#1531 2人で黒猫と戦う事になっちまったが、問題無し
一方で黒猫の方はというと、ゼフィルスが受け持ち、ゼルレカがデバフを稼ぐという方法でだいぶ良い感じに戦闘を進めていた。
それどころか。
「ゼルレカ、あまり回復エリアを意識しすぎるな! 敵が入って来たら迷わずエリアから出て回避行動を取るんだ!」
「! わかった!」
ゼフィルスの指示により、『エリアヒーリング』からダッシュで飛び出すゼルレカ。
その後に黒猫がズドンと着地し、バルコニーに蜘蛛の巣状の亀裂が入る。
そう、ゼルレカを指導する余裕まであるゼフィルスである。
「おっと、俺のHPもちょっと危ないか。『オーバーヒール』!」
「たく、タンクしながらヒーラー役もこなしてさらに司令塔って、あたいらのリーダーは色々できすぎだろ!」
「はーっはっはっは! そう褒めるな、いややっぱり褒めろ! もっと褒めていいぞ!」
「どっちだよ!」
「ニャアアアア!」
自分のHPをオーバー回復してマージンを取りつつ冗談を言う姿に、ゼルレカは強気に返しつつもどこか安心感を覚えていた。
戦闘開始からすでにそれなりの時間が経過している。
にもかかわらず未だにキキョウたちがやってこない。
それどころか真下でドカドカビリビリと聞き覚えのある音が響いてくるという状況。
普通ならレアイベントボスを相手にたった2人で相手をするなんてできない。
それを実現するには最低でも優秀なタンク役とヒーラーは欠かせないだろう。
だが、ゼフィルスはそれを1人で実演していた。
おかげでゼルレカはフリーでアタッカーをすることが可能で、どんどんデバフを叩き込み、今や黒猫には大量のデバフが蓄積していた。
「よし、十分弱体化しているな! ゼルレカももう少しダメージを負ってみろ、上級中位ダンジョンのボスに『ブラッド』系が試せる良い機会だぜ! おっと『ディフェンス』!」
「くっ、簡単に言ってくれるぜ!」
黒猫の強力な鉤爪と立体的アクロバティックな攻撃の嵐に見舞われているにもかかわらず、そのほとんどを回避。一発『ディフェンス』を合わせて防御勝ちして弾くくらい余裕を見せるゼフィルス。
「『フィニッシュ・セイバー』!」
「ニャアアア!」
さらに反撃まで叩き込んでいるというのだから呆れる強さだ。
自分があの中で共に斬り合うとか全然想像できないゼルレカ、むしろゼフィルスのあの神回避の邪魔にすらなってしまうのではないかと足がすくむも。
「ええい、女は度胸だ! うおおおりゃあ――『怠慢と堕落の剣』! 『惰性と堕弱の一撃』! 『脆弱と漫然の一閃』!」
ゼルレカは覚悟を決めて再び激しい戦闘を繰り広げているそこへと飛び込んだ。
三撃の〈五ツリ〉デバフを叩き込み、デバフ期間を延長、さらに相手のステータスを落とし込む。
「いやぁ、相手が鈍くって助かるわ! もう全然避けられる!」
「これを鈍いって言えるとかどうかしてるぜ! ってのわぁ!?」
会話していたら範囲攻撃の直撃を食らうゼルレカ。思いっきり直撃してしまいひやりとしてHPを見ればダメージは300といったところ。
HPが2500近くのゼルレカからすれば1割ちょっとというダメージだ。
しっかり攻撃力デバフが効いていることにホッとしつつ、自分の能力が上がっているのを感じるゼルレカ。
ゼルレカの【怠惰】の下級職、【ハイニャイダー】はダメージを受ければ受けるほど能力を上昇できる、『ブラッド』系のスキル持ちだ。
そのユニークスキル『ハイニャイダーブラッドブースト』はパッシブでノックバック耐性を持ち、ダメージを受ければ受けるほどスキル威力が増すという能力を持つ。
さらにパッシブスキル『ブラッド・ハンター』も同じようなもので、これはステータスが上昇する効果を持つ。
これらを使い、ダメージを負いながら戦うのが【ハイニャイダー】の戦闘スタイルなのだ。
ちなみにこれらはHPを回復しても維持されるので、ダメージを負って回復、ダメージを負って回復、という行動でどんどん威力とステータスを上げることができる。
かなり強力な能力だ。
「いくぞゼフィルス先輩! 回復は任せた――『ブラッディニャキル』!」
ゼルレカの〈三ツリ〉スキル『ブラッディニャキル』はいわゆる『ライフバースト』系。自分のHPにダメージを受ける代わりに特大威力の攻撃が放てる強スキルだ。『ブラッド』系と凄まじく相性が良く、これでも能力が上昇する。
ズドンと斬る!
