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『細腕城』建設,

 赤毛のラザーと貧民街の女たち、そしてトーリアが頭を下げて頼む。

 シルバー姫はゆっくりと貧困街を見回した。

 蜂の巣のように穴だらけで、いつ倒壊しても不思議ではない危険な岩山に、女子供や年老いた鉱山奴隷が住んでいる。

 新しく住居を作る予定の岩山は、大きさが蜂の巣の二倍以上あり岩質も頑丈で、ラザーの図面通り建設すれば安心して住めそうだった。


「でもアタイたち貧困街の人間は、ほとんどが無一文だ。

 だから細腕姫に手伝ってもらう対価として、アタイは細腕姫の奴隷になろう」


 覚悟を決めたラザーは、思い詰めた表情でシルバー姫に言った。

 驚いたのはシルバー姫の方だ。


「ちょっと待って下さい、ラザーさん。

 私の侍女はトーリアさんひとりで、充分間に合っています。

 ラザーさんはどうして、そこまで貧民街のために尽くせるのですか?」

「アタイは全てに絶望して、死ぬためにここに来たんだ。

 だけどここの連中はアタイより悲惨な状況なのに、何かと理由を付けてアタイにかまってお節介を焼いて、気が付いたら死ぬ気が失せていた」


 すると赤ん坊背負いながら穴を掘っていた若い母親が、ラザーの後から答える。


「細腕姫様、ここの暮らしは厳しけど、余所よりずっとマシです。

 鉱山では働いた分だけ確実に給金が出るし、最低限の食事配給もあります。

 住人に強制労働させないし、鉱山奴隷は契約に縛られているから犯罪を起こさない」

「他所じゃ神官が魔法で悪さしたり、領主が無理矢理税を取り立てる。

 西隣の領主なんて、畑の収穫の半分を税として奪われた。

 家族全員食うだけの食料がなくて、俺は鉱山に出稼ぎにきたんだ」


 いつの間にかシルバー姫の周囲に、貧民街の人々が集まっていた。

 彼女は亡き母から、困った人々には助けの手を差し伸べるようにと教わっている。


「そうですね、赤子を抱えた母親を、危険な場所に住まわす訳にはいきません。

 私は大したお手伝いは出来ませんが、あなた方の力になりましょう」


 シルバー姫が快諾すると、さっきまで岩山掘りで疲れて意気消沈していた人々から歓声が沸き起こる。


「そういえば細腕姫は、今どこに住んでいるんだ?」

「私はとある方のご厚意で、広場の旅館に住まわせてもらっています」

「せっかく岩山掘りを手伝ってもらうんだ。

 いっその事、岩山の一部を細腕姫に提供しよう」

「えっと、ラザーさん。それはどういう意味で……」

「最高です、ラザー姐さん。

 シルバー姫様はカーバン様の所に居候して、いつも居間のソファーで寝ています。

 でもカーバン様はいずれ王都に帰ってしまうし、シルバー姫様はお家が必要です」


 シルバー姫はちゃんと旅館の部屋を与えられていたが、毎日夜遅くまで訓練をして、そのまま力尽きてソファーで寝てしまう。

 それを見たトーリアは、居候だから眠る場所もないと勘違いしていた。

 

「なら話は早い。この岩山を『細腕城』にしようぜ!!

 設計を変更して、城の一階から三階まではアタイたちの住居にする。

 そして四階から上は細腕姫の城でどうだ?

 貴族ニッカル様の屋敷より、派手で立派な城を造るぞ」

 

 そう言って図面を修正するラザーと、大喜びのトーリア。

 岩山の住居掘りを手伝う話が、いつの間にかシルバー姫のお城を造る話になってしまった。


「ちょっと待って下さい、ラザーさん。

 私は大罪人で鉱山奴隷なのに、お城なんて必要ありません」

「ラザー姐さん、お城の細かい装飾部分ならワシに任せろ。

 これでも昔は王様の城の装飾を手がけたんだ」


 そして翌日から、貧民街の『細腕城』建設が始まる。



 ***



 仕立屋カーバンが辺境鉱山に呼ばれて二ケ月。

 貴族ニッカルの奥方と六人の小さな娘たちの服が、もうすぐ仕上がる。

 カーバンは夕食前に仕事を切り上げ、宿に帰ることが出来るようになった。

 

「最近シルバー姫の帰りが遅いが、鉱山の仕事が忙しいのか?」

「あら、旦那カーバン様はシルバー姫から何も聞いていないのですか。

 最近シルバー姫は鉱山の仕事は午前で終えて、午後は貧民街の岩山の住居を掘りに行っています。

 貧民街の住人が岩を掘って造っているとは思えない、王都の貴族の屋敷に匹敵する素晴らしい建物ができつつあります」

「どうしてシルバー姫が貧民街に。

 ああ、そこに侍女のトーリアが住んでいるのか」

「そうですね、貧民街の『細腕城』が出来上がったら、シルバー姫もそこへ引っ越すらしいですよ」

「えっ、『細腕城』ってなんだ?

 シルバー姫が引っ越すって、そ、そ、そんな話俺は全然聞いてないぞぉ!!」


 完全に裏返ったカーバンの叫び声が、部屋中に響きわたる。

 その様子を見て、手鏡で髪を直していたティンが鼻で笑った。


「今やシルバー姫は、鉱山を開いた巨人王の化身、月の女神と称えられる存在。

 旦那カーバン様がシルバー姫にダンスに誘われたと浮かれている間に、彼女と懇意になりたい様々な人物が近づいています。

 旦那カーバン様、シルバー姫の様子を見てみますか?」


 そう言ってティンは、持っていた手鏡をカーバンに渡した。

 手鏡を覗くと、そこにはカーバンの顔ではなく、外の風景とシルバー姫の姿が映し出されている。


「最近ティンは鏡ばかり見ていると思っていたが、これはまさか『盗み見の魔鏡』!!

 お年頃のシルバー姫を監視するなんて、いくらティンでもやりすぎだ」

旦那カーバン様、私はシルバー姫を監視していません。

 侍女トーリアの服に縫いつけた『盗み見のボタン』が、偶然シルバー姫が写し出しているのです」


 ティンはドワーフ娘トーリアに、常にシルバー姫の側にいるように命じていた。

 だからトーリアの気づかないうちに、シルバー姫を監視することになる。

 カーバンはティンに文句を言おうとしたが、それ以上に好奇心が上回り、『盗み見の魔鏡』に写るシルバー姫をガン見する。

 

「シルバー姫の周りにいるのは貧民街の女たちだ。

 楽しそうに話をしているが、肝心の声が聞こえない。

 小さい子供たちも、ずいぶんとシルバー姫に懐いているみたいだな」

「トーリアには、シルバー姫に妙な男を近づけないように指示しています。

 そろそろ手鏡を返して下さい、旦那カーバン様」

「ちょっと待て、シルバー姫に馴れ馴れしく話しかけるヤツがいるぞ。

 シルバー姫も楽しそうに笑って、うぉおっ、シルバー姫の肩に腕を回している!!」

「ちょっと、旦那カーバン様。いきなりどうしたのですか!!」


 ティンは慌ててカーバンが投げ捨てた手鏡を拾うと、そこには男物の服を着た赤毛の人物の後姿が映っていた。

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