#1543 最奥にもう到着!?バルフ相手に古参で挑む!
結論から言うと、〈冥府の番犬・ガルム〉、通称〈ガルム〉戦は楽勝だった。
最初吹っ飛んでダウンしたからな〈ガルム〉。
ダウンから回復しても空から迫り来るゼニスと、それを回避しようと走り回る〈ガルム〉という構図が出来上がり、〈ガルム〉も十分速かったのだが、ゼニスがそれに追いつく速さだったのが一方的な戦闘になった原因だ。
そうなると制空権を取られてはどうしようもなく、上からじゃんじゃん来る攻撃になすすべが無かったのだ。威力の高い攻撃がじゃんじゃん降ってくるってとんでもないことだよ。
今回タンクはリカだったのだが、そんな翻弄されたガルムの攻撃を打ち払うなんて造作もなく、ユニークスキルのカウンターをやってのけてしまったからさあ大変。
徘徊型ボスという、普通ならもう大変危険なボスだったというのに、良いところ無しでアタッカーのアイギス、カルア、そしてラウによって狩られてしまったのである。2パーティすら必要無かった。
特に輝いたダメージディーラーは、やはりゼニスとアイギスだな。
飛行能力がもはや自然な動きというか、完全に翼に頼ってないだろうという挙動で3次元の動きが自由自在で、回避能力や追撃能力が格段に上がっていたんだよ。
スピード系の5班は〈ガルム〉との相性も良かったが、空からほぼ一方的に叩けたアイギスたちが一番ダメージを稼いでいたな。
カルアもラウもかなりダメージを稼いでいたはずなのに、それでもアイギスたちとかなりの差があったのだからヤバかった。
ドロップは当然のように〈金箱〉。
〈獣装ガルムシリーズ全集レシピ〉という軽鎧の全集レシピが当たっちゃったのだ!
はーっはっはっは!
これがゼニス、そして成竜の力だ!
マリー先輩に良いお土産が出来ちゃった!
このまま最奥まで行くぞーーー!!
というわけで翌日!
ダンジョン週間6日目には、最奥のボス部屋に着いてしまいました!
いやぁ、テンションが上がっていると、早いよね~。
「意外に早く到着出来たな! 最奥70層に到着だー!!」
「途中で〈イブキ〉を使って猛ダッシュしたからでしょ?」
「いやぁ、だって絶えずエンカウントするのが面倒になってな」
「私の〈良い夢をごちそう様〉戦法でもクールタイムが落ち着く前に次のエンカウントしてるんだもんね」
「はい。道中はどこかしらのパーティがエンカウントしていましたし、凄まじいエンカウント率でしたね」
「あと空から付いてきてくれるゼニスとアイギスにテンション上がっちゃって」
「それが主な理由でしょう」
うむ。たった5日で70層まで到着できているのは〈イブキ〉を使ったからだ。
計3台の〈イブキ〉、エステル号、ロゼッタ号、アルテ号を使って深い森を爆走。ウルフたちを次々光にしながら進むのは楽しかった。
さらにアイギスとゼニスが空から付いてきていてな、巨樹の樹形の向こうに見える巨大なゼニスの姿にテンションが上がりすぎてドライブしちゃった、というのもある。
だが、これには理由がある。最初は連携を磨くという目的もあって倒していたんだが、あまりにエンカウント率が高すぎて移動速度が凄まじいまでに落ちたのだ。
なにしろ49人チーム。団子になって進むのではなく各パーティでやや距離を取りながら進んだものだから、ちょっと歩けばどこかしらのパーティがエンカウントしている状態というのが多発したんだ。
さすがにバトルしているメンバーを置いて先に進むわけにもいかないから進行は遅くなる。
エリサの〈良い夢をごちそう様〉でもクールタイムが明ける前にエンカウントしてきてスキルが回らなくなるなんて事態もあったほどだ。
さらに幽霊系の〈ゴーストメガウルフ〉や〈ファントムギガウルフ〉なんて登場してしまって。幽霊系には〈睡眠〉も〈即死〉も効かないから困ったものだよ。「もう幽霊ですから効きません!」みたいなノリでエリサを怖がらせてくれたんだ。
怖がったと言えば……シエラだ。
気丈に振る舞っていたんだけどやっぱりダメみたいで、こう言ってはなんだが可愛かった。
ふと袖を掴まれてな、「ゼフィルス、お願い。やっつけて」と幻聴が聞こえた気がしたほどだった。まあ、全部ラナやマシロが『レクイエム』や『天使の鎮魂歌』で光にしちゃったんだけどさ。
だがこのままでは最奥で俺の到着を今か今かと待っている〈バトルウルフ〉を待たせてしまう。(待ってません)
そこでスピードアップを図るために〈乗り物〉を解禁したのだが、テンションが上がりすぎて思ったよりもスピードアップできて、計5日で踏破できたというわけだ。特に後半の速度アップは素晴らしかった。
これもゼニスパワーか。
「ふっふっふ、ついにお楽しみタイムの時間だぜ!」
「最奥ボスをお楽しみタイムと言えるのはゼフィルス先輩だけですの!」
「普通は最奥ボスをお楽しみになんてできないんだよ!?」
俺が腕が鳴るぜみたいなポーズで呟いたら目を丸くしたサーシャとカグヤにツッコまれた。
相変わらず、良い腕してる!
