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朱色組の凋落,

※最初の部分、加筆しました。

 その夜、親父と息子たちの会話。


「暗い穴ぐらの中で、白銀色に輝く長い髪をなびかせながら、細腕姫は宙に舞ったのだ。

 青紫色のドレスがふわりとめくれ上がると、罪人の鉄球がつながれた細い足首が見えた。

 そして雪のように白くスラリと伸びた長い足の、程よく引き締まった太股が露わになる。

 しかし次の瞬間、白い花火のように目にも留まらぬ早業で、細腕姫は硬い岩盤を蹴り出した」

「オヤジィ、太腿が見えたってことは、細腕姫はどんな下着を着ていたんだ!!」

「細腕姫の足技は素晴らしかった。蝶のように舞ったかと思うと、二角妖馬の角のように岩盤を蹴り上げる。

 ハンカチのような薄布に覆われた形の良いシ……俺は知らん、絶対何も見ていないぞ!!」


 


 それから五日後。

 トンネル掘りの手伝いをする鉱山奴隷は百人近くまで増え、二つの山をほぼ真っ直ぐに貫いたトンネルが完成した。

 シルバー姫が千人力を奮って掘ったトンネルは荷車が楽に通れるほど広い。

 これからは断崖絶壁の危険な山道を通らないで、平坦で安全なトンネルを通って紫鉱山まで行ける。

 シルバー姫は演説台に見たてた石の上に立ち、集まった鉱山奴隷を前に挨拶をする。


「私の思いつきのトンネル掘りに、こんなに大勢の人が協力してくれるなんて、本当にありがとうございます。

 この紫鉱山はまだ手付かずの山、誰でも自由に石を掘れます」


 するとシルバー姫の前に、白髪が黒くなって十歳若返った親父さんが出てきて、紫鉱山を指さすと大声で叫んだ。


「いいかぁ、お前等よく聞けよ。

 鉱山で三十年働く俺の目利きだと、この紫鉱山には貴重な石が眠っている。

 ここでは監督者も朱色組も邪魔をしない。

 運が良ければお宝を掘り当てられる、一攫千金のチャンスだ!!」


 親父さんの言葉を聞いた鉱山奴隷の眼の色が変わる。

 そして次の瞬間、男たちは雄叫びをあげながら、一斉に紫鉱山へ向かって駆けだした。

 シルバー姫と親父さんはその様子に笑っていると、トンネルの中からガラガラと車輪の音が聞こえ、荷車を引いたトーリアが現れる。


「お待たせしました、シルバー姫様。

 ここからトンネルを抜けて、荷車を十台借りてきました。

 トンネルを通って山の向こうまで、私の足で歩いても一時間かかりません」


 今トンネルを通り抜けてきたトーリアは、興奮して息を弾ませながらシルバー姫に報告した。

 シルバー姫はトーリアから荷車を引く鎖を受け取ると、紫鉱山からトンネル入り口まで荷車の通る道をならして歩いた。 



 ***



 小太り鑑定士の怒鳴り声が集石所に響きわたる。


「おい、朱色組。

 ただのクズ石と鬼赤眼石を混ぜて、量を誤魔化そうとしたな!!

