#1526 怪獣VS怪獣。怪獣大決戦の後はじゃらしで和み
「ヌォォォォン! ヌォォォォン!」
「いやぁ、相変わらず怪獣みたいな猫だな」
〈デブニャン〉を見て俺は呟く。
見た目がもはや猫の原型がほとんどないので、デブというより怪獣化と言った方が適切な気がするとは〈ダン活〉でもよく言われていた表現だ。
中には「小さな村を築いていた猫たちのところへ、怪獣デブニャンが押し寄せ~!?」なんて創作物もあったほどである。あれはちょっと面白かった。まさか村猫があんなに強いとは。さすがは〈ダン活〉の猫たちなんだぜ。怪獣はいつも倒される運命なんだ!
それはともかく、ここは〈禁足の大猫ダンジョン〉。その名の通り、大きい猫が蔓延るダンジョンだ。
「ヌォォォォン!」
ズドーンという音と共に先程から限界の近かった城門を破壊し侵攻する〈デブニャン〉、うん。やっぱり怪獣だよこいつ。
「まだまだだよ――『防壁召喚』!」
さらにタンクがシャロンというのがね。
もう城を襲う猫(?)の図にしか見えないよ。
思わずスクショが捗るぜパシャパシャ。
「ゼフィルスさんが記録を取ってる!? ――クロちゃん、気合い入れて行くんだよ!」
「ズゥゥゥン!!」
「ここでもう1体追加だよー! 出番だよクジャ! 『上級召喚盤起動』!」
おっとここでシヅキが上級の召喚盤、〈クジャ〉の召喚盤を取り出しちゃった!
そして召喚されるのは上級下位ダンジョンのランク1、最奥のボス。
―――〈暴風爬怪獣・クジャ〉。
こっちは本物の怪獣だ!!
『上級召喚盤起動』は非常にMP消費が激しいスキル。
〈木箱〉級の通常モンスターならばそれほどではないが、〈銀箱〉級大型を呼び出すならそこそこなMPを吸われ、これが〈金箱〉級のボスクラスになると呼び出すだけでも相当なMPが掛かる他、召喚中は常にMPが減っていくという奥の手だ。
召喚するモンスターの格によってMPの消費が変わる、かなり変わっているスキルでもある。これは〈拠点落とし〉などで召喚盤のコストがシステム的に決められていたからこそある仕様だな。
だが、だからこそボスは恐ろしいほどの力を持っている。
クジャの能力はさすがにかなり落ちていて、HPなんて5分の1程度しかないが、その他の能力は健在、身体の大きさも5メートルほどになってしまっているが、非常に力強いオーラを放っていた。
「いっけー!」
「ギャアアアアアアアオ!」
「ヌオオオオオオン!!」
先程から城壁をぶっ壊そうとしていた〈デブニャン〉に突撃!
さすがの〈デブニャン〉もこれにはややノックバック!
そこへさらに追撃をかけるクジャ、なんと〈デブニャン〉とがっつり組み合ってしまう。
この光景、まさに怪獣大決戦。
スクショの瞬きが止まらないパシャパシャ!!
「いっけークジャ! クロちゃんは援護ー!」
「ギャアアアアオ!!」
「ズゥゥゥン!!」
タンクなシャロンの城壁を完全に無視して組み合ったクジャと〈デブニャン〉、そこへクロちゃんが4つの腕を振るい、ガンガン攻撃を仕掛けていく。
もうこれさ、シヅキだけで勝てるんじゃね? と思うような光景だ。
だが、残念ながらそれは難しい。
フラーミナとは違い、【ルシファー】には召喚獣を回復させる術がないからだ。
疑似タンクが多少できるが、回復できないのならサブタンクにもならない。
「今だ! エフィ、次々攻撃を仕掛けろ! 『アポカリプス』!」
「ラジャ――『大天使フォーム』! 『エルスター・フラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』!」
もちろんこれを逃すメルトではなく、エフィと共に強力な魔法を叩き込んでいく。
エフィはここでユニークスキルを発動する。『天空飛翔』を発動していなかったウリエルの背中から大きな翼が顕現し、帽子の上に天使の輪が現れ、大天使へと変身する。
そこから手始めに強力な〈四ツリ〉の集束砲、『エルスター・フラッシュ』をぶっ放し、続いて接近して〈五ツリ〉のラッシュ系を連打した。
エフィの就く【ウリエル】は非常に強力なアタッカー天使。そのスキルの威力は並ではなく、攻撃する度にガッツンガッツン〈デブニャン〉のHPが減っていく。
これには観戦中の他のみんなから歓声が上がるほどだ。
今日のパーティの中ではエフィは一番レベルが低いのにこのダメージ、成長しきるその時が楽しみで仕方ないぜ。
「はああああ! 『ウリエルラッシュ』!」
「あ」
「ヌ!? ニャオーーーーーン」
そしてついに〈デブニャン〉のHPがゼロになる。
もう? と思うかもしれないが、もう、である。
最後は猫の鳴き真似(?)をした〈デブニャン〉がズシーンとその場で仰向けで倒れて目を回し、膨大なエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。
「ギャアアアアアアアオ!」
おおっとここで〈クジャ〉が勝利の雄叫びを!
