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カーバンVSシルキードラゴン

 その時、シルバー姫が握っていた魔法縫い糸が強く引っ張られる。

 水魔石山は中腹から雲がかかり山の上は霞んで見えないが、常人の十倍の視力を持つシルバー姫は、山の中腹にいるシルキードラゴンの姿を捉えていた。

 そして人の十倍の聴覚で、遙か上空から誰かの声を聞いた。


「あの声は、トーリアが私に助けを求めています!!」


 シルバー姫の叫びに、カーバンは驚いた顔をする。


「大変だシルバー姫、トーリアの声が聞こえるってことは、ティンの魔法結界が消えたんだ。

 トーリアは見た目子供だが、実際は大人のドワーフ。

 シルキードラゴンに見つかれば、即殺されるぞ」


 その時、偶然強い風が吹いて視界を遮っていた雲をかき消し、山の断崖絶壁手前で立ちすくむトーリアと、今にも襲いかかりそうなシルキードラゴンを見た。

 

「カーバン様、トーリアがいました。

 でもダメ、ここからでは遠すぎて間に合わない」

「諦めるなシルバー姫。

 ドラゴンの標的をトーリアから俺に切り替える。

 君の千人力の腕力で、俺ごと剣の鞘をシルキードラゴンに投げつけろ!!」

「まさかカーバン様を鞘ごと投げるなんて、そんな危険なこと出来ません」

「俺は鞘の中に隠れていれば絶対安全だ。大丈夫、急げシルバー姫!!」 

 

 もはや、ためらっている時間はない。

 シルバー姫は千人力の腕力で、身の丈の二倍はある巨大な剣の鞘を軽々と持ち上げると、トーリアに襲いかかるドラゴンめがけて投げつけた。

 放たれた巨人王の剣の鞘は音速に近い速さで、シルキードラゴンに向かって一直線に飛んでゆく。

 水魔石山までの旅の途中、シルバー姫は数十回もコイン投げを練習をして的中率は100%。

 そしてシルバー姫は、投擲と同時に千人力の脚力で地面を蹴ると、風のような速さで水魔石山を駆け上がる。



 ***



 ドラゴンの頭部を狙って放たれた巨人王の剣の鞘。

 上位魔獣のシルキードラゴンは瞬間にそれを察知し身をそらそうとしたが、鞘の先端がドラゴンの右目をえぐる。

 シルキードラゴンは悲鳴をあげながら谷底に落ちてゆき、巣穴で立ちすくむトーリアの目の前に巨大な剣の鞘が突き刺さり、中からやせ細った骸骨が這い出てきた。


「ひいっ、ドラゴンの次は死霊に襲われるなんて、いやーーぁ、シルバー姫助けてぇ!!」

「ちょっと待て、トーリア。俺の声が分からないのか」

「えっ、とてもしゃがれた声だけどその黒髪に目の色は、もしかしてカーバン様ですか?」

「そうだ俺だ、カーバンだよ。ちょっと魔力を使いすぎて干からびたんだ。

 トーリア、怪我はないか、キャル様はどこにいる?」

「キャル様なら大丈夫です。ドラゴンに見つからないように、横穴の中に隠しています。

 でもあたしは、隠れる場所がなくて……」


 まさかシルバー姫より先に、カーバンが助けに来るとは思わなかった。

 しかも普段でさえ優男風のカーバンが、さらにやせ細り骸骨状態で、とてもドラゴンと戦えるようには見えない。


「トーリアはできるだけ俺から離れて、安全な場所に隠れていろ。

 もうすぐシルバー姫がここに来るから、それまで俺が囮になって時間を稼ぐ」

「まさか、いけません!!

 あたしみたいなドワーフの代わりに、カーバン様が囮になるなんて」

「おまえがドラゴンに殺されれば、俺はシルバー姫とティンに合わす顔がない。

 早く、ドラゴンが戻ってくる前にどこかに隠れろ!!」


 そうしている間にも、断崖絶壁の底から甲高い魔獣の奇声と荒々しい羽音が聞こえる。

 トーリアは涙目になってカーバンに頭を下げると、踵を返し巣穴の奥へ逃げていった。

 カーバンも慌てて剣の鞘の中へ潜り込み、次の瞬間激しい衝撃を感じた。

 

 グォオオオッ、ギャアギャア!!

