#1516 〈迷宮防衛大戦〉実況席! 第二形態は要塞!?
〈迷宮防衛大戦〉開始前から大盛り上がりの会場、その一角に備え付けられた実況席では、今日も元気にキャスとスティーブンが実況しまくっていた。
「さあああああ〈迷宮防衛大戦〉が開始されるよーーーー!! 今年は〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉戦! 未だ無敗を誇るこのボスに、果たして今年は勝つことができるのかーーーー!!」
「大注目ですね。昨年は当時まだ1年生だった〈エデン〉が活路を切り開き〈ヘカトンケイル〉に勝利しました。今年も同じことが起こるのか」
「今回も第一アリーナはそうそうたるメンバーが集って凄まじい様相になってるね! でもスティーブン君、なんだか人数が少なく見えるよ!?」
「良いところに気が付きましたねキャスさん。実は去年よりも大幅にLVも装備も何もかも充実しているということで、いつもの5000人戦から3000人戦に減らされたらしいですよ」
「ちょ、未だ勝ったこともない相手にそのハンディはいいの!?」
「いえ、なんか5000人戦だと楽勝みたいなこと言われてましたから。ほら、〈エデン〉も出ますし」
「……なんだかすっごく納得しちゃう! 未だかつて勝利したことのない〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉、しかもいつもよりも大幅に人数が減らされているのに果たして勝てるのか!? ではここで実況ゲストをご紹介しましょう! 例の如くユミキさんです!」
「はーい、調査課OGのユミキよ。最近は実況ゲストに呼ばれすぎて、そろそろ実況者と交代する日も近いかも、と少しだけ思っているわ」
「そんなこと思っちゃってるの!?!? ダメだよ!? この席は渡さないんだからね!?」
「僕はどちらでも。ユミキさんと組んだ方が、人気が出るのかもしれませんし」
「ちょ、スティーブン君!? 冗談だよね? 私を捨てないで!」
「さて、盛り上がってきたところで解説に移ろうかしら」
「ちょ、私の座が早くもピンチに!? ええい負けるかーーー!! たしか、この〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は〈黒衣〉を倒すと道連れの極悪攻撃を放ってくるとかいう噂を聞くよね!?」
「あら、強引に話を持っていこうとしてきたわね。まさに、その噂は真実よ」
「はい。これに当たるとどんなに優秀なタンクでも即死してしまうという、とんでもない攻撃とのことです。これが猛威を振るい、毎回多くの出場者が黒衣にいいようにやられているのです」
「反撃できないってことか! なにそれ鬼畜!」
「もしこれが〈エデン〉や公式ギルド、さらにSランクやAランクなどのギルドに襲い掛かるとなると、とてもではありませんがとんでもないことになるでしょう。犠牲覚悟で黒衣を倒すのか、それとも他に手があるのか。注目したいところです」
「少なくともいくつかはすでに思いつくのよね、対策が」
「なんと。ユミキさん、それはいったい!?」
「でもまだ秘密にさせて頂戴。大丈夫、多分〈エデン〉ならすぐ披露してくれるから、そっちを見て解説しましょう?」
「うう、また私の役目が奪われる予感がする! えっと、そういえば今回あまり企業側や野良活動をしている人が参加してないね!」
「ええ。どうも学生と差が開きすぎてしまったから、醜態をさらす可能性が高いとの判断で出場を見送る企業が多かったみたいなの。賢明な判断ね。〈エデン〉と比べると燃え尽きるわよ?」
「確かに、今の学生と比べても燃え尽きそうです。納得の理由ですね」
「なんかそれ聞くと学園全体がどれだけパワーアップしたか分かるね!?」
「おっと、もう時間のようですよ」
「よーし、ここからが本番! みんなー! そろそろ試合開始だぞ! カウントダウン、いくよーーーー!」
キャスの元気な声と共にカウントダウンが始まり、ゼロになったところで〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉&黒衣VS防衛者たちの試合が始まった。
「ああーー! いきなり〈ハンター委員会〉の第一部隊の大タンク、ダンカンと、〈戦闘課2年1組〉のミューが退場だーーー!! ユミキさん、今のが!?」
「ええ。あれが即死魔法『道連れのヘルズノート』よ。黒衣を1人倒すごとに1発放たれるわ。見て分かる通り防御スキルでも防げず避けることも出来ないわね。そして庇うこともできず巻き込まれるだけのようだわ」
「これほどとは、こんな凄まじい反撃を見れば二の足を踏んでしまいそうですが、果たして」
「さあーー、ここで防衛者たちは萎縮してしまうのか!? それとも犠牲覚悟で黒衣を倒すのか!?」
「待ってください、ゼフィルスさんが仕掛けました!」
「〈エデン〉キターーーー!! 聞いてくださいこの会場の歓声と悲鳴を!!」
「悲鳴が轟いているのが可笑しいわね。さあ、みんな注目してね、勇者君がやるわよ」
「即死魔法、ゼフィルスさんに直撃!? ――――いや、これは!?」
「あああああーーー! なんと勇者君、生きてる! 生きてます! いったいどんな手を使ったんだー!?」
「思い出しました! クラス対抗戦でも〈1組〉所属は〈即死〉を無効化出来ていたんです。つまりは――あ! ここで2発目が放たれました! いや、これは!?」
「あああああ! あれは見たことある! 【嫉妬】職のユニークスキルだーーーー!! 即死魔法を禁止した!? え、それあり!?」
「さすが勇者君、やったわね。見事に防ぎきったわ」
「聞いてくださいこの会場の大歓声! 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の最もヤバい攻撃、即死魔法が封じられたことで、これは勝利するのでは!? と会場も観客席も凄まじい熱狂! 上がってるぞーーーー!!!!」
「おっとここで防衛者たちの視線が一斉に黒衣に! 黒衣逃げます。一目散に逃走を決断しました! 攻勢に出る者は少数。ですが、どんどん討ち取られていきます」
