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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第九章  十一、調査初日と私の不甲斐なさ

  第九章  十一、調査初日と私の不甲斐なさ




 私は、一つ目の施設から当たりを引いたと思った。


 だけど、『解除コード……』から一向に勧めないでいる。

「なんで何も変化がないのよ」


 一人ごちて、途方に暮れる。

 この表示、入力画面でも何でもなくて、全く何の反応もない。


「解除コードも、これの操作方法も、メールに書いてくれてたら良かったのに。私に継承してくれたんじゃないの?」


 いや、もしかすると継承されたのは月の方であって、地上の施設ではないのかもしれない。




 でも、月にアクセスする方法がこの施設しかなさそうなので、早々に詰んでしまったのではないかと不安がよぎる。


 一旦、生産施設の方に行ってみようかしらと悩む。

 かといって、またここに戻りたいと言うのも段取りが大変だ。


 毎回、陛下に許可と、この部屋に入るための認証をして貰わなくてはいけないから。




「オートドールでも、どうにもならないのかな……」


 先ほど拾ったパネルの一部を手に取り、何かヒントがないかとじっと眺めても何も思いつかない。


 正直、頭を使うのは苦手なのだからどうしようもない。


 情報機器や端末に詳しいわけでもなく、武術以外何の取り柄もないというのは、こういう時に手詰まりになる。




「情けないなぁ……」

 そんなひとり言を、白い空間の中でつぶやくしか能がない。


 本当に呆然として、手にしていたさっきの欠片を何気なく、パネルの上に置いた時だった。


 ――パネルの色が赤から緑の光に変わった。


『解除コード――管理者ダラス・ロアクローヴ…………権利継承――最後に看取りし者……ルネ・ファルミノ』


 月が映し出されていた画面に、勝手に文字が浮かび上がっては消えていく。




「ダラスの名で動く。って……この欠片のことだったの?」

 どうりで文字入力をしようとしても、何も反応しないわけだ。


「私の名前が出てるのは、このオートドールも何か反応してるのね」


 つまりは、何も分からないままの偶然の結果だった。


 この調子では、ダラスのご妻子の行方を探し出すなんて……いつまでかかるか分かったものではない。


 とはいえ、この偶然も大きな一歩だ。




『システム限定回復。施設リンク臨時切断。軍事衛星リンク臨時切断……解除コード不足』

(…………うん?)


 臨時切断とは、どういう状況だろう。

 限定回復という言葉も気になるけれど、もしかするともしかしなくても……。


(偶然これを手にした人が悪用出来ないように、パスを分けてるってこと?)


