#1451 クラス対抗戦3日目は――シエラとデート!?
2日目は〈支援課〉の方ですでに決勝戦が行われ、無事〈2年1組〉が勝利したそうだ。
あそこはカイリやニーコ、あとサトルのいるクラス。
さすがと言うほかないな。
また〈生産専攻〉のブースというか、コンテスト会場も凄かったらしい。
今年は去年とは違い、上級生産職が凄く増えたからな。
去年はハンナ一強だったが、今年は多くのブースで悲鳴と歓声が上がったとか。
特に〈調理課〉はヤバかったらしい。
普段上級料理アイテムなんて口にしたことのない審査員が、突然上級職の本気を味わったらどうなるのか?
答えは――現実に戻って来れなくなった審査員が急増したらしい。
端的に言えば一撃で昇天してしまったのだとか。
どんな料理を食べたんだろう?
結果として、Bランクギルド〈中毒メシ満腹中〉のフードファイターたちを呼ぶことになり、スキル『美味い砲』の威力の高さで審査するという斬新な審査に変わったというのだからびっくりだ。
『美味い砲』は飯が美味ければ美味いほど威力が上がるという狂った性能のスキル。なんかコンテストでは相当ありがたがられたとか。
もし〈中毒メシ満腹中〉が来なければ、審査ができないからと「何人の審査員の意識を飛ばしたか」で審査することになったかもしれないというのだからマジヤバい。なお、優勝はミリアス先輩だったとか。
学園ニュースのトップ記事に載ってたよ。上級料理人、ヤバすぎ。
〈戦闘課〉は相変わらず予選でガンガン篩に掛けられている。
留学生組の多くが勝ちまくるもんだから、応援が本校寄りに変化して行き、「本校の意地を見せろー」とか「それでも本校生かー」みたいなノリの応援になっていたらしいぞ。
まあ、会場に観客席の声は聞きとれない仕様なんだが。
とはいえそれに触発され、留学生組VS本校組、みたいな対抗戦会場もあったらしくて、ちょっと面白い。
3日目からは第2回戦が始まる。
ここからは少し強い本校のクラスがシード参戦するので留学生組とは良い勝負が出来るはずだ。楽しみだ。
そしてクラス対抗戦3日目。
今日、俺の部屋に迎えに来たのは、案の定シエラだった。
「おはようゼフィルス。……突然で迷惑じゃなかったかしら?」
「シエラが訪ねてくるんだぜ? 全然問題無いさ!」
「……もう」
「改めて、おはようシエラ」
そんな玄関前のやり取りが素晴らしい。
ハンナが何を喋ったのかは分からないが、どうやら毎朝こうして部屋まで迎えに来ている、という感じのことを言ったのかもしれない?
本当は朝食までごちそうしてくれているのだが、そこまでは喋っていない模様だ。
もし喋っていてハンナの朝食が万が一にも禁止にされようものなら俺の胃袋が持たない。なので俺も余計なことは言わないのだ。
「では、行きましょうか」
「おう。今日はいくつか行きたいブースがあるんだよ」
「いいわよ。私も付いていくわ」
そう言って振り向くシエラ。夏服姿がまぶしい。
そろそろ衣替えの季節で冬服になってしまう日が近づいている。
なんということだ。
しっかりシエラの夏服姿を目に焼き付けなければ。う、まぶしい!
「何やってるのよ?」
「いや、シエラの夏服が神々しくって」
「……もう。何を言ってるの? これくらい学園で毎日見ているじゃないの」
俺が目をまぶしげに薄くしていると、シエラに聞かれたものだからうっかり口がチュルンと滑った。
しかし、それを聞いて照れてそっぽ向いたシエラが顔を赤くしているのを、俺は見逃さない。口が滑って良かった!
「こほん。ゼフィルス、そういえば朝食はまだだったわよね?」
「おう。出店がせっかくあるんだからそこで食べようと思ってな!」
「私も付き合うわ。どこか美味しいところはあるかしら?」
「そうだな~」
せっかく出店が出ているのだから朝を抜いての出店巡りは鉄板。
しかも第一アリーナから第七アリーナまで繋がるストリートにはずらりと出店が建ち並んでいるのだから1日で制覇するのは不可能だ。
5日間掛けて食べ尽くさなければなるまい。
しかし、女子と一緒というのが少しネック。
やはりがっつりいく系は排除しよう。シエラが好きなのは落ち着いた雰囲気だ。
出店で落ち着いた雰囲気って無理じゃね?