俺は気分がとても良くなった。
「とはいえ、道中のエリアボスも守護型ボスも、果ては徘徊型ボスまで倒しているんですよね」
「徘徊型は可哀想だったわね。ほぼ一方的だったもの」
フィナの言葉にしみじみと頷いて言うエリサだが、口元がニヤついているぞ?
まあ、まさにニヤニヤな展開だったけどさ!
ちなみにレアイベントボスのところには寄っていない。あれ、祠に封印された妖怪狼を解放するイベントをしなくちゃいけないため、さすがに知っているのは不自然すぎるかとスルーしたのだ。おかえり自重さん。
「それじゃあ誰がボス戦やるのか、決めようか! 中にいるのはお馴染みのボスだ! みんな楽しみにしておけよ!」
「まるでなにがボス部屋にいるのか知っているみたいな言い方ね?」
あ、自重さんさようなら。
シエラがうっすらジト目で見つめてきます。ひゃっほう!
いつもならここで伝家の宝刀「勇者だからな」で収めるところだが、ここではその必要は無い。俺は自信を持ってシエラたちに説明した。
「ふっふっふ。予想は付いている。なにしろここは〈上級の狼ダン〉だ! 今まで〈ウルフ〉系のダンジョンでは〈バトルウルフ〉系がボスをしていただろ?」
「あ! 確かにそうね! 初級中位ではバルフの第一形態、レアボスで第二形態だったし!」
「……中級中位では〈バトルウルフ〉第三形態、レアボスが第四形態だったわね。第四形態が最終形態だと思われていたけれど……もしかして」
「シエラの想像の通りだろうぜ。ここは上級中位。今までウルフ系は決まって中位のダンジョンに出現した。そして第一形態から始まり、第四形態まで進化してきている。その法則から考えれば、答えは簡単に出る!」
そこで一旦止め、少し溜めてから俺は断言した。
「ここのボスは〈バトルウルフ(第五形態)〉に違いない!」
バババン!
