#1482 ハンナの朝食が無い大変な非常事態が発生中!?
とっても迫力と楽しさに溢れたクラス対抗戦もとうとう終わり、翌日。
俺はいつも通り自分の寮部屋で目覚めていた。
しかし、今日はなんだか様子がおかしい。
「? ハンナ?」
シーン。
部屋からはいつものハンナの気配が無かったのである。というか誰の気配も無かった。
クラス対抗戦期間中は色々あってハンナは朝、俺の部屋に来られなかった。
だからそれが終わった今日はハンナが来る日。俺はそう思っていた。しかし。
「え、あれ? ハンナ? いないのか?」
ハンナがいない。ハンナがいない!?
え、どうしよう。もしかして今日も来ないのだろうか?
そう感じた瞬間、腹がグオーとまるで抗議の声を上げるかのように唸った。
俺の胃はこんなにハンナの朝食を食べたがっているのに!?
ここで俺に、最悪の想像が頭を過ぎった。
まさか、もうハンナは朝食を作りに来てくれないのではないかと。
うそだろ……。
そういえばクラス対抗戦の最中、ハンナも自分の対抗戦があるからと、しばらく別行動していたが、まさか……愛想を尽かされたのでは!?
俺は背筋がブルブル震え、抗議の声を上げていた腹の音もすっこんだ。
「ど、どどどどどどどどうすれば!? そうだ、説得、いや、プレゼントだ! 今からハンナの部屋にいけば!」
ここで妙案。ハンナの部屋に突撃朝ご飯作戦だ。
俺の〈空間収納鞄〉にはクラス対抗戦の出店で購入しまくって、後でハンナと食べようと思っていた食べ物が山ほどある。これで謝り倒してお願いすれば、いけるだろうか?
いやいける!
すぐに仕度を済ませる。
俺の頭はハンナにどう拝み倒そうかという案でフル回転だ。
絶対に失敗してはいけないミッション発生。
まさかクラス対抗戦の後にこのようなことが起こるとは、考えもしなかった。
俺はずいぶんハンナに甘えていたようだ。
…………いやむしろ甘えさせられていた気がするのは、きっと気のせいだろう。
「よし」
準備と覚悟完了。
今の時間は、6時40分。
この時間ならハンナもきっと起きているだろう。朝食もまだのはずだ。
今なら…………ん? あれ? 6時40分?
俺はただならぬ違和感を持ちながら玄関で時計を見て固まった。
すると―――目の前のドアの鍵がガチャガチャガチャンと開けられた。
そして。
「そ~~~、…………あれ? ゼフィルス君?」
「ハンナ?」
ドアをそーっと開けて入って来たのは、見間違えようもない。
ハンナだったのだ。
ドアの隙間から入ろうとしたハンナと、玄関でまさに部屋を出ようとしていた俺の視線が交差し、俺たちはそのまま固まった。
そして、先に動き出したのは俺だった。
「ハンナ!」
「へ? ひゃ!?」
「ハンナだ!」
そのままドアを開け放つと、ハンナに抱きつき、ギュッとそのまま持ち上げ、部屋へと引きずり込んだのだ。
「ハンナ~~~~~」
この感触。ハンナに間違いない!(多分)
「ちょ、へ!? ど、どどどどうしたのゼフィルス君!? ちょっと待って!?」
「いいや待てん! ハンナ~~~~~~!」
「もう、ゼフィルス君、何があったのーーーーー!?」
俺が落ち着くには、それから数分の時間を要した。
◇ ◇ ◇
種を明かせば簡単な話だった。
俺が朝、ちょっと早く目が覚めてしまっただけの話である。
つまり、ハンナがまだ来ていなかっただけのことだったのだ。
クラス対抗戦の翌日にこんなに早く目が覚めるとは想定外だったぜ。てっきり疲れから、もっとゆっくり目覚めるかと思っていたのが今回の原因だった。
「もう~、何事かと思ったよ~」
「いやぁ面目ない」
「う~ん、でも寝ぼけているゼフィルス君は新鮮だったし、別にいいけどね」
「ハンナ~」
許された。
なぜだろう。俺はハンナが天使に見えた。
気のせいかもしれないが、気のせいじゃないかもしれない。
ハンナにとって俺は、寝ぼけてハンナが居なくて寂しがり、会いに行こうとした男の子と思われてしまったようだ。
なんてことだ。でも不思議と嫌ではないのはどうしてだろう?
