#1541 アイギスはゼフィルスの心を奪っていきました
〈上級の狼ダン〉を攻略する俺たちは、もうズンズン先へと先へと爆進していた。
「待っていてくれよマリー先輩。最っっっっ高の素材を持っていってやるぜ! ふはーっはっはっは!! これでみんなの装備も大量獲得だ!」
「……今度からマリー先輩のところにゼフィルスを1人で向かわせるのはやめた方がいいかしら?」
「マリー先輩も怪しいのよね」
「いえ、あれはゼフィルスさんが一方的にマリー先輩を大好きなだけなのでは?」
「マリーさんと居るときのゼフィルスさん、すごく楽しそうなんですよね」
現在〈イブキ〉に乗車中。攻略を開始してから3日が経っていた。
昨日のマリー先輩のリアクションは、また良いものだった。
それを思い出した俺がテンション高らかに笑い出すと、なぜかシエラ、ラナ、リーナ、アイギスが集まってこそこそ相談していたんだ。とっても真剣な表情だ。徘徊型ボスを警戒しているのかもしれないな。(全然違う)
ここはすでに50層を超えて現在53層。深層と呼ばれている区域だ。
つまり、いつ徘徊型が襲ってきてもおかしくはない。
1日目、2日目と順調に進んでいた俺たちだったが、早く〈バトルウルフ〉と戦いたい欲が勝りすぎて結局〈乗り物〉を採用。
ここは深い巨樹の森ではあるが、なぁに、上級下位の〈山ダン〉の時とそんなに大きく変わらない。
つまり極太根っこの道などができているのだ。その上を走ったりすれば〈乗り物〉でも通行可能だ。
〈イブキ〉なら木の上を走るという手も使えるしな。
まるで傘のように広がった巨樹の樹形。その上を〈イブキ〉で爆走するのは、とても気持ちが良かった。
何しろモンスターとエンカウントもしないし、マジでちょっと凸凹な道を走っている気分だったんだよ。
まあ、真下が木の葉だらけで階層門が全く見えない、分からないという理由によって即却下されたんだが。
また、今まで俺たちがお世話になってきた〈イブキ〉の超速攻略にも、大きな問題が発生したのだ。
〈イブキ〉は16人乗り、現在のメンバーは新メンバーが加わって49人になった。
つまり、3台でも溢れてしまう問題が出てきたのだ!
じゃあどうしたのかというと、2つ案を提示して、両方が採用された。
まずここのダンジョンでも〈イブキ〉同様に悪路や根っこに登って爆走できる〈乗り物〉として、ミジュの〈クマライダー・バワー〉が採用された。
〈イブキ〉3台と〈クマライダー・バワー〉で突き進むことになったのだ。
そしてもう1つが、〈イブキ〉4台目の導入である。
つまりはロゼッタ号復活だ。
ここでは道が無く樹木の根っこだらけの悪路ということで〈ブオール〉が進むには不向きだ。そこで俺は以前から〈彫金ノ技工士〉のタネテちゃんに作製を依頼していた〈イブキ〉を導入するに至ったのである。
「まさか再び私の〈イブキ〉が帰ってくるとは……。アルテさんが大事に使ってくれていたというのが伝わって来ます」
「もちろんロゼッタ先輩から受け継いだ〈イブキ〉ですもん。乗らないときも大事にしていましたとも! それはそれとして、私が新車をもらっていいんですか!?」
「はい。私にはこの子が一番合っていますから」
俺はその時のことを思い出す。
こうしてアルテに受け継がれた元ロゼッタ号は、再びロゼッタの手へと戻ってきた。そしてアルテには新車の〈イブキ〉が与えられたのである。
ロゼッタはやっぱり〈イブキ〉を手放すのが寂しかったみたいで、とても嬉しがっていたんだ。
アルテも新車、つまりは新アルテ号を得て、とても嬉しそうにしていたからな。
こんなことなら最初から4台目を作製すれば良かったと思わなくもないが、当時はケンタロウの手も空いてなかったし、タネテちゃんの成長を待っていた形だな。
素材は、新メンバーのゼルレカたちを攻略させる際に〈嵐ダン〉のレアボスを狩ってきたのでそれでOK。16人乗り用の〈イブキ〉4号、新アルテ号、通称アルテ号がめでたく先日完成したのである!
