#1554 溶岩を氷河に変えろ! 5層ボス〈デブ丸〉戦!
「〈氷河砲〉発射ですわー!」
ドーンっと発射された水色のビームが溶岩にシャッと撃ち込まれると、着弾した場所から一気に溶岩が固まっていき、冷気漂うまるで氷河とでもいうような地面に変化した。
「これは思ったよりも爽快ですわよクラリス!」
「よかったですねお嬢様。だからって先を行きすぎないようにしてください」
「それはお約束出来かねますわ!」
「なんでですか!」
先程のドロップ〈氷河砲〉は思ったよりも大活躍していた。
〈鎮火の秘薬〉という名の小瓶を投げるよりも砲撃の方が楽しいとはノーアの弁だ。
でもその気持ち、とてもよく分かる。
「ノーア! 次は俺にもやらせてくれー!」
これは飛びつかずにはいられないだろう! ふはははははは!
「構いませんわ! さあさ! ゼフィルス様の気の赴くままに発射してくださいな!」
「待ちなさいゼフィルス。後輩にはしゃぎすぎた先輩の姿を見せる気かしら? もっと先輩の矜持を持つのよ」
「はっ!」
だが言われて急ブレーキ。シエラの言う通りだ。
いかんいかん! 今は1年生や、最近入ってきた新メンバー4人もいる!
最強にして最高のギルドマスターという夢をここで幻想にするわけにはいかないぞ!
俺はキリッと表情を引き締めた。
「はぁ、さっきからこの調子ね」
「ありがとうございますシエラ様、さすがに私だけではお嬢様とはしゃぐゼフィルス様を止められません」
「クラリスにはいつも苦労を掛けるわ。ゼフィルスのことはこちらに任せて。折を見てあの〈氷河砲〉は別の班に流すわ」
「はい」
んん? なんか今シエラたちの方に『直感』さんが反応したような。
気のせいかな?
なお、この〈氷河砲〉はなかなかに良いものだった。
そういえば砲自体あまり撃つ機会がない。なのにまるでビームの様な砲撃を撃つことができ、さらに命中した溶岩が冷えて固まっていく光景はなんともロマンを刺激される。
ドーンと発射されるこの音と反動、うむ、とても良いものだ。すごく良いものだ!
エリアボスを倒した俺たちの進撃は留まることを知らず、襲い来るリザードマンを対処しながら階層を更新していった。
〈氷河砲〉はかなり人気で、私も使ってみたいという人が続出だったよ。分かる分かる!
だが、おかげでローテーション制になって中々俺の手に回ってこなくなってしまったのは痛恨だった。
もう10個くらいドロップしないかな?
1班1個くらいあった方が便利だと思うんだよ。
そんなことを考えていたら本日の目標、5層の階層門にたどり着いていた。
「守護型ボス、発見だ!」
「うわぁ。なんか強そうだよ!?」
「まだ5層なのに!」
「5層は弱いボスでは無かったのか?」
5層の守護型ボスの見た目にサチ、エミ、ユウカが驚きと訝しんでいた。
その名は〈ロック丸岩ジェネラルリザード〉。
ちょっとツッコミどころのあるお名前だ。
右腕と背中と顔面が固まった溶岩でコーティングされ、その切れ目から赤い火の粉の様なものが吹き出している、大型でまん丸としたリザード系だった。全長で6メートルくらい。
左腕は普通だが、腹はなんか赤いメラメラとした光が発光している。これ絶対火を噴くやつだよ。
まあ、それだけ見たら強そうだよな。
ただこれ、よく見たら〈火口ダン〉の5層の守護型ボスやってた〈デブチンリザード〉の進化系なんだよ。
デブのまんまだ。つまり、なんか強そうに見た目が変わった〈デブチンリザード〉である。
ちなみに通称〈デブ丸〉と呼ばれていた。まあ、戦ってみたら分かるよ。
「今回1班は司令部だからな。誰に頼もうか」
「それなら私たちに任せてください!」
「マシロか!」
「はい! 頑張ります!」
なんとびっくり、今回1班ではなく他の班に撃破を任せようと思ったら、なんとマシロが真っ先に立候補してきた!
意欲と気合いの入った、いいフンスだ。俺、このフンスしたマシロに抗えないんだよな。
「その意気や良し! マシロの8班に任せる!」
「ありがとうございますゼフィルス先輩!」
8班はトモヨ、サチ、エミ、ユウカ、マシロ、の班だ。
ノーカテゴリーや元ノーカテゴリーの集まっている特徴的な班でもある。
うきうきで戻ったマシロをトモヨやサチたちが笑顔で出迎えていた。
「みなさん、やりました~!」
「よくやったわマシロン! 無事ゼフィルス君を籠絡だよ!」
「さすがはマシロンだよ!」
「私たちだとああも上手くはいかないもんね~」
「これで確信したよ。ゼフィルス君はマシロンに甘い」
聞こえてる聞こえてる。ユウカ、そんなことないと、思うぞ? きっと、多分?
はっ! シエラからジト目の波動を感じる! チラッと見たら、シエラがジトッとした横目で俺を見ていた。ひゃっほー!
「8班、配置に付いて。見たことの無いボスよ。警戒を忘れないよう心がけなさい」
「「「「イエス・マム!」」」」
「え、えとマム!」
「マシロは真似しなくていいわ」
なぜかシエラが指揮を執る。
あれ? 俺は?
