#1477 セレスタン・レグラム・オリヒメVS〈4組〉。
遡ること数分前、セレスタンたちは別働隊としてゼフィルスから離れ、フィールドの北東に位置する拠点、〈4組〉拠点へ向かっていた。
セレスタンの隣にはダンディ君に二人乗りするレグラムとオリヒメの姿もある。
「そろそろです。レグラム様、オリヒメ様、池に落ちないよう細心の注意を払ってくださいませ」
「任せるがいい」
「心配ご無用ですわ。レグラム様が万が一池に落ちようとも、私が受け止めて差し上げます」
セレスタンの忠告にレグラムは気を引き締めるが、オリヒメは決意を燃やしている様子だ。先に逝くなんて許さないからという気迫を感じる。背中からそんな熱を浴びて汗をかくレグラム。果たしてそれは暑さ故か、冷や汗か。
レグラムとしてはオリヒメのことも心配ではあるのだが、オリヒメは軽装なのでもし池に落ちても沈まない様な気がしている。オリヒメは結構泳ぎが得意なのだ。さすがは【人魚姫】から〈上級転職〉した【ネプチューン】。
それに氷使いでもあるので池に氷を張り、そもそも池に沈まないようにすることも可能。レグラムがもし池に落とされようとも、氷を張って受け止める気なのだろう。
「ダンディ君、君にも苦労を掛けるが、頼むぞ」
「ブヒヒヒーン!」
力強い返事!
本当は空を飛べる〈聖獣ペガサス〉の様なモンスターがいれば池や罠のリスクもかなり減らせるのだが、レグラムにはテイムスキルが無いのでダンディ君運用だ。
いくら『乗馬』スキル持ちでもテイムスキルが無いためモンスターの馬には乗れない。こればっかりは仕方ない。
ダンディ君は気合いを入れ、ギラリと目を輝かせ脚に力を入れて駆け抜ける。
なお、真横に馬に乗っていない執事が普通に並走していることには、誰もツッコまないのだった。
◇ ◇ ◇
一方、〈4組〉は接近する2つの影に慌てていた。
「報告! 歩兵と騎兵を1ずつ確認! こっちに全力で迫っています!」
「ん? 〈2組〉の伝令か?」
その数の少なさからまさか自分たちの拠点を落としにきた〈1組〉とは思いもせず、ひょっこり警戒担当のところに顔を出す防衛隊長。とてものんきだった。
しかし、そんなのんきな雰囲気も、次の瞬間には一変する。
「確認! あ、あれは! セレスタン! 〈微笑みのセレスタン〉です! それに〈雷閃のレグラム〉に〈嫁げ姫のオリヒメ〉!? 〈1組〉の襲撃だ!」
「な、はーーーーっ!? 迎撃だ! 防衛モンスターをすぐに出せ!」
「はい!」
たった3人の襲撃。しかし〈1組〉というネームバリューがもはや油断なんてものを蹴っ飛ばし、〈4組〉を素早く迎撃態勢に移行させるには十分だった。
〈4組〉の防衛メンバーは僅か3人。監視、防衛モンスター担当、そして指揮官だ。
必要最低限の防衛メンバーに拠点を任せているためこの数となっている。
後は防衛モンスターで足止めだ。
だが〈4組〉の防衛モンスターは、〈1組〉に比べて貧弱だった。
何しろ、一番強くて中級上位ダンジョンのランク7、その20層守護型ボス〈猪鎧獣・ドンファング〉だったのだから。
それ、去年〈1組〉が用意した中級上位ダンジョンのランク8、10層守護型ボス〈ジェネラルブルオーク〉と同レベルくらいなのであると言えばどれだけ足りないか分かるだろうか。
しかし、数は揃っていた。その数4体。
少し足りないとはいえボスはボス。
イノシシ型ボスのためその突進力は中々のもの、なはずだったのだが、これが裏目に出た。
「ほう。〈ドンファング〉か……セレスタン、あいつらを東へ誘導する」
「承知いたしました。追撃はお任せください」
レグラムとセレスタンは短く打ち合わせ。これだけで何をしたいか通じるのがセレスタンである。
レグラムたちは〈4組〉の西側から接近していた。そして〈4組〉の拠点は東側に池、北側はフィールドの壁がある地形をしており、実質西と南西と南の3マスからしか進入できない地形となっていた。普通は池側から侵入なんてできないからね。
ここでレグラムは真っ直ぐ東へ向かい、敢えて拠点の南側に回り込みつつ〈4組〉拠点に接近。しかしそれだけでは終わらず、さらに東に突っ切るルートを取った。池のあるはずの東に、である。
当然、猪突猛進で追いかけてくる〈ドンファング〉、そしてオリヒメが魔法を発動。
「凍ってください――『冷凍氷河』!」
それは池を凍らせてしまう魔法。環境対策魔法でもあるこれは、当然池も渡ることができる。
「オリヒメ、いくぞ」
「はい!」
ここで1つテクニック。