 ――用心深い。

 一体、いくつ集めたら回復してくれるんだろうか。




「あなたのお願いを聞こうと思ったのに、なんでこんなに複雑なことするのよ」


 ……と、少し怒ってみたものの。


 よくよく考えてみれば、今のオロレアで軍事衛星やら武器庫なんかが生きててアクセス出来たら……世界を征服出来てしまう。


 悪い人が偶然にもこれを見つけたら……という懸念は持っておくべきだろう。


「面倒だけど、やっぱり一つずつ当たっていくしかないのね」


 覚悟はしていたものの、一つ目から当たりを引いたのだと思ってしまったので、気が重くなってしまった。


 何をしてもうんともすんとも言わない機械を相手にして、頭がぎゅっと締め付けられるような疲労を感じている。




「今日はこれで帰ろう……」


 私は欠片を忘れないようにとしっかり手に取り、ポケットに入れて部屋を出た。

 そして、陛下にありのままの報告を済ませ、お屋敷に戻る。


 ……初日はおとう様にもエラにも、心配をかけずに帰る運びとなったことに少しほっとしながら。



   **



「なんだ。思ったよりも早かったな。毎回こうだと安心も出来るんだが」

 帰ってからの、おとう様の開口一番だった。


「おねえ様おかえりなさい!」

 エラは可愛く出迎えてくれたのに。


「もう。パパもエラみたいに言ってくれたらいいのに」

「馬鹿者。小言を言う人間が居なくなったら、誰がお前を窘めるんだ」


 今回の真冬の遠出話は、よほど心配をかけているらしい。




「そんなに真冬の山脈越えは危険ですか? 飛べるから大丈夫なのでは……」


「行けば分かる。実際に体験しないと分からんのがお前だろうからな。ワシは腹を括ったぞ」


 切なげな表情でニッと笑われては、何も言い返すことが出来なかった。


 一階のエントランスでそんなやり取りをしていると、私の旦那様も外から帰ってきた。


「ルネ! 今日は帰って来れたのか。おかえり」

「ルナバルト様まで……」


 そう返すと、彼は肩をすくめて呆れ顔をした。


「今日は皆からそう言われるだろうな。それより、山を越えるのはいつだ? 予定は教えると言っていたのに、何も言わないじゃないか」


「あぁもう。私だってどうなるか分からなかったんですよ? とりあえず、今日は王城の施設で収穫がありました。明日は森の生産施設に行きます。山を越えるのは、早ければ明後日から……って、皆してそんな不安そうな顔しないでください」




 もしかすると、偏西風が当たるくらいの高度なのだろうか。


 ――大陸を南北に分断するほどの、かなり高い山脈。


 それは知識として知っているけれど、遠方でそびえる山というのは、雄大ではあるけれど怖さまでは分からない。


 けれど、偏西風が当たるならば十キロほどの標高があるということだ。


「もしかして、ものすごく強い風が吹いているんですか?」


 あんな山脈に挑戦する人間がいるとは思えないけれど、古代の情報が残っているのかもしれない。




「風などという、生易しいものではないと言うぞ。立っている事すらままならず、吹き飛ばされて滑落していくのだそうだ」


 おとう様の言葉が本当なら、翼で飛んで越えるというのが無謀という話になってくる。


「そ、それを先に聞いていれば、私だって簡単に大丈夫だなんて、言わないですよ……」


「何だ、地理の授業で教わったはずだろう。忘れたのか」


 おとう様に続いて、エラとルナバルトも声を揃えて言う。

『誰でも知っているのに?』


「え、えぇ……? そうだったかなぁ……」

 なんだかバツが悪い。


 でも、エラが知っているということは、貴族教育の時に聞いたはずなのだろう。


 そしてそれなら、おとう様も皆も、心配し過ぎるくらいに心配するのも頷ける。




「山脈を迂回する方法、考えてみます……」


「こやつ、完全に忘れているか聞いていなかったらしいな。だがそうか、迂回するなら少しは安心出来る」


 おとう様からようやく、切ない表情が消えた。


「すみません……」


 だけど、迂回するとなるとかなりの時間を食う。


 ただ、最短距離だと思って山越えをしていたら、もっと時間を食うか、もしかすると本当に危険な目に遭っていたかもしれない。


「さあ。皆様こんなところで立ち話をなさらず、ご夕食の準備が整っておりますよ」


 少し前からさり気なく近くに立っていたフィナが、頃合いを見て声をかけてくれた。


 ――私も甘いものが欲しい。




 それにしても、なんだか大変なことになってしまった。


 私が無策なのもそうだけれど、オロレアに来てからというもの、流れに任せて……というか流されるままで精一杯生だった。


 それが今は、大した知識もないのに国を越えて初めての極秘任務――のようなものを遂行しょうとしているのだから。


 きっと私は、心配されているその半分も、その理由を理解していないのだろう。




 それでもなお、私のしたいようにさせてくれるおとう様は……そしてルナバルトは、一体どんな覚悟を決めて私を送り出してくれているのだろうか。


 ――本当は、こっそりと山越えを一度試してみようと思っていたけれど、やめておこう。


 もしもそれで私が……例えば翼が故障して、一カ月以上も帰れなくなったりとか……この体を破損して身動き取れなくなったりだとか、そんなことになったら――。


 私は、自分を一生許せなくなる。

 無策で無謀だなんて、最低だ。


 無策なのは許してもらったとしても、無謀なことはしてはいけない。




「あの……これからは、皆にもっと相談します。ごめんなさい」


 食堂に入る手前で、皆に後ろからしっかりと伝えた。


 廊下に響いた声は、他の侍女達や護衛騎士達にも聞こえたのだろう、なぜかその皆にも、ホッと胸をなで下ろされてしまった。


「…………そんなに私って酷かったのね……」


 そうつぶやいた私に、数歩前に居たルナバルトが振り返ってまた、肩をすくめた。


「悪かったわよ……」



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