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シルキードラゴン襲撃

 わずか二ヶ月という、信じられない短い期間で『ニッカル城』は完成した。

 そしてシルバー姫たちもいよいよ『細腕城』へ引っ越すことになる。

 高級旅館滞在も今日が最後、シルバー姫とティンは名残惜しげに部屋の中を見回していた。


「ティン先生、明日は『ニッカル城』の完成式典が行われますね」

「そうですね、シルバー姫。

 あの貧民街の女たちは、果たして使いモノになるかと危ぶんだ時期もありましたが、鉱山貴族カーバン家に仕える事のできる女官に仕上がりました」

「彼女たちはティン先生の血の滲むような猛特訓に耐えてました。

 私は同じ弟子として、彼女たちを尊敬します」


 私は調教が得意なのですよ。とティンが呟いたのを、シルバー姫は聞こえないふりをした。

 二人がそんな会話をしている間、応接室のテーブルの上に色とりどりの布地を広げながら、カーバンは悲鳴を上げる。


「完成式典は明日の正午、これはギリギリ間に合うか?

 いきなりニッカル様が、マントに五十種類の宝石を縫いつけろと言いだした。

 国王様のマントの宝石は三十八個。

 それより多いマントという事は、いよいよニッカル様は自分の力を他者に示すつもりだ」

「それでは旦那カーバン様、女官たちのエプロン五十着は間に合いませんね」

「ティン、この状況を見て、そんな鬼みたいな事いうか。

 女官のエプロンぐらい、広場の服屋で間に合わせてくれ」

「カーバン様、この部屋はお昼前に引き払う予定です。

 残りの作業は「細腕城」で続けましょう」

 

 旅館退去の準備を終えたシルバー姫が、カーバンに声をかけた。

 その時、辺境鉱山一帯に物々しい笛の音が響き渡った。


 ブゥオオー、ブゥオオーー、オオッーー。


 音に反応したティンは、早足で部屋を横切ると開いていたバルコニーの扉を閉める。

 魔獣襲来の警報音と、そして空気を震わせて大きな羽音が聞こえ、窓ガラスの向こう側に白い巨大な影が横切った。

 それは遙か西の水魔石山に住む、純白の鱗に純白の翼をもつ、上位魔獣のシルキードラゴン。

 武装警備隊が辺境鉱山の広場を守るように、弓や投石武器でシルキードラゴンを攻撃する。


「みんな建物の中に物陰に隠れろ。魔獣が襲ってきた!!」

「警備隊は広場に集合、ドラゴンを追い払え。

 ニッカル様のお屋敷には絶対近づけるな」


 上空を飛ぶシルキードラゴンには、さすがのシルバー姫でも手を出せない。

 そして野生の勘を持つ魔獣は、千人力の腕力を秘めたシルバー姫を感じたのは、高級旅館の上を避けて飛んでいる。


「広場の建物は堅牢に造られているので、シルキードラゴンの攻撃を簡単に跳ね返します。

 それに広場全体に魔獣除けの術が施されているので、シルキードラゴンは下に降りることができません」


 そしてカーバンは、作業をほおりだして窓ガラスに張り付いた。


「うおおっ、あれが噂のシルキードラゴン。

 陽が透けるほど薄い翼は、魔法千年王国の初代王妃のドレスに使用されたという。

 そして皮膚の鱗は、伝説の女勇者の鎧に使用された最高級の防具素材だ!!」

旦那カーバン様には、恐ろしい魔獣も服の素材にしか見えないのですね。

 この騒ぎでは、今日の引っ越しは延期ですね。シルバー姫、一服しましょう」


 シルバー姫がティンに渡されたカップには、小さな花が浮かんでいる。

 草木の育たない鉱山で、花を見るのは最高の贅沢だ。

 窓の格子の隙間から、広場の塀の上に登った兵士が巨大な弓矢を射って、シルキードラゴンを追い払おうとしているのが見える。


「あの程度の雑魚ドラゴンに苦戦するとは、はやり魔法千年王国の力は衰えていますね」


 小声で呟いたティンに、シルバー姫はたずねる。


「ティン先生、私は魔法学園で、ドラゴンを倒した者はその力が授かると聞きました」

「ええそうです、シルバー姫。

 討伐者は体の一部に倒したドラゴンの鱗が浮き出て、強靱な肉体と魔力を授かります。

 上位魔獣を倒した者はドラゴンスレイヤーと呼ばれ、歴代の勇者とその一行はドラゴンスレイヤーでもあります」

「ドラゴンを倒せば強靱な肉体と力が授かるなんて、子供のおとぎ話じゃないのか?」

「これはおとぎ話ではありません、真実の話です。

 そしてドラゴンも倒した人間の力を吸収するので、このシルキードラゴンはドラゴンスレイヤー四人分の力を得ています」

「しかし変だな。貴族ニッカル様は、シルキードラゴンが現れるのは一月先だと聞いていたのに」

「そうですね、守備兵も不意を付かれた様子で、ドラゴンを追っ払うのに苦戦しています」


 窓の格子の隙間からドラゴンが広場の上を旋回しているのが見えたが、急に向きを変えると別の方角へ飛んでゆく。


「どうやらここは諦めたみたいだな。人騒がせなドラゴンだ」


 しかしその時、シルバー姫は耳を押さえると険しい顔をする。

 人の十倍の生命力と聴覚のあるシルバー姫は注意深く耳を澄まし、カーバンやティンの聞き取れない音に気づいた。


「この甲高い鳥の悲鳴のような、頭を締め付ける耳障りな音は何?

 ドラゴンはこの音に誘われて、別の場所に飛んでいきました」

「ドラゴンが音で操られている?

 まさか誰かが、魔笛を吹いているのですか!!」

「シルキードラゴンが飛んでいった方向は、広場の塀の外、貧民街だな」


 顔を見合わせて驚くティンとカーバン。

 その時すでにシルバー姫は部屋を取びだしていた。


「誰かが貧民街にドラゴンを呼び寄せたなら、子供たちが襲われる。

 早く助けに行かなくちゃ!!」





 ドラゴン襲撃の警報が鳴り響き、上空にドラゴンが現れると、貧民街の人々は新しくできた『細腕城』に避難する。


「要塞の入り口を石でふさげ、そうすればドラゴンは中に入ってこれない」

「子供は全員避難したか!!」

「泣いている暇はないぞ。何でもいいから武器を持て、ドラゴンと戦うんだ」


 一月早いドラゴンの襲撃に、不意を付かれてパニックになる仲間たちに、ラザーは大声で指示を出す。

 細腕城の一階に子供たちを避難させると、入口の扉を堅く閉じて自分も物陰に隠れる。


「ドラゴンはグルメだから、不味い大人や老人は襲わない。

 このまま無事、やりすごせればいいが……」

「シルキードラゴンの餌は人間の子供だ。

 上の広場は警備隊が守っているし、貧民街の子供は全員『細腕城』に避難した。

 餌が見つからなければ、ヤツは隣領地にでも場所を移すさ」

「明日は『ニッカル城』の完成式典だ。

 それを邪魔するかのようにドラゴンが現れるなんて、おかしくないか?」


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