#1529 〈白猫〉VSアリス・キキョウ・アルテ1年生組
「ニャゴン!!」
「えーい! 『お社様降臨』!」
「ニャッフン!!」
「きゃあ!?」
ゼフィルスたちが戦っている下のバルコニーでは、〈聖獣ペガサス〉に乗って昇っていたキキョウたちに、隣のキャットタワーにいたはずの白猫が飛び込んで来ていた。
咄嗟にキキョウが〈三ツリ〉の小さなお社をタンク代わりに召喚するも。
ネコパンチによって即で粉砕されてしまう。とんでもないネコパンチだ。
これが3パーティ分のハンディがついた威力である。
もちろんそこで止まらずキキョウたちにもネコパンチを食らわそうと飛び込んで来る。しかし。
「わ、わわわ!」
「ヒヒーン!!」
「猫さん『あっちいってててて』!!」
「ニャアア!?」
ここでアリスの無理矢理距離を離すスキルが発動。
電磁石のS極とS極のように反発し、弾かれるように距離を取る。
おかげでなんとか落ち着くことが出来た。そこへヒナに乗ったアルテがキャットタワーをまさかの垂直駆けして追いついてくる。
「あれ!? キキョウちゃん、アリスちゃん!?」
「アルテさん。ここでボスに襲われました!」
「お兄ちゃんのところ行こうとすると襲われるの!」
「分断されたってことですか!? ツインズにこんなボスが居るなんて」
ここのレアイベントボスは、まさかのツインズ。
しかもHPは共有しているくせにヘイトやその他のものは共有しておらず、別々に単独行動を取ることが可能という特異な特性を持っている。
そのため、こうして黒猫の援護をする形でキキョウとアリスに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「塔を上ってきているシエラ先輩やリーナ先輩たちが追いついてくるまで相手します」
「猫ちゃん覚悟だよ~?」
「わかりました。ゼフィルス先輩なら大丈夫でしょう。私もここで相手します!」
このままでは上へ向かえないと感じたキキョウとアリスが〈聖獣ペガサス〉から飛び降りてバルコニーに立ち、構える。
アルテも白猫と戦う構えだ。初の1年生3人によるレアイベントボス戦が幕を開ける。
もちろんキキョウたちも、3人だけでなんとかできるとは思っていない。
後続のリーナやフラーミナたちがすぐに追いつくだろうという希望があるから立ち向かえるのだ。
「最初から全力で行きます――『大お社様ご光臨』!」
最初に動いたのはタンクのキキョウ。
発動するのは下級職のユニークスキル、『大お社様ご光臨』だ。
先程の小さな社とは比べものにならない、大きなお社様が出現し、白猫に向けて扉を開く。
「ニャアアア!」
「『悪いものは社へ』!」
白猫が「そんなものに気を取られないニャ」と言わんばかりに迂回してくるが、キキョウはここで社を第二のタンクにする引き寄せスキルを発動。
白猫は「なんか気になってきたニャ」と言わんばかりに方向転換して社にネコパンチを食らわせる。
ズドン。
凄まじいビリビリとした衝撃が空気を揺らした。とんでもないネコパンチである。
「ヒナ、隙を突いてダメージを与えるよ! ダッシュ!」
「クー!」
「今『クリティカルスマッシュ』!」
そこへヒナが強力なキックをぶちかます。
共有しているHPバーが少しだけ削れた。本当にほんの少しだけだった。
「うっそー!? 今使ったの〈五ツリ〉だったんですけど!?」
「にゃ?」
まあ、普通ヒーラーの攻撃はこんなものだ。これが普通だよ。(2回)
「アリスも行くよー! 『雷道』! それに『雷雲ゴロゴロ』!」
驚愕するアルテ、続いてアリスも魔法を発動する。
『雷道』は直線エリア魔法。雷の道が敷かれ、その上にいるとどんどんスリップダメージを受けていく魔法だ。〈毒〉や〈火傷〉の状態異常に近く、HPの多い敵には有効な手段となる。
さらに『雷雲ゴロゴロ』はその名の通り、ゴロゴロ鳴っている雷雲を作り出す魔法。だが、これを作り出すのは相手の上ではなく、自分の上だ。
これはエリアバフ魔法。雷雲の下に居るときだけ〈雷属性〉魔法の威力が上昇するという、威力系が上昇する貴重なバフだ。(※重要なので二度)
つまり、アリスはここから動かない限り超強くなる。
「いっけー『雷竜アターック』!」
続いてアリスが繰り出した、現在の最強魔法――雷竜。
その大きさは前よりも大きくパワーアップしていた。これぞ『雷雲ゴロゴロ』の力だ。
「フニャアアア!?」
これの直撃を受けた白猫は珍しく叫ぶ。
HPもこれまでよりも大きく減った。だが、
「アリス、グレーターとホネさん忘れてます!」
「あ、そうだった。『グレーターアップ』! 『あなたはこれからホネになる』!」
キキョウの指摘は、さらなるダメージを上げるバフとデバフだった。
アリスはうっかり忘れていたが、キキョウに言われて発動する。
『グレーターアップ』は魔法力大上昇の自己バフ、『あなたはこれからホネになる』は相手の〈雷耐性〉を特大低下させる強力なデバフだ。
ホネ宣言された白猫がアリスにタゲを移すが、それを察知したキキョウが素早くヘイトを稼ぐ。
「アリスには行かせません! 『ハウスオーラ』! 『悪いもの、おいでおいで』! 『敵対認定』! 『社強化』!」
さらにお社様を強化して攻撃をなんとか防ぐ。
そして白猫の行動を見ながら。
「『羨望の取消』! 『お社様リフォーム』!」
相手のスキルを失敗させるスキルを使って攻撃を止めたり。社のHPを回復する魔法を使ってなんとかタンクをするが、お社様はあくまでも下級職のスキル。
とうとうその時は来てしまい。ネコパンチに破壊されてしまう。
「フニャアアア!」
ドッゴーン!
