#1485 1人目! ゼルレカが無事〈エデン〉に加入!
すでにセレスタンは手続きをあらかた済ませていた模様。
〈獣王ガルタイガ〉の方は傭兵団だからだろうか、フットワークが軽い。
確か移籍って荷物の整理や引き継ぎなんかがあるから1週間から10日くらい掛からなかったっけ?
それを約半日で終わらせてきちゃったよ。
確か〈獣王ガルタイガ〉ってカルアの時みたいに移籍にお金とか掛かったはずだが。その辺セレスタンに聞いてみると。
「今回は〈獣王ガルタイガ〉からの頼みということもありましたから、移籍金はゼロ。むしろ〈エデン〉を経験させてもらえるのだからと〈放蕩獣鉄剣〉まで格安で貸していただけました。具体的には〈上級転職チケット〉2枚ですね」
マジかよ。ゲーム時代、【ハイニャイダーLV70】を移籍させたけりゃ億が動いてたぞ?
もっと言えば【大罪】職へ至るための専用装備〈放蕩獣鉄剣〉は買うこともできず、〈決闘戦〉で手に入れるしかなかったが、そのレートは売れば軽く9桁はする装備がいくつも必要なレベルだった。
それが〈エデン〉では余りまくっている〈上級転職チケット〉たった2枚で、〈放蕩獣鉄剣〉までセットで貸してくれるとか、リアルってすげぇな!
ちなみに期間はゼルレカが〈獣王ガルタイガ〉に戻るまでだそうだ。
……ゼルレカが戻らなかったときはどうなるんだろう? 俺、気になります。
そして、再会。
「アリス、キキョウ」
「ゼルレカ! 元気だった?」
「思ったより元気そうで安心しました」
「あ~悪い、心配掛けた」
俺もゼルレカの様子を見るが、なるほど。
学園祭でガルゼ先輩に蹴りを入れながらイキッてたあのゼルレカとはかなり印象が違う。結構落ち込んでいる様子だ。
「悪いねゼフィルス君。助かるよ」
「気にしないでくれサテンサ先輩。ガルゼ先輩からも、妹を気に掛けてほしいとお願いされていたし、これくらいどうってことはないさ」
「あんた、いい男だね。――ほらゼルレカ、改めて〈エデン〉のギルドマスターに挨拶しな」
「! はい! ――ゼフィルス先輩。お世話になります!」
おお! 去年『イケメンじゃん! あたいはゼルレカ。来年入学するんだ、よろしくな!』とか言っていたゼルレカがずいぶんおとなしくなってる。
見ろ、アリスが首を傾げてゼルレカを見ているぞ。もしかしたら「偽物?」とでも思っているのかもしれない?
「ゼルレカがこんなに社交的になってるなんて、成長しましたね!?」
「ここまでにするのに苦労したさね」
そしてキキョウの方はなぜかサテンサ先輩と意気投合していた。
俺も印象がガラリと変わって驚きを隠せないが、まずは挨拶だな。
「おう。これからは〈エデン〉で過ごすことになる。要望があればビシバシ鍛えてやるぞ」
「! ありがとうございます! あたい、アリスやキキョウを守るって思っていたのに、全然ダメで、強くなりたいんです!」
「ほう。その意気や良し! 俺に任せておけ!」
「はいっす!」
「ほわー」
「ゼフィルス先輩、かっこよかったです!」
俺が自分に親指を決めるポーズを取ってかっこつけるとロリ3人からキラキラした目で見られた。
ふむ。思ったよりゼルレカは前向きなようだ。
ゼルレカは確かにアリスやキキョウのお姉さん的なポジションのイメージがあった。儚く幼女なアリスとキキョウ、2人を守るナイト様のゼルレカ。
まあ、実際はともかくイメージとしてはそんな感じ。
だが、クラス対抗戦で事件は起こる。