否! 俺ならばできる! そう信じて出店をチェックする。
そして、1つの出店が俺の目に止まった。
「ここなんかどうだ?」
「たこ焼き屋さん?」
「美味そうだろ?」
そう、そこはたこ焼き屋。
お腹にも溜まるし、美味しいし、女子にもいけるということでチョイスしてみた。
果たしてシエラの反応は?
「いいわね。私、たこ焼きって食べたことないのよ」
「まさかの初めて!?」
おっふ。
さすがは貴族のお姫様。なんだかいけないことをしている気にさせられる不思議。
否、たこ焼きはいけないことじゃないよ!
鉄板のたこ焼きを購入してベンチに座って2人で食べる。
「あ、熱いわ」
「たこ焼きは熱々のうちに食べるとキツいから、こうして少しずつ食べるといいぞ。あ、落とさないようにな」
「ありがと。でも、これ美味しいわね」
「だろ? お気に召して良かったよ」
俺もたこ焼きは大好きだ。シエラも新しい食感に感銘を受けたのか、熱いはずなのに食べる手が止まらない様子だな。
俺も食べる。
ん~~! 熱々の生地を突破すれば中も熱々!
外側は意外にもカリッと仕上がりで中はモチモチ。ソースの風味に鰹節がアクセントになり、マヨネーズのコンボがもう最強。パーフェクトな美味さを醸し出していた。
これ、美味いわ。
出来たてのたこ焼きをいただいてしまった。
「ごちそうさま」
「気に入ってくれたようで良かったよ」
程なくしてシエラも食べ終えたので、俺たちは――追加で10個ずつ買い求めて〈空間収納鞄〉に入れ、デートに戻った。
そうか、今シエラとデート中じゃん。
気合いを入れ直さなければ。
「出店は色々なものが売られているのね。でも、クラス対抗戦だからか、観戦しながら食べられるものが多いのね」
「そうかもしれないな」
夏祭りや学園祭と比べると、確かにシエラの言うとおり、観戦しながら食べるものが多く売られている感じ。
あそこなんかポップコーンが売られているぞ?
映画感覚なのかな?
そんなことを答えながら周りを見渡していると、人が多くなっていることに気が付いた。いや、人波がこっちに来てる? しかもなんか早足だ。
「あれは、どこかのクラスか。――シエラ、こっちに」
「きゃ」
どうやら数十人単位のクラスがわざわざこのストリートを使ってアリーナに向かっているようだ。ここのストリートはクラス単位での移動が制限されているのに。
俺はシエラの手を引いて道の端に寄る。
すると、驚いたのか、シエラが珍しくつんのめって俺の胸に寄りかかってしまう。
「あ、悪いシエラ」
「ううん。大丈夫よ。でも彼らが通り過ぎるまでこのまま、動かないで」
「え、お、おう」
俺の胸にシエラの顔が!
あと軽く腕を回されてない? これは抱きつかれていると言っても過言ではないのでは?
その横を通り過ぎていく学生たちは、どうやら1年生のようだ。
周りでこそこそ話す人の声を聞く限り、どうやら出場するアリーナ会場を間違えたらしい。アリーナからアリーナへ向かうにはこのストリートを使うのが早いため、急ぎの理由で使っているようだ。通り過ぎるとき「すみません、すみません」と周りに謝りながら通り過ぎていく様子はちょっと不憫。
俺は1年生たちによくやったとお礼、じゃなくて頑張れとエールを贈って見送ったよ。
「行ったかしら?」
「え? あ~行ったかもしれない?」
「なんで疑問形なのよ?」
それまで俺の胸に顔を埋めていたシエラがジト目で見上げてくる。
ぐはっ! このジト目は反則だ! いいぞもっとやれ!(歓喜)
俺は心の中でシエラに拍手喝采を贈った。
「もう。大丈夫みたいだから離れるわよ」
そんなー。
そう言いたかったが俺はグッと我慢してシエラが離れるのを待った。
「あの1年生は、ちょっと災難だったわね」
「だな。無事勝ち残ってほしいが…………」
勝ち残ったら残ったでうちの1年生たちにやられる気がするな。
そんなことを考えていたらシエラがゆっくり離れてしまった。
ああ、残念。
「その、いきましょゼフィルス。今度は最初から手を繋いでいれば問題無いわ」
「……だな」
しかし顔を赤くしているシエラがそっぽ向きながら手を差し出してくれるのでグッド。
俺はその手を取って再びシエラと出店を巡ったのだった。