以前はダンディ君に騎乗する際、スキルや魔法などの発動は不可だと説明していたが、リアル戦術でレグラムたちはゼフィルスも知らない戦法を確立していた。
それがレグラムのスキル『二人騎乗』を一時的に解除するという方法。
このスキルはゲーム時代、2名まで同じ〈馬〉に騎乗出来るというスキルで、ダンディ君が攻撃されたとき、術者ではないオリヒメでもHPを肩代わりできるというものだったが。
リアルでは『二人騎乗』を使わなくても別に〈馬〉に乗れることが判明。これは〈魔法使いの箒杖〉から着想を得たリアルの裏技だ。これにより、オリヒメは馬に乗りつつ魔法を使うことが出来るようになっていた。
もちろんスキルを解除している間は落馬の危険があるのでレグラムにしっかり抱きつくのを忘れない。
凍った池の上を走り出し、想定していなかった東側から拠点に回り込まんとするレグラムたち。
そしてそれを追い、同じく凍った池の上を追いかけてくる〈ドンファング〉。
しかし、残念かな。執事がとんでもないことをしちゃったのだ。
「よく来ました。では、さようならです――『紅蓮爆練拳』!」
爆発する拳を地面の氷にぶつけて爆破。
「「「「ピギィィィィィ!?」」」」
氷砕いちゃった。そして〈ドンファング〉たちはそのまま池へ水没してしまったのだった。
普通のイノシシならばここで泳げても不思議ではなかったが、このボスは〈猪鎧獣・ドンファング〉。名前の通り鉄の鎧を纏う装甲イノシシだったために、重くて沈んでしまったのだ。どうやらそのまま光に還ってしまった模様。
まさに飛んで火に入る夏の虫。
〈4組〉の拠点からはさっきまで「いけー〈ドンファング〉! ぶっとばせー」なんて元気の良い声が聞こえていたのに、今では静かなものだ。固まっているとも言う。
一瞬にして〈4組〉の〈金箱〉産防衛モンスターが全部やられたのだ。さもありなん。
「おや、思いのほか思い切り砕いてしまいましたね」
だがここでちょっと誤算。爆破が強すぎて亀裂が氷全体まで渡ってしまった。
「やり過ぎだセレスタン。――オリヒメ、追加の道を作れるか?」
「もちろんです! ――『海路形勢』!」
しかし御安心。オリヒメにはもう1つ、氷の道を作る魔法がある。
これにより新たにできた氷の道を走り、セレスタンたちは東側から罠を無視して〈4組〉拠点に接近することに成功する。
「防衛モンスター、ち、沈没!」
「ド、〈ドンファング〉ーーーー!?!?」
ここでようやく再起動。
〈4組〉の防衛隊長の悲鳴が轟いた。なかなか良い悲鳴だ。
「東側に回り込んでます!? 来てます! 隊長、指示を!」
「うっそだろ!? 防衛モンスターがこんな簡単に、というかそっち側には罠もなんもねぇぞ! 俺たちが打って出るしかない!」
「せっかく色々仕掛けておいたのに……どっから入って来てんのよ!?」
これには大慌てな〈4組〉。
〈留学生1組〉をこれで落としたゼフィルスの戦法は、〈4組〉でもバッチリ刺さっていた。普通池側にトラップは置かないのだ。
慌てて迫り来る〈1組〉へダッシュする3人だったが、〈1組〉の3人の方が速かった。
「では失礼いたします。『こんなこともあろうかと』! ――『突貫』です!」
ドリルに換装したセレスタンがまずは一発。
ズドンと衝撃。
「きゃあああああ!?」
「ちょ、拠点、HPHP!」
「半分になってる! や、やめろーーー!?」
〈4組〉が慌ててセレスタンに群がろうとするが。
「やらせん! ゆくぞオリヒメ――『天の川の星屑』!」
「はい、レグラム様! 『天の川の結晶』!」
「な、なんですかこれは! 『ワイドスラッシュ』! す、すり抜けた!?」
「なにこれ、水!?」
「足止めか!? こんちくしょー!! 俺が道を切り開く!」
「防衛隊長!?」
「甘い! 『雷速天空・閃断』!」
「ぎゃああああああ!?」
「防衛隊長がやられました!?」
「きゃあー! レグラム様素敵でーす!」
レグラムとオリヒメの相手を閉じ込めるコンボが発動。
天の川に突撃しても向こう岸に渡る前にレグラムがぶった斬る。そしてリリースだ。
セレスタンには近づかせない。
他の〈4組〉メンバーも必死に天の川を突破しようと奮闘するが、及ばず。ついに。
「クールタイム、終わります。3、2、1――『突貫』です」
「「あああああああ!?」」
2度目のズドン。
これには拠点も耐えきれず、陥落。
〈4組〉は退場してしまうのだった。
そして〈1組〉の拠点では、ゼフィルスたち攻撃部隊をなんとか止めようと奮闘していた〈4組〉メンバーが全員転移陣で消えたことで、ゼフィルスたちが解放されてしまう事態となる。




