#1613 ギルドバトルに備えて強化期間に突入だー!
「お待たせいたしましたゼフィルス様。こちらが3月から今までの〈天下一パイレーツ〉の実績の資料でございます」
「ご苦労セレスタン!」
そう冷めやらぬテンションで俺はセレスタンから資料を受け取った。
始業式も終わり、真っ直ぐギルドハウスに向かうと、セレスタンが唐突に、資料をくれたんだよ。おかしいな、頼んでからまだ2時間も経っていないはず。
そもそも始業式の最中にどうやってこの資料を作ったのだろうか?
謎だらけである。
だが、テンションが高まった俺は気にしない。
シュパッと資料を見てみる。
「3月に当時Dランクギルドだった〈カッターオブパイレーツ〉と〈天下一大星〉が合併し、〈天下一パイレーツ〉になったというのは、えっと、元〈カッターオブパイレーツ〉の卒業してしまった先輩から聞いていたな!」
アレには驚いたものだ。
あと、微妙に先輩の名前が思い出せない。この俺が思い出せない、だと?
あれ? 本当になんて名前だったっけ? むむむ。
俺が記憶の底を漁っていると、横から資料を覗いたシエラが読み上げる。
「サターンがギルドマスターを引き継ぎ、4月と5月のギルドバトル活動期にどさくさに紛れてCランクに昇格、いえ、5月にDランクに落ちているわね。それでまた6月にCランクに昇格して、7月にまたDランクへ……」
いや凄い経歴である。勝って負けての繰り返し。さすがはサターンたちだ。
「8月にCランクへ、そして9月では初めてCランク防衛戦で勝利し、その後Bランク戦を挑んでBランクギルドに上がっているのね。――ここからは負けなしで3度の防衛に成功。1月にAランク戦の申請を提出している……セレスタン、この経歴本当なの?」
「はい。学園からいただきましたので」
シエラが非常に疑惑の籠もった目でセレスタンを見るが、セレスタンはそれに頷く。
いや、なんかサラッと言ったけどセレスタン、今とんでもないこと言わなかった?
「どうやら、この方が台頭してきたのが切っ掛けのようです」
「1年生。そして現在のギルドマスターか。あのサターンがギルドマスターを譲るとはな」
「いえ、どうやら乗っ取られたみたいですよ? 11月の話です」
悲報……。
サターン、後輩にギルドマスターの地位乗っ取られる。
でも不思議と納得してしまうのはなぜだろう? サターンならいつか後輩に地位を乗っ取られても不思議では無い。全然不思議では無い。(2回)
「! この1年生の名前、どこかで聞いたことがあると思ったけれど、そう。あの子なのね」
「ん? 知ってるのかシエラ?」
「そうね。こう言えば分かるかしら? このギルドマスターになった子ね、当時の〈キングヴィクトリー〉の主力の1人だった、二つ名〈賊職首領〉と呼ばれていた方の娘さんなのよ」
「〈キングヴィクトリー〉の主力だった人の娘さん!?」
〈キングヴィクトリー〉と言えば、現在の国王様が学生時代に作りあげたギルドで、公式上初めて〈嵐ダン〉を攻略したことで有名なギルドだ。
教科書にも載ってるぞ。
その二つ名〈賊職首領〉と言えば俺も知っている。その職業は【強欲】。
「狸人」である、上級ダンジョン攻略者の1人だった女性だ。
ん? 待てよ?
その娘ってことは、もしかして?
俺の想像が顔に出ていたのだろう、シエラは1つ頷いて答えた。
「あなたの想像通りよ。娘は親から〈無限欲望盾〉を継承しているわ」
「〈天下一パイレーツ〉のギルドマスターって【強欲】かよ!!」
「狸人」の【大罪】職が1つ――【強欲】。
【大罪】職なんだからそりゃ強いわ! そりゃAランクギルドを倒せる自信も湧いてくるというものである。
特にあのサターンたちがすでに勝った気でいるのだ、……いや、サターンたちはいつも勝った気でいるな。それはともかく!
まあ、なるほど。〈天プラ〉があんなに強気だったのも分かるというものだ。
まったくとんでもない仲間を手に入れたものである。
……いや違うのか? ギルドマスターの座を乗っ取られたんだから、ギルド自体が奪われたのか……?