そんなテロップが後ろに出たのを幻視した。
この宣言にみんながざわめく。
「〈バトルウルフ〉か~。あれって強いから私少し苦手だったんだよね」
「見た目もどんどんおっかなくなるしね~」
「第四形態では首が増えたしね」
サチ、エミ、ユウカの声がよく聞こえる。
似たような反応も多いな。
だが、初期の方から俺と一緒に行動していたメンバーにとってはそうでもないようで。
「バルフの第五形態!! 良いじゃない! 早速蹴散らしましょ!」
「ラナ様、口調が乱れています。もっとお上品な言葉使いにしてください」
「バルフのワンちゃんなのです! ルルがまたいいこいいこしてあげるのです!」
「いえ、危ないのでルルは近寄らないように、危険で獰猛な狼ですよ。しかも首が2つありましたし」
ラナ、エステル、ルル、シェリアのこの余裕よ。
〈バトルウルフ〉が脅威だと欠片も思ってないことが伺えるだろう。
え、シェリア? シェリアはいつものことだから、うん。
「ということで、最初はレギュラーの2年生組から選ぼうと思う!」
「はいはい! 私がやるわ! 立候補よ!」
「ルルも参加するのです!」
「ラナ様が参加するのなら、私も」
「ルルが参加するなら私も参加します」
どうよ? この通りだ。
真っ先に手を上げるラナとルルに、アイギス以降に加入したメンバーはみんな少なくない戦慄を漂わせていた。
うむ、なんかこの学園だと〈バトルウルフ〉ってかなりの脅威ってイメージらしいんだよね。
間違ってない。〈バトルウルフ〉は強いモンスターだ。ただ、何度もバトルする関係で行動パターンが割れまくっていて、プレイヤーからすると慣れ親しみ過ぎてしまっただけである。
そして、メルトとミサトが加入した辺りまで、〈エデン〉は〈バトルウルフ〉を狩りまくっていたからな。慣れちゃってるんだよね。
そんな訳で、今回は入学1ヶ月以内に〈エデン〉メンバーになった14人のうちから選出させてもらおう。
そう宣言すると、シエラが懐かしむように呟いた。
「なんだか、このメンバーで最奥ボスに挑むメンバーを悩むのは懐かしいわ」
「ん。分かる。懐かしい」
「うむ。あの頃はなにかと新鮮で毎日が驚きの連続だった。……まあ、今もなのだが」
シエラの言葉に頷くカルアとリカ。まあ、リカは言葉の途中で迷走してたけど。
「まずはタンクを決めないとな。シエラ、やってくれるか?」
「もちろんいいけれど――リカはいいの?」
「ああ。懐かしいな。そういえばあの頃はタンクとして〈エデン〉を支えていたな」
そうだな。あの頃は盾受けタンクがシエラしか居なかったので、リカがパリィ受けタンクをしていたんだ。
今もたまにタンクをしているが、盾受けタンクが充実してきた今ではアタッカーに回ることが多くなったからな。
リカの呟きが興味深かったのか、クイナダや後から〈エデン〉に加わってきたメンバーがリカを囲ってしまった。
そんなわけでタンクはまずシエラに決定と。
「続いてヒーラーだが、ラナ、頼む」
「ふふん! まっかせなさいよ!」
「たはは~、ラナ殿下、頑張って!」
続いてヒーラー。これも懐かしいな。あの頃はラナとミサトしか純粋なヒーラーが居なかったっけ。そう、あの頃はラナも純粋なヒーラーだったんだよ。
え? 今はって? 今のラナも、ヒーラーだよ? ちょっと純粋とはほど遠くなっちゃったけど。
こほんごほん! ラナがすごくやりたがっているので、ここはラナに決定だ。
「続いてアタッカー。俺は決定としてルルと、あと1人だな」
「やったのです! あのときよりパワーアップしたルルの攻撃を味わってもらうのです!」
ルルが片腕をあげてやる気を顕わにしていた。その後ろで口に両手を当てて感動しているシェリア。いつもの光景だ。
さて、立候補はエステルとシェリアか、どっちを入れようか?
「よし、エステル、頼む」
「はい。承知しました」
「そんな!」
「シェリアは錯乱してるからダメ」
「ゼフィルス殿、それはブーメランではないでしょうか?」
……なぜかシェリアに言い返されてしまった。いったいなぜ?
まるで俺が錯乱しているみたいじゃないか。そんなことないよな?
なぜか近くに居たカルアが俺を見て「おまいう?」と首を傾げていたが、聞き違いのはずだ。
こほん、こうしてメンバーの選出は決まった。
「うーん、久しぶりのバルフ戦ね! ドキドキするわ!」
「ルルもなのです! どれだけ成長してるのか、ちょっと楽しみなのです!」
「お二人とも、集中してください。相手は上級中位のボスですよ」
「先頭で私が入るわ。気を引き締めていくわよ」
「エステルとシエラの言う通りだな。ラナもルルも気をつけてくれよ」
「分かったわ!」
「了解なのです!」
いくら慣れ親しんでいるとはいえエステルとシエラの言うとおりここは上級中位のボス。ちょっと緩んでいて心配だったが、ラナとルルもしっかり気合いを入れ直していた。
そして俺たち5人は、他のメンバーに見送られながらボス部屋の門を潜った。