「社が!? 『負けないんだから』! 『能力封印の社』!」
キキョウは自分に防御力と魔防力の大上昇バフを掛けて、さらにまた1つ社を召喚する。
この社は名前の通り、建っている限り相手のスキル・魔法をランダムに封印する魔法だ。LV1の時1つ、LV5の時で2つ、LV10で最大3つまで封印可能。キキョウのスキルLVは1なので1つのみ封印だ。
封印されたスキル・魔法は使用はできるが、クールタイムが3分加算されるというとんでもない悪影響を受ける。
つまり、普段クールタイムが40秒で終わるスキルは、3分40秒になるという意味。
「ニャアア!」
「! よし、厄介なネコパンチは封じられたみたい。なら――」
さっきから社をぶっ壊したりしていたあの厄介なネコパンチ、そのうちの1種を封印できたことをキキョウはスキルから知り、しっかりと盾を構え直した。
この白猫、かなりファイター型だ。割と二足歩行でネコパンチもしていたほどである。
だからだろう。白猫は遠距離攻撃などはしてこないだろうと思い込んでいたのかもしれない。
だが、それは勘違いだ。
おもむろに口を開いた白猫がなにかを溜めるような仕草をしたあと、なんと口からビームを発射してきたのである。
「え、ええええええ!? 『吸魔封印盾』!」
キキョウ、びっくり。
しかし、さすがはシエラに鍛えられているタンク。ギリギリで『吸魔封印盾』が発動し、なんとかそのビーム、『ニャ砲』を止め、さらに封印することに成功する。
「び、びっくりしました。猫ってビーム吐くんですね」
※普通は吐きません。
しかしここに居るのはレアイベントボス。レアだからね、ビームを吐いてもおかしくはないかもね。
「びっくり、でもビームならアリスも撃てるよー『エレクトリック・ビーム』!」
「フニャアアア!」
先程からアリスの攻撃を受け、アルテの攻撃も時々カマされる白猫。しかしそのHPはまだまだ多い。
だが、まだなんとかやれている。そう思っていたが、白猫の本当の力はこんなものではなかった。
「ニャアアアン!」
ここで白猫パワーアップ。なんと自分にバフを掛け、さらに完全に二足歩行立ちして。さっきまで拳だった両の前脚からは、鋭利な鉤爪を伸ばしてきた。
「パンチがダメならばひっかくまでニャ」とでも言わんばかりに爪を見せつける。
中々に立派な(?)爪だった。
「ニャン!」
「わ、わわ、跳びました!?」
さらに白猫が勢いよく跳躍。
なんと上のバルコニー、つまり天井に着地してさらに跳躍。
キキョウに強力な突撃の――キックをカマしてきたのである。
「爪じゃないです!? 『吸物封印――きゃあああ!?」
「ニャアアア!」
「キキョウちゃん! 『ユニットスイッチ』!」
「ニャン!?」
思わず驚愕したキキョウ。盾で受けるもスキルの発動が間に合わず、弾き飛ばされてしまう。そこへ追撃の白猫自慢の爪が迫るが、アルテが回収に成功。
ギリギリで追撃を受けずに済んだのだ。
「大丈夫ですかキキョウちゃん。『聖乗の癒し』!」
「助かりました、アルテさん」
しかし、ヒナにキキョウが騎乗しているのを見つけた白猫が、猫ダッシュで追いかけてくる。
「うっわ速い! 『アクセルドライブ』!」
アルテとヒナもダッシュは得意だ。
ただの猫ダッシュなんて、追いつかせない自信はある。
問題は、ここが大きくてもバルコニーという小さな空の孤島という点だ。
道が無ければ走れない。
「アルテさん、前!」
「掴まっててキキョウちゃん、跳ぶよ!」
すぐにバルコニーの端っこまで追い込まれたアルテは決断する。
前にはもう1つのキャットタワーがあったのだ。そっちのバルコニーに向かって大ジャンプ。
しかし、ジャンプの途中、白猫の方がジャンプ力が高く、例の天井跳躍で追いつかれてしまう。
「! 負けません――『フォートレスドライブ』!」
それは防御しながら駆けるドライブ系スキル。
ジャンプ中にもしっかり作用して、叩き落とそうとする白猫の攻撃を防御しながら突破。そして。
「シエラ先輩、任せました!」
「ええ、私たちに任せて――『インパクトバッシュ』!」
「ニャ、ンッ!?」
跳び乗ったバルコニーには、シエラ班がいたのである。
直後、カウンター気味にシエラの『インパクトバッシュ』が炸裂。
空中で迎撃された白猫は体勢を崩して落下。
白猫はあっさりとダウンした。




