中にありありと映っていたんだ。
だがそれも仕方ない。
なにしろこの〈九角形〉フィールドはフルバトル、〈50人戦〉を想定して作られているフィールドだからだ。そりゃ手が足りなくもなるよ。
サターンから〈50人戦〉の申し出を受けた時、俺はここしかないって思ったね。
〈キングアブソリュート〉VS〈千剣フラカル〉戦の時は国絡みの目的があったとかで観客席という名の障害物は置かれなかったが、今回は置いちゃう。
真の〈九角形〉フィールド戦だ!
その姿はまさに九角形。その中央付近に約20マスの距離を置いて配置された白本拠地と赤本拠地。
もちろん〈エデン〉が白本拠地だ。これは基本だな。
本拠地は、中央からやや西側に配置されており、巨城は九角形の角がある近く、フィールドの端にそれぞれ配置されている地形。
西側に4つ、東側に4つの巨城。
そしてどちらともつかないのが〈北巨城〉だ。
合計9城。
そしてこの〈北巨城〉が、この〈九角形〉フィールドでは中心となる。
なにしろ他の巨城は命名が難しく、〈北巨城〉に近い巨城から順に、
西は〈西1巨城〉〈西2巨城〉〈西3巨城〉〈西4巨城〉と命名されており、
東は〈東1巨城〉〈東2巨城〉〈東3巨城〉〈東4巨城〉と命名されている。
〈北西巨城〉などではどこの巨城が分からないのだ、だって北西に2つも巨城があるんだもん。それがどの方角を示しても2箇所の巨城を意味してしまうため、〈九角形〉フィールドは数字が採用されている。
真北に近いのが〈1の巨城〉。真南に近いのが〈4の巨城〉だ。
これを呼称するだけで作戦が捗る。
さらに東西で分けていることからも分かるように、〈九角形〉フィールドは西にある巨城は白チームが、東にある巨城は赤チームが非常に取りやすくなっている。
故に〈キングアブソリュート〉と〈千剣フラカル〉戦では、〈北巨城〉の獲得が焦点になった。
自陣側にある巨城4つは確実に自分の物。どちらの手に渡るか分からない1城の取り合いに全力を尽くすのが〈九角形〉フィールド――となるのが〈30人戦〉の場合だ。
だが、今回は〈50人戦〉。別の戦法が組めるのである。
「まずはスタダと同時に全方向、全城を目指す」
そう、人数が居ればそれだけ手が出せる。
取れないなら取れないでいいのだ。
だが、取れるのならば全部の巨城を取るぜサターンよ?
ブザーが鳴り響く。
――――試合開始。
それと同時に、ギルド〈エデン〉は全巨城に向かってダッシュした。




