#1571 帰ったら、学園長がギルドハウスにやってきた
その日、俺たちは3層を突破!
4層の入り口に入ったところで帰還することになった。
今回は午前中に終業式があり、上級上位ダンジョンの解放イベントもあって入ダンした時間が遅かったからな。
それに最初のギミック、その法則をみんなに浸透させ、ダンジョンの対策を組み立てるまでに結構な時間を要したため、今日はここで〈転移水晶〉を使って帰還することになったのだった。
「あ、ああ!!」
「出てきたぞ!」
「〈エデン〉のメンバーだ!」
外に出ると、なぜかまだ多くの人たちが出待ちしていた。
君たちダンジョンはどうしたの!? さっさと鍛えてきなさい!
そんなことを思っていたら、統制された集団が寄ってきた。
「〈エデン〉のみなさま、〈秩序風紀委員会〉の者です。ここは私たちが先導いたします」
「ありがとうございます!」
なんてVIPな待遇!?
俺は迷わず代表としてお礼を言った。
その顔には見覚えがある。学園祭の時にどこかで会ったことがあった気がするぜ。
カンナ先輩はさすがにいないっぽいが、どうやら〈秩序風紀委員会〉の方々が護衛をしてくれる模様だ。
俺たちはそのまま〈エデン〉のギルドハウスへと護衛されながら戻り、温泉で優雅に疲れを癒したのだ。
そして風呂から上がると、学園長がやや疲れた表情で待っていた。
「あれ? 学園長?」
「ほっほっほ。ゼフィルス君、上級上位ダンジョンに潜っていったわりに元気そうじゃのう」
「学園長は逆にお疲れに見えますよ!? 大丈夫ですか?」
「え? う、うむ」
「ゼフィルス様、学園長はこう見えて上級上位ダンジョンの解放のために奔走しておりましたので疲れてらっしゃるのです」
「あ、クール、じゃなくてコレットさんも、いらっしゃいませ?」
学園長のクール秘書さんことコレットさんまで同伴していた。
お疲れなら温泉入っていかれます? 疲れが溶けていきますよ?
そう思ったが、その前にコレットさんが話を進めてしまったので譲らざるを得ない。
「細かい部分は省いて、ここに学園長が出向かれたのは上級上位ダンジョンの内容をお聞きするためです。今の所、世界で上級上位ダンジョンに入った経験のある方は〈エデン〉のみなさまだけですから」
「ああ、確かに!」
なんと仕事熱心。もう日は暮れているのに、その日のうちに上級上位ダンジョンの話を聞きに来るだなんて、これぞ教育者の長の鑑だ!
俺も早速今日のボス戦でゲットした〈銀箱〉の装備全集レシピをお土産に渡す。
「あ、これどうぞ。お土産――じゃなかった。献上品です。今日の上級上位ダンジョンでゲットできました!」
「…………装備全集レシピ?」
「ゼフィルス様、そんな今日は生きの良い魚が入ったのでどうぞ、みたいに渡されましても……学園長が固まってしまったではないですか」
「あれ?」
俺が笑顔で渡したレシピを覗き見て、学園長は笑顔のまま固まり、コレットさんは……いつものクール顔でお茶の用意をし始める。
あ、そのいつものティーポット、持ってきたんですね。
というかそうだ、お客様に飲み物すら出してないじゃん。
「セレスタン」
「ここに」
俺の呼びかけにセレスタンがすぐ後ろに控えているなんていつものことだ。
というか一緒に風呂に入っていたので居ることは知ってた。
「例のドリンクをお出ししてくれ」
「畏まりました」
指示を出せば優雅に一礼して下がるセレスタン。
それを見送ると、コレットさんがレシピに一度目を通して、学園長が動かないことを確認して、俺に聞いてくる。
「ゼフィルス様、つかぬことをお聞きしますがボスを倒されたのですか? 装備シリーズ全集は隠し部屋などの特殊な宝箱や、ボスドロップでしか手に入らないのですが?」
「はい! 1層でボスと戦い、撃破してきました!」
「…………そうですか」
「ほほ、っほっほっほっほ」
「ああ学園長またおかしくなられたのですか? こちら熱~いお茶です。目が覚めますよ」
正直に俺が答えると学園長が不意に笑い出した。
きっと俺たちが豪気だとか思って可笑しくなったんだろう。
ふはははははは!!
あ、学園長がそのまま熱いお茶を飲んで――。
「熱っつぁ!? つ、冷たいものを」
「こちらをどうぞ」
「――ごくっ。う、美味ぃっ! こ、これはまさか」
「はい。〈芳醇な100%リンゴジュース〉でございます」
案の定、熱かったらしい。
しかし、そこにセレスタンが例のドリンク。
すでに〈エデン〉では毎日の風呂上がりの一杯となって久しい〈芳醇な100%リンゴジュース〉を差し出していた。
もちろん風呂上がり用のキンキンに冷えたリンゴジュースだ。
「なんと……! そんな貴重な物を……目が覚める美味さじゃった」
「学園長?」
学園長の反応にコレットさんが感情の無い表情で見つめていたのが、面白――いやちょっと怖かった。
「ゼフィルス様もドリンクをどうぞ」
「……ありがとうセレスタン! ――んん~、これだよ!」
相変わらず超美味い!
なんか最近では凄まじい在庫数になっているとかセラミロさんが言っていたので、〈エデン〉では飲み放題になっているレベルなのだが、学園長にとってはまだまだ貴重な品の模様。
セラミロさん曰く、なんかとあるギルドがジュースの入手方法を確立したとかで、週に2、3回ほど〈上級転職チケット〉と交換していくのだそうだ。
そのギルドからもたらされたジュースは、すでに1000瓶に達する勢いなのだとか。
なにそれ? レアモンスターからそんな勢いで入手出来るって、複数の【賊職】でも囲ったのかな?
