#1490 4人目エフィシス加入オーケー!一旦締めます!
エフィシスは少しニーコに似た感じの雰囲気の赤髪ツインテ少女だった。
髪は腰を通り越すレベルの長さで、マリー先輩に似た髪型だがさらに長い感じだな。
瞳も赤目、こちらはニーコのように半目ではなくぱっちりしている。
「やほぅエフィ、元気してた?」
「シヅキこそ。昨日は落ち込んでたのに、何があったし」
「ふっふっふ、もう昔の私ではないのだよ。聞いて驚けエフィ! 私はなんと、〈エデン〉に加入することになったのだ!」
「……マジ?」
「超マジだよ!」
早速クラスメイトのシヅキが盛大にドヤって自慢し始めた。待つんだシヅキ、シエラが若干「考え直した方がいいかしら?」って目をしているから!?
ちなみにエフィシスの方はシヅキの言葉を信用出来なかったのか、視線がヴィアラン会長へ向かい、そして俺の方へ向きなおった。
「どうやらその話は本当らしいですよ。よく来てくれましたねエフィシスさん」
「まさか、自慢話を聞かせられるために呼び出された……!?」
「いえ、今のは本題じゃないから安心してくださいね」
「……よかった」
答えたのはヴィアラン会長だった。
途中、盛大な勘違いでちょっと絶望の雰囲気をしていたエフィシスも無事に復活だ。
この子も、なかなか面白い子かもしれない。
「まず自己紹介させてくれ。俺は〈戦闘課2年1組〉所属。〈エデン〉のギルドマスターゼフィルスだ。こちらは同じくサブマスターのシエラ」
「よろしくね」
「よろしく。私はエフィシス。仲がいい人はエフィって呼ぶ。〈救護委員会〉の第5救護部隊所属。あと〈3組〉でシヅキと一緒」
一通り自己紹介が済むと単刀直入に用件を切り出す。なんとなく、エフィシスは余計な話とかを挟まない方が良い気がしたのだ。
「実は俺たちがここに来たのは、シヅキの紹介でエフィシスを〈エデン〉にスカウトするためなんだ」
「……え? ほんとシヅキ?」
「そうだよ! エフィ強いし、私も安心して守ってもらえるし! 前にもっと奥のダンジョンに行きたいみたいなこと言っていたの聞いたからね!」
「推薦してくれたのは嬉しい。でもシヅキを守るのはちょっと、だって弱いし」
「そ、そりゃエフィに比べればね! というか純粋な戦闘職でもなくってサポート職だったし! でもこれからは違うよ。何しろ私、〈転職〉して戦闘職になる予定だから!」
「……え、マジ?」
「マジマジ」
「衝撃が大きすぎてびっくりした」
シヅキの言葉にエフィシスが目をパチパチさせる。あまり表情は変わっていないが、驚いているようだ。
しかしなるほど。エフィシスのことが少し分かってきたな。
表情があまり動かない無表情タイプだが、セリフで自分の状態を自己申告する正直者タイプと見た。根はいい子なんだろうな。
「それで、私もスカウト?」
「あー、だがただのスカウトじゃないんだ。悪いが〈エデン〉が今欲しているのは【天使】系の上級職、【ウリエル】でな」
「? 私の職業は【必殺人・鬼狩り】だよ?」
―――【必殺人・鬼狩り】。
名前がすごく物騒だが、【狩人】系の上級職だ。
ハンターとしての能力があるのでとんでもなく強く、変則的。
クラス対抗戦の時は、右手に剣を、左手に銃を持って遠近両方の活躍を可能にしていた人だ。二つ名は〈銃剣〉だって。
つまりは二つ名になるくらい両方の使い方が上手いということに他ならない。
〈ダン活〉ではこうして遠近両方の武器使いというのは珍しい。
いやできることはできるのだが、普通はあまり強くなれないのだ。
STRかINT、DEXのどれかに重点的に振った方が強いのが普通。
だが、【狩人】系や【兵士】系には異なる武器を使う遠近両方を、高火力を維持して使うことができるタイプが少なからず存在する。
