#1523 ここが猫猫して猫津波が発生する〈猫猫ダン〉
「いざ入ダン。ここが〈猫猫ダン〉だーー!!」
俺たちは総勢25人で〈猫猫ダン〉へ突入した。
〈上中ダン〉へ向かう道中、今日が学園祭の翌日土曜日だからだろう、学園都市に泊まったと思われる人々から熱い視線を向けられたよ。中にはキラキラした視線も含まれていて、とても気分が良かった!
昨日の〈迷宮防衛大戦〉のおかげですっかり有名になってしまったのだろう。
いやぁ参っちゃうな~。(全然参ってない)
「ふわ~、すごいところですの!」
「大自然がいっぱいだね! あと猫ちゃんもいっぱいだよ!!」
「ラナ殿下がいなくて残念ね。これを見たらきっと……いえ、むしろ来なくて良かったのかもしれないわ。ここは上級中位ダンジョンだったわね」
――〈禁足の大猫ダンジョン〉、通称〈猫猫ダン〉。
そのフィールドは自然の楽園だ。
草原が広がり、猫が追いかけっこしている様子の自然界。
木々が広がり、猫がじゃれあっている光景。
湖が広がるエリアでは、なんと釣りをするハードボイルド風の猫までいる。
なお、釣り上げた魚は釣った本人にかかわらず争奪戦の模様だ。これが自然界の掟!!
そんな光景を見て、サーシャたちは目を輝かせ、シエラはラナが来なかったことにちょっと安心した様子を見せた。
ラナは残念だった。
あと、風の便りでユーリ王太子まで来ていたなんて話もあったが、本当に来ていたら正式に公表されているはずなのできっとデマだろう。クラス対抗戦に来ていたというのは本当らしいが。
なお、この時ユーリ先輩が俺のもたらした【通信兵】の配置やらなんやらで大忙しにしており、来たくても来られなかったということを俺は後に知ることになるのだが、それは別の話。
「こうなったらラナの分まで俺たちで楽しむしかないな!」
「了解ですわ。えっと、ラナ殿下のためにお土産話を練っておいた方が良いかしら?」
「やめてあげなさいよ。ラナ殿下なら泣いちゃうわよそれ」
うむ。間違いなくお土産話なんてされた日にはラナは泣くかもーもーの2択になるだろうな。おそらく後者だ。
シエラは泣くにベットするようだ。なら、俺はもーもーにベットしておこう。
なお、当たっても賞品はでません。
「見て見てエフィ先輩、すっごく可愛いです! ここが上級ダンジョンなんて信じられないです!」
「でも猫は強敵。私も前に痛い目に遭った。油断はダメだよマシロン」
「新しい猫の召喚盤が手に入る予感! フラウのミーちゃんがすっごく羨ましかったんだよねー」
「シヅキ先輩は色々な召喚盤を操れますから、ちょっと羨ましいです」
「猫のテイムはむずかしいよ。みんな覚悟していてね」
そこら中で盛り上がるメンバー。召喚やテイムを操るシヅキ、アルテ、フラーミナは猫モンスターを狙っている様子だ。いやフラーミナは唯一猫をテイムした経験者だからか先輩風吹かせているな。あの時も苦労したからなぁ。主にアイテムを使うか否かで。一度テイムに成功すると、アイテムが消えちゃうのだ。
〈匠の猫じゃらし〉が消えたときのリカの落ち込み具合と来たら。いやそれは置いておこう。
「なんだか、このダンジョンプレッシャーがヤバいんだけど」
「どうしたのゼルレカ? 大丈夫? お腹痛い?」
「いや、お腹じゃないんだ。ただ言いようのない重圧みたいなものがあってな」
「ここが猫の多いダンジョンだからでしょうか?」
こっちではなんだかゼルレカがプレッシャーを受けて震えていた。
アリスがお腹をなでなでしてあげている様子が可愛すぎる。
もしかしたらキキョウの言うとおり、ゼルレカは猫人なためになにかこのダンジョンで特別ななにかを感じているのかもしれない。
あれ? でもそうなると中級の〈猫ダン〉の時のカルアは……。
いや、ここが特別なだけかもしれないな。
「あたいたちレベル足りるのかこれ? ゼフィルス先輩、確か猫って強いんだろ?」
「そりゃもう! 猫1匹と狼6匹なら猫が勝つくらいには猫が強いさ」
「どんな基準なんだそれ!?」
まあ、猫は質、狼は群とも言われているからな〈ダン活〉では。
「ここで色々言っていても始まらない。早速一戦してみようぜ」
「おおー」
〈猫猫ダン〉は景観も楽しめるので、ここでまず観賞するのも良いものだが、ビビっているのはいただけない。
〈猫ダン〉の時はみんな黄色い声をあげて騒いでいたからな。あれくらいでちょうどいいのだ。
「だが、その前にここでの注意点を話していくぞ~」