「ニャアアア!」
あまりのダメージに警戒したのか、思わず防御スキルを使いゼルレカの方を向く黒猫に、ゼルレカはさらに一歩進んでたたみ掛けた。
「防御なんて効くかーー『血ニャ鉄剣』!」
「ニャ!?」
ズバンッと防御を貫通して一撃。
『血ニャ鉄剣』も自分のHPにダメージを負う『ライフバースト』系。だが威力に換算するのではなく、防御スキルの貫通を主眼に置くスキルだ。
せっかく防御していたのにドバンとダメージを受けて困惑の表情の黒猫。もちろんそんな隙を逃さず。
「おっしゃ、そこだー『聖剣』!」
「うおおりゃあああ――『レイジー・バスター』!」
「ウニャウ!?」
2人が強力な攻撃を叩き込む。
『レイジー・バスター』はゼルレカの持つスキルの中で最も強力な〈五ツリ〉のスキル。放つ距離が短ければ短いほど威力の上がる『バスター』系だ。
その直撃を受け、黒猫は思わずダウンしてしまう。
「おっしゃ総攻撃だーーーー!!」
「うおおおりゃあああああ!!」
なんか、2人だけで勝てるんじゃないかというレベルのボッコボコだった。
そこへついに後続の3班が追いつくが。
「ええー、なんかゼフィルス君がボスを圧倒しているように見えるんだけど」
「わたくしにもそう見えますわフラウさん」
「うふふ、いつものゼフィルスさんでしたわね」
「あ、カタリナが猫かぶりモードになりました」
フラーミナ、リーナ、カタリナ、ロゼッタはキャットタワー内部の階段を上り、ここまで追いついてきたのだが、なんかゼフィルスたち、助けがいらなさそうな予感に思わず足が止まってしまったのだ。
だが、ヒーラーのマシロだけは別で。
「あ、大変です! またゼルちゃんはブラッドを使ったんですね! 回復しちゃいます! 『エクストラハートヒール』!」
「あ? マシロか!?」
「はい。助太刀に来ました!」
そう、回復魔法を飛ばし、両手を胸の前に持って来てフンスするマシロ。
相変わらずの良いフンス。って、見る暇ないけど!