さ、さすがは【強欲】なんだぜ。欲望が留まるところを知らない!
そういえばリアルで【強欲】に会うのは初めてだ。ちょっとワクワクしてきたぞ!
「なんだなんだサターンめ、そうならそうと言ってくれればいいのによ。【大罪】職まで居るのなら楽しいギルドバトルになりそうだ!」
「やっぱり、あなたは喜ぶのね」
「無論だ! なにしろ久しぶりの〈城取り〉だぞ!? ギルドメンバーでの練習試合もやったりしたけど、あれはあくまで練習。俺は本番がやりたかった!」
「そうね。良かったわねゼフィルス」
「おう! こりゃ、〈天下一パイレーツ〉にはなにがなんでも勝ってもらわないと。そして俺たちも来るべきSランク戦に向けて、強化期間に入るぞ!」
「いえ待って。今でも十分過剰な戦力だと思うわ。これ以上なにを強化するというのよ?」
「ふっふっふ、そんなの決まっているだろシエラ? 六段階目ツリーの開放だ!!」
俺たちはこの前〈空島ダン〉を攻略した。
よって現在の〈エデン〉メンバーのレベルは55。
〈空島ダン〉などの上級上位ダンジョンのランク3までは、上限LVが55なのだ。
レアボスを含めればその上限LVは56。
これを〈56エリア〉と言う。ゲームではたまに〈56ダン〉とごっちゃになったりしていたけど、あっちは現在〈上級の狼ダン〉と命名されているので、リアルでは間違うことはないだろう。
そして今まで通りの例で照らし合わせると、
上級上位ダンジョンのランク4からランク6は〈61エリア〉。
ランク7からランク10は〈65エリア〉、となっている。
つまりだ。
「俺はこれからランク4以降のダンジョンに入ダンしようぜと提案する!」
「ランク4以降、ね」
むむ? なんだかシエラが意味深な呟きを。さては信じていないな?
前説明したときも信じられていなかったからなぁ。
いいだろう。理屈でその疑惑を解いてみせるぜ!
俺は解説する。
「これまでの上限LVを踏まえて、ランク4で上級職LV60にレベル上げができるのは、まず間違いない! そして五段階目ツリーが開放されたのはLV30だった。LV30ごとに開放されるのであれば、六段階目ツリーがLV60で開放される可能性は、十分にある!」
「…………」
「それにこれは、最上級ダンジョンの解放条件を満たすことにも繋がるぞ?」
「……六段階目ツリーに最上級ダンジョン。とうとう話に出てきたわね。思っていたよりも近しい存在だったわ」
シエラがなぜか目を瞑って溜め息を吐く。
そう、気が付けば六段階目ツリーと最上級ダンジョンは、間近に迫っている。
六段階目ツリーは上級上位ダンジョンで開放され、上級上位ダンジョンを攻略すれば、次は最上級ダンジョンだからだ。
気が付いたら目の前に六段階目ツリーと最上級ダンジョンが来ていた。
今のシエラの心境はそんな気持ちなのだと思う。
「き、聞きましたですのカグヤ!?」
「き、聞いちゃった。聞いちゃったよサーシャ! なんか始業式が終わってギルドハウスに来てみたら、なんかギルマスとサブマスが揃ってとんでもない話をしていたんだよ!!」
「わ、私も聞いちゃったんだけど、ろ、六段階目ツリー? いったいどうしたらいいのゼルレカ!?」
「あたいに振られても分かるわけないっつうの! つうか六段階目ツリーってマジなんだし!?」
む?
素晴らしいリアクションに反応してようやく周りを見渡してみると、ギルドメンバーがいつの間にか揃っていた。
今日は始業式だけなので、学園はすぐに終わる。午前中で終わる。
故に、このたっぷりとした時間でダンジョンに行こうぜとみんなを誘っていたのだ。
そしてどうやら、今の話はすでにみんなに聞かれてしまったらしいな。
ふはははははは! 俺は立ち上がった。
「みんな集まってくれてありがとう! 聞いての通りだ! 今日の行くダンジョンは決まったぞ! 上級上位ダンジョンのランク4――〈巣多の樹海ダンジョン〉に決定だ! 六段階目ツリーを覚えに行くぞ!」
「「「「ええーーー!?」」」」




