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赤毛のラザー,

 シルバー姫は岩肌を撫でて確認すると、鬼赤眼石の鉱山より柔らかく、トンネルを掘った山と地質が似ている。

 しかし年寄りや女子供だけで岩山を掘るのは明らかに力不足だった。

 

「私たちは朝からずっと岩を削って、たった10セソチしか穴を掘れない」

「ラザー姐さん。この岩山は腕っ節のある男か、採掘魔法を使える者じゃないと掘るのは難しいよ」

「アタイたち最下層の貧民は、自力で何とかするしかないんだ。

 蜂の巣は上部から少しずつ壊れて、いつ崩壊してもおかしくない」


 赤ん坊をおんぶした母親が、疲れた表情で赤毛のラザーに訴える様子に、シルバー姫はじっとして居られなくなる。


「ねぇトーリアさん、私も少しお手伝いしていいかしら?」

「ダメですよシルバー姫様。

 スカートをまくり上げて岩を蹴るなんて、ここは人が多すぎて危険だし、小さい子供が真似をします」


 トーリアに考えを読まれて、シルバー姫は照れ笑いを浮かべる。

 シルバー姫の足蹴りはとても刺激が強すぎて、彼女の白い生足を見た年輩の鉱山奴隷の白髪が黒髪になって若返ったくらいだ。

 その生足を貧民街の衰弱した年寄りが見たら、ショック死するかもしれないと判断したトーリアは、シルバー姫を止めたのだ。


「トンネルを足蹴りで掘った話をしたら、ティン先生にも怒られたわ。

 それで、これを代わりに使いなさいと言われて、日傘を渡されたの」

「ティン様がこの日傘を……あっ、傘の先が鬼赤眼石で出来ている」

「そうよ、トーリアさん。この日傘はピッケルの代わりになるの。

 足で蹴るより楽だし、力の加減が出来てとても便利よ」


 そういうとシルバー姫は日傘を持って、堅い岩盤の前に立つ。


「ちょっとお姫様、これは遊びじゃないんだ。

 アタイたちの仕事を邪魔しないでくれ」

「ラザーさん、危ないですよ。もう少し後ろに下がってください」


 鬼赤眼石で出来た日傘の骨と軸は、シルバー姫が強く握っても折れない。

 シルバー姫は日傘を槍のように構えると、試しに傘先で岩壁をコツンと叩く。


 コツン、コツン。

 ガコンッガッガッガッガッ、ズガッガッガッ、ドドッガッガッ!!


 次の瞬間、破裂音のような衝撃波が、続けざまに地面を揺るがした。

 常人がピッケルを振るう十倍の速度と、千人力の腕力でシルバー姫は硬い岩山を砕く。

 

「なんだありゃ、妖精キツツキみたいに目にも留まらぬ早さで、岩壁を叩いている!!」

「俺たちは一日で10セソチしか掘れなかったのに、細腕姫はあっという間に……岩に大穴を空けた」


 鬼赤眼石の日傘はピッケルの役目をして、傘の先端で叩かれた岩壁に細かいヒビが入り次々と大穴が空く。

 貧民街の住人は細腕姫の噂話を知っているが、実際にそれを真近で見ると凄まじい破壊者デストロイヤーっぷりに恐怖の感情がわき起こる。

 彼女は人ではない。

 神か悪魔に近い異形のモノに対する畏怖。

 赤毛のラザーは奥歯を噛みしめて恐怖に耐えながら、シルバー姫に声をかけた。


「ア、アンタ、細腕姫は本当に人間か?

 そうか、魔法だろ。破壊魔法で岩を崩しているんだ!!」

「いいえラザーさん、大罪人の私は、この腕輪で魔法を封じられています」


 そう言ってシルバー姫は、両手首に喰い込むように填められた腕輪を見せる。

 腕輪の表面に刻まれた文字を見たラザーは、微かに眉をしかめる。


「ラザー姐さん、やっぱりあの噂は本当だ。

 細腕姫は巨人王の力を宿しているって、うちの親父が言っていた」


 それまでシルバー姫を疑っていたラザーは、大股で歩み寄ると彼女の右手を強い力で掴まえる。

 いきなりの事にトーリアも止めに入れず、シルバー姫はラザーの睨みつけるような真剣な眼差しに驚いた。


「細腕姫、アンタこの図面の通りに穴を掘れるかい?

 アタイはこの岩山を、ちゃんとした住居にしたいんだ」


 ラザーは胸ポケットから小さく折り畳まれた紙を取り出して、シルバー姫に見せる。

 それは精巧に書かれた図面で、彼女は高度な建築知識があると分かる。


「この図面は岩山の設計図、一階は小部屋の居住区域、二階が大部屋が四つ、三階は大広間。

 これはまるで岩のアパート、いいえ、岩の要塞ですね。

 私はこれでも図面は得意なの。

 義母が送り込んだ暗殺者から逃れるため、魔法学園中に逃走経路を作った経験があるわ」

「まさか魔法学園の地下は、攻略不可能と言われる地下五階のダンジョンだ。

 それを全部攻略して、逃走経路を作ったのか?

 やっぱり細腕姫は巨人王の再来だ。

 頼む細腕姫、アタイの計画に力を買してくれ!!」


 シルバー姫の右手を決して離すまいと、縋りつくように握りしめて必死に頼むラザー。


「あのラザー姐さんが、頭を下げて細腕姫に頼みごとをしている」


 その様子に、他の仲間も一緒に頭を下げて頼み、そしてトーリアもシルバー姫に頭を下げた。


「シルバー姫様、あたしからもお願いします。

 ここの住人の力じゃ、岩山を掘るのに一年以上かかる。

 でもシルバー姫に手伝ってもらえるなら、きっと三ヶ月ぐらいで仕上がると思います」

「頭を上げてください、ラザーさん。

 ラザーさんの額には奴隷印が無いし、私の腕輪に刻まれた古代文字を解読しましたね。

 貴女のような優れた人物が何故貧民街のリーダーをしているのか、私はとても不思議に思います」

 

 そういうと赤毛のラザーはシルバー姫から目をそらし、大きなため息をつきながらつぶやいた。


「ここは一攫千金を求めてやってくる連中の他に、他所から追い出されて行き場の無い人間もいる。

 アタイはお偉い先生様に自分が設計した建物の図面を横取りされて、それを抗議したら偽りの罪で神官に破門を言い渡された。

 ここにいるのは、運に見放され貧民街に住み着いた訳あり女さ」


 貴族ニッカルの屋敷にいる政治犯の奴隷執事や、神官に売られて鉱山奴隷になったトーリア、それにラザーも神官に破門を言い渡されて鉱山に流れ着いていた。


10セソチ=約10センチ

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