「注意点。……ゼフィルス、確かここには〈禁足地〉があるらしいと聞くが」
「お、メルトよく知っているな、そのとおりだ。〈ハンター委員会〉の報告によれば、禁足地なる箇所があってな。そこに入ると猫の群に襲われて一瞬で召されてしまう恐ろしいエリアがあるんだ」
「たはは~。〈猫ダン〉にもあったよね、道を逸れると猫の集団に襲われるっていう現象」
「おう。それと同じだな。問題なのは上級ダンジョンはオープンワールドなので、どこが禁足地か分かりづらい点だ」
「確かに、見渡す限り猫がそこら中にいるように見えるな」
メルトの言うとおり、草原にも、森にも、湖にも、猫が猫猫して猫で溢れかえっている。
このままではどこが禁足地かわからないだろう。
だが、それを容易に判別できる方法が、実はある。
「分かりづらいが、分からないわけじゃない。1層の禁足地は3箇所。この辺りにはないんだが――リーナ」
「はい。『フルマッピング』ですわ!」
俺が一声掛けると、すでに何も言わずとも〈竜の箱庭〉を取り出していたリーナが『フルマッピング』を発動し、このダンジョンの全容が明らかになる。
「ありがとなリーナ。――では絶対に入ってはいけない禁足地を説明するぞ。あそこの森エリアとそこの森エリア、最後がその奥にある森エリアだ」
「全部森エリアですの?」
「ああ。〈ハンター委員会〉が調べた限り、1層には森エリア以外の禁足地は存在しないらしい。だからといって、他の階層も森エリアだけとは限らないけどな。そして普通の森エリアとの違いなんだが、実は境界線が敷かれているらしい」
「え? 境界線が見えるの?」
「そうなんだ。まあ、線が見えるのではなくて、独特のマーキングが目印になるんだけどな。木にひっかき傷が付いていたり、猫の顔が描いてあったり」
「ちょっと待て、最初の木にひっかき傷があるというのは分かるが、後の猫の顔が描いてあるってなんだ??」
「いや分からん。なんか本当に書いてあるんだよ。ここには2足歩行する猫もいるし、そういうこともあり得るんじゃないか?」
「そう、なのか? にわかには信じられんな……」
まあメルトの言うことも分かる。だけど、本当に色んなマーキングがあるんだ。
中には上空から俯瞰するとナスカの地上絵みたいな猫の絵が描いてあって、その絵の中が禁足地だった、なんてエリアもあるんだ。
不思議な所なんだぜ。
「この禁足地は立ち入り禁止な。それだけ覚えておいてくれ。万が一入ると猫の津波が押し寄せてくる。これを〈猫津波〉現象と呼称しているぞ。対処は〈テレポ〉くらいしかない。〈煙玉・特級爆〉と〈転移水晶〉のコンボも効かないんだ。注意してくれ」
「ええ!? 〈煙玉・特級爆〉も効かないのか!?」
「ああ。だがそれも猫津波の時だけだ。普段は効くぞ。安心してくれゼルレカ」
「猫津波……」
〈煙玉・特級爆〉と〈転移水晶〉のコンボ。
〈転移水晶〉はエンカウント中は使えない制限がある。しかし〈煙玉・特級爆〉はそのエンカウントを強制的に解除する逃走用アイテムだ。これにより〈転移水晶〉が危険な状態の時でもなんなく使え、上級ダンジョンの危険度が非常に下がった。
おかげで学生の上級ダンジョンの入ダン数が爆発的に上がったのだ。
だが、猫津波の最中は〈煙玉・特級爆〉の効果が及ばない。どんどんエンカウントが発生してしまうのだ。〈転移水晶〉が使えないとなれば焦るのも分かる。
だが、そこで登場するのが上位アイテムの〈テレポ〉だ。
これはエンカウント中でも関係無く転移できる。
故に万が一の命綱だな。もしなければ、おとなしく猫に揉みくちゃにされて召されるしかない。(戦闘不能になるだけで天に召されるわけではない)
なお、ゲーム〈ダン活〉時代にはなぜか禁足地へわざと足を踏み入れて、猫まみれになり召されるプレイヤーが続出したのだが、いや、これは余計だったな。
あらかたこのダンジョンの危険を説明すると出発する。
まず俺たちが目指したのは、多くの猫が追いかけっこしたり、ひなたぼっこしたり、蝶々に向けて仰向けになって四足全てを使ってじゃれ遊んでいる猫がいる、草原エリアだ。
さながら俺たちは猫たちの遊びの邪魔をする悪者かなにかだろう。
と、傍から見たら思うかもしれないが、そんなことはない。
猫たちにとって――俺たちも遊びの対象だからだ。
「キキョウ、3時の方から奇襲、茶トラの猫だ!」
「はい!」
「ニャーン♡」
どう聞いても甘え声にしか聞こえないが、油断は禁物。
1班に向かって茶トラが飛び掛かってきたのだ。