 潰れた右目からおびただしい血が流しながら、怒りで凶暴化したドラゴンは、巣穴の入り口に刺さっている剣の鞘に襲いかかる。

 何とかして剣の鞘の中身カーバンを取り出そうと、鋭い牙で噛みつき水晶のような爪で引っ掻いた。


「ひぃいいーーっ、怖い!! まるで天敵に襲われたやどかり状態だっ。

 でもドラゴンの咆哮は恐ろしいけど思ったより衝撃は感じないし、硬い鞘はびくともしない。

 このままシルバー姫が来るまで、時間稼ぎが出来るぞ」


 少し余裕の出たカーバンは、魔獣の攻撃の合間に鞘の中から腕だけ出すと、魔法縫い糸の付いたコインを周囲にばらまいた。

 巨大な鞘に噛みついたり踏みつけるドラゴンの足に、魔法縫い針が絡みつく。

 重い巨大な鞘は、さすがのシルキードラゴンでも持ち上げられないだろうと、カーバンはタカをくくっていた。

 しかし知性の優れた上位魔獣は、しばらくすると何か閃いた様子で、ガシガシと鞘の先端を何度も蹴りはじめた。


「なんだ、剣の鞘が……少しずつ動いてる!!

 シルキードラゴンの奴、地面から少し浮いた鞘の先端を動かして、このまま谷底に落とすつもりか!!」


 いくら頑丈な鞘の中に隠れても、谷底に落とされれば衝撃で確実に死ぬ。

 でも鞘の中から飛び出したとたん、待ちかまえていた魔獣に八つ裂きにされるだろう。

 形勢逆転されたカーバンは鞘の中で冷や汗を流し、シルキードラゴンはおもちゃのように剣の鞘を蹴って遊ぶ。

 

「やばい、やばいっ。このまま谷底に落ちたら全身複雑骨折、しかも治癒魔力枯渇だから即死確実。

 うわわっ、鞘が斜めになって、ダメだこりゃ、落ちーー!!」


 遠くから様子を見ていたトーリアは、思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて自分の口を手で塞いだ。

 ついに巨大な鞘(カーバン入り)は、巣穴の外に蹴り出され断崖絶壁の谷底を落ちてゆく。




 次の瞬間、谷底から爆風がわき起こり、剣の鞘はふわりと浮き上がると落下速度が落ちる。

 谷底には、水魔石山を駆け上がってきたシルバー姫が、片手で軽々と巨人王の剣を振り回し、乱気流を起こしていた。

 頑丈な金属で作られた身の丈二倍以上の巨人王の剣も、果物ナイフ程度の重さしか感じないシルバー姫は、銀色に輝く煌めく長い髪をなびかせながら、谷底で落ちてきた剣の鞘を軽々と受け止めた。


「ひぃいいっ、間一髪で助かった。ありがとうシルバー姫」


 巨大な鞘を地面に置くと、中から全身汗だくのカーバンがふらふらになりながら這い出し、震える手でシルキードラゴンの足に絡まった魔法縫い糸の束をシルバー姫に渡す。

 それはシルバー姫でさえ引きちぎることの出来ない、カーバンの魔力が練り込まれた強靱な縫い糸。

 カーバンはシルキードラゴンに攻撃されながらもコインをばらまき、ドラゴンの足に魔法縫い糸を絡ませた。


「糸の数は百本以上、これでシルキードラゴンを地上に引きずりおろせる。

 後は任せたぞシルバー姫」

「ああ、カーバン様。

 魔力が枯渇してやせ衰えているのに、自ら恐ろしいドラゴンに足枷をつけるなんて。

 あなたこそ……真の勇者です」


 そしてシルバー姫の気配を察したシルキードラゴンは、慌てて飛び立とうとしたが、足に絡まった魔法縫い糸がまるで蜘蛛の糸のようにドラゴンをからめ取る。

 普通ドラゴンを討伐するには一個大隊、戦士300人を必要とするが、シルバー姫は一人で千人分の力を有している。

 必死で逃げようとするシルキードラゴンに凄まじい力で引っ張られたが、千人力のシルバー姫には子犬にリードを引っ張られた程度の抵抗しか感じない。 


「そういえばシルバー姫。シルキードラゴンは素材に使えるから、あまり傷つけ……」


 しかしカーバンの言葉を待たず、シルバー姫は魔法縫い糸をたぐり寄せ、力一杯ひっぱってドラゴンを巣穴から引きずり出すと断崖絶壁の岩壁に叩きつけた。

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