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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 二、迷いと決意

   第七章 二、迷いと決意




(はぁ……なんにもやる気にならない。彼を、こんなにも想っていたの?)


 これほど慕っていたなんて、何の冗談だろう?


 中庭の、荷馬車の群れを見渡しながら動けずにいた。


 時折、忙しそうに指示を出すリリアナと、ガラディオが視界に入る。


 つい、彼を目で追ってしまう。


(何とも思っていなかったのに。私に対して、他人のごとく接する様を見せられてから……)




 ……体まで重い。


 少し、横になりたい。


 こんなに暗い感情が表に出るなんて、久しくなかった。


 エラの中に入ったばかりの時に、情緒不安定になった事はあったけど。


 恋心や感情なんて消えて無くなった。そう思っていたのに。


 皆の温かさに触れて、また芽生えてしまったのだろうか。



 エイシアに聞いてみようか。


 あの子は、記憶の網とやらを持っているから。


(ううん。バカげてる……何を聞こうと意味なんてないのに)


 こんなに心がかき乱されては、これから先に、差し支えるかもしれない。


 ……それにしても。


 人ではない物になった方が、人間らしい感情に振り回されるなんて。


 チキュウに居た時だって、もっと上手にコントロールしていたはず……。


 なのに、オートドールの今は、睡眠時間もほとんど無くて考え事をする時間が増えた。


 そのせいだろうか。


 それとも、人の感情を理解して上手く接するための、ドールの仕様――。


 厄介だ。


 異性との余計な関係性なんて、排除できると思っていたのに。




「おねえ様。おはようございます」


 後ろから来ていたのは、ちゃんと分かっていた。


 人だけでなく、動くもの全てを察知する機能はしっかりと作動している。


 それなのに……今は少し……少しだけエラに嫉妬していて、先に振り向いてあげなかった。


「エラ……。まだ早いのに、ちゃんと身なりも整えて来て偉いわね」


「フフ。フィナが起こしてくれたんです」


 別人として――ルネになった今だからこそ、エラの魅力が余計に分かる。


 自分として鏡で見ていた時よりも、さらに強く、無性に愛でたくなるのだから。


 屈託のない笑顔。


 素直に慕ってくれている、その気持ちが滲む仕草。


 手の動き、視線の行く先、どんな事でも、全てをずっと見ていたくなる。


(――これが、魅了の力…………?)


 私だった時よりも、それを自然に制御出来ているらしいのに、これほど愛らしく感じるとは。




 古代種……いや、人魔――。


 虎魔のエイシアは、その風格に見惚れはするけど、ここまで心を動かされはしない。


 エラは、別格だ。


「可愛い子。皆があなたを愛してしまうのが、よく分かるわね」


 つい、頭を撫でたくなる。


 セットした髪が崩れてしまっても、可愛さが損なわれる事などないだろう。


「……エヘヘ。皆が大切にしてくれるから、私も皆のことを大切だなって、心から思えるんです。


可愛いと言ってもらえるのも、すごく嬉しい。ほんとは、みんな美人さんばかりだから私なんて、どうなんだろう? って思うんですけどね」


(本気で言ってるのね……)


 その可憐な容姿でも、何か悩む事があるらしい。


「皆、本心から可愛いと思ってるわよ。私もそう思うんだから」


 エラが皆を美しいと言えば、誰もがその素直さに、褒められたと感じてくれるだろう。


「おねえ様……。すき!」


 そう言って抱きついてくれる様も、誰にでもするわけではないと分かっているから、ただただ嬉しい。



「朝から甘えんぼさんね」


 抱きしめ返すと、その細い腰にずっと手を回していたくなる。


「おねえ様が居てくれる時は、たくさん甘えるって決めたんですよ?」


「まあ。いつ決めたのかしら。聞いていないわ」


 突拍子のない言葉も、全て受け止めてあげたくなる。


「今朝起きて、ふと思ったんです。絶対そうしようって」


 その言葉の裏に、エラが受けていた仕打ちが頭によぎる。


「ふふっ。そっか。エラはずっと、気を張って頑張っていたものね」



 ひとかけらのパンや、わざと床にこぼされた水で飢えを凌ぐ生活。


 真冬の凍り付くような床で、薄い布一枚しか与えられなかった生き地獄。


 それを……たった一人で生き抜いてきた。


「……うん」


 それに本当は、やはりこの子はまだ幼いのだろうと思う。


 あまりに過酷な環境を過ごしたせいで、実年齢よりも上に見えるのだ。


(そうに違いないわよね)


 その証拠に、最近になって少しだけ、背が伸びている。



 ちゃんとした年齢は分からないけど……。


 心を殺して生きて来て、ずっと甘えたかったんだろう。


 私と入れ替わってからも、社交界だの何だのと一生懸命だった。




「私と、お義父様くらいになら……目一杯甘えるといいわね」


 エラに頬ずりをすると、くすぐったそうにしながらも返してくれた。


「フフ。そうします」


 そんな可愛いエラを抱きしめていたら、重い感情も嫉妬も、今は消えてしまった。


 この子を護ってあげたいという気持ちにすり替わって、心が軽くなっている。




「大好きよ。エラ」


 自然と出た言葉に、自分で驚いてしまった。


 エラも、まさか私からそんな風に言われると思わなかったのだろう。


 至近距離のまま、じっと私を見ている。


「エラ……私もたまには、愛してるくらい……言う……」


 さすがに、照れ臭くなってしまったけれど。


「おねえ様……いえ。愛してるは初めてだと、思いますけど……」


「えっ? そう言った?」


「今言いましたよ? 一生――忘れません」


 言った感覚が無いけれど、口が滑ったのだろうか。



「大げさなんだから。これからもっと、たくさん聞く事になるわよ?」


 こんなセリフがすらすら出て来るのは、ドールの機能だろうか。


 それとも、この体になった安心感から、気が大きくなっての事だろうか。


「ぜんぶぜんぶ、覚えておきますねっ。エラは幸せ者です」


 顔を赤くしたエラは、そう言うと腕をほどいて、屋敷の中に入ってしまった。




(……リリアナ達を見送りに来たのかと思ったけど)


