#1492.5 掲示板133。紅盾による冒険者こっそり強化!
800、名無しの冒険者3年生
神、官……。
高位職になれてないのも、俺たちだけになっちまったな。
801、名無しの神官3年生
……ああ。頑張れ。
802、名無しの冒険者3年生
……え? がんばれ?
ちょっと待て、なぜ他人事!?
まさか、神官? え? 嘘だよな?
803、名無しの神官3年生
実はインターンで出向いている〈学園の鳥〉から、〈調査課〉の職業の方が向いているんじゃないかと言われていてな。
その気があれば、高位職の発現条件の用意があると話をもらったんだ。
【センサー】と【レーダーマン】から選べるらしい。
804、名無しの冒険者3年生
ま、待ってくれ神官! 俺を置いていかないでくれ!?
俺はこの前先生から「このままだと就職危ないよ?」「高位職になって1年生からやり直した方が……」みたいなことを、とても言葉を濁しながら告げられたんだ!
805、名無しの神官3年生
悪いな。俺は先に行く。
806、名無しの冒険者3年生
神官!? しんかーん!?!?
……や、ヤバい。マジでどうにかしないと、本当にヤバい。
807、名無しの紅盾2年生
も~冒険者先輩、なーにしてるんですか~?
808、名無しの冒険者3年生
紅盾!? 今何時だと……。
また俺を罵りに来たのか!?
809、名無しの紅盾2年生
あはっ。ザーコ?
810、名無しの冒険者3年生
ふ、ふぐぅぅぅぅ……。
811、名無しの紅盾2年生
どう? 元気出ましたか?
812、名無しの冒険者3年生
こ、こんなので俺の元気が出ると思ったら大間違いだぞ!?
813、名無しの紅盾2年生
それにしては効いているような~?
元気でている気がするのは気のせいかな~?
814、名無しの冒険者3年生
き、気のせいに決まっているだろう?
俺はザーコと言われても、……ちょっとくらいしか喜ばない!
815、名無しの紅盾2年生
喜んでんじゃん!
んふふ。もう仕方ない先輩ですね~。
そんなに真白ちゃんが高位職になったのが堪えたのかな~?
816、名無しの冒険者3年生
真白……。
うう、ううう、俺の癒やしが~。
純粋で、俺と同じ中位職で、後輩で可愛い俺の癒やしが~。
817、名無しの紅盾2年生
…………本気で嘆いてるんだ。ふ~ん。
818、名無しの冒険者3年生
……あれ? 紅盾ちょっと機嫌悪い?
いつもならここは笑ってザーコって罵る場面じゃないか?
819、名無しの紅盾2年生
……罵り待ちだったんです~?
え~どうしよっかな~。
私よりも真白ちゃんの方が大切みたいですし~。
ザーコって罵るにも費用が掛かるんですよ?
820、名無しの冒険者3年生
そうなの!?
いや、俺は決して紅盾の罵り待ちじゃなかったぞ!?
というか、俺は今忙しいんだ。
掲示板で最後の仲間だと思っていた神官のやつもなんか高位職になるとか言ってるし。俺は……。
こうなったら本当に【ギャンブラー】になるしか……。
821、名無しの紅盾2年生
あは。
もう~冒険者先輩ったら本当にザーコ、なんですから~。
学園から【ギャンブラー】は〈転職制度〉を受けられないって発表があったじゃないですか~。今【ギャンブラー】に就いても低レベルで卒業して、【ギャンブラー】なんて雇ってくれる場所もなく、大きく後悔する冒険者先輩しか見えないですよ~?
あ、今のザーコ料金、今度取り立てにいきますね。
822、名無しの冒険者3年生
アドバイスの方じゃなくてザーコの方に料金掛かるんだ!?
くっ、【ギャンブラー】もダメ、俺が発現している高位職はこれで全滅だぞ。
823、名無しの紅盾2年生
少なっ!
ま、知ってましたけど~。
……もうしょうがないですね~。私が冒険者先輩の高位職発現、手伝ってあげましょうか?
824、名無しの冒険者3年生
……は? え、えええ?
冗談?