事件、というか、アンビリーバボーというか。
アリス、キキョウ、ゼルレカは同じく〈戦闘課1年1組〉に所属している。
そこでゼルレカは、〈エデン〉1年生メンバーの圧倒的な実力を目の当たりにしてしまったんだ。
少し話を聞いただけでも〈戦闘課1年1組〉の武勇伝は凄まじいものがあった。
なお、その武勇伝を残したのは全員が〈エデン〉組である。
ヴァンが第二拠点を建てて、そこを起点として城攻め。
キキョウが守り、アリスが突破口を開き、サーシャとカグヤがサポートをしてついでに阿鼻叫喚を上げさせて崩し、そこへアルテがナキキを連れてきてズドンだ。
隙を突いて【破壊王】が拠点をぶっ壊すという恐ろしい戦法を仕掛けたらしい。
ノーア、クラリス、ミジュ、シュミネは元々防衛担当だったらしいが、1年生で使ってくれよと言って渡した防衛モンスターの〈クジャ〉と〈アリドレン〉が守る〈1組〉拠点に攻めるクラスは皆無だったらしく、途中から4人も攻めに出て無双しちゃったらしいぞ。おかげで全ての試合で〈決着〉で勝負が付いたらしい。
五段階目ツリーVSまだカンストにも届いていない下級職なので、この結果は歴然だろう。
おかげで同じクラス内でもチームが勝って喜ぶものも居れば、あまりの戦力差にちょっと自信を喪失する者も出たとか。
ゼルレカの場合はむしろ「あたいも負けてらんねぇな!」と士気を高めるタイプだったのだが、気負いすぎて準決勝と決勝で〈敗者のお部屋〉へ早々とご招待されてしまい、自信がぽっきり折れてしまったのだと。
なお、〈エデン〉1年生は誰も退場していないというのだから凄まじい。いや必然だな。
だが、どうやらぽっきりとへし折られてもゼルレカの姿勢は変わっていなかったらしい。
――『アリスとキキョウに追いつきたい!』
そう願うのなら、俺が叶えてやろう!
それから〈獣王ガルタイガ〉のサブマスター、クエスタール先輩とセレスタンが色々手続きしたのち、解散することになる。
「パネェの姉御! 大変お世話になりました!」
「パネェって呼ぶんじゃないよ! まったく。だが、せっかくの機会だ。決して無駄にはするんじゃないよ? 帰ってくるのはその目と体で〈エデン〉を実感し、全てを学んでからにしな!」
「うっす!!」
これにて移籍の手続きが完全に完了。
ゼルレカもサテンサ先輩と別れの挨拶を交わしてやってくる。
「改めて、世話になります!」
「おう。大歓迎だ」
「大歓迎ぇ~」
「ゼルレカと同じギルドで活動できるんですね! 嬉しいです!」
「アリス、キキョウ……」
俺のマネをするアリスと、キキョウの歓迎の言葉に顔を綻ばせるゼルレカ。
ああ、なんとなくそれを見てゼルレカは思ったよりも大丈夫そうだと思った。
それから〈ギルド申請受付所〉に向かうというセレスタンと別れ、俺たち4人はギルドハウスへと帰還する。
そこでは、シエラが待ち受けていた。
「おかえりゼフィルス。いらっしゃいゼルレカ」
「ただいまシエラ。――ゼルレカ、改めて紹介しよう。うちのサブマスター、シエラだ」
「はい! シエラ先輩。あたいはゼルレカと言います。これからしばらく〈エデン〉にお世話になります!」
「ええ。よろしくね。……これから大変だと思うけど」
「……え?」
おっとなぜかシエラから意味深な言葉が!
シエラよ、新人をビビらせないであげて? 大変なんてことないよ? ほんとだよ?
そう思ってシエラを見つめたら、ジト目で返された。なんかテンションとやる気がふつふつと沸いてくる!