 ――いや、フィナがあの子を起こしてくれたのだから、間違いない。


 ここでリリアナ達が準備を終わらせたとしたら、急ぎたいはずなのに待たせてしまう。


 ――(エラ。お見送りに来たんでしょう? 早く戻ってらっしゃい)


 念話を送ると、慌てた様子の返事が来た。


 ――(そうでしたっ。いま、おとう様と行きますねっ)


 という事は、きっとすぐそこで捕まって、「何をしとるんだ」なんて言われながら、抱えられてでもいるのだろう。



 などと思っていると……案の定、お姫様抱っこで再登場した。


「エラは随分と落ち着きが無くなったな。社交界では本当に大丈夫だったんだろうな?」


 お義父様にからかわれて、さらに顔を赤くしている。


 根が真面目だから、ふるふると首を振りながらお義父様を見上げている。


「ハッハッハ! それはどういう意味で首を振っとるんだ。可愛いやつめ」


 そんな微笑ましい親子の会話を眺めていると、リリアナが戻って来た。



「二人ともお揃いね。朝早いのに、お見送りありがとう。おじい様も、ありがとうございます」


 気さくに手を振るリリアナは、少し寂しそうだった。


 シロエはどうしただろうかと思っていると、向こうの方でガラディオと一緒に、馬車の前から手を振っている。


 ギリギリまで、何か作業でもしていたのだろう。



「リリアナ。お気を付けて。少し遅れて、私達も向かいますね」


「ええ。パパに妙な事言われたら、全部私に言うのよ? ママが居るから大丈夫だとは思うけど」


 娘のリリアナに甘々な国王と、優しい王妃を思い出す。


「きっと、普通に優しくしてくださいますよ」


 そんな感じの短い会話を終えると、彼女は足早に馬車へと戻った。




 アーロ王子から頂戴した騎兵三百を護衛に、城壁造りの資材と、職人達をファルミノに送る。


 これは一大事業だ。


 謁見が終われば、私とエラも手伝いに行く。


 そして身軽な私達は、時々王都に戻っては、お義父様と共に社交界にも顔を出す事になっている。

 





 私の位置づけは、私が言った嘘の設定をそのままに、エラの姉。


 一番の護衛として、ずっとエラの側に居られるから。


 子を成せたなら、婿養子を入れる話も出来たのだろうけど、それはエラに任せるしかなくなった。


 それから、エラにはリリアナの護衛という大役があったけれど、少し毛色が変わった。


 私がルネとして、存在出来てしまったから。


 だから、私はリリアナの護衛でもある。


 リリアナを護るのは、ガラディオと私とエラ。


 エラを護るのは、本人自身と私。


 優先順位をどうしても決めなくてはいけないので、そういう形になった。



 第一にリリアナを護る事。それが絶対の優先事項だ。


 エラには……正直なところ、剣と翼があれば大抵のものはどうとでもなるから。


 回遊都市の件でそれがはっきりと分かったから、彼女も納得している。






 後は、謁見でどうなるか分からないけれど……私には、別の任が国王命令で与えられるかもしれない。


 兵器としての色が強く、そして、遺跡の発掘という期待をされるだろうから。


 国防という点においては、異論なく力になるつもりだけど……遺跡は、言うなれば戦争の火種になりうるものだから……心が迷う。


 でも、結局は生産系の遺跡を見つけない事には、いつか食べ物に困る事になる。


 それがジレンマで、どこか煮え切らない気持ちのままだった。






「おねえ様? 馬車は全て、行ってしまいましたよ?」


 考え事に(ふけ)っている間に、そのまま立ち尽くしていた。


 お義父様も、どうかしたかと、お顔に書いてある。


「……何でもないの。そうね。入りましょうか」


 そう言って、私は二人に微笑んだ。


 無邪気に微笑み返すエラを見て、その愛くるしさに少し元気が出た。




 そう、不思議な事に――。


 隣で抱えられたエラを見ていると、全てが些末な事のように感じた。


 エラと一緒に、幸せに過ごすためなら……結局は納得出来てしまうと思う。


 微笑むこの子を、幸せなまま過ごさせてあげたい。


 ものすごく単純な優先順位で、何も迷う事などない。


 ――そう感じる。


 きっと、他の誰もがそうなのだろう。


 家族のため。恋人のため。


 大事な誰かのために。彼らを護るために。


 私が力を手にしたのは、エラを護るためだとすれば……辻褄が合うのだし。


 人魔という、人々を魅了してしまうがゆえに、命を狙われるかもしれない存在。


 それを護るための力……。


 そして、エラが毎日お腹いっぱい、食べられるように。


 ――ならば、『遠慮せず使えばいいのだ』と、また少し心が軽くなった。



――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」

と思って頂けたらぜひ、この作品を推してくださると嬉しいです。


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どうぞよろしくお願い致します。  作者: 稲山 裕

週に2~3回更新です。



『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。

https://book1.adouzi.eu.org/n4982ie/

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