825、名無しの紅盾2年生
冗談じゃありませんよ?
冒険者先輩にその気があるのでしたら、この紅盾後輩が色々付き合ってあげてもいいですよ?
826、名無しの冒険者3年生
い、いやしかし、上級生の先輩として後輩に教わるわけには……いかない!
どうかよろしくお願いいたします!!
827、名無しの紅盾2年生
教わる気満々じゃん!?
あはっ。まあいいですけど~。
ザーコな冒険者先輩、それじゃあ明日の放課後、この場所に来てね~。
828、名無しの冒険者3年生
お、おう。了、解。
829、名無しの紅盾2年生
ザーコ代も持って来てね~。
830、名無しの冒険者3年生
お、おう。了、か――え?
・
・
・
とある深夜。こんな掲示板のやり取りがあった日の翌日のこと、とある少年こと冒険者は、待ち合わせ場所に訪れていた。
「えっと? 待ち合わせはここでいい、はず?」
「あは! 冒険者先輩、みーっけ!」
「ほわっち!? ってああ! 紅盾!?」
「正解でーす! 冒険者先輩、クラス対抗戦決勝戦の時、私の活躍見ていてくれたんですって?」
「お、おう。強かったぜ」
「あは」
そこに現れたのは桃色ツインテールの髪を靡かせた活発系のややロリ体型女子。
クラス対抗戦決勝戦の時に見た姿と変わって制服姿の――紅盾だった。
冒険者に強かったぜと言われて満面の笑みを浮かべながらやや前傾姿勢で上目遣いな紅盾。そんな紅盾に冒険者はビシリと硬直する。いわゆるタジタジ状態だ。
「あ、えっと?」
「う~ん、ナマの冒険者先輩、ほんと良いダメ男~」
「え? ごめん、今なんて?」
「ううん、なんでもないですよ~♪ そうだ、私はベニテっていいます。ここは掲示板じゃないのでベニテって呼んでくださいね~」
「お、おう。俺はオルクだ。オルクって呼んでくれ?」
「はーい、冒険者先輩!」
「あれ!? 名前変わってないが!?」
「だって元〈アドベンチャーズ〉ギルドのみなさんからも冒険者さんって呼ばれていたって聞きましたよ~?」
「え、いや、それはそうなんだが? えっと、ベニテ?」
「はーい、冒険者先輩!」
「……あ、はい。それでいいです」
人は諦めが肝心。時にはそういうこともあるのだ。
内心、冒険者先輩と呼ばれていた方が違和感無いので問題も皆無だったりする。
「それでえっと、高位職の発現条件、教えてくれる、んだよな?」
「うふふ~。〈転職制度〉までもう少しですからね~」
そういうと同時にベニテが冒険者の腕に抱きついて引っ張った。
「ふわ!?」
「はーい、冒険者先輩ごあんな~い。こっちに来てください~」
「ベニテ!? むっちゃくっついているんだが!?」
「あは! もう冒険者先輩ったらキョドりすぎ~。もうこっちもザーコなんですから~。仕方ないので私が支えてあげますね! 物理的に!」
「ぶ、物理的に!?」
なんて蠱惑的で魅惑的な言葉。
冒険者の視線はベニテの桃色ツインテールでいっぱいになった。
なんとも蠱惑的な色合い。抵抗する気は欠片も起こらない冒険者なのだった。
どこに連れて行かれるかも分からないが、冒険者はそのままベニテに連れて行かれることにしたのだった。
そして到着。
「…………へ? ベニテ? ここは?」
そこはとあるAランクギルド。
ギルドハウスの周りにいくつものトレーニング器具が置かれ、何人もの男たちが汗を垂らしながらその身を鍛えている所だった。
言わずもがな、ここは――〈筋肉は最強だ〉ギルドだ。
ギルドハウスのトレーニング施設に入ってきたのをすぐに見つけ、アランがベニテに声を掛ける。
「ヘイ! ベニテ、クラス対抗戦決勝戦以来だな! うん? そっちは新しい加入希望者か?」