【必殺人・鬼狩り】もそのタイプだな。武器が異なるはずなのに両方強く運用できるスキルを獲得できる。
また、それとは別にしてリアルだと遠近を操る難易度が高いらしいとも聞く。そのためこういう異なる武器使いはあまり見ないのだ。
そして【ウリエル】もまた、遠近両方をこなすとんでもない【天使】だ。
最初から遠近両方をこなしていたエフィシスに白羽の矢が立った理由だな。
そうエフィシスに説明する。そして【ウリエル】になって〈エデン〉に加入してもらいたい旨もあわせてだ。
「という条件なんだが」
「ほとんど同じ条件だったのに、シヅキは即決した?」
「そりゃね! 〈エデン〉に入れたら間違いないって言われてるんだよ? 実際〈エデン〉が失敗した例なんて皆無だしね! ちょっと【ルシファー】っていう聞いたこともない未知の職業だったとしても、〈エデン〉ではみんな同じような条件で大成してるからね! 悩む時間が勿体ないよ」
「それで今まで1年も育て上げてきた職業をひょいっと捨てちゃうシヅキは心が強すぎる」
「まあね! ま、私の場合は〈秩序風紀委員会〉の契約で【通信兵】に就くことに決めたから、自分がなりたかった職業じゃなかったしね。気持ち的にまだ軽かったんだよ」
「なるほど。それなら納得出来る」
おお~、シヅキは結構勢いに任せて〈下級転職〉を選択したのかなと思ったが、割と考えていたようだ。正直、すまんかった。
その考えを聞いたエフィシスも一度深く目を瞑ると、続いてヴィアラン会長の方にふり向いた。
「〈救護委員会〉の対応は?」
「〈エデン〉にはとてもお世話になっていますからね。1人くらいの引き抜きなら構わないと考えています。こちらもカイリさんをよくお借りしていましたし。持ちつ持たれつですね」
そう言いながら俺が持って来た〈亀ダン〉攻略本を撫でるヴィアラン会長。
「つまり、枠は1つ。しかも早い者勝ち」
「〈救護委員会〉でエフィシスさんのような使い手は何人かいますから、エフィシスさんが断るなら他の人に話が行く可能性は否定できませんね」
おお、なんて寛大な!
まあ、シヅキの時は貴重な【伏兵通信士】、尚且つそこまで育てたのが〈秩序風紀委員会〉だったからこそあそこまで強く引き留められたんだよな。
〈救護委員会〉にはダンジョンの報告書という名の攻略本を何冊も納品しているためか、ヴィアラン会長的には1人くらいならむしろ借りを返す機会と考えている様子だ。
「とてもいい話だと思う。でも難しいところ」
「〈下級転職〉がネックってこと? でもあのトモヨちゃんを見てよエフィ! ただでさえ強かった盾がさらに鬼強い盾になって戻ってきたんだよ!? しかも極短期間で! アレ見たら【天使】に〈下級転職〉しても〈エデン〉なら安心って気がしない!? 〈上級転職チケット〉の心配も無いよ!」
ここでシヅキの説得。
確かに、〈下級転職〉は最大のネックだろう。
何しろエフィシスは現在の職業でも〈3組〉で一番強いと言われているのだ。
トモヨの場合は自分の職業でこの先やっていけるかという不安から踏み切ったが、現在成功しているのなら〈下級転職〉する必要も皆無と言える。
しかし、シヅキの言葉には確かな説得力があった。
今より強くなりたいのならするべき。成功例もあるし〈エデン〉なら不安も無い。
その言葉にエフィシスの表情は確かに揺れ動いた気がした。そして。
「……まあ、いいかな」
ん、んん? その「まあ、いいかな」はどっちの意味なんだ?
諦めるのか、オーケーなのか?
「ゼフィルス、さん?」
「おう」
「これからお世話になります」
「!」
オーケーの方だったようだ!