しかも、〈リンゴとチケット交換屋〉の交換レートはジュース20瓶に対しチケット1枚である。
つまりそれ、交換しているギルドって〈上級転職チケット〉を50枚手に入れているって意味になるんだけど? どんなランクでも主力のギルドメンバー全員が上級職になるレベルじゃん、もしそんなギルドが居れば、ギルドバトルしたいなぁ。
「話を戻しましょう。ゼフィルス様、こちらのレシピ、しかと受け取りました」
「あ、良かったです。それじゃあ上級上位ダンジョン、ランク1、〈幻惑の迷路ダンジョン〉の話をしますね」
「う、うむ。頼むのじゃ。聞くのが怖いがの」
ちょっとビビってそうな学園長。
大丈夫ですって、俺たちもピンピンして帰ってきましたから!
超余裕ですよ!
「俺たちはこのダンジョンのことを、通称〈幻迷ダン〉と名付けました。その理由ですが――」
俺は何枚かの写真を見せながらここがどういうダンジョンだったのかを説明する。
「――そして、俺たちは4層に入ったところで一旦引き上げてきた、というかたちです。明日からは丸1日使えますからね。本格的に攻略に乗り出しますよ!」
「…………そうか」
「たった半日足らずでギミックの法則性を看破、それだけに留まらず効率的な攻略法まで考えつくなんて、相変わらずですねゼフィルス様は」
「ん、ああ。これは攻略も時間の問題かもしれんのう……」
まだ半日ほどのダンジョンアタックなのでこの程度だ。
ギミックはこの先色々組み込まれているからな。まだまだ全然、こんなの序の口だよ。
「しかし、ゼフィルス君の話を聞くに、上級上位ダンジョンは複数のパーティで攻略するようなダンジョン、ということかの?」
「その可能性は大いにあるでしょう。今まで俺たちは、急ごうと思えば〈イブキ〉や〈ブオール〉などで爆走し、高速で攻略することも可能でした。〈謎ダン〉にしても階層門に続くコンソールさえ知っていれば、高速で階層を更新することが可能です。しかし、ここ〈幻迷ダン〉はいくつかのボタンを押してコンソールを起動しなければいけないため、またダンジョンが迷路なため、1パーティだとかなり攻略に時間が掛かります」
これが意味することとは。
つまり上級上位ダンジョンが複数のパーティで挑むことが前提のダンジョンであり、最上級ダンジョンのレイドボスに至るまでに複数パーティを操れるよう練習しておけよという意図でもある。
これまで複数で攻略することが前提と思わせるダンジョンもあったが、オールマイティな職業が揃っていれば1パーティでも攻略は可能だった。
このダンジョンも時間を掛ければ1パーティでも可能だが、かなり時間が掛かり、効率が悪いという仕様になっている。
実はこの先に、1パーティでは通過がほぼ不可能な場所まで出てくるのだ。
複数のパーティを用意しろ。暗にそう言われているのである。
「ふむ。そうなると、現在のDランクギルドやCランクギルドの面々だと、人数的な意味で不利じゃな」
「はい。まるでAランクギルドやSランクギルドが攻略することが前提に作られているようなダンジョンですね」
おっとコレットさん鋭い。
DランクギルドやCランクギルドの人数上限は20人まで。
だが、ゲームでは上級上位ダンジョンに至る頃には最低でもBランクにはなっている。これはゲーム時代の設定だな。まさに、コレットさんの言うように作られているのだ。
しかしリアルでは最近、DランクギルドやCランクギルドもかなり歩を進めてきており、上級中位ダンジョンへの入ダンもいつかは達成できるだろうと言われている。
この調子で邁進し続ければ、いつかは上級上位ダンジョンにも入ダンが可能かもしれない。
その時、人数の関係で潜れない可能性が出てきたのだ。
確かに、最上級ダンジョンともなれば立ちはだかるのはレイドボスだ。
一般人が20人で倒せる? 無理無理。いや、無理じゃないかもしれないがちょっと難しいだろう。
ランクを上げて上級上位ダンジョンに挑めばいい?
いや、そもそもBランクギルド以上がみんな上級上位ダンジョンでレベル上げをしていたら六段階目ツリーが開放されていることだろう。
Cランクギルドに勝ち目は無い。
このことはまだ学園長は知らないはずだが、予想はできる。
学園長はDランクギルドやCランクギルドの人数について考えているようだ。
今はまだ問題ではない。
しかし将来、もしかしたらDランクギルドやCランクギルドの上限人数が引き上げられたりするのかもしれないな。
「ありがとうございましたゼフィルス様。とても貴重な話が聞けました」
「いえいえ。それに、今日はまだ様子見です。これからが本番ですから、もっともっと有益な情報を上げられると思いますよ! 攻略を終えたら纏めていつものように報告書にして提出しますね!」
「そ、そうか。うむ。楽しみに待って、おるぞ?」
「学園長。疑問形になられていますよ。――では、今日はこれで失礼いたします。今日の謝礼についてはいつも通りで」
「承知しました。――セレスタン、頼む」
「畏まりました」
学園長とコレットさんを手を振って見送り、これにて解散。
直後に身体をホカホカさせた女子たちが温泉から出てきた。
ぴったりだったな。
それじゃあ、夕食へ行こうか!




