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細腕姫の侍女,

 それからシルバー姫は巨岩を六回運び、たった一日で六ヶ月分の仕事量をこなした。

 仕事の半分が自分の取り分になったトーリアは、シルバー姫の目の前でひざまずくと頭を下げる。

 

「細腕姫様、今日はどうもありがとうございます。

 そしてお願いがあります。

 あたしは細腕姫様、いいえ、シルバー姫様にお仕えしたい」

「トーリアさん、それは本気ですか?

 私は刑期八十年の大罪人。

 そんな女の召使になりたいの?」

「シルバー姫様、ここでは奴隷契約五年も八十年も関係ないんです。

 一日働いた分の労働力3000エソは、食費や宿代でほとんどが消えてしまう。

 無理に食事を抜いて節約しても、怪我や病気で体を壊せば休んだ分仕事は増えます。

 あたしは落石事故で怪我をした兄の分も働かないといけない。

 だからシルバー姫様、あたしを貴女の召使にしてください」


 この千載一遇のチャンスを逃すまいと、ドワーフ娘のトーリアはシルバー姫に必死で頼む。


「私は監督者に目を付けられています。

 そんな私と一緒にいたら、トーリアさんも意地悪されてしまいますよ」

「シルバー姫様、この鉱山では仕事のノルマをこなした奴隷は、監督者でも危害は加えられません」


 トーリアの意志は変わらないらしい。

 貴族ニッカルの館で額に印のある召使いたちはいるのを見たので、奴隷が奴隷を雇う事も可能だろう。


「岩の下敷きになっていたのは三人とも人間の男性だけど、その中にトーリアさんの兄弟がいたの?」


 ドワーフ娘はうなずくと、シルバー姫の目をしっかりと見つめる。


「あたしと兄は血の繋がりはないけど、同じ孤児院で育った仲間です。

 とても貧乏孤児院で、食事が少なくていつもお腹を空かしていたけど、私たちは仲良く暮らしていました。

 でもから三年前、王都からやってきた新しい神官様が、街に女神像を作る金を集めるから孤児も寄付をしろと言ってきたの。

 孤児院にいるのは小さい子供ばかりで、お金を稼ぐのは無理。

 そしたら神官様はお金のために、年長の兄と体力のあるドワーフの私を鉱山に売ったんです」

「神官は孤児を保護しなくてはいけないのに、孤児を奴隷労働者にするなんて信じられない!!」

 

 思わずシルバー姫は怒りの声を上げる。

 汚れてブカブカの服を着たドワーフ娘の言葉遣いが良いのは、孤児院で文字や礼儀作法を教わったかららしい。

 同じ孤児院で、兄のように慕っていた青年が落石事故に巻き込まれ、シルバー姫のおかげで一命は取り留めたが、まだ病院に入院したままだという。


「あたしと兄も必死に働いて、奴隷労働八年を五年に減らしました。

 それに兄はドワーフのアタシより手先が器用で、奴隷から自由になったら職人になると言っていました。

 でも事故で大怪我をした兄の砕けた腰の骨を元の状態に治すには、治癒魔法で100万エソ必要なんです」


 奴隷労働の給金は一日3000エソ、100万エソは一年分の労働に相当する。

 そして今日シルバー姫と一緒に働いたトーリアは、三ヶ月分の給金を手にすることができた。

 

「私が貴女のお兄さんを助けたのも、きっとなにかの縁でしょう。

 それではトーリアさんを、私の侍女として雇います。

 報酬は、私の労働力の三割でいいかしら。

 私は庶民の暮らしがどういうものか全然わからないから、トーリアさんに色々教えてもらいたいわ」

「ああっ、なんと慈悲深いシルバー姫様。

 ありがとうございます、きっと姫様は、伝説の巨人王の生まれ変わりです」



 ***



 辺境鉱山の中央広場に建つ高級宿屋の最上階のバルコニーから、茶色い髪の女官が外を眺めていた。


「いきなり山を砕くなんて、普通ではありえません。

 シルバー姫の力は想像以上、巨人王並の剛腕です。

 なんとしても彼女をこちらに引き止めるために、カーバン様には頑張ってもらわなくては」


 シルバー姫の働きっぷりを見学した精霊族ティンは、満足そうにつぶやく。

 頭に白いボンネットを乗せて黒を基調とした細身のドレスに白いエプロン姿のティンは、昨日の執事姿ではなく女官メイドに変身していた。

 その時、部屋の扉が乱暴に開き、ドタドタと慌ただしい足音が聞こてくる。


「あら、お帰りなさいませ、旦那カーバン様。

 随分と遅いお帰りで、あちらでさぞかし楽しんだのでしょうね」

「おいティン、俺のこの姿を見てマジで言ってるのか?

 ドレスの採寸取るのに、わちゃわちゃ動き回るガキ……お嬢ちゃま六人と、おしゃべりで注文の多い奥方のお相手をしながら徹夜で作業したんだ」


 仕立屋カーバンの着る一級品のスーツは貴族ニッカルの子供たちにもみくちゃにされていた。

 そして豊満すぎてる奥方の服のデザインを一晩中考えた彼は、眼の下に黒々と隈が浮かんでいる。

 疲労困憊のカーバンは、応接室の中央に置かれたソファーにふらふらと倒れ込む。


「旦那様、そろそろシルバー姫が戻ってくる時間です。

 皺だらけの服を着替えて、顔を洗って髭を剃ってください」

「ティン、お前は主を労わる心がないのか?

 俺は旅先でもろくに寝られなかったのに、落石事故に巻き込まて、その後徹夜で働かされて……。

 もうダメだ限界、俺は寝るぞぉ!!」


 そしてカーバンは瞬く間に、ソファーでいびきを掻き始める。

 ティンはカーバンをベッドに運ぼうとしたが、自分より背が高く体格の良いカーバンを動かすことが出来なかった。

 このまま寝かせようと思ったが、寝相の悪いカーバンはソファーから転がり落ちてしまいそうだ。

 そうしているうちに扉を叩く音が聞こえ、合図をすると、仕事を終えたシルバー姫が部屋の中に入ってきた。


「ティンさん、ただいま帰りました。

 鉱山から、バルコニーにいるティンさんの姿が見えました。

 今日の私の働きは……えっ、カーバン様!!」



※通貨 約1円→1エソ

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