「そりゃ今まで守って―――はくれなかったけど、裏に居るボスの攻撃を警戒して手が出しにくかったのに、それが討ち取ってもオーケーが出ればみんな逃げるよね!」
「ここで〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉も大きく動き始めたわね。凄まじい威力の魔法をどんどん使ってるわ。これは状態異常攻撃も混ざっている爆撃ね。見たところ〈呪い〉や〈混乱〉を発生させているように見えるわ」
「はぁ!? 今火魔法で15人くらいの団体さんが一撃で全員退場したんだけど!? 威力ヤバすぎ!? というか宙に浮かんで――」
「これは『浮遊』能力ね。〈リッチ〉系がよく使う『リッチ特性』というスキルだわ」
「あの巨体で飛んで魔法放ちまくるとかそんなのあり!? ってああ!? 落っこちた!? え!? 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉落下!! いったいなにが起きたんだーー!?」
「輪で確認したわ、今のは〈百鬼夜行〉のギルドマスター〈吸星のホシ〉の禁止ね。そして見たところ『道連れのヘルズノート』も発動してないから2つのスキルを禁止にできているみたいだわ」
「ちょ、なにそれすっご!?」
「一気に有利になりました、ここで凄まじい猛攻です。特に〈獣王ガルタイガ〉と〈千剣フラカル〉の2ギルドが凄まじい! 退場者をほとんど出さずに正面から組み付いてます! ああっとここで〈エデン〉も加わる!? どんどん有利になっていきます!」
「でも有利かな!? なんかダメージ全然受けてないように見えるけれど!?」
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の防御力は、かなり高い。
レイドボスの中でも〈ヘカトンケイル〉は最上級ダンジョンの中で下位の方だったが、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は上位に分類される。
本来なら上級職LV85相当のキャラが最低でも25人から30人くらい必要になる強さだ。
いくら3000人が集まろうと、その多くは五段階目ツリーすら開放していない上に、半数以上はまだ下級職なため、そのダメージはかなり低かった。
しかし、それもとあることが原因で大きく変化する。
「あ!! 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉、ダウーーーーーン!!」
「輪で見てたわ、〈エデン〉よ! また〈エデン〉がやってくれたわね」
「〈エデン〉来ました! しかもこれは、なんと非常にダメージが通り易くなっています! 強力なデバフのようです!」
「おっとここでスティーブン君も上がってきたーー!! それもそのはず! 今まさに凄まじい総攻撃が〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のHPを面白いように削って行くーー!! なんと1本目のHPバーが残り2割くらいまで減ったーーーー! 聞いてくださいこの会場の盛り上がり!」
「ダウンからの総攻撃が見事に刺さったわね。これは、〈ギルバドヨッシャー〉の働きもありそうだわ」
「これは凄まじいです。これをあと5回くりかえせば勝てますよ。いえ、さすがにそれは厳しいかもしれませんが。ですが、この強力なデバフに即死魔法の禁止。この対策の数々、さすがは〈エデン〉と言わざるを得ません!」
「また新しいメンバーを揃えてきているようだしね。見た限り、天使と悪魔が増えているわ」
「天使と悪魔!? あのとんでもない職業が〈エデン〉に増えちゃってるの!?」
「僕も〈エデン〉に非常に注目していきたいところですが、他のギルドも凄まじいです。特にAランクやSランクギルドのトップ陣はすでに五段階目ツリーを開放しているメンバーがほとんど! その圧倒的な威力! なんとあの〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の攻撃まで防ぎきってます!」
「ああっと対して黒衣さんは凄まじい速度でその数を減らしていくーー!? 残り20人くらいかな!? 黒衣さんたちも逃げてないで反撃がんばれー!」
「クスッ、無茶言うわね。〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉が狩る側に回らなくても黒衣に勝ち目は無いわ」
「そんな殺生な!?」
「ここまで途中結果が上がってきました。防衛者側は500人程度が退場。残り2500人程度です」
「ああっとここで〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のHPバーが1本消えたーー! 変形していく、何これ!? なんなのあれ!? 人体があんな変形しちゃっていいの!?」
「だってあれホネだもの。関節どころかパーツの組み替えも容易なのよ」
「いやだからってさ!? なんでホネの戦車みたいな形になってんのよ!?」
「しかもそれだけではないわ。ここからは眷属のスケルトン召喚も始まるのよ。そして本来ならこの眷属を倒しても、時々即死魔法『道連れのヘルズノート』が降りかかるの」
「凶悪すぎるーーーー!! 【嫉妬】さん居なかったら終わりじゃん!」
「いえ、ゼフィルスさんが先程していた対策がまだあります。アレさえあれば〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の攻略は可能だとゼフィルスさん自身が見せつけてます」
「ああ! だからさっきわざと即死魔法受けたの!? こんな方法があるって見せつけるために!? 最初から【嫉妬】さんの能力で禁止にしなかったのおかしいと思ったよ!」
「さすがは盛り上げ上手の勇者君ね」
「おっと、現場に戻りましょう。いやはや、本当にこれ凄いですね。もう完全にさっきのリッチ形態とは別物ですよ」
「だ、だよね。これ、まるで動くホネの要塞じゃん!」
「さあ、第二形態の始まりよ」