「それじゃあ部屋にご案内~」
「ゼルレカ、ギルドハウスを案内しますね。――先輩、いいですか?」
「おう。それじゃあアリスとキキョウに任せるな」
「は~い!」
「あ、ちょっと待てよアリス!?」
小さなアリスに手を引かれたゼルレカはそのままギルドハウスの中に消えていった。案内は重要だからな。
それを見届けたところで今度はリーナが出てくる。
「ゼフィルスさん、おかえりなさいませ」
「ただいまリーナ」
「早速ですが、新人の受け入れ、どうしますか?」
「それな」
リーナの言っているのは、どうせゼルレカを入れるのであれば、もっと加入者を増やしても良いのではないか? という話だ。
正直、1人増やすのも2人増やすのも3人増やすのも、育成の手間はそんなに変わらない。
むしろ1人だけに集中すると〈道場〉などの経費がちょっと勿体ないので、育てるならいっそ数人単位で育てた方が良いまである。効率的な意味で。
そしてこの前の、今年の〈転職制度〉はスルーすると言った件も、見直しますか? とリーナは言ってきているわけだな。
それに対し、俺は考える。
現在の〈エデン〉メンバーは45人、クイナダが留学生枠なのであと6人メンバーを入れられる。
しかし、5人以上入れると今度は〈道場〉での育成が上手くいかないだろう。俺たちがサポートできないから。
そのため、入れるとしてもゼルレカを含めて4人までだな。つまりあと3人。
残り2枠は来年の1年生の時のために取っておこう。
だが、〈転職制度〉は最初からスルーするつもりだったので、候補の選出をしていない。これから探さなくてはいけないのである。そこがちょっとネックだ。
「これから探すのが、ちょっと難しいな」
「それならちょっと勧めておきたい子がいますよ~」
「おお? マリア? 帰ってたのか」
「ただいまです! まだ朝ですけど!」
おっと、いつの間にかマリアが帰ってきていた。メガネをクイッと持ち上げる姿が今日も決まっている。
最近は新しく発足した〈ダンジョン商委員会〉の初代隊長としてバリバリ働いているようで、〈エデン〉のギルドハウスには中々帰って来られない、日曜日にここへ顔を出すことは珍しくなっていた。
「今日はどうしたんだ? 日曜日だぞ?」
「ふふ。ようやく後輩が育ってきたので、今日は午前休を貰って午後から参加なんです。それよりも新しく〈エデン〉に加入させる人を募っているのですよね?」
「おう。まだ検討中の段階だが……さっきの話だが、良い人が居るのか?」
「そうなんですよ。1年生で〈ダンジョン商委員会〉所属。私のダンジョンショップを手伝ってくれている健気な子で、もしよければ〈エデン〉に参加させてあげられないかって思うんです」
「マリアさん、仲が良いだけでは〈エデン〉に入ってから辛くなりますよ? ここはとんでもない実力者たちが集まっているのですから」
「分かってますよリーナさん。トモヨちゃんもすっごく悩んだんですから」
「へぇ、つまりその子にはなにか才能があるということなのね。〈ダンジョン商委員会〉の戦闘部の子かしら?」
マリアの話にシエラも興味を持ったようだ。
リーナの言うようにただの知り合いなら〈エデン〉でやっていくのは厳しいだろう。だが、能力があるのなら大歓迎だ。
いったいどんな子なのか、俺も興味が出てきた。
ちなみに〈ダンジョン商委員会〉では道中の護衛やボス戦をお手伝いする戦闘部という部署がある。
戦闘ギルドに所属させたいということなら商い系の子ではなく、戦闘部の子だろうとシエラは考えたようだ。
「名前はマシロちゃん。1年生の【白魔導師】の子なのですが。この子を【天使】系に〈転職〉させられないかと思うんですよ。すっごい回復が上手なんです!」
「! ほほほう?」
【白魔導師】は【ホーリー】の1個下。下級職、中の上だ。つまりは中位職。
それは――〈転職〉が必要だな!




