#1527 〈猫猫ダン〉は憩いの場?禁足地帯に侵入者!
「いやぁ、上級中位ダンジョン、それもランク8ともなると採集物も凄いですよゼフィルスさん」
「お、どんなのが手に入ったんだモナ?」
「これを見てください、大量ですよ! しかも初見の素材がいくつかあるんです!」
「おお~」
モナのテンションが高い。
〈採集無双〉の面々は俺たちが戦闘中、黙々と採集作業に没頭していたのだが、その成果は凄まじいものだった。
タイチなんて湖で大量のフィッシュを繰り広げ、釣り上げた魚を巡って猫まみれになるなんてシチュを体験していたほどだ。
〈『ゲスト』の腕輪〉を着けていたため攻撃こそされなかったが。埋もれたタイチは幸せそうに伸びていたよ。ちょっと羨ましいと思ってしまったのは秘密。
ちなみに再び釣り上げたときはなんとエリアボスが奪いに来ちゃってさあ大変。
全長5メートルほどの猫登場でタイチは泡を吹いてた。
ちなみにそのエリアボス猫は俺たちが大変美味しくいただきました。(宝箱的な意味で)
あ、魚も美味しくいただいたよ。
「美味い。この魚、凄まじいうま味が凝縮されているぞ。染み出すほど脂が乗っていて塩が凄まじく合う。猫にやるのは勿体ない美味さだ……!」
「たははは~。メルト様が魚に齧り付いてる~。メルト様って本当にお魚好きだよね~。でも毎日のようにお魚食べてるのに身長は――ウキュ!?」
「やかましいぞミサト! 俺は純粋に毎日食べたくなるほど魚が好きなだけだ。身長は関係無い!」
「うわ、ミサトちゃんが呼吸困難なお魚みたいな顔してる~。おもしろ~」
メルトが大絶賛だったな。ミサトはいつも通りキュッとウサミミを絞められて、シャロンがそれを見てケラケラ笑っていた。
良い光景だ。記録しておこうパシャパシャ。
採集作業も順調な様子でなによりだ。
現在は現地調達でお昼をいただき中。
こんな日も良い。なにせ近くで猫がゴロゴロしているダンジョンだ。
お昼のために一旦帰るなんて勿体ないからな。現地で猫に混じって昼食を取ることにしたんだ。
これがとっても大好評。
実はこの〈猫猫ダン〉、本来はモンスターは入れないはずの救済場所にも猫が入ってきてしまうのだ。
何それヤバいじゃん、と思うだろ?
だが、入って来た猫は全部小柄な猫で、救済場所では人を襲わないので安心してほしい。いわゆるノンアクティブ状態なんだ。
つまり、なで放題、もふ放題だ!
まあ、こっちが攻撃をしたら反撃してくるけどな。
このダンジョンが〈禁足の大猫ダンジョン〉と呼ばれている由来の1つがこの救済場所の侵入だとも言われていたりする。
こっちの禁足地帯にも入ってきます!
「「「か、かわいい~」」」
だが一度猫が寝転べば、この通りよ。
なにここ? ヘブンかな?
「それにしても、自分たちの禁足地には一度入れば襲ってくるくせに、人の禁足地は意も返さないとは。さすがは猫だ。自由すぎるな」
「猫の禁足地に入れば怒りを、人の禁足地に入り込んだ猫は人に癒やしを与える。そんなダンジョンなのかもしれないわね」
「……シエラはいつの間に猫を撫でてんだ?」
「なんか寄ってきたのよ。攻撃しなければ大丈夫というから、確かめるため、こうして率先して撫でてみたの。決して私利私欲のためではないわ」
タンクらしい身を顧みずに突き進む発言!?
欲求に負けただけなのか、それとも自分がまず試すというタンク的な精神なのか、判断がちょっと難しい。なお、本人は否定しています!
「みんな。撫でても大丈夫みたいよ」
「「「「わー!」」」」
「あ、攻撃と受け取られることはするなよ!?」
「「はーい!」」
おかしいな、はーいの返事が少なかった気がする。いやきっと気のせいだろう。
猫が遊んでいた場所が救済場所だと知った時は大層驚いていたはずのメンバーも、今ではすっかり慣れたものだ。
俺も撫でさせてもらおうかなぁ~。
ハッ!? 背筋に悪寒が!?
ち、違うんです〈幸猫様〉!? これは浮気ではありませんはい!