「ご苦労様クジャ、クロちゃん! MPが勿体ないから戻すね」
「オオオ……ア?」
なお、MPの関係で出しっぱなしにはできないのですぐに送還される〈クジャ〉。
〈クジャ〉は「へ、もう終わりなの?」と微妙に情けない表情でシヅキを見たのち、送還されて消えてしまったのだった。
うむ、MPが減るから仕方ないね。〈クジャ〉ドンマイだ。
宝箱は――〈銀箱〉!
残念。
まあ、今日はラナもニーコもノーアもいないので仕方ない。
「わぁ! 〈銀箱〉だ! 中身はなにかな?」
「気になる。私が開けても良い?」
なお、シヅキとエフィはあまり〈金箱〉に縁がなかったのか、〈銀箱〉でも目を輝かせるんだ。
うっ、まぶしい!
そう思っているのは俺だけではないようで、
「わたくしも、〈銀箱〉であのように心躍った時期がありましたわ」
「そうね」
なんだかリーナとシエラがなんとも言えない表情をしていたのが印象的だった。
「どうか〈幸猫様〉〈仔猫様〉、良い物をください!」
「良い物ください」
なお、シヅキやエフィを含む新メンバーにはすでにお祈りは仕込んであるぞ。
俺に抜かりはない。
ちなみに中身は、〈匠の猫じゃらし(特大)〉だった。
「猫じゃらしじゃないか!」
「うっ」
俺の隣でそれを見た猫人のゼルレカが何やら呻いていた気がしたが、これは気のせいじゃないかもしれない。だってカルアにも効果あったところ見ちゃったもん。
是非あの猫じゃらしでゼルレカをじゃらしてみたい!
「見てゼフィルス君! こんなおっきな猫じゃらし当たった!」
「びっくりだな。これは〈猫ダン〉にも出た〈匠の猫じゃらし〉の上級版に違いないぜ! テイムアイテムだな」
「テイムアイテム! ね、ねぇねぇ、それ私にくれませんか?」
「ちょっと待ってアルテ、それなら私も欲しいよ!」
おっとここで名乗り出るメンバーが2名。
アルテとフラーミナだ。
いやアルテよ、乗る気か? 猫に?
しかし、この〈猫猫ダン〉なら騎乗出来る猫も登場するからなぁ。
さて、どうするか。
「まずはゼルレカで試してみよう。ほーれふりふり」
「ほ、ほほう。シヅキ、死ぬのがお好きだったとは初耳だぜ」
「あ、シヅキって名前はそういう?」
「違うよエフィ!? 私の名前は死ぬのが好きって意味じゃないからね!? なに、え、私気が付いちゃった。みたいな顔してるの!?」
どうやら色々なところで波紋を生んだ様子だ。
ちなみにこの〈匠の猫じゃらし(特大)〉はその名の通り、先端だけで1メートル近くもある、見た目は釣り竿だ。
それを目の前に垂らされてふりふりされたゼルレカが腕を鳴らす。
なお、尻尾が結構揺れているのだが、気に入ったのかな?
アリスとキキョウがなんか羨ましそうな顔をしているのも気になるんだぜ。
「ま、それは帰ってから決めようか。これは一度お持ち帰りだ。なんかテイム以外の使い道がたくさんありそうだし……」
「賛成だよ、お兄ちゃん」
「はい。私も良いと思います」
「おいアリス、キキョウ。なに考えてんだ?」
「「なんでもないよー? ねー?」」
ロリーズの和みが全開だ。
「ゼフィルス様」
分かっているってシェリア。だからあまりプレッシャーを掛けないように。
パシャパシャ。
ふう。よし、次に行こう!