「うん! ロゼッタ先輩の〈イブキ〉と遜色ない素晴らしい性能です! とても1年生が作ったとは思えません!」
「タネテちゃんも凄まじい成長速度してるからなぁ」
運転してみた結果、アルテも新車に大絶賛だった。
なお、そのタネテちゃんはこの〈イブキ〉完成を機に何かを企画しているようで、「数日後にまた来てください。あっと驚かせてみせるです」なんて言葉を頂戴している。
近々行く予定だ。
俺を驚かせるとか、とんでもないことだよ?
何を企画しているのかとても楽しみである!
そうして現在、エステル号、ロゼッタ号、新アルテ号にミジュクマ号を加えた4台で巨樹の森を爆走中である。
アイギスがこっちの〈イブキ〉に平和そうに乗っているのはそういうわけだ。運転の交代要員だな。
そんなことをしみじみ思い出していると、アイギスたちのところに動きあり。
「私に任せてください。ゼフィルスさんの気を引いてみせます」
「むむむ……アイギスだけに任せるのも。でも今のマリー先輩のことで頭いっぱいのゼフィルスは、目を覚まさせる必要があるわね」
「分かったわ。アイギス、お願いしていいかしら?」
「はい! 大丈夫です。私に勝算があります」
「任せましたわアイギスさん。ゼフィルスさんの気をこっちに取り戻してくださいまし!」
「いきます」
お? どうやらアイギスたちの話は終わったらしい。
他の3人が見守る中、アイギスが代表で近づいてくる。
アイギスだけがこうして近づいてくるのはすごく珍しい。
「どうしたんだアイギス?」
「はい。実は、ゼフィルスさんにお聞かせしたいことがあるのです。重要情報です」
「ほう?」
アイギスがこんな溜めるようなセリフを言うなんて本当に珍しい。
俺の気は一気にアイギスに引かれた。そしてアイギスから放たれた言葉は、俺の意識を持っていくのに十分な威力を持っていたのだ。
「ゼニスが、そろそろ進化しそうです」
「なんだってー!!」
重大情報だった。
さっきから「〈バトルウルフ〉を早く狩りまくってマリー先輩に毛皮をお届けしなくっちゃ!」と考えていた俺の脳内にズシンと衝撃と共に入ってきて、マリー先輩のことがスポーンと頭から飛んで行ってしまう。
「ということは、LVが既定値に!?」
「はい。あと1で既定値に届きます。おそらく、この深層で何回かボス戦をすれば進化出来そうな気配です」
「こうしちゃいられん! すぐに周回だ! エリアボスを周回するぞ! 〈フルート〉の準備だ! ――エステル、東へ進路を変更だ!! 巨樹の無い開けた地形に誘い込むぞ!」
「はい!」
「さすがアイギスがあれほど言い切っただけあるわ。ゼフィルスを見事に切り替わらせたわね」
「まったくもう、キリッとした真面目なゼフィルスモードになっちゃって、いつもああならいいのに!」
「それがゼフィルスさんですから。ですが、予想以上の成果でしたわね」
そこから先は展開が早かった。
何しろ、我が〈エデン〉唯一の〈竜〉。ゼニスがもうすぐ進化するのである。
これは真っ先に済ませなければならない! 俺たちみんなが見ている前で進化してもらわないと!
今まで〈聖竜の若竜〉だったゼニスも、ついに若竜を卒業だ!
その意気込みを持って〈フルート〉を吹き、エリアボスを周回しまくる。
「クワァ!」
「そこですゼニス! 『ドラゴンブレス』!」
「ウワオン!?」
ここ、53層のエリアボスである〈ホワイライト・テラウルフ〉がゼニスの『ドラゴンブレス』によって何度目かの光になる。
宝箱も来てウハウハだ!
そして5回目の周回の時。
ついにそれは来た。
「! ゼニスのレベルが上がりました! 進化可能です!」
「ゼニスの進化キターーーーーー!!」