ラナに『プレイア・ゴッドブレス』を掛けてもらった5人が早速前へ進む。
守護型ボスのパーソナルエリアに侵入すると、ボスがトモヨたちに振り向いた。
「シャアアアアアア!!!」
「来るよ! 『破滅の予告』! 『終わりの予告』! 『始まりの予告』! ってえええええ!?」
「転がってきた!?」
「そう来るの!?」
初手、トモヨの挑発。二手、相手の転がる攻撃。
こいつ、溶岩でその身をコーティングしたまでは良かったが、元々デブで動きが怪しかったために、今回のこれで完全に動けなくなったのだ。
そして移動方法転がるを編み出した(?)と言われている。
いつもならトモヨが問題なく抑えることができる状況。
しかし、今日のサチたちは、なんか容赦がなかった。
「動き、単純すぎ! 家帰すよ!」
「よーし、撃ち返すねーー!」
「トモヨ、横に逸れて――いくよ!」
「「「『神装全開放』! 『神気開砲撃』!」」」
すでに『神装』を纏っていた3人は、あろうことか1発目から『神気開砲撃』を選択。
〈神装装備〉からの恩恵もあり、凄まじく能力値が上昇している『神気開砲撃』は、〈四ツリ〉なのに相変わらず〈エデン〉で最高威力を誇っている。
3人並んだ『神気開砲撃』はそのままぶっ放されてノロノロと転がってくる〈デブ丸〉に直撃!
「シャアアアアアア!?!?」
「返しちゃった!」
「返ってしまいました!?」
そのままゴロゴロと転がせるようにして返してしまったのだ。
いつの間にか『天空飛翔』で空を飛んでいたトモヨとマシロもびっくりだ。
「「「『神装武装』!」」」
「ダウンしたよー! 『神剣・ソードワルツ』 !」
「たたみ掛けるよ! 『神本・フォールフレイム』! 『神本・シャインアウト』! 『神本・フルバースト』!」
「一気に削る! 『神弓・ピンポイントボルト』! 『神弓・24ダート』! 『神弓・フルバースト』!」
「ふわぁ、強いです~!」
「ほんとだね~。ってマシロンも攻撃参加して! 私はヘイト稼がないと! 絶対タゲ変わってるよ! 『敵対予告』!」
「あ、そうでした! 『ルーメン・ハート・シュート』!」
非常に強力なノーカテゴリーたちが上級中位のランク9に君臨するボスをボコボコにしていく。
ちなみにマシロの【ラファエル】はヒーラーだが、当然のように回復魔法以外も覚えている。攻撃魔法とか。INTなんて1000超えてるしねマシロ。
【白魔導師】時代は攻撃魔法なんて覚えておらず、うっかりダウンを見逃しそうになったマシロをトモヨが急かし、攻撃に参加させていた。
1対2枚の翼を広げ、光を収束して、なぜかハートの形をした光線をぶっ放すマシロ。中々のダメージを出していた。着弾してハートの爆発で彩られた〈デブ丸〉よ。
ラナほど理不尽ではないにしろ、空を自由に飛翔し攻撃魔法を降らせるマシロは、やはり〈エデン〉のメンバーだなぁ。
また、トモヨの【ガブリエル】は完全タンクなので攻撃スキルは皆無だと添えておく。その代わり避けタンクと受けタンクのできる回復タンクだが。
ダウン復活! ブレスやらなんやらで攻撃を開始する〈デブ丸〉だが、トモヨには当たらない。『攻撃予測』があるので鈍い〈デブ丸〉の動作だと、マジで全部避けられてしまうんだ。
見た目がちょっと強そうなのに!
もちろん転がるも驚異だが、そもそもヒーラーが空飛んでるのでなんの問題も無い。
結局ボコボコにされまくって一方的な戦いになる。
「シャアアアアア!!!?」
「あ、最後の攻勢だよ!」
「怒りモードだ!」
「トモヨ、カバーを!」
「もう3人とも前に出すぎだよ! 『ガブリエル大加護結界』!」
一方的にサチ、エミ、ユウカにボコボコにされていた〈デブ丸〉もついに怒る。
腹でぐつぐつと滾っていた炎を、その身体から噴射したのだ。
ブレス、というよりも熱波の霧とでも言うべき真っ赤な煙の様なものがサチたちを襲おうとするも、即でトモヨがドーム状結界を張ってサチたちを守った。なお。
「今度は〈五ツリ〉です! 『フォトンノヴァ』!」
〈デブ丸〉の真上に陣取ったマシロが回復魔法そっちのけで攻撃魔法を叩き込んでいた。強力な光の光線が突き刺さる。うん。良いダメージ出してるね。――あ。
「『エルツインバースト』! ――あれ?」
マシロが続いて〈三ツリ〉魔法をぶっ放したところで機能停止。
赤い熱波の霧を出しながら転がろうとしていた〈デブ丸〉は、いつの間にかHPがゼロになっていたのだ。
結局いいところが無いまま一方的にボコられてエフェクトに還っていく〈デブ丸〉。
うん。まだ5層ボスだもん、ノーカテゴリーメンバーでも楽勝だったな!
マシロがだんだんラナっぽくなってきている気がするのは、きっと気のせいだろう。