ふう。撫でるのはやめておこう。
「あ、待て貴様、それは俺の魚だ! 食べようとするな! ああっ!?」
「ニャー!」
……向こうではメルトが魚を狙う猫たちに囲まれてる様子だ。
こっちの猫たちはあまり俺たちの魚に関心がなさそうなのに、なぜメルトのところにばかり集まるのだろうか。不思議だぜ。猫にあげるのは勿体ないとか言ったからか?
なお、メルトは野生を知る猫たちには敵わなかった模様だ。
ドンマイだメルト。
また、ミサトはそれを指さして爆笑して再度ウサ耳クローを食らっていたよ。
パシャパシャ。
「ゼフィルス様」
「なんだねシェリア?」
スクショを撮っていたら、いつの間にかシェリアが背後に忍び寄っていた。
俺の背後を取るとか、シェリアはいったいどこを目指しているんだ?
そんな疑問を持ちつつも用件は大体察した。
だって俺のことを様付けしてるもん。
「あちらをご覧ください」
シェリアが指し示す方向を見れば案の定、ロリーズが猫とちっちゃな普通の猫じゃらしを使って遊んでいた。
俺はすぐにスクショを構える。
「ゼルレカ、ここの辺りがねこしゃんは好きなんだよ?」
「わか、わかってるし。というかそれあたいの前でふりふりするな」
「ゼルレカもやってみる? すっごく可愛いよ?」
「おすすめなのです。ルルの猫じゃらしを貸してあげるのです」
「「「ニャー」」」
アリスにゼルレカ、キキョウにルル。
4人が集まって甘えてゴロゴロごろんごろんする猫たちに猫じゃらしを使って遊んでいた。
1人猫人のゼルレカが猫と同じくらい猫じゃらしを目で追っているのは、きっと気のせいではないだろう。パシャパシャ。
ふう。素晴らしい昼食だった。
「昼食も終わったし、そろそろ行くか」
「「「…………」」」
名残惜しいがそろそろ出発だ。みんなを促すも、返事が無いのがとても気になる。
まあ、最後はなんとか腰を上げてもらったよ。
猫たちに別れを告げ、仕度をして出発する。
「あんな猫ばかりがいるのなら、このダンジョンもとても楽しめそうね」
「あ~うん。そうだな~」
ちょっと満足そうなシエラの言葉に、俺は曖昧な言葉で返すことしかできない。
なにしろ、この後に出る猫モンスターのことを、俺は知っているからだ。
10層守護型ボス、10層の階層門の前にそいつはいた。
「…………なにあれ?」
「えっと、『看破』の結果には〈妖怪猫・猫又又又〉と出てるな」
又多くない? だがその名に偽りなし。
なにしろその妖怪猫の尻尾は100を超えていたからだ。
全長6メートル。4足歩行だが、なんか下半身の辺りがとんでもヤバいことになっているボスである。100を超える尻尾がうねうねしていて、さらに妖怪猫の通り、笑顔がちょっと不気味な黒猫だからだ。いや、黒豹に近いかもしれない。
口からは咆哮という名のビームを出すし。後ろや側面に回り込もうとするとあの尻尾が容赦なく迎撃してくる。
あろうことかあの尻尾だらけの尻にお座りされたキャラもいたな。あの動画は笑わせてもらったよ。
「ちょっと怖いお顔なのです」
「……私は遠慮しておこうかしら」
見ろ、可愛い大好きなルルとシエラがこの通りだ。
最終的に3班のリーナたちが戦うこととなり、遠距離から安全マージンを意識して倒していたよ。
続いて15層の守護型ボスは〈ジャイアント大熊猫〉。
これもジャイアントと大が被ってない?
だがその名に偽りなし。
なんと全長15メートルに迫る巨大な猫――パンダだったのだ。
「パンダじゃん!」
猫と書くのに猫じゃない。熊と書くのに熊じゃない。
その正体はパンダである! ニセグマだー!?
〈ダン活〉の開発陣はニセグマ好き。その狂った嗜好の切っ掛けになったと言われているのが、パンダである。
なお、なぜパンダを見てあのような〈ダン活〉のニセグマたちが生まれたのかは分かっていない。
ここは1班、つまり俺たちが担当。
ゼルレカにガンガンデバフ入れてもらって俺とアリスでビリビリの刑に処し、最期は聖獣に乗ったアルテの突撃によってその巨体は沈んで消えていったのだった。
ぐっ、また〈銀箱〉だと!? ラナたちが居ないだけで宝箱が厳しい!
こうなったら仕方ない。
〈金箱〉を確実に取りに行く!
そう決めた俺は20層にある、この〈禁足の大猫ダンジョン〉の〈レアイベント〉。
―――〈キャットタワーツインズカイザー〉へ挑みに向かうことに決めたのだった。