「ハーイ、アランさん。実はちょっとこの人が情けない限りなので、ここで鍛えてもらおうと思いまして来ました!」
「ほう、鍛えに来たのか! 鍛えることは良いことだ! 歓迎しようじゃないか!」
ムキッとベニテと話していたアランの上腕二頭筋が盛り上がる。
確かに、よく鍛えられていた。
「ベニテ、まさかとは思うんだが――え? 高位職は?」
冒険者は震え声でそう聞いた。
どう聞いても高位職ではなく、心身共に鍛え直す的な意味にしか聞こえない。
「冒険者先輩、聞いてください」
「はい!」
有無を言わさない笑顔と言葉にビシリと固まる冒険者。
否、すでにベニテに抱きつかれた腕が欠片も動かない。
いつの間にか拘束されて逃げられない冒険者。
もう冒険者は直立不動になるしかなかった。
「支援先生も言っていましたでしょう? 〈筋肉は最強だ〉ギルドには今、【悪魔】系の【サタン】が増えてきているって」
「た、確かに、掲示板でそんな話があったような……?」
真白からの衝撃的な報告で涙を流していた冒険者は、ちょっとうろ覚えだった。
しかし、ベニテは構わずに続ける。
「ねぇアランさん。〈天魔のぬいぐるみ〉はまだ在庫あるんですよね?」
「わははははは! 我々筋肉も困っているところだ。我らがここ最近挑んでいたボス、それからは特定のものが多くドロップするらしいのだが、実に3割近く〈天魔のぬいぐるみ〉をドロップしたのだ。ゼフィルスの話では、それほど多く落ちるはずは無いということなんだが……どうも俺たちの筋肉が呼び寄せてしまうらしくてな。悪魔と筋肉は、波長が合うらしいのだ!」
逞しい腕を組み、引き締まった笑顔をするアラン。
最近〈夜ダン〉のレアイベントボス、〈ホネデス〉とのバトルに明け暮れ、ここ2ヶ月以上ずっと戦っていた〈筋肉は最強だ〉。
〈ホネデス〉はレアイベントボスなため〈金箱〉しか落とさず、〈上級転職チケット〉や〈天魔のぬいぐるみ〉を含む9種類しかドロップがないボスだ。
2ヶ月以上の戦闘の内、有用なものもあったがなんと3割、実に20個近くのドロップが〈天魔のぬいぐるみ〉だったのである。これにはアランもゼフィルスもびっくりだった。
最初の頃は狂喜乱舞して【アークデーモン】になる者が続出した〈筋肉は最強だ〉ギルドも今ではやや下火。まだ3個の〈天魔のぬいぐるみ〉が在庫として残っていた。
その話を、ベニテはクラス対抗戦決勝戦の時に少し聞いていたのだ。
アラン曰く「赤点を取った者はどうも【アークデーモン】に就きやすいみたいでな。〈ホネデス〉の召喚盤を2枚持っていればほとんど確実に出るのを確認している」とのこと。
なんとこの至上の筋肉たち、自力で【アークデーモン】の発現方法を見つけちゃったのである。壁画には【サタン】の発現条件ヒントもあったし、後はお察しだ。
〈道場〉での訓練も積極的に参加している〈筋肉は最強だ〉の者たち、以前〈転職〉して【筋肉戦士】になった者も多く、〈転職〉自体に抵抗が少ないことも影響していた。
そして最近では肉壁【サタン】軍団という新たな戦法を確立し、また悲鳴とトラウマを植え付けているらしい。
「うんうん。ということなんですよ冒険者先輩。最近〈筋肉は最強だ〉では、赤点取った人たちが次々高位職の〈転職〉に成功しているんだって~」
「え、あの、え?」
「冒険者先輩は弱いから、ちょっと鍛え直そっか?」
「ふははは! 我々は筋肉を歓迎するぞ!! ベニテの紹介だし、ぬいぐるみの在庫が捌けるのもいいことだ! ビシバシ鍛えてやろうではないか! 先日クラス対抗戦でも負けたし、丁度俺も【サタン】に就こうと思っていたところだ。一緒になろうか!」
「…………へ?」
こうして冒険者は〈筋肉は最強だ〉ギルドに加わることになったのだった。




