#107 初級中位ダンジョン最後の難関だが、楽勝だ。
木曜日。
今日は朝から〈小狼の浅森ダンジョン〉に来ていた。
メンバーは俺を含めいつもの5人。
カルアとリカは昨日、無事〈初心者ダンジョン〉を合格し、2度周回。
しっかり職業LV10にして戻ってきたので、ステータスとスキルの振り方を伝授した。今日から2人で初級下位の〈熱帯の森林ダンジョン〉に挑むらしい。
スキルの練習もやっておけよ~と言って先ほど初ダンで分かれた。二人とも良い笑顔で……、いや真顔で手を振っていた。もうちょっと笑顔が欲しいな。
俺たち5人は今日から〈小狼の浅森ダンジョン〉を周回だ。
昨日マリー先輩のところであった事をメンバー全員に共有していき、今日の目標を掲げる。
「というわけで今日はザコモンスターを最低限にして真っ直ぐボス部屋まで進む。ボス周回をメインにする予定だが、いいか?」
「構わないわ」
「良いわよ。回復使えるし、それにハンナのためだもの!」
「了解です。異存はありません」
よかった。勝手に予定を組んでしまったが他のメンバーも異存は無いようだ。
「みなさん。ありがとうございます」
「もう、いいのよ遠慮しなくても、この王女様に頼りなさい!」
意外に面倒見の良いラナが胸に手を当ててドヤッていた。
昨日大活躍出来たためラナのテンションが著しい。
「〈能玉〉ってどれの事かしら?」
「あ、これです。この水晶の中でクルクル回ってるのが〈フレムロッド〉が能玉化した姿なんです」
「ほう、これですか」
みんな件の激レア〈能玉〉が気になるようでハンナの下に集まってきた。
ハンナがみんなに見えるよう両手で持った杖を見せている。
ちなみに〈マナライトの杖〉は初ダンに来た時にハンナに渡してある。
〈能玉〉もその時に入れた。ハンナの言う通り、〈マナライトの杖〉の先端にある水晶の中には〈能玉〉が埋め込まれている。
ゲームでは設置アイコンをクリックするだけだったが、リアルでは最初杖のどこにセットするのか分からなかった。まさか水晶の中に入れていたとは。しかも結構コツがいる。
ちなみに取り出す時は水晶をコンコンと軽くノックし続ければいいようだ。すると中身がポロッと取れる。どんな構造をしているんだろうか? ファンタジーだぜ。
「この杖の能力だけで『ファイヤーボールLV5』『フレアランスLV3』『アイスランスLV1』が使える。破格の性能だぞ。しかも〈魔能玉〉に能力が入っているから、違う〈空きスロ武器〉でも使うことが出来る」
「すごいわね。昨日はゼフィルスの話にピンと来なかったのだけど、こうして目の当たりにするとあなたがあれだけ熱を持って語ってた理由が分かるわ」
まあ昨日シエラは精神的に一杯一杯だったみたいだからな。
なんか上の空っぽかったのは気づいていたよ。
「これでハンナもより活躍出来るのよね!」
「そのためにも今日のボス周回が必要なのですね?」
「その通りだ。このまま初級上位に突入しても今のハンナでは少しの油断で命取りだ。せめて少しは耐えられるようになってもらわないと困る」
ハンナ大改造計画だ。
全員に正しく認識してもらったところでダンジョン攻略を始めよう。
〈小狼の浅森ダンジョン〉はフィールド型ダンジョンだ。
下草が伸びていない木だけが生えている浅い森が舞台で、木の間を縫うようにして〈ウルフ〉が襲いかかってくる。
モンスターの奇襲が多く見られるダンジョンだな。
一行は俺が前に出て『直感』による索敵をしながら進み、後衛を守るようにエステルとシエラがポジションをとっている。
ダンジョンの上層は、前方からしか〈ウルフ〉は襲ってこないのでしばらくはこのポジションで問題ない。
下層からは後ろからも奇襲が加わってくるので注意が必要だ。
まあ、襲われる場所を熟知している俺がいるのでまったく問題ない。
前もって準備が出来るからな。道も全部分かっている。
「奇襲が来るぞ、前方から。戦闘準備」
「うん!」
「バフいる?」
「防御だけくれ」
「わかったわ。『守護の加護』!」
パーティ全体にエフェクトが入り、防御力バフのアイコンが付いた。
それと同時に『直感』が発動すると、前方から〈ウルフ〉が数匹見えてくる。
「ワウワウッ!」
「数は3匹ね。2匹受け持つわ。『挑発』!」
「んじゃ、俺とエステルは残り1匹の方だな。ハンナとラナはヘイト取ってる方な」
「うん! 『フレアランス』! 『アイスランス』!」
「分かってるわ。『光の刃』!」
皆の役割分担もだいぶ板に付いてきたようだ。
俺の指示が飛ぶ前からすでに個人個人が動き出している。
ハンナは新しい〈魔法〉を早速使いまくっているな。テンションも高い様子だ。
ラナと違って『MP自動回復』を持っていないのでガス欠を起こさないよう気をつけさせておこう。
程なくして戦闘は終了する。
「お疲れ。先に進んでいいか?」
「ええ。これくらい準備運動にもならないもの」
「私も問題ありません」
魔法組の2人も休憩はいらないとの事なのでドロップを回収して先へ進む。
下層では〈リーダーウルフ〉という個体が出てきて『統率』スキルを使ってくる。
この『統率』は〈ウルフ〉を強化するスキルなので少し警戒していたが、このメンバーにとってたいした相手にはならなかった。
エステルが流れるように『ロングスラスト』からの『プレシャススラスト』と繋げて〈リーダーウルフ〉を瞬殺出来るようになってからは楽だったな。後の〈ウルフ〉は『統率』も無くなって苦戦せず倒せるようになった。
そうして一行は順調に歩を進め、現在10時。お昼になるよりだいぶ早く15層にある救済場所にたどり着いたのだった。