 監督者はだませても、俺たち鉱石鑑定人の眼はごまかせないぞ」


 そして小太り鑑定士が仲間に命じて朱色組の荷車を数人がかりで横倒しにすると、積まれた石の上半分は鬼赤眼石だが、下のほうは灰色のクズ石が出てきた。


「やっぱりな、鬼赤眼石よりクズ石の量が多い。

 朱色組はやり方が汚い、細腕姫から取り上げた鉱山の鬼赤眼石を掘り尽くしたんだろ」

「うるせぇ、俺たちが石を運ばなきゃテメェ等も仕事が出来ない。

 俺が手下どもに一声をかければ、誰もお前に鑑定を頼まなくなる!!」


 朱色組のリーダー出っ歯男と、鉱山鑑定士のリーダー小太り男が大声で言い争っていた。

 シルバー姫から横取りした鬼赤眼石の岩山は、あと半月もすれば全部掘り尽くしてしまうだろう。

 その様子を、周囲の男たちは冷めた目で見る。


「最近腕のいい鉱山奴隷たちが居なくなって、クズ石ばかり持ち込まれるから、鑑定士たちが苛立っている」

「朱色組と対立していた白髪親父と息子たちが、細腕姫を追いかけて南の山に行ったらしい」


 シルバー姫が鉱山に現れてから、毎日大量の貴重な鉱石が集石場に運び込まれ、鉱山奴隷たちは石のおこぼれで潤い、鑑定士も忙しすぎるが充実した毎日を過ごしていた。

 しかし朱色組に鬼赤眼石の鉱山を奪われたシルバー姫は、この一週間集石場に姿を見せていない。

 以前と同じ単調な石運びの仕事に戻った鉱山奴隷たちは活気をなくし、鑑定士は死んだ魚のような眼をしていた。


「月の女神のような細腕姫を見るだけで、地獄みたいな鉱山が天国に思えたのに、出っ歯野郎のせいで地獄に逆戻りだ」

「朱色組の連中は、細腕姫の連れていた可愛いドワーフ娘に暴力を振るったらしい」


 その時、石の袋を運びながらグチっていた男たちのそばを、爽やかな花の香りがする一陣の風が通りすぎる。

 石を掘り起こすために草木を根こそぎ倒し、地面を掘り起こし岩だらけの山に、花の香りがするなんてありえない。

 そして集石場入口から騒がしい車輪の音が聞こえ、青紫色の豪華なドレスに白銀の髪をなびかせながらシルバー姫が現れた。

 珍しい色の鉱石を満載した十台繋ぎの荷車を、シルバー姫一人で子犬の散歩のような軽やかな足取りで引いていた。


「おおっ凄い。荷車に積まれた石が、青や緑、それに紫色に輝いている」

「あれは細腕姫の、十台連結の荷車。

 まさか南の山向こうの紫鉱山から石を運んできたのか!!」


 荷車が集石場まで到着するのを待ちきれない小太りの鑑定士は、全力疾走でシルバー姫の荷車に駆け寄る。

 

「ゼイゼイ、そ、その荷車にある紫の石を見せてくれぇ。

 おおっ、これは間違いない。紫星水晶の大物だ!!」

「それに青く光っているのは、まさか海龍石?

 俺本物見るのは初めてだ!!」


 鑑定士たちは持ち場を放り出して、シルバー姫の引いてきた十台の荷車に群がる。

 シルバー姫は紫鉱山で採れた大量の鉱石を集石場に運びこみ、そして後ろから続いてきた鉱山奴隷たちも紫鉱山から掘ったらしい珍しい石を運んできた。


「これは本当に紫鉱山の石なのか?

 別の所から掘った石を誤魔化しているんじゃないか」

「それに岩山の道は、人ひとり通れるのがやっとの険しい山道だ。

 そこからどうやって荷車十台引いて、集石場まで来たんだ!!」


 さっそく因縁を付ける出っ歯男に、シルバー姫は冷めた視線を投げかけた。


「鑑定士の方は、これが紫鉱山でとれた紫星水晶と証明しました。

 それからあなた方朱色組は、今後一切私と関わらないでください」


 シルバー姫はそういうと、空になった荷車を引いて集石場を出てゆく。

 シルバー姫を守るように一緒にいるのは、朱色組と対立していた連中だった。


「きっと連中は、数日かけて紫鉱山から集めた石を、荷車に乗せて集石場まで運んできたのか」

「アハハ、あんな遠い紫鉱山から石を運ぶなんて、ご苦労な事だ」


 しかし二時間後、再び鉱石を満載した荷車を引いてシルバー姫が現れる。

 その日シルバー姫は紫鉱山で採れた石を、荷車五十台分も集石場に運び込んだ。


「まさか本当に、紫鉱山から石を運んでいるのか?

 しかし、いくら細腕姫が百人力でも、荷車でどうやって山を越えた」


 焦った出っ歯男は朱色組の下っ端に命じて、こっそりシルバー姫の後を追わせると……。


「細腕姫が、消えた?」


 シルバー姫は、荷車ごと山の中に吸い込まれるように消えてしまった。


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