両手をお腹に当てて深々と頭を下げるエフィシスに俺、ではなくシヅキががばっと飛びついた。
「やったー! これで一緒のギルドじゃん!」
「……離れてシヅキ、今大事な挨拶の途中」
「良く決断してくれたなエフィシス! 大歓迎だ!」
俺は満面の笑みでそう言って、即でシエラにアイコンタクトを送る。
シエラもどうやら先程からエフィシスを見極めていたようで、コクッと頷いてくれた。シヅキの時より反応が良かった気がするのは、きっと気のせいだと思う。
「エフィシスさん、良いのですね?」
「もちろん。〈救護委員会〉より〈エデン〉の方がもっとダンジョンの奥に行けそうだし。今より強くなれるというのも魅力的。〈下級転職〉してもすぐに戻ってこれるみたいだし、ここは飛びつく場面と判断した」
おお。エフィシスはクールだな。
だがとても理に適っている。シエラもエフィシスの評価を上方修正した様子だ。
「はぁ。そうハッキリ言うものではありませんよ。確かに、〈救護委員会〉の目的は奥へ行くことではなく、ダンジョン内の要救助者の救護なのだけど」
「うん。だから、攻略するギルドに行く。私、もっとダンジョンの奥行きたい」
「…………わかりました。エフィシスさんが〈救護委員会〉から旅立つことを認めます」
「ありがとう」
そう言ってエフィシスがヴィアラン会長に頭を下げる。
俺も合わせて下げた。
「ヴィアラン会長、このような場を設けていただき、ありがとうございました!」
「ふふ、〈エデン〉に助けられているのは本当ですからね。これくらい問題ではありませんよ。それに――エフィシスさん」
「はい」
「卒業後には戻ってきてください。いつでも待っていますからね」
「ありがとうヴィアラン会長。ちょっと嬉しかった」
「あら、ちょっとなの?」
〈救護委員会〉は会長が学生ではないことからも分かるように、大人が管理している特殊なギルドだ。おかげで、卒業後に加入することももちろん可能。もちろん厳正な審査が必要だが、スカウトがあればもちろん免除される。
ヴィアラン会長はエフィシスに「掛け持ちなんてしないで〈エデン〉で集中してください。戦果をあげ、卒業したら〈救護委員会〉に戻ってくればいいのですから」と言って送り出してくれた。
ありがたいことだ。〈エデン〉としても助かる。
まあ、一番助かるのは〈救護委員会〉だろうけどな。
〈エデン〉の一大戦力になる者が〈救護委員会〉に戻ってくることがほぼ確実なんだもん。最上級ダンジョン攻略者をスカウトできるのだからヴィアラン会長的には大変良い交渉だったと思う。
「改めて、お世話になります。ゼフィルスさん、シエラさん。私のことはどうぞエフィと呼んでください」
「こちらこそ、これからよろしくなエフィ」
「ようこそ〈エデン〉へ。歓迎するわ」
「それと、これからは同じギルドの仲間だ。俺たちも呼び捨てで良いし、さっきみたいな口調で構わないぞ」
「うん、ありがとう。よろしくゼフィルス」
「おう」
エフィ、エフィな。よし、覚えた。
一通り話が終わったところでヴィアラン会長が声を掛けてくる。
「それではエフィシスさんは引っ越しの準備をしてください。その間、私はこの〈エデン〉のギルドマスターに聞かなくちゃいけないことがたっぷりありますから。ゆっくりでいいですよ?」
「それなら私も手伝うよー」
「うん。じゃあ行こっかシヅキ」
おや? なんだかヴィアラン会長の顔が笑ってない気がするぞ?
こうして会長室には俺、シエラ、ヴィアラン会長の3人が残された。
「それでは、〈聖ダン〉の詳しい話から聞きましょうか?」
なんだ、そんな話か。
もちろん俺的には構わない。シエラもここで待つそうなので、俺は気合いを入れてヴィアラン会長にダンジョン攻略の説明を行なったのだった。
そしてエフィとシヅキが戻ってきたときには、ヴィアラン会長が片手で頭を押さえて頭痛と闘っていたのだった。




