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鬼赤眼石,

 シルバー姫は落ちた巨岩の前に立つと、穴のあいた袋を縦に裂いて自分の拳に巻き付ける。


「さすがにこのままでは大きすぎて運べないから、砕いて小さくしましょう」


 シルバー姫は魔法学園で護身術を学んだ経験があり、腰を落とすと両脇を引き締め、そして戦士1000人分の力を乗せた拳を勢いよく岩に叩きつけた。

 ピッケルをはじくほど堅い巨岩がシルバー姫の拳に砕かれ、パックリと二つに割れるとスイカのような赤い断面が現れる。

 さらにそれを数回砕いて、十数個の岩に分けた。


「おいまさか、黒岩の中身が赤い石だと!!

 あれは数年に一度しか見つからない、鬼赤眼石じゃないか」

「俺は鉱山で十年働いているけど、こんなにデカい鬼赤眼石を見たのは初めてだ。

 クズ石なんか集めている場合じゃねえ、早くお宝を拾うんだ!!」

 

 シルバー姫の採掘した岩は、とても希少価値のある鬼赤眼石だった。

 あっという間に鉱山奴隷が群がってきて、必死に地面に砕けた鬼赤眼石を拾い集めたが、岩状態で転がる鬼赤眼石は重すぎて手を出せない。

 シルバー姫は牛ほどの大きさに割れた岩に手を伸ばすと、まるで重さを感じないように軽々と持ち上げた。

 男が三十人がかりでも持ち上げられない巨岩が、千人力のシルバー姫には羽根布団程度の重さにしか感じない。




 焼け付くような太陽にうんざりしながら岩の入った袋を背負って歩く鉱山奴隷は、自分の周囲が急に影って、不思議に思い顔を上げる。

 それは雲が太陽を遮ったのではなく、男の目の前に巨岩を抱えたシルバー姫がいた。

 少し離れた採掘現場から鬼赤眼石を運ぶシルバー姫は、持ち上げた巨岩に視界を塞がれて困っていた。

 大勢の鉱山奴隷たちが忙しく石運びをする中で、シルバー姫は数ナートル進んでは巨岩を下におろし、前方の安全を確認して数ナートル進むを繰り返す。

 岩場から半分まで運んだところで、シルバー姫は足を止めて靴の踵を見た。

 

「カーバン様から頂いた靴のかかとが、岩の重みで折れてしまったわ。

 それに前が見えないから、誤って岩を落としたら周囲の人を押しつぶしてしまう」


 仕事のノルマは石運び三十回、こんなゆっくりと運んでいたら夜までかかてしまう。

 シルバー姫が困り果てていると、後ろで様子をうかがっていたドワーフ娘が声をかけた。


「細腕姫様、あたしが道案内をします。

 姫様の腰のリボンをほどいてください。

 あたしがそれを引っ張って誘導します」

「なるほど、岩で視界が塞がれて前が見えなくても、貴女の誘導する方向に進めばいいのね。

 ありがとう、とても助かります、ありがとう。

 貴女のお名前を教えてください」

「あたしはトーリア、トーリアです。細腕姫様」

「さっきからトーリアさんは、どうして私に親切にしてくれるの?」


 汚れた身なりで手足も傷だらけのドワーフ娘が、何故見ず知らずの自分を助けてくれるのか、シルバー姫は不思議に思った。

 するとドワーフ娘のトーリアは、シルバー姫に深々と頭を下げる。


「昨日の落石事故で、細腕姫様はあたしの仲間を助けてくれた。

 だから今度はあたしが、細腕姫様の手助けをします」


 昨日の落石事故では、カーバンの他に事故に巻き込まれた者が数人いた。

 納得がいったようにシルバー姫がうなずく。




「おい、なんだありゃ。

 とんでもなくデカい石が、こっちに運ばれてくる!!」

「あれは噂の細腕姫だ。人間の力であんな重たい大岩を持てるのか?

 そうか、魔法を使って運んでいるんだ」


 集石場に現れたシルバー姫を見て、鉱山監督者は驚愕の声を上げる。

 それはまるで芝居がかった奇妙な光景。

 水色のリボンを引っ張る小柄なドワーフ娘の後ろから、豪華な青紫色のドレスを着た美しい娘が、牛のように大きな巨岩を細い両腕で持ち上げながら歩いている。

 しかも割れた岩の断面は赤く輝き、それが貴重な鬼赤眼石だとわかる。

 騒々しい集石場が一瞬静まりかえると、シルバー姫の妨害を命じられていた監督者もこの状況では何も手出しできない。

 ドワーフ娘の誘導で巨岩を運び終えると、白いあご髭が床まで伸びた鉱石鑑定士の老人がシルバー姫に近寄って運んできた石をチェックした。


「ほぉう、あんたが噂の細腕姫か。

 巨人王の腕力を持っているなんて冗談と思ったが、こんな重たい石を一人で運べるとは噂は本当だな。

 それにしてもこの石は、とんでもない価値があるお宝だぞ」

「おい鑑定士、石に価値があるなんて、奴隷にいらんこと言うな!!」


 シルバー姫の妨害を命じられていた監督者が、めんどくさそうに白髭の鑑定士を怒鳴りつける。

 しかし鑑定士は監督者の言葉を鼻で笑うと、シルバー姫に向き直った。


「奴隷契約に嘘は通じない。働いた分は正確に、その額の印が契約を履行する。

 この鬼赤眼石の巨岩一つで、ひと月分の奴隷報酬になるだろう」

「この岩はトーリアさんと二人で運んだので、報酬は彼女と半々でお願いします。

 それから私の掘り起こした石の欠片を二つ、頂いてもいいかしら?」

「あんたは刑期が八十年もあるのに、今日の報酬の半分もドワーフ娘にくれてやるのか?」


 白髭鑑定士の言葉に、シルバー姫は微笑みながらうなずく。


「私が監督者に目を付けられていると知りながらも、トーリアさんは助けてくれました。

 だから私は、彼女の勇気に敬意を払います」

「あたしは細腕姫様を、少しお手伝いしただけで……」

「ふふっ、まだ仕事はこれから、残り二十九回大岩を運ばなくちゃ」

「細腕姫様、鉱山の仕事は岩を運んだ回数ではなく、運んだ岩の価値で決まります。

 この鉱山で採れる普通の岩は、石運び一日三十回。

 でも貴重な鬼赤眼石は報酬も高いし、石運び一回で仕事のノルマが完了します」

「それで他の人たちは、小さな鬼赤眼石を必死に拾っていたのね。

 でも今日はまだ時間があるし、もちろんトーリアさんにお手伝いをお願いします」

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