「ねぇゼフィルス君。私が朝ご飯作りにこないと、困る?」
「困る。すげぇ困る! 一生困ると思う!」
「一生!?」
「ああ。俺は今日思い知ったんだ。ハンナが居ない朝は考えられないと」
「は、はわわ!? そ、そう、なの?」
「ああ。だからハンナ頼む。俺にずっと朝ご飯を作ってほしい!」
「わ、わわわわわわ!? ぷ、ぴゅろぽーず?」
ぴゅろぽーず? ……プロポーズ、だろうか?
…………あれ? なんだか勢いと衝動でとんでもないことを言った気がしてきた。
これ、俺がハンナにプロポーズしてない?
「えっと、えっとねゼフィルス君。その―――」
「ちょっとストップ」
「ふえ?」
ハンナがもじもじ手を合わせて上目遣いで何か言いそうになったところで俺はストップを掛けた。ここで言い切らせると、とんでもないことが起きる予感がしたのだ。
でも『直感』さんは無反応。
『直感』さん!? 今こそ俺を導くところだよ!?
仕方ないので俺は自力でなんとかこの状況を打破するために頭をフル回転させた。
「えっと、今のはプロポーズじゃなくて、一生というか、とりあえず在学中は、というか」
「……ふえ?」
〈ダン活〉は学生3年間のゲーム。
つまり一生とは在学中の意味で俺は言っていたのだが、ハンナはそうは捉えないだろう。だってゲームのこと言ってないし。
勘違いは正しておかなければならない。
そう、言葉を修正されたハンナは何かに気が付いたようにハッとした。
「あ、そ、そうだよね! うん、大丈夫だよ! ゼフィルス君のこと、分かってるし!」
何やら俺の情報はハンナに筒抜けの予感!?
「な、なるほど~。朝のお料理作戦。ちゃんと効果あったんだ。なら、これをずっと続けていれば卒業しても……」
ん? あれ? ごめんハンナ、後半もっと大きな声で言って? よく聞き取れなかったんだ。
「うん! わかったよ!」
「納得した!?」
「大丈夫、ゼフィルス君、任せて! これからも在学中は毎日朝食を持って来てあげるからね!」
「う……!」
そう、清らかで良い笑顔を俺に向けてくれるハンナに、俺は一瞬で心が清められた。
尊すぎる。
やっぱりさっきまでの俺は相当寝ぼけていたようだ。
俺はもっともっとハンナに感謝しなければならないだろう!
「ありがとうハンナ! 特大の感謝! そうだ、クラス対抗戦中に出店が開いてただろ? ハンナと食べたいと思って買っておいたものもあるんだけど」
「私に?」
「クラス対抗戦の最中、一緒に出店回れなかったからな」
「うわぁ、嬉しいな~。うん、今日の分の朝食は明日に回しちゃって、今日はそれを食べよっか」
「いいのか?」
「うん! せっかくゼフィルス君が私のために買ってきてくれたんだもん」
と、尊すぎる!
ハンナが尊すぎるよ!
俺は目に熱いものが溜まるのを自覚しながら、さささっといくつかの料理(?)を取り出した。
「それじゃあ食べるか! これとか美味しかったんだよ。おすすめだ」
「いただきます。ん~~~、これ、すっごく美味しいね!?」
「だろ?」
気が付けばただの珍騒動。
だが、俺にとってはこのハンナとの朝の時間が、かけがえのないものだと強く実感した騒動でもあったのだった。