ちなみにマシロとゼルレカはさらに仲良くなったためか、最近はマシロもゼルレカのことをゼルちゃんと呼んでいる。
「待ってたぜ。さすがに2人だと……あれ? 問題、なかったな……」
「あ、あの子も順調にゼフィルス化が進んでいますわ」
「ゼフィルス君と2人だったか~。そりゃ進行が速かったかも」
「な、なんて羨ましいのですかあの1年生!」
「カタリナ、カタリナ、猫剥がれてます。一瞬で剥がれ落ちてますから」
2人でボス戦という絶望的状況(?)にようやく後続が追いついて安堵するも、なにかおかしくないか? と首を捻るゼルレカ。
なにとは言わないが、とても順調そうだった。
「ゼルレカ! デバフ延長してくれ! ロゼッタ、ヘイトを頼む! 結構稼いじゃってるから念入りにな!」
「あ! はい! ロゼッタ、戦闘に入ります!」
「あ、私も援護いたしますわ! 『決戦兵砲・ノヴァブレイカー』!」
「! ニャアアア!」
「あ、逃げようとしてる!」
「逃がしはしません――『多重操聖琴結界』!」
「ニャアア!?」
「おおー! さすがだカタリナ、ナイス!」
「はわ! やりました!」
このキャットタワーの主は人数が増えてきたりすると離脱したり、飛び降りたりしてタワーを駆け回る、通称〈エリア移動〉をしてくる。
だが、カタリナの結界で逃げ道を塞ぐことでこれを防いだのだ。
ゼフィルスにナイスと言われ一瞬で気分が高揚するカタリナ。
そこへリーナが追撃の『殲滅兵砲・エクスプロージョンノヴァ』で黒猫を撃ち落とす。
「ニャアアア」
「あら、ずいぶん遅い猫さんですわね。そんなジャンプでは撃ち落とせと言っているようなものですわ」
「やっぱ〈エデン〉にとってアレって遅いになるのかよ。全然速いんだが」
「ゼルちゃんファイトですよ! 私が回復してあげますから、どんどんライフをバーストしてパワーアップしちゃってください!」
「ええいやったらー!! 『働くな斬り』!」
まだ〈エデン〉のノリに困惑するゼルレカだが、マシロにいつもの励ましを受けて猛ダッシュ。素早さと移動速度を下げる〈五ツリ〉のデバフ斬りでさらに効果を延長する。また、『働くな斬り』には〈睡眠〉と〈気絶〉を与える効果もあるが、こっちはレジられた。しかし、問題は無い。
「いっけーリーちゃん、ぶっ放して! ぺーちゃん、ヴァイア、突撃だよ!」
「―――!」「ブルヒヒーン!」「リヴァアアアア!!」
ここでフラーミナの大迫力モンスが一気に参加する。
リーちゃんは天使の輪を煌めかせながら魔法をぶっ放し、そこへぺーちゃんが猛ダッシュで突撃。それだけでは終わらず、ヴァイアまで突撃して追撃のダメージを与えた。
「『天守護の盾』! ゼフィルスさん、代わります!」
「おっし、頼んだロゼッタ。攻めに出るぞー!」
「ニャアアアア!」
「おっと、こいつ自己バフかけたぞ。ゼルレカ、オフってやれ!」
「おう! 『やる気スイッチ・オフ』!」
「ニャ!?」
ゼルレカがなにかのスイッチを押すようにビシッと指を向ける仕草をすると、なんとそれだけで黒猫のバフが消えてしまったのだ。
つまりは『いては』系。なんと【怠惰】は相手のやる気を下げてバフを消す事が可能なのだ!
相手のバフを消してしまうなんて、なんて罪深い!
さすがは【怠惰】の大罪だ!
「ここからが本番だな! 行くぞーー! カタリナ、こいつを逃がさないでくれよ! さらに白猫が途中で飛び込んで来るかもしれん。そっちも警戒だ!」
「承知しました! ロゼ、カッションを!」
「はい! 『ヘブンズナイツカッション』!」
ロゼッタが奇襲警戒スキルを発動。これで全員がなにかの奇襲があった場合気がつけるな。
「白猫の方のキキョウたちが心配だし、そろそろ終わりにしようか!」
「あ、そっちはシエラさんたちが抑えてたよ。向かいの塔のバルコニー」
「マジ? じゃあ安心だな。こっちの黒猫に集中できるぜ!」
ここで朗報。フラーミナたちが来る時、白猫をシエラたちの2班が抑えていたという情報を得たゼフィルスは、まるで水を得た魚のように……いや、さっきから活きが良かったかもしれないが、さらにパワフルになってデバフ満載の黒猫に飛び掛かっていったのだった。
そして、ツインズボスは結局合流することもなく、打ち倒されてしまうことになる。
「って、もうツインズボスのHPが無くなりそう!?」
「おっしゃトドメだーーー!! 『フィニッシュ・セイバー』!」
「ニャ!?」
ゼフィルスの『フィニッシュ・セイバー』が直撃し、HPがゼロになってしまったのだ。




