表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/49

再び『ニジョウノ腕輪』

『ニジョウノ腕輪』とは、百八十人の魔力を贄にして造りあげた禁忌の魔道具。


 今から百七十年前、世界の半分を魔王に奪われ、それを取り戻そうと戦いに挑んだ五人の勇者と三十人の従者のうち、最後まで残ったのはたった六人だった。 

 圧倒的な力を誇る魔王に、勇者たちは全滅寸前まで追い込まれる。

 その時物陰に隠れていた一匹の魔物娘が、魔王の腕に『ニジョウノ腕輪』をはめる。

 腕輪に封じられた魔力は自らを焼き、悶え苦しむ魔王に勇者はとどめを刺した。

 世界を救った勇者たちは魔法千年王国の王族となり、『ニジョウノ腕輪』を造った人と魔物の混血の娘はその知識を生かし魔法学園が設立。

 そして今、魔力封印の『ニジョウノ腕輪』は、大罪人シルバー姫の両腕にはめられている。



 

 シルバー姫が背中を丸めひざを折り、地面の上で痛みに苦痛の声をあげる。

 驚いたカーバンはシルバー姫に駆け寄り、禍々しい光を放つ腕輪を外そうとしたが、腕輪は細い手首に食い込んで腕を切り落とさないと外せない状態だった。


「シルキードラゴンを倒した私の中に、ドラゴンスレイヤーの魔力が宿り…魔力封印の力が発動しました。

 暴走した魔力に、身体の中が炙られて、く、苦しいっ」

「大丈夫だシルバー姫。俺のパワーアップした治癒魔法で、君の痛みを取り除く」

「無理です、カーバン様。

『ニジョウノ腕輪』に魔法を跳ね返されて、治癒魔法は効きません」


 常人の十倍の生命力を持つシルバー姫だが、躰の内から焼かれる激痛には耐えきれず悲鳴をあげる。

 カーバンはどうすれば彼女を助けられるか、必死に考えた。 


「確か君は、魔力を腕力に変換して千人力を得たはず。

 だからドラゴンスレイヤーの魔力を、腕力に変換すればいい!!」


 しかし顔をあげたシルバー姫は苦しげな表情で首を横に振ると、長いまつげに縁取られた瞳位からぽろぽろと真珠のような涙をこぼす。


「嫌ですカーバン様。

 私はこれ以上、破壊者デストロイヤーなんて呼ばれたくありません。

 怪物のような過ぎた力に振り回されて、人として生きられなくなります!!」


 それはこれまで胸の中に秘めていた、シルバー姫の悲痛な叫びだった。

 シルバー姫が僅かに力を入れるだけで、巨木をへし折り岩を砕き、大地に亀裂が走る。

 いつかこの野蛮な暴力は、愛しい人たちに牙を剥くかもしれないと彼女は恐れた。


「シルバー姫、君の力は野蛮な暴力じゃない。

 辺境の人々にあがめられる巨人王のように、人々に恩恵を与える大いなる力。

 どれだけ力があっても、君の本質は高貴で優しいご令嬢」


 カーバンはそう言うと、シルバー姫の両手をとり禍々しく光る腕輪にキスをする。


「カーバン様、あなたは私の勇者様。

 私はひとりでダンスを踊るのがとても寂しくて、カーバン様と一緒に踊りたいのです」

「俺は君の手を取ってダンスを踊ろう。

 足を踏まれても手を握り津美されても大丈夫なように、ドラゴンスレイヤーの魔力をすべて自己治癒魔法に回す。

 俺はシルバー姫と共に生きると誓おう」


 おどけた声で説得するカーバンに、覚悟を決めたシルバー姫は秘術の魔力分配術を行使する。

 ドラゴンスレイヤーの魔力は、『ニジョウノ腕輪』の効力で腕力に乗算される。

 禍々しい光を放っていた『ニジョウノ腕輪』が、雲の中から射す一筋の光のように、白く神秘的なきらめきに変化する。

 その光がシルバー姫の全身を覆うと、脈打つように彼女の体の中に吸い込まれていく。

 人間がどれほど苦労を重ね犠牲を払っても、到底たどり着けない神の領域の力が、美しく可憐なシルバー姫の細い腕に宿った。




 シルバー姫から苦痛の表情は消え、穏やかな顔で眠っている。

 カーバンは秘術の行使で気を失ったシルバー姫の身体に腕を回すと、おそるおそる抱き上げた。


「俺の腕と手足を鬼赤眼石並の硬度、自己治癒魔法を強化したから、シルバー姫を抱きかかえても大丈夫。

 それにしても魔力分配術で、彼女はどれだけの腕力を得たのだろう?」


 抱きかかえたシルバー姫の体に変化はなく、カーバンは近くの木陰に彼女を寝かせる。


「カーバン様ーーっ、シルバー姫様は大丈夫ですかぁ!!」


 頭上から大きな声がしてカーバンが顔をあげると、断崖絶壁をトーリアと肥えた子供が降りてくるのが見えた。

 カーバンのばらまいた大量の魔法縫い糸が、蜘蛛の糸のように岩壁に絡みつき、トーリアたちはそれにぶらさがって降りてきた。

 

「今シルバー姫は、魔力分配術を行使して、疲れて眠っているだけだ。

 それよりふたりとも、怪我はないか?」

「あれぇ、なんでここに仕立屋カーバンがいるの?

 トーリアお姉ちゃんがキャルを穴の中に隠してくれたから、どこも怪我してないよ」


 カーバンの声かけに、トーリアの後ろにいる太った金髪の子供が答えた。

 全身にドラゴンの鱗を貼り付けたキャルを見て、トーリアが必死に子供を守ったことが分かる。

 キャルは横たわったシルバー姫に近づくと、顔をのぞき込んで不思議そうに首をかしげた。


「ねぇ、カーバン、細腕姫の力が沢山増えているよ。

 数字がいっぱいあって、それに見たことのない字が書かれている」


 領主ニッカルの子供の中でも優れた魔力持ちのキャルは、精霊族ティンの魔法の眼と同じ色をしていただ。


「見たことのない字とは精霊族の古代文字、キャル様は精霊族の眼をもっている。

 キャル様、見ている数字を地面に書いてくれないか?」

「キャルは家庭教師の先生に習って、ちゃんと数字が書けるよ。

 七つの数字が見える、左から 1、0、4、0、4、0、0」

「えっ、まさかこの数字は、いちじゅうひゃくせん……

 腕力1040400って、とんでもない腕力だ!!」


 シルバー姫の持っていた魔力320とドラゴンスレイヤーの魔力700、合計1020の魔力。

 そして『ニジョウノ腕輪』は魔力封印の代償に、腕力を乗算じょうさんする。


========

・魔力 0

・腕力 1020の二乗ニジョウ=1040400

・生命力 500

========


 戦士ひとりの腕力が100、腕力1040400は戦士一万人と同等の腕力になる。

 こうして千人力のシルバー姫は、新たに一万人力を得ることになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